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第一章・風竜編

第49話 酒場の取調べと張り込み開始

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(お母さん、作った晩ご飯は、夜食か明日の朝ご飯に食べるので許してください)

 一応、心の中でエイミーのお母さんに謝ってから、レーガンの家に向かった。

「本当にこんな家に住んでいる人がお金持っているのかな?」
「持ってないから住んでいるんだと思うよ」

 今にもへし折れそうな木の階段を恐る恐る上りながら、エイミーが聞いてきた。
 路地裏にある木製二階建ての家の、二階の四つある部屋の一部屋がレーガンの家だ。
 風呂無し、トイレ共同の家賃は、月に二万ギルという破格の安さだと自慢していた。

 この家を見て、何でリディアは協力者だと思ったのか分からない。
 誰が見ても貧乏人の家だ。

 レーガンは二ヶ月前ぐらいに8級に昇格して、一ヶ月前ぐらいにマイク、ローワンとチームを組んだそうだ。

 俺の予想では三人組になった事で収入が増えたと思っている。
 冒険者の収入よりも使う額が多いのは、誰かの報酬の取り分を多く取っているだけだ。
 きっとマイクがお金に困っていたから被害者はマイクだと思う。
 一番歳下だから、イジメられるなんて可哀想な奴だ。

「レーガン! 遊びに来たよ!」
「ちょっと、ルディ⁉︎ 近所迷惑だよ!」

 建物の狭い廊下を通って、四つ並んだ部屋の一番左端の木扉を激しく叩きまくった。
 エイミーはビックリしているけど、前回もこの時間に寝ていた。
 このぐらいやらないと起きてくれない。

「うわぁ! あぁ、ちくしょう。何だよ、うるせいなぁ」

 扉の向こう側から人の動く気配と声がしたので、扉を叩くのをやめた。
 やっぱり寝ていたみたいだ。ドタバタと激しく音を立てながら、扉に向かってくる。
 隣と下の住民は迷惑だろうな。

「おいおい、何だよ、二人して? 今日は休みだろう? 明日、クエストするんだから休ませてくれよ」

 レーガンは扉を半分だけ開けて姿を見せると、眠そうな顔で言ってきた。
 黒い半袖シャツに縦縞のトランクスだけというシンプルな服装だ。
 このダラシのない姿が敵を欺く演技なら凄いと思う。

「寝るには早過ぎだよ。これから酒場に行くから一緒に行こうよ。もちろん、奢るよ」
「いいよ、二人で行けよ。あの酒場にはもう行かねぇって決めてるんだ」
「そんな事言わずに行こう。ルディが凄いレア魔物を倒して、凄い盾を手に入れたんだよ。そのお祝いなんだから」
「凄いレア魔物の凄い盾のお祝いって……分かったよ。でも、酒は一滴も飲まねぇからな」
「うんうん、それでいいから行こう」

 もう少し抵抗すると思ったけど、恐ろしい程に意思が弱かった。
 二人掛かりで説得すると、すぐに酒場に行くと言ってくれた。
 これなら酒も勧めれば、すぐに飲んでくれそうだ。

 ♢

「うぷっ……はぁっ? 金だって? ダメダメ、内緒だ内緒」
 
 酒を飲ませるのは簡単に成功した。
 ここまではよかったけど、その先が問題だった。
 いくら聞いても金を手に入れた方法を教えてくれない。
 やっぱり人に話せない方法で手に入れた可能性が高そうだ。

「だいたい同じ8級なのに、百六十万の盾とか何だよそれ? あぁー、冒険者なんてやってらんないぜ!」
「そうですよね。私だって頑張っているのに、結局は頑張っている人よりも能力で評価されるんですから。こんなの間違っています。さあ、レーガンさんももっと飲んでください!」
「おっ! 悪いな、エイミー」

 レーガンの空になっているコップにエイミーがお酒を注いでいく。
 二人は楽しそうに俺への悪口をペラペラと喋りまくっている。
 聞きたい情報はそれじゃないから、もう今日のお祝いは終わりにして帰りたい。
 
「それはそうと、レーガンさんの悪い噂が流れているんですけど、知っていますか?」
「ん? 俺の悪い噂? 何だそれ?」

 俺の悪口を言い飽きたのだろうか、お酒を注ぎながらエイミーは話題を変えた。
 あれだけ言えば、流石にもう残ってないだけかもしれない。
 レーガンの方は悪い噂にまったく心当たりがないのか、赤い顔を左右に傾けて考えている。
 
「知らないんですか? だったらいいです。大した噂じゃないから気にしない方がいいですよ」
「おいおい、気になる言い方して、それはないだろう。悪い噂って何だよ?」

 エイミーは慌てて口を押さえると、何でもないと言うのをやめてしまった。
 そんな反応をされたら、レーガンだけじゃなくて俺も気になってしまう。
 
「あのぉ……ここだけの話ですよ。実は誘拐犯の協力者がレーガンさんだっていう噂があるんです。家の近くの酒場に連れて行って、お金を貰ったんじゃないかって」

 他の客達には聞こえないように、エイミーは小声で話していく。
 こんな事を言われて、犯人と無関係なら怒りそうなものだけど、レーガンの反応は違っていた。

「あっはは、何だそれ? 誰が言ったのか知らねぇけど、その噂はデマだぜ」
「でも、じゃあ他にどんな方法でお金を稼いでいるんですか?」
「ああ、金ならローワンの知り合い⁉︎ おっとと、何でもねぇよ」
「はい?」

 誘拐犯の協力者だという噂は笑って否定したけど、その後に何かを言いかけて黙ってしまった。
 ついポロッと話してはいけない事を喋ってしまったような感じがした。、

(眼鏡の知り合いからお金を貰っているみたいな感じだけど、貰う理由が分からない)

 そんな俺の疑問をエイミーが代わりに聞いてくれた。

「ローワンさんがどうしたんですか?」
「いやいや、何でもねぇよ。今日は飲み過ぎたみたいだ。気分が悪いから俺は帰るぜ。明日はクエストがあるんだから、二人も遅くなる前に帰れよ」

 これ以上、聞くのは危険だと思う。
 コップのお酒は満杯のままなのに、レーガンは椅子から立ち上がって帰ろうとしている。

「あっ、まだもうちょっとだけ!」
「うん、おやすみ。ゆっくり寝るんだよ」
「ちょっと⁉︎」

 エイミーが頑張って引き止めようとしてたけど、どう見ても警戒されるだけだ。
 テーブルの下でエイミーの服を軽く掴んで引っ張って妨害すると、右手を振って見送った。

「もう! 帰したら駄目だよ。あと少しで喋りそうだったのに」

 レーガンが酒場の外に出て行ってしまったので、エイミーが小声で怒って言ってきた。
 忘れていると思うけど、レーガンが酔っ払っている時に話を聞く作戦だった。
 もう作戦失敗しているから終わりに決まっている。

「あれ以上は聞いても怪しまれるだけだよ。それに眼鏡の知り合いがお金の出どころみたいだけど、眼鏡の家は普通らしい。お金持ちの知り合いなんていないんじゃないかな?」

 他の客達に聞かれたくないので、お互い近くに寄って、コソコソと会話する。
 リディアが調べた情報だから当てになるか分からないけど、金持ちが冒険者をやるとは思えない。
 冒険者だからこそ可能なお金の稼ぎ方があるみたいだ。

「じゃあ、やっぱり人に言えない方法でお金を稼いでいるんだね」
「何かやっているのは間違いないと思う。それにマイクが関わっていたのか分からないけど」
「じゃあ、分け前の事で仲間割れして誘拐された可能性もあるんだ……」

 マイクは生活費に困っていたぐらいだから、関わっていたとは考えてなかった。
 でも、分け前が少なくて揉めていたのなら話は別だ。

(多分、主犯は眼鏡で間違いないと思う。誘拐事件とは関係ないかもしれないけど)

 新しい情報が手に入ったけど、結局、何をやっているのか全然分かっていない。
 こうなったら、やるしかないと思う。

「エイミーは先に家に帰っていて。俺はレーガンを見張って、眼鏡と相談しないか見張るよ。だから、明日のクエスト中はエイミーが交代で見張って」

 レーガンは秘密がバレているかもしれないと心配して、眼鏡に相談すると思う。
 それが今からなのか、明日のクエストで会う時なのか分からないけど、目を離す訳にはいかない。

「それでいいけど、でも、危ないと思ったら戦わずに逃げてね」
「大丈夫だよ。あの時の三十倍は強いから」

 簡単に作戦を相談して決めると、エイミーと酒場で分かれて、レーガンを追いかけた。
 ま、心配するだけ無駄だと思う。あの二人が襲って来ても秒殺確定だ。

 ♢

 酒場から酒臭いレーガンの匂いを辿って行くと、本当に家に帰っていた事が分かった。
 本当に酔っ払っていたみたいで、このままだと明日のクエストで眼鏡と合流する線が濃厚だ。

(くぅぅ、もう帰ってもいいかもしれない)

 路地裏からレーガンの家を見張る事、十五分経過。何も変化なし。
 もう家に帰って、毛布に包まって眠りたくなった。
 どうせ、レーガンもベッドの中で夢でも見ているはずだ。

(もう面倒だから、今から眼鏡の家に押し入って、二、三発殴って聞いた方が早いかも)

 でも、それで知り合いの善良な仕事を手伝っている事が分かったら、俺がマズイ事になる。
 危ない作戦なんて考えないで、地道に頑張るしかない。

「ふぁ~……眠い」

 その後も張り込みを続けたけど、特に変わった事は起きなかった。
 二階の住民が一人帰って来たぐらいだった。
 このまま予想通りに、朝まで何も起きずに終わりそうな感じがする。

(んっ? 出掛けるには早くないか?)

 でも、午前四時頃だった。二階の階段からレーガンが降りてきた。
 階段から降りると周囲の建物を少し警戒してから歩き出した。
 進んだ方向は前に眼鏡を呼びに行った時と同じだった。

(朝の散歩か、それとも、朝の眼鏡か。とりあえず見つからないように追跡開始だ!)

 待っていたチャンスがやって来たけど、絶対に失敗できない追跡だ。
 見つかってしまったら、張り込みが無駄になってしまう。
 気合いを入れると、慎重にレーガンの追跡を始めた。

 ♢
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