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第七章

第3話『野盗の襲撃』

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 船から降りたウォルター達三人は、馬車で目的地を目指しています。
 目的地は内陸部なので、少し移動距離がありました。
 なので、途中にある町や村に泊まっては、その周辺に埋まっている貴重品を発掘しました。
 旅費はディアナから貰っていますが、お金はいくらあっても問題ありません。

 けれども、やっぱり、あり過ぎると問題はあるようです。
 馬車に乗って次の町を目指していたウォルター達を、馬を飛ばして追跡する野蛮な男達がいました。
 町の宿屋で、いつものように金目の物を持っている旅人を物色していたら、ちょうどいい三人組を見つけました。その三人組を町から追いかけて来たところです。

「おい! 止まれ! 止まらねぇと、ブッ殺すぞ!」
「おい、そこのジジイ! テメェだよ、テメェだ! 早く止めろ! 内臓引き摺り出して、手足引き千切っぞ!」
「ひぃぃぃ⁉︎ お助けください‼︎」

 馬車を走らせていた御者の小父さんは、野蛮な男達の命令に素直に従って、馬車を急停車させました。
 それどころか、馬車と乗客三人を見捨てると、小高い丘を一人で全速力で駆け上がって、逃げて行きました。
 人として色々と見習うべき点が多いですが、もうウォルター達は逃れません。

「おい! 降りろ!」
「金と女を置いていけば、男は見逃してやる。さっさと出て来い」

 ドンドンドンと馬車の扉を、野蛮な男が拳で叩きます。
 野蛮な男達は全員で七人います。全員が馬に乗って、剣や革製の軽鎧で武装しています。
 普通の乗客ならば、金を奪われて終わりですが、普通じゃない乗客が一人乗っていました。

「お願いします。お金はあげますから、酷い事はしないでください」

 馬車から両手を上げたミファリスが出て来ました。
 ブルブル震えている左手にはお金が入った小袋を持っています。

「可愛いお嬢ちゃんだ。安心していいよ。お兄さん達は子供には全然興味がないから。さあ、もう一人いるんだろう? 酷い事しないから出ておいで」
「さあ、お嬢ちゃんはこっちにおいで。お兄ちゃん達と遊ぼうか?」
「そうそう。皆んなで楽しく遊ぼうね」
「……」

 とても興味がなさそうには見えません。
 下品な笑みを浮かべた二十代後半から三十代前半の五人の男達が、ミファリスを呼んでいます。
 ミファリスは怯えながら近づいて行くと、無言で男二人の顎下に、震える二本の拳を振り上げました。

「がふっ‼︎」「ごふぅ‼︎」

 グシャと二人のお兄さんの顎は同時に粉砕されると、ほぼ同時に地面に倒れていきました。
 残りの三人のお兄さん達は、仲間二人が遊んでいるように見えているようです。

「おいおい、お前達。何やってんだよ? 遊ばないなら、俺達が遊ぶぞ?」
「まったく……さあ、お嬢ちゃん。今度はお兄ちゃん達と遊ぼうか?」
「それとも、お姉ちゃんも一緒がいいのかな?」
 
 地面に寝ている二人が返事をしないので、残りのお兄さん三人がミファリスを呼んでいます。
 けれども、また顎下にグシャとダブルパンチを喰らうと、地面に倒れていきました。

「おい、お前達も巫山戯てんのかよ? おい、返事をしろ。おい⁉︎ おい、返事をしろ⁉︎」

 残念ながら、この二人も返事が出来ない身体になりました。
 一人生き残っているお兄さんが、真っ青な顔で、地面に寝ている仲間四人の身体を揺すっています。
 でも、誰も反応しません。そんな必死なお兄さんにミファリスはゆっくりと近づいて行きます。
 まだ、全然遊び足りないみたいです。

「ふっふふふ。安心してください。すぐにお友達の所に連れて行ってあげます」
「えっ? がふっ‼︎」

 ミファリスは右足を振り上げると、しゃがんでいるお兄さんの顔面を蹴って、グシャと粉砕しました。
 普通の女の子ならば、木の棒もへし折れない蹴りですが、お兄さんの頭蓋骨は粉々になりました。

「ふん。口程にもないですね。遊びにもなりませんでした」

 野蛮なお兄さん五人を楽々と倒したミファリスは、馬車の方を見ました。
 ウォルターに任せていましたが、どうやら終わっているようです。
 身体を斜めに大きく切られたお兄さん二人が、地面に倒れていました。
 
「酷い目に遭ったね。ミファリスは大丈夫だよね?」
「当然です。それに発掘現場のマッチョ達と比べたら、こんなのゴミ筋肉です」

 ウォルターは、一応は心配して聞いてみましたが、ミファリスはお兄さん達の所持金チェックしていました。
 これではどちらが野盗か分かりませんが、七人のお兄さんにはもう必要ないものです。
 ミファリスは遠慮なく、銀貨二十四枚を回収しました。意外と持っていました。

「あっ~、怖かった。二人共、強いんだね。二対七で勝っちゃうんだから」
「ふっふふふ。相手が弱過ぎただけです。ドラゴンまで倒した私にかかれば、こんなの雑魚です。通行の邪魔なので、道の端に退かしておきましょう」

 馬車から出て来たキアラに、ミファリスは余裕だとアピールします。
 ついでに運搬スキルで強化された腕力を使って、地面のお兄さん達を掴んでは、道の端に投げ飛ばしていきます。これでは雑魚扱いではなく、ゴミ扱いです。

「じゃあ、僕は逃げた御者の小父さんを連れて来るから、二人は待ってて」
「はぁーい。ついでに殴って、料金も無しにしてくださいね」
「そこまではしないよ」

 このまま馬車を発進させてもいいですが、ウォルターは探査で小父さんを探しに行きました。
 小父さんには聞きたい事があるからです。
 昨日、泊まっていた宿屋で、馬車に乗らないかと話しかけて来たのは小父さんでした。
 もしも、野盗達の仲間ならば、その辺に隠れているはずです。

 でも、その疑いは直ぐに晴れました。
 町に向かって、まったく走るペースを落としていません。
 ただ乗客を見捨てた、屑のような御者小父さんだっただけです。

「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ……」
「小父さん、待ってください」
「うわぁー‼︎ 助けてくれ‼︎」

 ウォルターは上空を泳いで、小父さんを楽々と追い越すと、小父さんの進行方向に降り立ちました。
 小父さんはビックリしていますが、幽霊ではありません。ついでにリンチするつもりもありません。

「お、お客さん⁉︎ 生きているんですか? 幽霊じゃないですよね⁉︎」
「生きていますよ。野盗は倒したので、馬車に戻ってください。隣町まで送ってくれないと困るんですよ」
「あっははは……そうですよね」
「本当です。今度は逃げないでくださいよ」
「大丈夫です。もう大丈夫です。絶対に逃げません」

 でも、一度ある事は二度あります。
 御者の小父さんを馬車に連れ帰りましたが、しばらく道を進んだ先で、また野盗達に襲撃されました。
 さっきの野盗達の仲間がまだ残っていたみたいです。
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