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第一章・風竜編

第51話 追跡報告と眼鏡達とのクエスト選び

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 家に到着すると、庭でお父さんと熊が殴り合っていた。
 疲れて帰って来たのに朝稽古なんかに参加したくない。
 見つからないように熊の部屋の開いている窓から家の中に入って、二階に上がった。

「はぁ~、エイミーの匂いがする」

 自分の部屋ではなく、エイミーの部屋で寝る事にした。
 これなら走り込みから帰って来たエイミーが、確実に気付いて起こしてくれる。
 寝過ごす心配はしなくていい。
 
「はぐっ! え、えっ⁉︎」

 床の絨毯の上に寝転んで心地よい眠りに落ちていると、突然、腹部を蹴られた。
 慌てて飛び起きると汗臭いエイミーが立っていた。
 走り込みから帰って来たようだけど、いま蹴り起こしたよね?

「私の部屋で何やってるの? あっ! もしかして、何か分かったから帰って来たの!」

 ちょっと怒っている感じだったけど、俺が家に帰って来た理由に気づいたみたいだ。
 勝手に部屋に忍び込んで日記帳を見たり、箪笥の引き出しを開けたりしてない。

「フッフ。そうだよ、重要な手掛かりを手に入れたから帰って来たんだよ」
「やっぱり犯人の協力者だったんだね! 最初から二人とも怪しいと思っていたんだよ!」
「うん、まぁ……そうだね」

 喜んでいるエイミーには悪いけど、犯人の協力者は眼鏡だけだ。
 人を信じる心は大切だと思う。

「レーガンは眼鏡に騙されて利用されているだけだよ。誘拐に協力したのは眼鏡だけで、悪いのは全部眼鏡だよ」
「何だ、そうだったんだ。道理でルディが屋敷のパーティーに行ってなかったら、何度も聞く訳だよ。じゃあ、あとは眼鏡を捕まえるだけだね」

 エイミーは眼鏡を捕まえれば事件解決だと思っているようだけど、そんな単純な話じゃないと思う。

「それはちょっと待った方がいいかも」
「えっ? どうして?」

 眼鏡を捕まえるのは確かに簡単だ。
 お父さんとベアーズとリックの三人掛かりで捕まえてもいい。
 ギルドの中で正体をバラして、他の冒険者に協力してもらって捕まえてもいい。
 これはちょっと危険だけど協力しない冒険者は怪しいので、他の仲間を見つけるチャンスだ。

 でも、今すぐに捕まえるのはやめた方がいいと思う。
 眼鏡を捕まえるのは簡単だけど、証拠が一つもない。
 あの眼鏡が正直に全部話すと思えないし、話したとしても他の仲間が眼鏡が捕まったと連絡するだけだ。
 そうなったら、トカゲの尻尾切りみたいに眼鏡が捨てられて、トカゲ本体には逃げられてしまう。
 それだと眼鏡を捕まえる意味がほとんどない。
 というか、下っ端眼鏡を捕まえても大した意味はない。

「じゃあ、指名クエストが来るまでは様子を見るしかないんだ」

 俺の説明を聞いた後にエイミーはガッカリしている。
 これから皆んなで眼鏡を殴りに行くと期待していたのなら、それはない。

「とりあえず信用できそうな人だけに話して、眼鏡と他の隠れた仲間に気づかれないように調べてもらうのが一番だと思う。俺達は哀れな獲物の振りを続けて、眼鏡を油断させるだけだよ」
 
 話す相手はお父さん、冒険者ギルドのミシェルとリディア、騎士団のオースティンだ。
 あとは四人で連携を取ってもらえば、眼鏡とその仲間全員を捕まえる事が出来る。
 特に手紙の行き先が分かれば最高だ。敵のアジトが分かるかもしれない。

「うーん、待っているだけなんって、つまんないよ。マイクさんがその間に死んじゃうかもしれないのに……」
「それはそうかもしれないけど、必要最小限の犠牲が出てしまうのは仕方ないよ。それに誘拐されて時間が経っているし、もう助けるのは無理かもしれない。今は犯人達を一人残らず捕まえる方がマイクの為だよ」
「うん、そうだね……」

 マイクが生きている希望を持つのは大事だけど、誘拐されて一週間以上も経っている。
 正直、大切に捕まえられているとは思えない。
 エイミーはまだまだ可能性があると思っているけど、それは諦めてもらうしかない。

「俺はもうちょっとだけ寝るから、エイミーはお風呂に入って来なよ。汗臭いよ」
「ふぇ?」

 眼鏡達の待ち合わせ時間ギリギリまで寝たいので、ゆっくりと目蓋を閉じた。
 やっぱり女子部屋の匂いは最高だぜ。

「はぐっ! えっ、ちょっと、く、苦しいっ!」
「寝るなら自分の部屋で寝てよ! それに臭くないよ!」

 突然、怒ったエイミーが腹部を思い切り蹴ると、うつ伏せの俺の身体の上に乗ってきた。
 何をするかと思ったら、首に汗臭いタオルを巻いて、両手で思いっきり締めてきた。

「うぐぐぐ、汗臭いけど、嫌な臭さじゃなくて、ムラムラ興奮するような良い臭さだから!」
「全然褒められている気がしないよ!」

 気絶という方法で眠るのに協力するつもりなら、その方法は遠慮させてください。
 とても苦しいです。

 ♢

 お風呂に入ったり、自分の部屋で寝たりと忙しかった。
 そして、俺達は眼鏡達とクエストに行かないといけないので時間がなかった。
 なので、お父さんに騎士団のオースティンへの連絡は頼んだ。
 これで手紙の行き先は騎士団が追ってくれるはずだ。

 あとはわざと説教部屋に呼び出されるような事をして、ミシェル経由でリディアに冒険者の中に怪しい人物がいないか調べてもらうだけだ。

(うん、これであとはやる事はないと思う)

 冒険者ギルドに到着すると、普段通りの赤髪と眼鏡の二人が待っていた。
 正体がバレていると知らないで、呑気に一緒にどのクエストをやろうかと話しかけてくる。

「チンタラ採取クエストなんて退屈だな。ここは近場の魔物狩りに行こうぜ」
「じゃあ、この害虫駆除でいいんじゃない? 前にもやったみたいだし、ローワンの両親の畑が荒らされたら大変だろ」
「フッ。問題ないですよ。うちの両親ならあの程度の魔物は自分達で倒してしまいます。まあ、冒険者資格がないと素材を買取ってもらえないので、仕方なく私が冒険者になりましたけどね」

 8級クエストの害虫・害獣駆除クエスト用紙を持って、眼鏡に聞いてみた。
 眼鏡は軽く笑って答えると、クエスト用紙を掲示板に戻してしまった。
 このクエストはやりたくないようだ。
 もしかすると、今日は家の近くに行かせたくないのかも。

「へぇー、そうだったんだ。お父さん達も強いんだね。どんな人達なの?」
「私の十分の一ぐらいですけどね。今度紹介しますよ」
「えっ、本当に?」

 知っている眼鏡の十分の一の強さなら、赤ちゃん並みの弱さだ。
 でも、眼鏡の真の実力が凄すぎるなら、8級冒険者ぐらいに強い両親がいる事になる。
 そして、8級冒険者の十倍眼鏡が強い事になる。
 もう眼鏡が言っている事が冗談なのか、本当なのか分からなくなってきた。
 
「おいおい、そんなのどうでもいいだろう。ルディがいるなら、今日は難しいクエストでもイケるだろ。俺はコレなんかいいと思うぜ!」

 せっかく、眼鏡の両親を偵察できるチャンスだったのに、レーガンが邪魔してきた。
 手に持ったクエスト用紙を眼鏡に強引に見せている。

「怪鳥ハーピーの卵採取ですか? 巣がある崖から落ちたら死にますよ。それに登っている最中に怪鳥に襲われます。もう少し簡単なクエストにした方がいいですね」
「これ以上に簡単なクエストは無ぇよ。卵二十個で一万ギル。最大五十個まで買取ってくれるんだぜ」

 魔物狩りをしたいと言っていたのに、持ってきたのは採取クエストだった。
 どう見ても報酬に釣られて選んだクエストにしか思えない。

「どういう基準で簡単だと思っているのか知りませんが、どう見ても難しいクエストですよ」
「おいおい、何でも一人で勝手に決めるなよ」

 このクエストも却下のようだ。眼鏡がクエスト掲示板に用紙を戻した。
 多分、レーガンは早く昇級したいから難しいクエストを選んでいる。
 逆に眼鏡は冷静に分析して、戦力的に無理だと判断したようだ。

 ここは眼鏡の意見を聞いた方がいいけど、今日中に何としても説教部屋に行きたい。
 それにレーガンを昇級させたい気持ちもある。
 ここはこのクエストを受けた方が良さそうだ。

「難しいと言っても8級クエストでしょう? 四人で協力すれば何とかなるよ」
「はい? 話を聞いていたんですか? いいでしょう。私が説明しましょう」
「いや、クエスト用紙で十分だよ」
「まず——」

 クエストが出来るようにちょっと言っただけなのに、眼鏡の長い説明が始まってしまった。
 もうこうなったら、誰も眼鏡を止められない。説明が終わるまで待つしかなかった。
 
 パーピーの卵は分離した魔物素材なので、パーピーを倒しても卵は消えないそうだ。
 巣がある崖の場所はネイマールの屋敷と街の中間にある。
 次に垂直の崖にある巣に行く方法は二つしかないそうだ。
 
 一つは崖の上からロープで下りる方法で、これをやるには山を登る必要があるそうだ。
 最短で山を登った場合は、午後三時前後には崖上に到着できるそうだ。
 だが、肝心の長くて丈夫なロープを誰も持っていなかった。
 この時点でロープ代が発生してしまい、卵を五十個入手しても大赤字になる。
 つまりロープで下りる方法は無理だという事だ。

 次に二つ目の方法は崖下から登る方法だ。
 まずはネイマールの屋敷に続く馬車道を使って、崖の近くまで移動する。
 そこからは金属の棒を岩に刺して、それを足場に崖を登って行くそうだ。
 運が良ければ、崖にこの足場が残っている可能性もあるそうだが、当然無ければ赤字になる。

「もう分かりましたね。私達は準備不足なんですよ。もう少し頭を使って計画に行動しましょう」

 眼鏡がそう言って、眼鏡を指で押し上げた後に、ついでに自分の頭を指で突いて軽く笑った。
 ムカつく笑顔だけど、言っている事が正しいだけに誰も言い返す事が出来ない。

 ♢
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