上 下
23 / 102
第一章・風竜編

第23話 容疑者二人の尋問

しおりを挟む
(証拠、証拠……そんなの無いよ)

 首輪でもあれば見せられるけど、最初からそんなの持ってない。
 自分がチャロだという証明も、ルディだという証明も難しい。
 ここは二人の思い出話を話して、信じてもらうしかない。

「聞いてくれ。晩ご飯は焼き魚で、朝ご飯は茹で卵とソーセージだった。俺はチャロだ」
「ひゃあ! まさか、ずっと家の中を覗いてたんですか⁉︎ このエッチ、エッチ!」
「痛い痛い! 何でそうなるの⁉︎ 家の中で食べたんだよ!」
 
 迂闊だった。変態だと罵られ、何か硬い盾のような物で頭を叩かれた。
 チャロだと証明しようにも相手はエイミーだった。
 普通に勘が鋭い人なら分かってくれるけど、エイミーに期待したら駄目だ。
 もっと確実に分かりそうなものじゃないと伝わらない。

 いつもみたいに、「クゥ~ン、クゥ~ン」と鳴いてみるか?
 駄目だ。より変態にしか見えなくなる。

 昨日の夜に見た、エイミーの日記帳の内容はどうだろうか?
 誰も知らないような話だけど、部屋に忍び込んだ変態だと叩かれそうだ。

 思い出話もチャロを拷問して、聞き出したと思われそうだ。
 何を話しても、信じてくれそうにない。

 いや、待てよ? 
 逆に知らない話をすればいいんじゃないのか?

 何も信じてくれないなら、何を話しても同じだ。
 屋敷の前で、エイミーと分かれた後、チャロがどうなったのか話してみよう。
 
「ちょっと待て! エイミーと分かれた後の話をするよ。あの後、屋敷に忍び込んで、玄関に倒れている男に動物を魔物に変える薬を飲まされたんだ。そしたら、ルディに戻ったんだよ!」
「えっ?」

 細かな部分は省略するけど、フレデリックを追跡して、殺人計画を知ってしまった。
 その殺人計画を阻止しようとして、逆に捕まって、薬を飲まされた。
 薬を飲んだら、人間に戻っていて、前よりも身長が伸びていた。
 その後は超人的な力で化け物を倒して、最後にフレデリックから女性二人を救出した。

 まあ、こんな感じで華麗に事件を解決させて、犯人と一緒に家に帰って来た訳だ。
 そして、現在。何故だか、うつ伏せ状態で地面に押し倒されている。
 これが真実だ。

「……何だか、作り話みたいな話ですね。本当ですか?」
「嘘じゃないよ。それにこの家に犯人を連れて来る意味がないでしょう? 犯人が居るんだから、ここに連れて来て、あっちにも聞いてよ」
「う~ん、油断させる為の罠かも」

 油断なら、エイミーはいつもしている。
 これ以上、油断させようがない。

「とにかく、人質でも怪しい人物でもいいから、楽な体勢にさせてよ。押し潰されて死んじゃうよ」
「それは困ります。ベアーズ、座らせてあげて」
「グマ」

 ほっ。背中から巨大熊が下りていく。
 でも、腕は掴まれたまま、その状態で立たされ、熊さんの前に座らされた。
 さっきよりは楽な体勢にはなったけど、熊さんに後ろから抱き締められている。
 頭の上に顎を乗せられている。
 精神的には全然楽になっていない。

 ♢

「偽チャロの隣に下ろして」
「ガァル」
「うっ……」
「はい、連れて来ましたよ」

 エイミーに言われて、リックが玄関に放置されていたフレデリックを運んできてくれた。
 俺の左横に下ろされたフレデリックはまだ気絶している。
 それとも、今は気絶している振りだろうか?
 この熊さんには通用しないから、振りなら、早くやめた方がいい。

「早く起きないと槍で足を突き刺されるぞ」
「ゔうっ! ゔうっ!」

 試しに声をかけてみたら、フレデリックはすぐに目を覚ました。
 口と手足は縛られているから、必死に何か言っても、誰にも伝わらない。

「ロープを解くから静かにしてくださいね」

 悪者相手なのに、エイミーの対応は優しすぎる。
 リックにお願いして、フレデリックの口のロープを解いた。
 母親と少女を暴行していた部分は省略せずに、もっと伝えておけばよかった。

「頼む、助けてくれ! その男に襲われたんだ!」
「落ち着いてください。歯が折れてるみたいですけど、大丈夫ですか?」
「その男がいきなり私を殺そうと殴りかかってきたんだ! 早くロープを解いてくれ!」

 ロープが取れると同時に、フレデリックはエイミーに被害者面で助けを求め始めた。
 言っている事は事実だけど、それは女性を殴っているのを止めたからだ。

「その前に聞きたい事があります。数日前にスライム洞窟でルディという冒険者を殺しましたか?」
「スライム洞窟? そんな場所は知らない。ルディとか言う子供にも会った事がない」
「そうですか……隣の男も知らないんですか?」
「今日、初めて会った男だ。全然知らない男だ!」

 エイミーの質問にフレデリックは、本当に知らないみたいに答えていく。
 そして、そのルディが隣にいるのに全然気づいていない。
 これだと俺が偽チャロ、偽ルディだと言っているみたいだ。

「それじゃあ、森の中で女性を殴っていた理由は何ですか? まさか、殴ってくださいと、お願いされた訳じゃないですよね? その両拳の怪我は殴った跡ですよね?」

 エイミーがフレデリックの拳を指差しながら聞いている。
 明らかに隠せない犯罪の証拠だ。

「い、いや、これは……その、だな……大人には色々と変わった趣味があるんだ。子供には分からないだろうが、あれは合意の行為だったんだ」
「へぇー、痛そうな変わった趣味ですね」

 言い訳できないと思っていたけど、フレデリックは困った感じに趣味だと言い切った。
 かなり無理があるけど、変わった趣味と言われれば納得できてしまう。

 うちの村にも年に一度、裸で村の中で隠れ坊をする変わった祭りがある。
 見つかったら、恥ずかしいから参加者全員が本気で隠れようとする。

「とにかく、私は何も悪い事はしていない。ロープを解いてくれないか? 私は貴族の家系なんだ。助けてくれたら、それなりのお礼を約束する」
「そうだったんですか?」
「ああ、そうなんだ。そうだ! 私の鞄はどこにあるんだ? 鞄の中に宝石があったはずだ。まさか、お前! 盗んだのか⁉︎」
「はぁっ?」

 突然、こっちを睨んできて、泥棒呼ばわりされた。
 黙って聞いていたら、嘘デタラメしか言ってない。
 何が貴族だ。ただの犬と馬の世話係じゃないか。

「盗んだのは、お前だろう! エイミー、コイツの言ってる事は全部デタラメだ! 信じたら駄目だ!」
「お嬢ちゃん、信じたら駄目だ。コイツを見てみろ。髪は伸ばしっ放しだし、服もサイズが合ってない。明らかに盗んだ服だ。コイツは泥棒だ!」
「確かに怪しいですね……」

 お互いが嘘吐きだと言い合って譲らない。
 エイミーはどっちの言う事を信じたらいいのか分からないようだ。
 困った感じに二人の男の顔を行ったり来たりしている。

 俺がチャロだと証明できれば、簡単に解決できるのに、その方法が見つからない。
 才能やスキルの嗅覚や引っ掻くで、箱の中身を当てるとか、爪を伸ばしてみるとかもある。
 でも、それが出来たからといって、チャロだと証明される訳じゃない。

(くっ、駄目だ。何も出来ない)

「う~ん、分かりました。どっちが本当の事を言ってるのか分からないので、明日、第三者に決めてもらいましょう。二人はそれまで拘束させてもらいます」
「えっ?」「何だと?」

 何も出来ないと悩んでいたら、エイミーがそう結論を出した。
 まさかの他人任せだったけど、三人で何を言っても、答えはハッキリしないと思う。

 こうなったら覚悟を決めるしかない。
 俺がやった悪い事は服を盗んで、金持ちを二十人程放り投げて、胸を揉んだぐらいだ。
 事件を解決したから、あれぐらいは笑って許してくれると信じたい。

「ちょ、ちょっと待て! それは困る!」
「どうしてですか? 悪い事をしてないなら、問題ないですよね?」
「うっ! くぅぅ! あ、明日の朝に隣町で大事な取引きがある。今から行かないと間に合わない」

 覚悟を決めた俺と違って、途端にフレデリックは取り乱し始めた。
 悪い事をやった自覚が少しはあるようだ。

「隣町の名前は何ですか? 今から行って、朝に着くのは……」
「イシュルだ! 取引きが終わったら、すぐに戻って来る。取引きが台無しになったら、お嬢ちゃんに四十億ギル全額弁償してもらう事になるぞ」
「そんな大金払えません」
「だったら、ロープを解いて、行かせてくれ。それで問題解決だ」

 エイミーが隣町の名前を言えないでいると、フレデリックが代わりに答えた。
 しかも、脅迫している。明らかに悪者のやり方にしか見えない。
 エイミーが脅迫に負けて、ロープを解く前に妨害しよう。

「おかしいな? 急いでいたのに、森の中で変わった趣味をやる時間はあったんだな」
「くっ! お前が邪魔しなければ、すぐに終わっていたんだ‼︎」
「殺して?」
「そうだ‼︎ ……ハッ! いやいや、違う違う‼︎ 言い間違えだ!」
「本当に?」
「当たり前だ。馬鹿な事を聞くな」

 おかしな点をちょっと指摘しただけで、フレデリックは激情した。
 俺にカトリーナとナタリアを殺すのを邪魔されて、実はかなり怒っているみたいだ。
 殺す意思があったと口を滑らせて、慌てて誤魔化している。
 でも、もう遅い。エイミーは明らかにもう信用してない。

「やっぱり怪しいです。間違っていたら、一緒に謝りに行くので、今日はここに居てください。ベアーズとリックは二人を部屋に運んであげて」
「グマ」「ガァル」
「巫山戯るな! この、ゔゔっ! ゔゔっ!」

 フレデリックは抵抗しようと頑張ったけど、リックに簡単にロープで口を塞がれた。
 もう言い訳は出来ない。
 
 ♢
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界で一番の紳士たれ!

だんぞう
ファンタジー
十五歳の誕生日をぼっちで過ごしていた利照はその夜、熱を出して布団にくるまり、目覚めると見知らぬ世界でリテルとして生きていた。 リテルの記憶を参照はできるものの、主観も思考も利照の側にあることに混乱しているさなか、幼馴染のケティが彼のベッドのすぐ隣へと座る。 リテルの記憶の中から彼女との約束を思いだし、戸惑いながらもケティと触れ合った直後、自身の身に降り掛かった災難のため、村人を助けるため、単身、魔女に会いに行くことにした彼は、魔女の館で興奮するほどの学びを体験する。 異世界で優しくされながらも感じる疎外感。命を脅かされる危険な出会い。どこかで元の世界とのつながりを感じながら、時には理不尽な禍に耐えながらも、自分の運命を切り拓いてゆく物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...