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第十一章

第1話『賢者の遺跡探索』

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 ——遺跡の研究施設。

 ウォルターからの手紙を受け取った賢者テミスは、手紙と一緒に送られた地図の丸印の場所にやって来ました。
 兄に続いて、弟の後始末と後片付けまでやる事になりました。
 面倒な事ですが、それでも手紙の内容通りならば、ウォルターの手に余る相手なのは分かります。

「人型ドラゴンですか……」

 テミスは考えています。
 人型ドラゴンと見るべきか、人間のドラゴン化と見るべきか、この二つはちょっと違うようです。
 人型ドラゴンはドラゴンの進化であり、人間のドラゴン化は人間の進化です。
 国民全員が強靭な肉体と長い寿命を持つ事が出来るのならば、多少の外見の変化はどうでもいい事です。

 テミスは遺跡の出入り口である階段を下りて行きます。
 遺跡の内部は真っ暗で、灯りを持っていないと進むのは困難です。
 そのはずですが、テミスはウォルターと同じように暗闇を平然と進んで行きます。
 ウォルターの場合は暗い深海でも活動できる『游泳術』と『潜水』のスキルのお陰ですが、テミスの場合は両目に魔法を使って、見えるようにしています。

「あれか……赤色以外は雑魚だったな」

 そんなテミスの目に、通路を塞ぐように立っている緑色の人型ドラゴンが見えました。
 身長250センチの巨大な大男のような体格ですが、緑色の鱗の肌を持つ人間はいません。

「オマエ、ダレ? イマ、ダレモ、ハイレナイ!」

 緑キメラは侵入者を見つけたので、ドロシーの命令通りに排除する事にしました。
 ドロシーは牢屋の看守をしていた緑キメラから、ウォルターとイシスが濃厚な口づけを二度も交わしていた事を聞かされました。二人が遺跡のどこにもいないのならば、それはもう駆け落ちした証拠です。
 やって来た侵入者は、全員容赦なく血祭り決定になりました。

「飛行能力があるのはいいが……やはり不要だな」

 テミスは翼を広げて向かって来る緑キメラにそう言いました。
 結論は出たようです。国民全員をドラゴンにするには、ドラゴンを育てるところから始めないといけません。
 そんな手間と費用をかけてまで、やるべき事じゃないです。
 テミスは右手を向かって来る緑キメラに向けると、圧縮した空気の塊を次々に発射していきました。

「ガウッ‼︎ ガウッ‼︎ ガウッ‼︎」

 ドガッと空気の砲弾が緑キメラの顔面を殴り飛ばして墜落させました。
 床に倒れている緑キメラの巨体に、空気の砲弾が次々に当たって、その身体を強打していきます。
 テミスは緑キメラに向かって歩きながら、空気の砲弾を容赦なく撃ち続けます。

 そして、テミスが近づけば、緑キメラは吹き飛ばされて離れていきます。
 廊下の隅まで吹き飛ばされた緑キメラは、壁に激突すると、空気の砲弾を受けながら、壁に埋まっていきます。
 緑キメラは三十発以上の攻撃を喰らって、明らかに虫の息ですが、テミスはそこには興味はないようです。
 
(これだけ私の破弾はだんが当たれば、普通は手足の一本ぐらいは吹き飛ぶはずなんだが……打撃に対して強くなるスキルを持っているのか、ただ身体能力が強いだけか……)
 
 ウォルターの手紙に書かれていた事は、赤色キメラが聖剣を内蔵していて、とにかく強いです。
 それでもキメラの人数が書かれていたので、キメラを三人倒せば終わりです。
 そして、一人目は終わりました。壁の中にキチンと埋葬されています。

(予想よりは弱かった。それよりも、まだキメラがいるという事は、研究者が逃げずに、ここに残っているという事か)

 ウォルターが研究施設を脱出してから、もう五日も経っています。
 まともな人間ならば、逃げ出してもいいはずですが、強いキメラに守られた研究施設を逃げ出す人はいません。
 ドロシーと三女マローネは逃げもせずに、研究を続けていました。

 イシスが担当していたのは、材料となる人間のスキル強化とキメラの肉体強化だけです。
 イシスが居なくても、キメラを作る事ぐらいは可能です。

 でも、それは通常の侵入者に対して有効な手段です。
 ウォルターの知り合いに賢者がいると知っていれば、絶対に逃げていたはずです。
 明るい部屋に到着したテミスは、黒髪のお下げ髪の少女と茶色いキメラを見つけました。

「また次の侵入者ですか? ここに来るまでに、緑色の怪物に会わなかったんですか?」

 侵入者に気づいた三女マローネは振り返ると、大きく可愛らしい黒色の瞳でテミスを見ました。
 真っ直ぐに伸びた黒髪のお下げは鎖骨まで届き、十七歳という幼く可愛らしい顔立ちとは対照的に、大きく膨らんだ胸元が大人の存在感を出しています。

「コレ、コロス? コロス、イイ?」
「まだ、駄目よ。あなたの顔は見た事があります。確か……賢者テミス様ですよね? どのような用件ですか?」

 マローネはテミスに襲いかかろうとする茶キメラを止めると、テミスに色っぽい声で聞きました。
 つい最近やって来た侵入者と賢者テミスに関連性があるのか、どうなのか、まだそれが分からないからです。
 まずは話を聞いて、関係があるのか、無関係なのか、調べる必要があると判断しました。

「侵入者に対して冷静だな。それとも、侵入者が多いだけなのか。まあ、警備の強化をする必要はもうない。今すぐに研究所を閉鎖して、私と一緒に来てもらいたい」

 マローネの質問にテミスは閉鎖して付いて行くのが当然のように答えました。
 初対面の女性を外に誘うならば、ちょっと強引です。そして、強引な男はやっぱり嫌われます。

「まるで命令ですね。その命令に私が従う理由はありますか? この研究施設の責任者は私です。あなたは部外者です。用件がそれだけならば、早々にお引き取りください」

 マローネは制していた茶キメラをテミスに向かわせます。対剣聖用の戦闘兵器です。
 剣聖よりも弱くて、見た目も弱そうな賢者ならば、問題なく追い払う事は出来るはずです。

(天爆てんばくの槍……)

 テミスの腕から光の槍が投げられるまでは、そう信じていました。

「話し合いは時間の無駄のようだ。実力で連れて行こう」

 長さ一メートル程の高速の槍が、茶キメラの胴体にドスッと突き刺さりました。
 背中からは光り輝く鋭い先端が飛び出ています。

「イタイ。ナンダ、コレ?」

 茶キメラは胴体に突き刺さっている光のとげを引き抜こうとしています。
 けれども、その前に、光の槍が大爆発を起こして、茶キメラの肉片を周囲にぶち撒けました。

「きゃあああっ‼︎」

 天爆の槍の爆風と衝撃で、部屋の中はメチャクチャに破壊されます。
 マローネは悲鳴を上げますが、マローネの周囲は無傷です。
 テミスはマローネが死なないように、魔法で壁を作って守りました。

「もう守る者はいないぞ。どうするつもりだ? 今度は自分で戦うつもりか?」

 テミスは爆風が収まると、呆然と立っているマローネに聞きました。
 マローネの戦闘能力は皆無と言ってもいいぐらいです。
 マローネはテミスの質問にどう答えようか考えています。
 部屋の中には瓦礫と一緒に茶キメラの肉片が飛び散っています。

「……なるほど。いいでしょう。ドロシー姉さんが今の研究所の最高責任者です。そこに案内しますから、ドロシー姉さんと相談してください」

 普通のキメラが賢者に通用しないのは、爆散した茶キメラを見れば分かります。
 ドロシーの所には最高傑作の赤キメラがいます。
 賢者を連れて行って、赤キメラに排除してもらえば、何も問題ありません。
 マローネはテミスをドロシーの所に案内する事に決めました。
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