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第一章・風竜編
第52話 眼鏡とのクエスト対決
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「だったら俺が一人でやるから、ローワンは見てればいいよ。それなら問題ないだろう?」
だけど、何をやりたいかは自分で決める。
特に裏切り者の眼鏡が反対するなら意地でもやってやる。
「何ですか、それは? 自分一人で何でも出来るつもりなんですか? ちょっと強いからといって、調子に乗り過ぎですよ」
「調子になんか乗ってないよ。出来るクエストだから、やろうって言ってるだけだよ」
今日の眼鏡はイライラと不機嫌だ。
誘拐犯の協力者として怪しまれているから機嫌が悪いのか、正体がバレそうで不安なのかもしれない。
でも、こんなクエスト、両手足の爪を伸ばして、崖の岩に突き刺して登れば、道具なんて要らない。
パパッと登って、パパッと終わらせて、日帰りで達成させられる。
「少しは仲間の意見を聞いた方がいいですよ。このクエストが出来るのは四人の中であなただけです。マイクを助ける為には、チーム全員の戦力強化が重要なんですよ。また一人でやられたいんですか?」
「はぁっ? それをお前が言……っ!」
眼鏡がニヤけた顔でムカつく事を言ってきたので、ついカッとなって殴りそうになった。
拳を振り上げそうになったけど、必死に我慢した。
ここで眼鏡を下手に殴ってしまったら、誘拐犯と眼鏡の関係に気付いていると思われるかもしれない。
「私が何ですか? 酔っ払っていなければ、少なくともあなたよりはマシに動けた自信はありますよ」
「おいおい、こんな所で喧嘩してんじゃねぇよ! 分かったよ。別のクエストにしようぜ!」
「最初からそうしてください。目的はマイクの救出です。ルディが一人で強くなったとしても、またやられるだけです。チームとしての力を伸ばしましょう」
「くっ!」
誘拐犯の仲間の癖に、一番マイクの事を考えていると嘘ばかり言っている。
それに俺一人でやると言っているのに、何故だか眼鏡は猛反対だ。
俺達を始末するつもりなら、クエスト中に弓矢で崖から転落させて殺した方がいいはずだ。
それとも崖に近づけたくない理由でもあるのか?
いや、多分違うと思う。手紙を送った後だから死なれたら困るんだ。
始末する人間がいないと手紙が悪戯みたいになってしまう。
「別に皆んなで仲良く一つのクエストをやらなくてもいいんじゃない?」
「んっ?」「はい?」
男三人で睨み合っていると、一人でクエストを選んでいたエイミーがそんな事を言ってきた。
エイミーの手にはクエスト用紙が握られている。
「チームなんだから、それぞれの力を伸ばした方がいいよ。それともローワンはレーガンに勉強を教えながら、一緒に腕立て伏せでもするつもりなの?」
「ハッハ。何ですか、それは? そんな馬鹿な事はしません」
エイミーの質問に眼鏡は軽く笑いながら答えた。
確かに筋肉質な眼鏡は想像できないし、眼鏡をかけた賢いレーガンも想像できない。
「それと同じだよ。犬に鳥みたいに空を飛べって言っても出来ないよ。ルディとレーガンは卵採取、私達は近くの森でハニービーの蜂蜜取りでいいんじゃない?」
「うっ、ですが、チーム行動を——」
「少しは仲間の意見を聞いた方がいいんじゃなかったの? 今一番、仲間の意見を聞いてないのは、ローワンだよ」
「ぐっぅ!」
眼鏡が何か反論しようとしてたけど、エイミーは眼鏡がさっき俺に言った言葉で黙らせた。
眼鏡は悔しそうな顔を浮かべて何も言い返せない。
流石にこれ以上は邪魔できそうにない。
「ハッハハ。エイミーの言う通りだな。よし、ルディ。俺達は卵採取に行こうぜ!」
「そうだね。でも、卵採取は俺一人でも出来るから、レーガンはエイミー達と行動してよ。二人っきりにすると眼鏡がエイミーを襲うかもしれないだろう」
レーガンが卵採取のクエスト用紙を取ると、受付カウンターに連れて行こうとする。
でも、眼鏡がエイミーに何をするか分からないので見張りを付けたい。
当然、レーガンも信用できないので家に寄って、トカゲか熊のどちらかを借りるつもりだ。
蜂蜜なら熊さんの方でいいだろう。
「あぁー、確かにローワンはやりそうな顔だな」
「巫山戯ないでください! 私にも好みというものがあります」
ニヤニヤと笑いながら、俺とレーガンは一緒に眼鏡を見ている。
コイツがエイミーをペットにしようとしている変態眼鏡なのは知っている。
どんなに否定しても、天井裏からお前の全てを見ていたから信用しない。
「そうなんですか? だったらカウンターの女性なら誰が好みなんですか?」
「そんなの居ませんよ。蜂蜜取りでいいんですね? さっさと行きますよ。先にクエストを達成した方が正解ですからね」
エイミーの質問に眼鏡はカウンターを見ずに答えると、変な勝負を仕掛けてきた。
正直どうでもいいけど、勝てない勝負じゃない。
ここは勝って、二度と生意気な口が利けないように黙らせてやる。
「それでいいよ。俺が負けたら報酬は全部やるよ。そっちは負けても何もしなくていいから。どうせ、エイミーとレーガンの所為にするだけでしょう?」
「安心してください。そんな事しませんし、端た金もいりません。あなたはただ負けるだけでいいですよ」
「そっちも何か賭けろよ」と言いたいけど、眼鏡は絶対に勝てると思っているようだ。
だったら、教えなければならない。お前の思い通りに進まない事を。
♢
エイミーの家で三人と分かれると、ネイマールの屋敷に続く馬車道に走った。
お父さんは不在だったので、どうやら騎士団からまだ戻ってないようだ。
整備された馬車道を走って行くと、右手側に白っぽい岩壁が見えてきた。
壁が正面に見える位置まで来ると、そこからは岩壁を見ながら、森の中を突っ切っていく。
「うわぁー、確かに落ちたら死ぬな」
傾斜がどんどん険しくなっていく森の中を進んで行くと、垂直の岩壁に打つかった。
白と黒が混じった硬そうな岩壁を天辺に向かって見上げていく。
天辺までの高さは一キロ近くあるそうだ。
念の為に爪を五センチ程伸ばして突き刺してみたら、楽々貫通したので問題ないと思う。
あとは靴を脱いで、十メートル程登ってみてから、やれるか判断してみる。
(この辺は問題なさそうだ)
五十メートル程登ったけど、特に問題なさそうだ。
垂直の岩壁と言っても、たまに大きな窪みや突き出た部分があるので、そこで座って休む事が出来る。
問題は怪鳥ハーピーと呼ばれる、翼の生えた茶色い猿のような魔物がいる事だ。
体長は七十センチぐらいで、翼を広げた大きさは二メートルを超えるそうだ。
そのハーピーの巣があるのが、岩壁の真ん中から少し上の六百メートル付近にある。
四百メートルまでは魔物に襲われずに登れると思いたい。
「ハァ、ハァ、ハァッ……ほとんど恐怖心との戦いだな」
登っては休憩して、登っては休憩を繰り返して、目的地に近づいていく。
半分ぐらいは登ったけど、疲労よりも恐怖心がどんどん蓄積していく。
ここから落ちたら絶対に助かりそうにない。
上空を三十から四十匹程のハーピーが飛び回っているけど、襲っては来ない。
でも、壁に両手足を張り付けたままだと、まともに戦う事は出来ない。
万が一の時は、黒の骨剣でも片手に持って、振り回して追い払うしかない。
まあ、そんな危険な状況になる前に、足場になりそうな場所を探して撃退する。
「「「キィーキィーキィー!」」」
細っそりとした赤い顔のハーピー達が、甲高い鳴き声を上げて威嚇してくる。
ハーピー達が一斉に襲い掛かって来たら、地上に真っ逆さまに落ちてしまう。
「ほっ。とりあえず一安心だな」
何故だか、一度も襲われずに目的地に着いてしまった。
岩壁に突き出た四十センチ程の平坦な天然の通路に、壁から抜いた足をゆっくりと乗せていく。
強度は問題なさそうだ。人が乗っても壊れそうにない。
ハーピー達の巣は岩壁の中に出来た細く長い天然通路にあった。
一人ぐらいなら、ギリギリ横になって寝る事が出来そうだけど、寝返りを打てば死んでしまう。
「強風は吹いてないけど、落ちないように安全対策か?」
想像していたような木の枝の丸い巣は無かった。
その代わりに岩壁の亀裂の中に木の枝を積み上げて、その上に卵を一個置いてある。
卵は黒い水玉模様の白い卵で、縦十二センチ、横八センチ程の細長い卵だ。
亀裂の中に腕を突っ込んで、その卵達をアイテムポーチに次々に入れていく。
五十個ぐらいは余裕でありそうだ。
「あとは早く冒険者ギルドまで戻るだけだな」
卵を五十個集めたので、あとは眼鏡よりも早く冒険者ギルドに戻れば、俺の勝ちだ。
一番早い方法は飛び降りて、地面に着地して、街まで走る方法だ。
でも、身体が恐ろしく頑丈な人間と馬鹿しか飛び降りたりしない。
地道にちょっとずつ下りるしかない。
「「「キィーキィーキィー!」」」
頭上を飛び回るハーピー達に『襲って来ないように』とお願いしながら、岩壁を下りていく。
どうやら、お願いは通じなかったようだ。
勇敢な一匹が卵泥棒の背中に襲い掛かってきた。
「キィー!」
「来るなよ!」
急いで左手を壁から引き抜くと、襲って来たハーピーの胴体目掛けて、左腕を右肩の上を通すように突き出して、伸ばした爪を貫通させた。
確かな手応えを感じながらも、倒す事は出来なかったようだ。
「ウギィーウギィー!」
「くっぅぅ! この、邪魔するな!」
ハーピーは死なずに背中に打つかって止まると、胴体に爪が突き刺さったまま暴れまくる。
首や肩に噛み付こうとする。両脚の鉤爪で背中を引っ掻いてくる。
このままだと危ないので、ハーピーが突き刺さった左腕を思い切り岩壁に向かって打つけた。
「さっさとくたばれ!」
「グギィ……」
ハーピーの頭が岩壁に激しく激突して、頭が潰れて煙になって消えていく。
素材が現れるはずなので、煙の下に左手を移動させると、手の平に茶色い羽根の塊が落ちてきた。
追加報酬獲得だ。
♢
だけど、何をやりたいかは自分で決める。
特に裏切り者の眼鏡が反対するなら意地でもやってやる。
「何ですか、それは? 自分一人で何でも出来るつもりなんですか? ちょっと強いからといって、調子に乗り過ぎですよ」
「調子になんか乗ってないよ。出来るクエストだから、やろうって言ってるだけだよ」
今日の眼鏡はイライラと不機嫌だ。
誘拐犯の協力者として怪しまれているから機嫌が悪いのか、正体がバレそうで不安なのかもしれない。
でも、こんなクエスト、両手足の爪を伸ばして、崖の岩に突き刺して登れば、道具なんて要らない。
パパッと登って、パパッと終わらせて、日帰りで達成させられる。
「少しは仲間の意見を聞いた方がいいですよ。このクエストが出来るのは四人の中であなただけです。マイクを助ける為には、チーム全員の戦力強化が重要なんですよ。また一人でやられたいんですか?」
「はぁっ? それをお前が言……っ!」
眼鏡がニヤけた顔でムカつく事を言ってきたので、ついカッとなって殴りそうになった。
拳を振り上げそうになったけど、必死に我慢した。
ここで眼鏡を下手に殴ってしまったら、誘拐犯と眼鏡の関係に気付いていると思われるかもしれない。
「私が何ですか? 酔っ払っていなければ、少なくともあなたよりはマシに動けた自信はありますよ」
「おいおい、こんな所で喧嘩してんじゃねぇよ! 分かったよ。別のクエストにしようぜ!」
「最初からそうしてください。目的はマイクの救出です。ルディが一人で強くなったとしても、またやられるだけです。チームとしての力を伸ばしましょう」
「くっ!」
誘拐犯の仲間の癖に、一番マイクの事を考えていると嘘ばかり言っている。
それに俺一人でやると言っているのに、何故だか眼鏡は猛反対だ。
俺達を始末するつもりなら、クエスト中に弓矢で崖から転落させて殺した方がいいはずだ。
それとも崖に近づけたくない理由でもあるのか?
いや、多分違うと思う。手紙を送った後だから死なれたら困るんだ。
始末する人間がいないと手紙が悪戯みたいになってしまう。
「別に皆んなで仲良く一つのクエストをやらなくてもいいんじゃない?」
「んっ?」「はい?」
男三人で睨み合っていると、一人でクエストを選んでいたエイミーがそんな事を言ってきた。
エイミーの手にはクエスト用紙が握られている。
「チームなんだから、それぞれの力を伸ばした方がいいよ。それともローワンはレーガンに勉強を教えながら、一緒に腕立て伏せでもするつもりなの?」
「ハッハ。何ですか、それは? そんな馬鹿な事はしません」
エイミーの質問に眼鏡は軽く笑いながら答えた。
確かに筋肉質な眼鏡は想像できないし、眼鏡をかけた賢いレーガンも想像できない。
「それと同じだよ。犬に鳥みたいに空を飛べって言っても出来ないよ。ルディとレーガンは卵採取、私達は近くの森でハニービーの蜂蜜取りでいいんじゃない?」
「うっ、ですが、チーム行動を——」
「少しは仲間の意見を聞いた方がいいんじゃなかったの? 今一番、仲間の意見を聞いてないのは、ローワンだよ」
「ぐっぅ!」
眼鏡が何か反論しようとしてたけど、エイミーは眼鏡がさっき俺に言った言葉で黙らせた。
眼鏡は悔しそうな顔を浮かべて何も言い返せない。
流石にこれ以上は邪魔できそうにない。
「ハッハハ。エイミーの言う通りだな。よし、ルディ。俺達は卵採取に行こうぜ!」
「そうだね。でも、卵採取は俺一人でも出来るから、レーガンはエイミー達と行動してよ。二人っきりにすると眼鏡がエイミーを襲うかもしれないだろう」
レーガンが卵採取のクエスト用紙を取ると、受付カウンターに連れて行こうとする。
でも、眼鏡がエイミーに何をするか分からないので見張りを付けたい。
当然、レーガンも信用できないので家に寄って、トカゲか熊のどちらかを借りるつもりだ。
蜂蜜なら熊さんの方でいいだろう。
「あぁー、確かにローワンはやりそうな顔だな」
「巫山戯ないでください! 私にも好みというものがあります」
ニヤニヤと笑いながら、俺とレーガンは一緒に眼鏡を見ている。
コイツがエイミーをペットにしようとしている変態眼鏡なのは知っている。
どんなに否定しても、天井裏からお前の全てを見ていたから信用しない。
「そうなんですか? だったらカウンターの女性なら誰が好みなんですか?」
「そんなの居ませんよ。蜂蜜取りでいいんですね? さっさと行きますよ。先にクエストを達成した方が正解ですからね」
エイミーの質問に眼鏡はカウンターを見ずに答えると、変な勝負を仕掛けてきた。
正直どうでもいいけど、勝てない勝負じゃない。
ここは勝って、二度と生意気な口が利けないように黙らせてやる。
「それでいいよ。俺が負けたら報酬は全部やるよ。そっちは負けても何もしなくていいから。どうせ、エイミーとレーガンの所為にするだけでしょう?」
「安心してください。そんな事しませんし、端た金もいりません。あなたはただ負けるだけでいいですよ」
「そっちも何か賭けろよ」と言いたいけど、眼鏡は絶対に勝てると思っているようだ。
だったら、教えなければならない。お前の思い通りに進まない事を。
♢
エイミーの家で三人と分かれると、ネイマールの屋敷に続く馬車道に走った。
お父さんは不在だったので、どうやら騎士団からまだ戻ってないようだ。
整備された馬車道を走って行くと、右手側に白っぽい岩壁が見えてきた。
壁が正面に見える位置まで来ると、そこからは岩壁を見ながら、森の中を突っ切っていく。
「うわぁー、確かに落ちたら死ぬな」
傾斜がどんどん険しくなっていく森の中を進んで行くと、垂直の岩壁に打つかった。
白と黒が混じった硬そうな岩壁を天辺に向かって見上げていく。
天辺までの高さは一キロ近くあるそうだ。
念の為に爪を五センチ程伸ばして突き刺してみたら、楽々貫通したので問題ないと思う。
あとは靴を脱いで、十メートル程登ってみてから、やれるか判断してみる。
(この辺は問題なさそうだ)
五十メートル程登ったけど、特に問題なさそうだ。
垂直の岩壁と言っても、たまに大きな窪みや突き出た部分があるので、そこで座って休む事が出来る。
問題は怪鳥ハーピーと呼ばれる、翼の生えた茶色い猿のような魔物がいる事だ。
体長は七十センチぐらいで、翼を広げた大きさは二メートルを超えるそうだ。
そのハーピーの巣があるのが、岩壁の真ん中から少し上の六百メートル付近にある。
四百メートルまでは魔物に襲われずに登れると思いたい。
「ハァ、ハァ、ハァッ……ほとんど恐怖心との戦いだな」
登っては休憩して、登っては休憩を繰り返して、目的地に近づいていく。
半分ぐらいは登ったけど、疲労よりも恐怖心がどんどん蓄積していく。
ここから落ちたら絶対に助かりそうにない。
上空を三十から四十匹程のハーピーが飛び回っているけど、襲っては来ない。
でも、壁に両手足を張り付けたままだと、まともに戦う事は出来ない。
万が一の時は、黒の骨剣でも片手に持って、振り回して追い払うしかない。
まあ、そんな危険な状況になる前に、足場になりそうな場所を探して撃退する。
「「「キィーキィーキィー!」」」
細っそりとした赤い顔のハーピー達が、甲高い鳴き声を上げて威嚇してくる。
ハーピー達が一斉に襲い掛かって来たら、地上に真っ逆さまに落ちてしまう。
「ほっ。とりあえず一安心だな」
何故だか、一度も襲われずに目的地に着いてしまった。
岩壁に突き出た四十センチ程の平坦な天然の通路に、壁から抜いた足をゆっくりと乗せていく。
強度は問題なさそうだ。人が乗っても壊れそうにない。
ハーピー達の巣は岩壁の中に出来た細く長い天然通路にあった。
一人ぐらいなら、ギリギリ横になって寝る事が出来そうだけど、寝返りを打てば死んでしまう。
「強風は吹いてないけど、落ちないように安全対策か?」
想像していたような木の枝の丸い巣は無かった。
その代わりに岩壁の亀裂の中に木の枝を積み上げて、その上に卵を一個置いてある。
卵は黒い水玉模様の白い卵で、縦十二センチ、横八センチ程の細長い卵だ。
亀裂の中に腕を突っ込んで、その卵達をアイテムポーチに次々に入れていく。
五十個ぐらいは余裕でありそうだ。
「あとは早く冒険者ギルドまで戻るだけだな」
卵を五十個集めたので、あとは眼鏡よりも早く冒険者ギルドに戻れば、俺の勝ちだ。
一番早い方法は飛び降りて、地面に着地して、街まで走る方法だ。
でも、身体が恐ろしく頑丈な人間と馬鹿しか飛び降りたりしない。
地道にちょっとずつ下りるしかない。
「「「キィーキィーキィー!」」」
頭上を飛び回るハーピー達に『襲って来ないように』とお願いしながら、岩壁を下りていく。
どうやら、お願いは通じなかったようだ。
勇敢な一匹が卵泥棒の背中に襲い掛かってきた。
「キィー!」
「来るなよ!」
急いで左手を壁から引き抜くと、襲って来たハーピーの胴体目掛けて、左腕を右肩の上を通すように突き出して、伸ばした爪を貫通させた。
確かな手応えを感じながらも、倒す事は出来なかったようだ。
「ウギィーウギィー!」
「くっぅぅ! この、邪魔するな!」
ハーピーは死なずに背中に打つかって止まると、胴体に爪が突き刺さったまま暴れまくる。
首や肩に噛み付こうとする。両脚の鉤爪で背中を引っ掻いてくる。
このままだと危ないので、ハーピーが突き刺さった左腕を思い切り岩壁に向かって打つけた。
「さっさとくたばれ!」
「グギィ……」
ハーピーの頭が岩壁に激しく激突して、頭が潰れて煙になって消えていく。
素材が現れるはずなので、煙の下に左手を移動させると、手の平に茶色い羽根の塊が落ちてきた。
追加報酬獲得だ。
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