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第七章

第1話『トランプゲーム』

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 ——ロムルス王国王城。

 金色の髪と茶色の瞳を持つ十八歳になる青年が旅支度をしています。
 母親譲りの美しい容姿ですが、その鋭い目つきはゴロツキの兄貴分といった印象です。

「ラドンとプルトス。さて、どちらに向かおうか……」

 大きなベッドの上に広げた地図を見ながら、この国の第一王子エウロスは悩んでいました。
 早く決めなければ、一つ年下の弟に見つかって、外出を止められてしまいます。
 けれども、行き先のラドン王国とプルトス王国は隣国同士です。
 城を抜け出した後に、歩きながら決めてもよさそうです。

「では、戦争を止めに行くとしようか」

 エウロスは愛用の剣を一本だけ棚から手に取ると、使用人や見回りの兵士一人いない、真っ暗な城内を歩いて行きます。
 徹底的に無駄を排除した結果、王城には数名の王族の世話をする数十人の人間しかいなくなりました。
 食事も服もわざわざ誰かを雇って作らせなくても、街に下りれば、売る程に溢れています。
 それも安くて美味くて、色鮮やかで丈夫な物が多種多様にです。

 くだらない見栄と無用な人件費を排除すれば、その費用を別の事に使えます。
 その独自の法則は自国でも、他国でも通用すると思っています。
 エウロスは開きっ放しの城門を抜けると、夜の街に向かって歩いて行きました。

 ♦︎
 
 ——スカンドス王国王城。

「そういえば、姉さんはまだ使えないの?」
「まだ出所してない」
「ふぅーん、そうなんだ……」

 ディアナの部屋でお茶を飲んでいたウォルターが、思い出したように聞きました。
 キアラには、『勘定かんてい』スキルを上げてもらう為に、女囚人部屋でトランプをやってもらっています。
 今度は孤独で過酷なLV上げではなく、囚人達と楽しく刑期を賭けたゲームをやっています。
 もう二週間は姿を見ていませんが、多分、真剣衰弱やババ抜きなんかを元気にやっているはずです。

「ねぇ、ディアナ。本当に勘定スキルがLV MAXになれば、手掛かりが見つかるのかな? 流石に勘にそこまでの力はないと思うんだよね。別の発掘品を探してもいいんじゃないかな?」

 ウォルターは勘定スキルに対して、ちょっと思うところがあるようです。
 勘とはようするに、占いのようなものです。そんな不確かなものに頼りたくありません。
 こんな所で呑気にお茶を飲んでないで、他にやるべき事がありそうな気がしています。

「兄様、女の勘を侮ったら駄目だよ。それに『幸運の虹色水晶』も使うから、キアラの勘の的中率はほぼ100%だよ」
「勘と幸運って……」

 ウォルターと違って、ディアナは勘や幸運を信じているようです。
 九歳の女の子の勘がどれだけ鋭いのかは分かりませんが、テーブルの上には幸運の虹色水晶が置かれています。
 無駄な発掘だと思っていたのに、まさかの重要アイテムでした。
 でも、残り三品はお城の保管庫に連れて行かれました。

「でも、もう二週間だよ。ちょっと遅過ぎるから、そろそろ迎えに行った方がいいんじゃないのかな」
「そうやって、直ぐに甘やかすから駄目なんだよ。本当はトランプで負けた人には、罰ゲームで幻覚絞首刑を与えた方が効果的なんだよ」
「それは駄目だって言ったでしょう。ある程度の的中率でいいから、もう出所させてあげようよ」
「もうちょっとだけ上げた方がいいのに……」

 キアラの現在の勘定LVは4です。まあまあの的中率しかないので、まだ実践投入には早過ぎます。
 それでも、女囚人部屋では、これ以上のLV上げは難しそうです。
 ディアナはちょっと考えると、ものは試しだと、キアラを出所させる事に決めました。
 やっぱりゲームでは真剣勝負の緊張感が足りません。

「分かった。兄様の言う通り、キアラを出所させるから、兄様はミファリスと一緒に旅支度をして来て」
「ありがとう。直ぐにミファリスを呼んで来るから」
「うん。ゆっくりでいいから」

 ディアナはウォルターが部屋から出て行くと、部屋の外に待機していた使用人に、キアラの出所を指示しました。

 ——そして、数時間後。

 ウォルターとミファリスは一時間もしないうちに、ディアナの部屋にやって来ました。
 その後、しばらく三人でお茶を飲みながら待っていると、扉をノックする音が聞こえて来ました。
 どうやら、囚人が到着したようです。
 扉がゆっくりと開くと、使用人に連れられた緑色の作業着の女が部屋に入って来ました。

「うっ、キアラ姉さんなの?」
「うぅっ、助けて、ウォルター。私、このままだと殺されるから」

 キアラの赤茶色の髪はボサボサになっていて、目には酷い隈を作っています。
 出来れば、夜通し楽しく遊んでいた事にしたいですが、それは必死に助けを求めている顔を見れば、違う事は分かります。本当にトランプゲームをやらせていたのか、凄く疑いたくなります。

「ねぇ、ディアナ。姉さんに何をさせていたの?」
「私は何もしてないけど、同じ部屋の囚人達が何かしていたのかも。まあ、そんな事はいいから、早速、スキルの試験をするよ。裏返した五十四枚のトランプの絵札と番号を三回連続で的中させたら、出所していいから」

 ウォルターの質問を軽く受け流すと、ディアナはテーブルの上に、トランプを裏返して並べ始めました。
 どうやら、本気で出所試験をするつもりのようです。

「そんなの無理だよ! ウォルター、助けて! このままじゃ姉さん、一生外に出られないから!」
「ちょっと姉さん⁉︎ 悪い事してないんだから、直ぐに出られるから!」

 キアラはウォルターの腰にしがみ付いて、必死に助けを求めています。
 確かに助けないと本当に出られないかもしれません。
 でも、助ける事は出来ないようです。ディアナに止められてしまいました。
 それどころか、カード当ての見本を見せてくれるようです。
 
「兄様、邪魔しないで。私でも100%当てる事が出来るから見てて……ダイヤの8、スペードのエース、ダイヤのジャック。ほら、簡単に出来るでしょう? じゃあ、やって」
「嘘⁉︎ いやいや、私は無理だから!」
 
 ディアナは適当にペラ、ペラ、ペラと三枚のトランプを捲って言い当てました。
 おそらく、トランプを透視しただけですが、大事なのは結果と事実です。
 ウォルターは姉を売る事に決めました。

「……姉さん、ごめん! 幸運の虹色水晶を使っていいから、死ぬ気で頑張って!」
「ウォルター⁉︎」

 ウォルターはテーブルの上から虹色水晶を手に取ると、キアラに渡しました。
 これで幸運が少しアップしたはずなので、的中率はまあまあ→かなりにアップしたはずです。
 あとは自分の勘を信じてもらうしかないです。
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