上 下
35 / 102
第一章・風竜編

第35話 昇級祝いと路地裏での再会

しおりを挟む
「「「「乾杯‼︎」」」」

 8級に昇級したので、赤髪達と一緒に酒場に飲みに行った。
 水オオトカゲのクエスト報酬は一万六千四百ギルと結構低かった。
 俺とマイクは果物ジュース、十九歳の眼鏡と二十歳の赤髪は黒色の酒を飲んでいる。
 飲酒は十八歳以上からと決まっている。当然、十五歳の俺は飲めない。

「ゲラゲラゲラ!」
「ヒャヒャヒャ!」

(くぅぅー、酒臭過ぎる! 軽い拷問だよ!)

 思った通りに酒場の中は賑やかでうるさくて、酒臭かった。
 縦横五十メートル程の室内に、一メートル三十センチ程の正方形のテーブルがいくつも並んでいる。
 料理や飲み物を若い綺麗な女性達が、派手な白赤ドレスを着て運んでいる。
 テーブルに座って居るだけで、酔っ払ってしまいそうだ。

 お客は冒険者よりも一般の人が多いみたいで、女性も結構テーブルに座っている。
 大声で笑っている大柄な小父さん達は、冒険者なのか一般人なのか分からない。

「約束通り、俺の奢りだ! 一人四千ギルまでなら、ジャンジャン頼んでいいからな!」
「では、私はチーズ唐揚げから頼みましょうか」
「俺は玉ねぎのスライス揚げでいいです」
「マイク、空気を読めよ。そんな安いの頼むなよ。すみません、注文お願いしまぁ~す!」

 本当は飲みに行くつもりはなかったけど、家よりはマシだと思った。
 エイミーの家では誰も昇級を心から祝ってくれないし、今日の朝に9級だとバレてしまった。
 夜に帰って、8級になりましたとは、とても言える雰囲気じゃない。
 錯乱したエイミーが、晩ご飯の料理を床に放り投げるかもしれない。

 それに友達を作るのは大事だ。
 もしかすると、この三人が街での初めての友達になるかもしれない。

「ルディさんは何が好きなんですか?」
「この若鶏の玉子スープでお願いします。身体が冷えているんで」
「ああ、それは血を流し過ぎたからですね。そういう時は肉を食べれば治りますよ。私の唐揚げも食べてください」
「いただきます。はぐはぐ……美味しいですね」
「そ、それはよかったです……」

 マイクがメニュー表を見せながら聞いてきたので、何となく答える。
 眼鏡が唐揚げ六個が乗った皿を差し出してきたので、唐揚げ三個を遠慮なくいただいた。
 眼鏡が鳥だけに、取り過ぎだろうという顔をしてたけど、一個だけとは言われてない。
 
「いやぁ~、まさか本当に俺達が審査しているとは思ってなかったぜ! 騙されちまったぜ!」
「フッ。私は最初から分かっていましたけどね。ルディが緊張しないように下手な芝居をするのに苦労しましたよ」

 デカイ図体なのに赤髪は酔いが回るのが早いようだ。
 もう顔が髪のように真っ赤になっている。
 あと大嘘吐きの眼鏡が今やっているのが、下手な芝居だ。
 眼鏡は完全に審査されていると勘違いしていた。

「まあまあ、いいじゃないですか。明日からルディさんと一緒にクエストできるんですよ。今度こそ7級昇級間違いなしですよ!」
「そうですね。強力な戦力なのは間違いないです。このまま二階に上がるまで、一緒にチームを組みましょう。私の知力とルディの戦力が加われば、まさに無敵です」
「やめろ、触るな」

 眼鏡まで完全に酔っ払っていたようだ。現実が見えていない。
 慣れ慣れしく肩に腕を回してきたので、軽く手で払って拒絶した。
 お前は天井でも見つめていればいい。

(はぁ……友達は無理かも。せいぜい仲間止まりだ)

 でも、しばらく赤髪達と一緒にクエストをするのは本当だ。
 俺には圧倒的に常識と経験が足りない。

 水オオトカゲのクエストを含めて、達成したクエストは五つだけだ。
 このままトントン拍子で7級に昇級して、7級クエストを単独でやれば、大怪我する可能性大だ。
 今のうちにチームプレイというものを学ばなければいけないと思う。

「ごめん、そろそろ家に帰らないと玄関が閉まるから帰るよ」

 酒場の時計の針が午後九時を過ぎていた。
 椅子から立ち上がると、三人に家に帰ると伝えた。

「何ぃ~? まだ今日は三時間も残っているぞ!」
「そうれぇす。まりゃ~、早いれぇす」
「門限が九時までだから、もう無理だよ。ごめんね。また明日」

 酔っ払っている二人の介抱をマイクに押し付けて早く帰りたい。
 これがチームプレイだと思う。

「ちょ、ちょっと待ってください⁉︎ 一人にしないでくださいよ! このままだとこの二人、道端で寝る事になります。また有り金全部盗まれますから!」
「ぐぅっ! えっ、また……?」

 やっぱり無理だった。帰ろうとする俺の腕をマイクが慌てて掴んで離さない。
 それに有り金全部盗まれるのが辛いのは知っている。
 お小遣いで貯めた一万ギルは、怪しい男達に盗まれたままだ。
 
「はい、またです! ルディさんはレーガンさんをお願いします! 俺はローワンさんを運びますから!」
「えぇー!」

 マイクは強引に赤髪を俺に任せると、急いで帰り支度を始めていく。
 出来れば軽い方がいいけど、マイクは百七十センチ、ローワンは百七十四センチ程だ。
 流石に百八十四センチのレーガンを運べと言うのは、ちょっと無理がある。

「はぁ……仕方ない。よいしょ!」
「うぉっ……?」

 椅子に座ったままの赤髪の足の裏と背中に手を入れると、そのまま持ち上げた。
 王子様抱っこだ。赤髪は意識がハッキリしないのか、トロ~ンとした目で俺を見つめている。
 
(へぇー、意外と軽いんだな)

 心の中で今度は女の子を運ぶ時の為の台詞を練習をした。
 それに赤髪はそこまで重くなかった。
 つい最近、ぽっちゃりした小父さんを運んだから、それよりも少し重いぐらいな感じだ。
 これなら、家まで余裕で運べると思う。

「ありがとうございます、ルディさん。レーガンさんの家が近くだから、そこにローワンさんも泊まらせましょう。こっちです」
「ああ……んっ? ハッ!」

 マイクは背中に眼鏡を背負って、狭い路地裏の道を進んでいく。
 そして、その背負われた眼鏡の姿を見て、ある事に気づいてしまった。
 お姫様抱っこは寝顔が見られる。背負えば胸とお尻が触れる。
 
(くっ、顔か胸か! どっちを選べばいいだ!)

 いきなり究極の選択を迫られたような気分になってしまった。
 それは実際に女の子を介抱する時に悩めばいいと思うけど、答えはすぐに出てしまった。

「何だ……両方やればいいじゃないか」

 そう、両方やれば何も悩む問題じゃなかった。

 ♢

(この匂い……?)

 赤髪の家は狭い路地裏にある住宅密集地にある。
 道幅は三メートル程はあるけど、家と家との間隔は八十センチぐらいしかない。
 そんな場所で嗅いだ事がある匂いがしてきた。

「ちょっといいか?」
「おわっっ⁉︎ あっ、はい、何でしょうか?」

 建物と建物の間からスッーと幽霊みたいに人が出てきた。
 夜にこれをやられると怖い。
 マイクは軽く声を上げると、気を取り直して、目の前の男に聞き返した。

(まさか……⁉︎ いや、何で⁉︎)

 煙草を吸っている三十歳前後の長身黒髪の男は、陰のある白い顔をしている。
 青っぽい黒色の年代物の帽子、長袖のスーツ、長ズボンを着ている。
 服の上からでも分かる引き締まった身体をしている。
 この煙草の匂いと花の匂い。間違いない、スライム洞窟にいた薬の男だ。

「あんたの名前が知りたいんだ。さっき酒場でチラッと聞こえたんだが、冒険者のマイクで間違いないか?」
「ええ、そうですけど、何かご依頼ですか?」
「いや、人探しをしているだけだ。湖の側にネイマールという男の屋敷があるんだが知っているか?」
「ええ、知っていますよ。この前のパーティーで行きましたから。屋敷の場所なら、湖を西に向かって、南に続く森の道を進めば辿り着けますよ」

 マイクは薬の男が道に迷ったと思ったみたいだ。
 ネイマールの屋敷への行き方を丁寧に教えている。
 でも、薬の男が屋敷の場所を知らないはずがない。
 聞きたいのは別の事だと思う。

「クックッ。いやいや、道は知っているからいい。お前で間違いないようだな」
「はぁっ……?」

 薬の男が軽く笑った後に右手に持っていた煙草を地面に投げ捨た。
 何するのかと思ったら、すぐさまマイクの腹に向かって、右拳を叩き込んだ。

「フゥッ!」
「ごぉふっ……!」

 マイクは苦しそうに眼鏡を背中に背負ったまま後退りしていく。
 そして、我慢できずに膝をついて倒れると、胃の中の物を地面に盛大に吐き出していく。

「おぐっ、うぷっ、うぐっ、オエエエエエッッーー‼︎」
「おいおい、汚ねぇな。この程度も避けきれないのか? 本当にお前がマイクなのか?」

 薬の男は靴が汚れないように後ろに軽く飛び退くと、吐き続けるマイクを蔑むような表情で見ている。
 薬の男の目的が何だとか、何がやりたいとか、そんなのどうでもいい。

(助けないと、俺が助けないと駄目だ!)

 赤髪を近くの家の玄関扉の前に下ろした。
 まともに戦えるのは、俺とマイクだけだ。酔っ払い二人は当てにならない。

「いきなり俺の友達に何すんだよ! 強盗なら俺が相手してやる掛かって来い!」
「はぁっ?」

 マイクを庇うように薬の男の前に立った。
 本当は凄まじくゲロ臭い、この場所から一刻も早く逃げ出したい。

「チッ。強盗じゃねぇよ。強い奴がいると聞いて勧誘に来ただけだ。このマイクは弱すぎて使えそうにねぇけどな。誰だ、お前?」

 まるで最初から見えていなかったように、薬の男は苛立ちながら聞いてきた。
 勧誘? 意味が分からないけど、どうせロクでもない事に決まっている。
 両腕を持ち上げると、拳を握って、男に構えた。

「俺がマイクだ。俺が相手してやるよ!」
「はっはは。どうやら、相当な馬鹿みたいだな。そのマイクが回復するまで相手してやる。友達の為に五秒ぐらいは頑張れよ」

 ♢
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

異世界転移しても所詮引きこもりじゃ無双なんて無理!しょうがないので幼馴染にパワーレベリングして貰います

榊与一
ファンタジー
異世界で召喚士! 召喚したゴブリン3匹に魔物を押さえつけさせ、包丁片手にザク・ザク・ザク。 あれ?召喚士ってこんな感じだったっけ?なんか思ってったのと違うんだが? っていうか召喚士弱すぎねぇか?ひょっとしてはずれ引いちゃった? 異世界生活早々壁にぶつかり困っていたところに、同じく異世界転移していた幼馴染の彩音と出会う。 彩音、お前もこっち来てたのか? って敵全部ワンパンかよ! 真面目にコツコツとなんかやってらんねぇ!頼む!寄生させてくれ!! 果たして彩音は俺の救いの女神になってくれるのか? 理想と現実の違いを痛感し、余りにも弱すぎる現状を打破すべく、俺は強すぎる幼馴染に寄生する。 これは何事にも無気力だった引き篭もりの青年が、異世界で力を手に入れ、やがて世界を救う物語。 幼馴染に折檻されたり、美少女エルフやウェディングドレス姿の頭のおかしいエルフといちゃついたりいちゃつかなかったりするお話です。主人公は強い幼馴染にガンガン寄生してバンバン強くなっていき、最終的には幼馴染すらも……。 たかしの成長(寄生)、からの幼馴染への下克上を楽しんで頂けたら幸いです。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

僕と精霊〜The last magic〜

一般人
ファンタジー
 ジャン・バーン(17)と相棒の精霊カーバンクルのパンプ。2人の最後の戦いが今始まろうとしている。

処理中です...