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第一章・風竜編

第1話 村から街の冒険者ギルドへ

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「それじゃあ、行って来るよ」

 木の屋根と土壁の質素な家の前で、母さんと父さんに出発の挨拶をする。
 今日で慣れ親しんだ家と村から、しばらく離れる事になる。

「ルディ、無理だと思ったら、すぐに帰って来ていいからね」
「大丈夫だって。たくさん仕送りするから楽しみにしててよ」
「そんなのいいから、良い防具を買いなさい。もぉー! お父さんからも何かないの?」

 心配症の母さんが最後まで心配している。茶色い長い髪の母さんの名前はアルマ。
 半袖の白いフリルシャツに、胸開きの濃い深緑色の袖無し花柄ドレスを着ている。
 年齢三十四歳、細身の身体で、村でもそこそこの美人だったと今でも評判だ。

 その母さんの隣で黙って立っているのが、父さんのマイルだ。
 父さんは年齢三十八歳。長袖の白シャツを腕捲りして、紺色の長ズボンを履いている。
 長身で筋肉ムキムキの身体に、茶色い癖毛が酷い短髪で髭モジャだ。

 無口というか、寡黙というか、そんな父さんのどこに魅力を感じたのか、二人は結婚した。
 その結果、生まれたのが親譲りの茶色い髪と平均的な体格のルディ、十五歳だ。

「んんっ……知り合いもいない街に行くのは不安だと思うが、仲間が出来れば、不安もなくなる。まずは信頼できる仲間を見つけなさい」
「うん、仲間は大事だよね。頑張って見つけてみるよ」

 父さんが重い口を何とか開いて、仲間の大切さを教えてくれる。
 うん、まあ、一人で冒険者をやるつもりはないから、言われなくても分かっているよ。

「そうね。お友達は大切よ。でも、街の女には気をつけるのよ。油断していると、持っているお金を根こそぎ奪われるから」
「大丈夫だよ。奪われるようなお金は持ってないから」
「その油断が危ないのよ。街には気をつけなさい!」

 母さんは街に行った事がないと言っていたのに凄い警戒心だ。
 ここまで来ると、ただ街に嫉妬しているようにしか聞こえない。

「はいはい、女の人にも街にも気をつけるよ。もう行くよ。落ち着いたら手紙を書くから待っててよ」
「ルディ、ちょっと待ちなさい!」
「うぐっ……」
「無理しなくていいから、すぐに戻って来るのよ」

 行こうとすると、母さんに背中の鞄を掴まれて引き止められた。
 あまりにも母さんは心配症し過ぎる。
 聞いていると、こっちまで心配になってくる。
 さっさと話を終わらせて、早く街に行きたいよ。

「はぁ……もう行くよ。母さんも俺が居ないからって、弟とか妹とか何人も作らないでよね」
「な、何言ってるの‼︎ 馬鹿な事言ってないで、さっさと行きなさい‼︎」
「はぁ~い、じゃあ父さんも母さんも頑張ってよ。俺は妹でいいからさ」
「ルディー‼︎」

 母さんはかなり怒っている。左手を上げて、今にも叩こうとしている。
 もう引き止めるつもりはないようだ。これでやっと出発できる。
 逃げるように出発した。

「はぁ、はぁ、はぁっ……あっはは。ここまで来れば安心だ」

 村から街に行くには、まずは近場の馬車が出ている町に行く必要がある。
 村から毎日のように町に向かう牛乳売りの馬車に乗せてもらえば、町には楽に到着できる。
 町に到着したら、あとはお金を払って、街までの馬車に乗るだけだ。

 ♢

「んんっ~~~、よし! 頑張るぞ!」

 馬車から降りると、大きく背伸びをして身体を解した。

「冒険者ギルドの屋根は槍のように尖っているから、すぐに分かると思うぞ」
「ありがとうございます」

 一緒の馬車に乗っていた小父さんが、冒険者ギルドの建物の特徴を教えてくれた。
 パロ村を出発してから、八日間で目的地の【ハルシュタット】の街に到着できた。
 ハルシュタットの街は周囲を山と湖に囲まれた美しい街だ。
 この街で今日から冒険者として働く予定だ。

 冒険者とは、やる気と元気があれば、誰でも働く事が出来ると言われる職業だ。
 つまり、無資格、無才能でも即採用されやすい簡単な仕事内容だと思う。
 父さんと母さんには悪いけど、農家を継ぐつもりはない。

「ここで間違いなさそうだ」

 石畳の上を歩いて、立派な三階建ての大きな建物の間を抜けていく。
 そして、教えてもらった槍のように尖った屋根を目印に冒険者ギルドに到着した。
 槍のように尖った細長い建物の天辺付近に鐘が見える。こっちは鐘楼のようだ。
 多分、隣の三階建ての大きな建物が冒険者ギルドだと思う。

 両開きの濃茶の木扉を開けて、肌色と薄茶色のレンガを積み上げられた長方形の建物に入っていく。
 ガヤガヤ、ザワザワと思ったよりは人は少ないけど、三十人程の人達で賑わっている。

「がっはははは!」
「わっはははは!」

 はぁ……そして、やっぱり父さんと同じような大柄で筋肉質な男達が多い。
 寡黙な父さんとは違うけど、筋肉ムキムキの二の腕と胸板を見せつけてくる。
 十五歳の平均点な身体付きだと、どうしてもここでは悪目立ちしてしまう。
 これからの成長を期待するしかない。

「すみません、冒険者登録をしたいんですけど……」

 冒険者登録用のカウンターには人が並んでいなかった。
 なので、そのまま受付に座っている十八歳ぐらいの若い女性に話しかけた。

「冒険者登録ですね。どうぞ、お座りください。登録料には千ギル必要になります。一括払いと分割払いがありますので、分割払いの場合は一ヶ月以内にお支払いください」

 白い歯に少し日に焼けた元気な印象の受付女性が、可愛い笑顔で椅子に座るように言ってきた。
 半袖の白いフリルシャツ、上から下に黒、緑、赤、白と色が変わる胸開きドレスを着ている。
 お化粧をしていて、艶々の綺麗な茶色に近い金色の髪をお下げにして、小ぶりな胸の上に乗せている。

 これが気をつけるべき街の女らしい。
 母さんには悪いけど、村の女達とはレベルが違うよ。
 椅子に座っているだけなのに、良い匂いがしてくる。

「もしも一ヶ月以内に間に合わなかったら、どうなるんですか?」

 現在の所持金は一万ギルちょっとしかないので、出来れば分割払いにしたい。
 町から街まで馬車の値段は一万五千ギル、食費は節約して五千ギルだった。
 村には戻らない覚悟で片道のお金しか貯めなかった。
 それに俺の精神力では三万しか貯めれなかった。

「お支払い出来なかった場合は、冒険者登録が抹消されてしまいます。再登録するには、一括払いで一万ギル必要になります。そうならないようにお気をつけください」
「なるほど……分割払いでお願いします」
 
 失敗したら、再登録は無理だと思う。村に帰らないといけない。
 その時は馬車代を父さんに手紙を書いて送ってもらおう。

「では、こちらの用紙の注意事項を読んで、お名前と緊急連絡先をお書きください。不要な場合は緊急連絡先は書かなくても問題ありませんよ」
「えっーと、それだけでいいんですか?」

 名前と連絡先だけなんて、あまりにも書く事が少な過ぎる。
 逆にこの程度なら書く必要はないでしょう。

「はい、それだけでいいんですよ。犯罪行為を行わない、クエスト中に死亡した際は自己責任という誓約書ですから」
「そうなんですか……」

 あまりにも簡単過ぎる。用紙の一番下に名前と緊急連絡先を書いて、受付女性に手渡した。
 誓約書の内容も、冒険者同士は仲良くしましょう。無理なクエストは受けないようにしましょう。
 暴れるのはダンジョンだけにして、街の中では暴れないようにしましょう。
 そんなの子供じゃないんだから、守れるに決まっている。

「では、仮登録を始めさせてもらいます。まずはこの水晶玉を片手で軽く掴んでください」

 そう言って、受付女性は凹凸のない濃茶の木製カウンターの上に透明な水晶玉を置いた。
 水晶玉は直径十三センチ程で、銀色の高さ七センチ程の台形の台座に乗せられている。
 言われるままに右手で水晶玉を掴むと、指先が少しピリピリしてきた。

「んっ……」
「少しピリピリしますけど、途中で離さないでくださいね。この水晶には才能やスキルを調べる力があります。水晶には膨大な人数のデータが蓄積されているので、かなり正確に分かりますよ」
「へぇー、そうなんですか……」

 才能とか、スキルとか言われても、さっぱり分からない。
 なので、無難に分かった感じで相槌を打ってみた。
 結果が出れば、教えてくれると思う。

「そろそろ一分近くになりますね。指はまだピリピリしますか?」
「いえ、少し前からしなくなりました。慣れたんでしょうか?」

 受付女性がカウンターの端に置いてある小さな置き時計を見ながら聞いてきた。
 指先には十秒ぐらい前から何も感じなくなったので、素直に答えてみた。
 
「そうですか。では、水晶から手を離していいですよ。残念ながら、才能とスキルは持ってないようですね」
「えっ? もしかして、持ってないと仮登録できないんですか⁉︎」

 受付女性の表情は少しガッカリしている。
 誰でも出来ると聞いて来たのに、これだと時間とお金を無駄に使っただけになる。

 ♢
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