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第五章
第五章最終話『龍殺し』
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「根性無しの父様の所為で、作戦を一から立てないといけなくなりました」
「ディアナ! お父さんの所為じゃないよ!」
娘の辛辣な言葉に王様は傷ついていますが、体重を84キロ→73キロまで落とさせました。
苦労して、戦力アップ、脂肪をダウンさせました。戦わないなら、その苦労を返して欲しいです。
「それじゃあ、兄様。よく聞いてください。私の体力だと、巨大な身体のドラゴンには長い時間、幻覚を見せる事は出来ません。安全にドラゴンの身体によじ登って、数回攻撃したら、幻覚が解けてしまうと思ってください」
「つまりは数人掛かりで急所を攻撃して、一気に倒すのが一番いいんだね」
「はい。致命傷の攻撃も数回は気づかれないように出来ますけど、一度幻覚を解かれたら、もう私の出番は終わりです」
チラッ、チラッと二人の兄妹は根性無しの王様の方を揃って見ました。
あれの所為で危険な目に遭いそうです。
今からでも遅くないので、代わりに戦死して欲しいです。
「そんな目で見つめても、ワシは絶対に行かんよ。あんな大きなドラゴンを、ちょっと攻撃しただけで倒せるはずないのは分かっておる」
王様ならば、確かに無理です。ちょっと痩せただけですから、ドラゴンの背中まで登って、剣を数回突き刺しただけで幻覚タイム終わりです。
「そういう事なら僕がやるしかないのか。パパッと泳いで行って、首か、頭を切れば終わりなんだから」
「そうですね。兄様なら瞬殺です。でも、用心の為にミファリスさんを連れて行って、ドラゴンの頭蓋骨か、首の骨を粉砕させた方がより確実です」
「なるほど、やっと私の出番ですね。ウォルターさん! さあ、運んでください!」
機動力のあるウォルターが単独で倒しに行こうとしましたが、ディアナは攻撃力が高い二人による確実な瞬殺を希望しています。多分、そうしないと瞬殺できないという事です。
ミファリスも両手を広げて、準備万端ですが、一つだけ問題があります。50キロは重いので、機動力が激減してしまいます。ついでに攻撃力も……。
「いや、僕一人でいいと思うよ」
「さあ、さあ、遠慮せずにお姫様抱っこしていいですよ!」
「兄様、準備が出来たら言ってくださいね。また、幻覚をかけますから」
二人の女性にウォルターは急かされます。
どう考えてもミファリスを運んでいる間に、幻覚は解けてしまいます。
ならば、やる事は一つしかないです。置いて行くしかないです。
「ごめん。一人でも大丈夫だから待ってて」
「えっ、ちょっとウォルターさん⁉︎ 私を忘れていますよ! ウォルターさん!」
ウォルターはドラゴンの巣に向かって、全速力で泳ぎます。
もちろん、邪魔なお荷物は連れて行きません。
まずはグングンと斜めに上昇しながら進んで行きました。
「あれがドラゴンか……」
ドラゴンの巣には巨大な翼が生えた緑色のドラゴンが寝転んでいました。
頭から尻尾の根元までに背鰭や尾鰭があり、首から尻尾までの身体の太さは同じぐらいです。
太い蛇の身体に鋭い爪を持つワニの手足を付け足したような印象です。
(あれは突き刺しても一撃じゃ倒せないよ。ミファリスを連れて来て、骨を砕いてもらわないと……)
今から引き返すのは勇気がいりますが、ドラゴンの鱗が硬過ぎた場合は、剣で切る事も出来ません。
攻撃時間を削っても、やっぱりお姫様抱っこをしないといけないみたいです。
ウォルターは諦めて、ミファリスの所に戻って行きました。
♦︎
「ウォルターさん、ちょっと何やっているんですか! 私を置いて行ったら駄目じゃないですか!」
「ごめん。一人で倒せると思ったんだけど、やっぱりミファリスがいないと駄目みたい」
ウォルターが地上に降りると、早速ポカポカとミファリスが両手で、ウォルターの背中を叩いています。
痛くはないですが、怒っているのは伝わります。
「兄様一人だけで倒せるなら、重いミファリスさんを連れて行った方がいいなんて言いませんよ。私達はチームなんです。一人で出来ないから、皆んなでやるんです」
「ごめん。僕が間違っていたよ。ディアナ、ミファリス、僕にもう一度、力を貸して」
「もちろんそのつもりです」
「もぉー、許すのは今回だけですよ」
妹に叱られて、ウォルターは更に反省しました。
剛腕のロデリックが言っていたようにウォルターは弱いです。
自分の事を強いと勘違いしたら駄目です。
皆んな、長所と欠点があるから補わないといけません。
四人は円陣を組むと、再びドラゴン退治に挑む事にしました。
「ウォルター君、恐れは弱さじゃないよ。自分の弱さを認める事が出来る人間が」
「——父様、邪魔」
「あうっ!」
円陣の中に余計な一人が紛れ込んでいたので、ディアナが足を踏んで排除しました。
あれはただの保護者です。チームメンバーじゃないので、参加資格はありません。
「では、新しい作戦です。ドラゴンの翼の片方を切り落とせば、ドラゴンは飛べなくなります。倒すのが難しいようなら、兄様は翼を狙ってください。飛べなくなれば、長距離の移動は出来なくなります」
「翼を狙えばいいんだね。それならイケると思うよ」
薄い翼ならば、分厚い首や胴体を切るよりは簡単そうです。
ウォルターもここなら、切り落とす自信があるようです。
「はい。でも、それは倒すのが難しい時です。兄様もミファリスさんと一緒に徹底的に頭部破壊です。とにかく力一杯攻撃すれば、ダメージは確実に与える事が出来ます。それに万が一の時は二人が近くにいないと、ミファリスさんが地上に落ちてしまいます。兄様のサポートが必要です」
「そうそう。ウォルターさんは私のサポートをするのが仕事なんですよ」
「うん、出来るだけそうするよ」
もちろん、サポートするのは戦闘中だけです。実生活の方は一切サポートしたくないです。
三人は単純な作戦会議を終えると、それぞれの攻撃態勢を取りました。
ウォルターはもう地面に50キロを下ろしたそうな顔ですが、最低游泳速度でも三分間程度の我慢です。
「では、最後のチャンスです。頑張って倒しましょう」
「おおぅ! ウォルターさん、頑張って全速力で泳いでくださいね! 私、超軽いですから!」
「うぐっ……」
女性二人は元気ですが、ウォルターはもう一人の自分を両腕に抱えているような気分です。
出来れば王様に、馬で巣の近くまで運んでもらいたいですが、王様も馬も行きたくないようです。
「行くよ! しっかり掴まってて!」
「はい!」
ウォルターは両足に力を入れて、ジャンプすると、空中を足で力強く蹴り始めました。
最初から体力温存は考えていません。失敗したら、全員が怒ったドラゴンに追われる事になります。
グングンと泳ぐ速度を上げて、目標に近づいて行きます。
距離400メートル……200メートル……50メートル……あと少しです。
「ミファリス、すぐに攻撃して!」
「任せてください!」
二人は大人10人ぐらいが並んで寝れるような、大きなドラゴンの頭の上に着地しました。
二人は剣とハンマーを振り上げると、ほぼ同時に振り下ろします。
「ハァッ‼︎」「エイッ‼︎」
ウォルターの剣はドラゴンの右眼を突き破りました。
ミファリスのハンマーは左眼を破裂させました。
これで追われる心配はしなくて済みそうです。
「ギャアアアアッ‼︎ ギャアアアアッ‼︎」
けれども、ドラゴンの幻覚が解けてしまったようです。
ドラゴンは人間の叫び声を数百倍も濃縮したような、不安を駆り立てる叫び声を上げながら、頭の上のウォルターとミファリスを振り落とそうとしています。
「ミファリス、僕の手に掴まって、絶対に離さないで!」
「ウォルターさん! きゃあ‼︎ 助かりました……」
ウォルターは突き刺したままの剣を右手でしっかりと握ると、左手をミファリスに伸ばしました。
まだ、戦いは終わっていません。
走って来たミファリスの身体を左手で掴んで引き寄せると、しっかりと胸の中に抱き締めました。
「僕が支えている。絶対に離さない。だから、ミファリスは全力で何度でも振り下ろせ!」
「分かりました。ウォルターさんに私の命を預けます。ハァッーー、ヤァッ‼︎」
ウォルターにしっかりと身体を支えられた状態で、ミファリスは全力の破砕ハンマーを何度も振り下ろしました。
「ギャアアアアッ‼︎」
強烈な攻撃に堪え兼ねたドラゴンは、翼を広げて空に飛び上がりました。
バサバサと翼を羽ばたかせて、空高くに飛んで行きます。
「くぅっ……」「うぅっ……」
全身を襲う強風が二人をドラゴンから払い落とそうとしますが、二人は絶対に離れません。
「ミファリス、頼む。打ち落とせ……」
「そんなの、言われなくても分かっています! さっさとその汚い脳味噌、全部ブッ壊れろ‼︎」
「ギャアアアアッ‼︎」
ドガァン‼︎
ミファリスの両腕から振り下ろされた全身全霊の一撃が、上昇を続けていたドラゴンを力で押し止めました。
そして、上昇をやめたドラゴンが、今後は下降を始めました。
地上に向かって、落下速度をグングンと上げて行きます。
このままだと、二人もドラゴンと一緒に墜落してしまいます。
「ミファリス、ハンマーを捨てて、僕にしっかりと掴まっていて! ドラゴンから離れるから! ……よし、離れるからね! 一二の三!」
「ひゃあ!」
ウォルターはドラゴンの頭に突き刺さっている剣を引き抜くと、ミファリスを抱き締めた状態で、空中に飛び出しました。ドラゴンは地上に向かって落ちて行きます。
ウォルターはそれを立ち泳ぎでゆっくりと降下しながら、ミファリスと一緒に見続けました。
しばらくすると、ドォスンと巨大なドラゴンの小さな墜落音が聞こえてきました。
「ウォルターさん、私達、勝ったんですよね?」
「……うん、勝ったよ。僕達三人でドラゴンを倒したよ」
ミファリスの質問にウォルターは静かに答えました。
ドラゴンを倒しても、誰かに感謝される訳ではありません。完全な王様への接待です。
あとは王様に剣を貸して、死んだドラゴンの頭に突き刺してもらえば、接待終了です。
「さあ、帰ろうか」
「はい」
ウォルターはそう言うと、ミファリスを抱き抱えたまま、ディアナ達の元に泳いで行きました。
♦︎
第五章・完
「ディアナ! お父さんの所為じゃないよ!」
娘の辛辣な言葉に王様は傷ついていますが、体重を84キロ→73キロまで落とさせました。
苦労して、戦力アップ、脂肪をダウンさせました。戦わないなら、その苦労を返して欲しいです。
「それじゃあ、兄様。よく聞いてください。私の体力だと、巨大な身体のドラゴンには長い時間、幻覚を見せる事は出来ません。安全にドラゴンの身体によじ登って、数回攻撃したら、幻覚が解けてしまうと思ってください」
「つまりは数人掛かりで急所を攻撃して、一気に倒すのが一番いいんだね」
「はい。致命傷の攻撃も数回は気づかれないように出来ますけど、一度幻覚を解かれたら、もう私の出番は終わりです」
チラッ、チラッと二人の兄妹は根性無しの王様の方を揃って見ました。
あれの所為で危険な目に遭いそうです。
今からでも遅くないので、代わりに戦死して欲しいです。
「そんな目で見つめても、ワシは絶対に行かんよ。あんな大きなドラゴンを、ちょっと攻撃しただけで倒せるはずないのは分かっておる」
王様ならば、確かに無理です。ちょっと痩せただけですから、ドラゴンの背中まで登って、剣を数回突き刺しただけで幻覚タイム終わりです。
「そういう事なら僕がやるしかないのか。パパッと泳いで行って、首か、頭を切れば終わりなんだから」
「そうですね。兄様なら瞬殺です。でも、用心の為にミファリスさんを連れて行って、ドラゴンの頭蓋骨か、首の骨を粉砕させた方がより確実です」
「なるほど、やっと私の出番ですね。ウォルターさん! さあ、運んでください!」
機動力のあるウォルターが単独で倒しに行こうとしましたが、ディアナは攻撃力が高い二人による確実な瞬殺を希望しています。多分、そうしないと瞬殺できないという事です。
ミファリスも両手を広げて、準備万端ですが、一つだけ問題があります。50キロは重いので、機動力が激減してしまいます。ついでに攻撃力も……。
「いや、僕一人でいいと思うよ」
「さあ、さあ、遠慮せずにお姫様抱っこしていいですよ!」
「兄様、準備が出来たら言ってくださいね。また、幻覚をかけますから」
二人の女性にウォルターは急かされます。
どう考えてもミファリスを運んでいる間に、幻覚は解けてしまいます。
ならば、やる事は一つしかないです。置いて行くしかないです。
「ごめん。一人でも大丈夫だから待ってて」
「えっ、ちょっとウォルターさん⁉︎ 私を忘れていますよ! ウォルターさん!」
ウォルターはドラゴンの巣に向かって、全速力で泳ぎます。
もちろん、邪魔なお荷物は連れて行きません。
まずはグングンと斜めに上昇しながら進んで行きました。
「あれがドラゴンか……」
ドラゴンの巣には巨大な翼が生えた緑色のドラゴンが寝転んでいました。
頭から尻尾の根元までに背鰭や尾鰭があり、首から尻尾までの身体の太さは同じぐらいです。
太い蛇の身体に鋭い爪を持つワニの手足を付け足したような印象です。
(あれは突き刺しても一撃じゃ倒せないよ。ミファリスを連れて来て、骨を砕いてもらわないと……)
今から引き返すのは勇気がいりますが、ドラゴンの鱗が硬過ぎた場合は、剣で切る事も出来ません。
攻撃時間を削っても、やっぱりお姫様抱っこをしないといけないみたいです。
ウォルターは諦めて、ミファリスの所に戻って行きました。
♦︎
「ウォルターさん、ちょっと何やっているんですか! 私を置いて行ったら駄目じゃないですか!」
「ごめん。一人で倒せると思ったんだけど、やっぱりミファリスがいないと駄目みたい」
ウォルターが地上に降りると、早速ポカポカとミファリスが両手で、ウォルターの背中を叩いています。
痛くはないですが、怒っているのは伝わります。
「兄様一人だけで倒せるなら、重いミファリスさんを連れて行った方がいいなんて言いませんよ。私達はチームなんです。一人で出来ないから、皆んなでやるんです」
「ごめん。僕が間違っていたよ。ディアナ、ミファリス、僕にもう一度、力を貸して」
「もちろんそのつもりです」
「もぉー、許すのは今回だけですよ」
妹に叱られて、ウォルターは更に反省しました。
剛腕のロデリックが言っていたようにウォルターは弱いです。
自分の事を強いと勘違いしたら駄目です。
皆んな、長所と欠点があるから補わないといけません。
四人は円陣を組むと、再びドラゴン退治に挑む事にしました。
「ウォルター君、恐れは弱さじゃないよ。自分の弱さを認める事が出来る人間が」
「——父様、邪魔」
「あうっ!」
円陣の中に余計な一人が紛れ込んでいたので、ディアナが足を踏んで排除しました。
あれはただの保護者です。チームメンバーじゃないので、参加資格はありません。
「では、新しい作戦です。ドラゴンの翼の片方を切り落とせば、ドラゴンは飛べなくなります。倒すのが難しいようなら、兄様は翼を狙ってください。飛べなくなれば、長距離の移動は出来なくなります」
「翼を狙えばいいんだね。それならイケると思うよ」
薄い翼ならば、分厚い首や胴体を切るよりは簡単そうです。
ウォルターもここなら、切り落とす自信があるようです。
「はい。でも、それは倒すのが難しい時です。兄様もミファリスさんと一緒に徹底的に頭部破壊です。とにかく力一杯攻撃すれば、ダメージは確実に与える事が出来ます。それに万が一の時は二人が近くにいないと、ミファリスさんが地上に落ちてしまいます。兄様のサポートが必要です」
「そうそう。ウォルターさんは私のサポートをするのが仕事なんですよ」
「うん、出来るだけそうするよ」
もちろん、サポートするのは戦闘中だけです。実生活の方は一切サポートしたくないです。
三人は単純な作戦会議を終えると、それぞれの攻撃態勢を取りました。
ウォルターはもう地面に50キロを下ろしたそうな顔ですが、最低游泳速度でも三分間程度の我慢です。
「では、最後のチャンスです。頑張って倒しましょう」
「おおぅ! ウォルターさん、頑張って全速力で泳いでくださいね! 私、超軽いですから!」
「うぐっ……」
女性二人は元気ですが、ウォルターはもう一人の自分を両腕に抱えているような気分です。
出来れば王様に、馬で巣の近くまで運んでもらいたいですが、王様も馬も行きたくないようです。
「行くよ! しっかり掴まってて!」
「はい!」
ウォルターは両足に力を入れて、ジャンプすると、空中を足で力強く蹴り始めました。
最初から体力温存は考えていません。失敗したら、全員が怒ったドラゴンに追われる事になります。
グングンと泳ぐ速度を上げて、目標に近づいて行きます。
距離400メートル……200メートル……50メートル……あと少しです。
「ミファリス、すぐに攻撃して!」
「任せてください!」
二人は大人10人ぐらいが並んで寝れるような、大きなドラゴンの頭の上に着地しました。
二人は剣とハンマーを振り上げると、ほぼ同時に振り下ろします。
「ハァッ‼︎」「エイッ‼︎」
ウォルターの剣はドラゴンの右眼を突き破りました。
ミファリスのハンマーは左眼を破裂させました。
これで追われる心配はしなくて済みそうです。
「ギャアアアアッ‼︎ ギャアアアアッ‼︎」
けれども、ドラゴンの幻覚が解けてしまったようです。
ドラゴンは人間の叫び声を数百倍も濃縮したような、不安を駆り立てる叫び声を上げながら、頭の上のウォルターとミファリスを振り落とそうとしています。
「ミファリス、僕の手に掴まって、絶対に離さないで!」
「ウォルターさん! きゃあ‼︎ 助かりました……」
ウォルターは突き刺したままの剣を右手でしっかりと握ると、左手をミファリスに伸ばしました。
まだ、戦いは終わっていません。
走って来たミファリスの身体を左手で掴んで引き寄せると、しっかりと胸の中に抱き締めました。
「僕が支えている。絶対に離さない。だから、ミファリスは全力で何度でも振り下ろせ!」
「分かりました。ウォルターさんに私の命を預けます。ハァッーー、ヤァッ‼︎」
ウォルターにしっかりと身体を支えられた状態で、ミファリスは全力の破砕ハンマーを何度も振り下ろしました。
「ギャアアアアッ‼︎」
強烈な攻撃に堪え兼ねたドラゴンは、翼を広げて空に飛び上がりました。
バサバサと翼を羽ばたかせて、空高くに飛んで行きます。
「くぅっ……」「うぅっ……」
全身を襲う強風が二人をドラゴンから払い落とそうとしますが、二人は絶対に離れません。
「ミファリス、頼む。打ち落とせ……」
「そんなの、言われなくても分かっています! さっさとその汚い脳味噌、全部ブッ壊れろ‼︎」
「ギャアアアアッ‼︎」
ドガァン‼︎
ミファリスの両腕から振り下ろされた全身全霊の一撃が、上昇を続けていたドラゴンを力で押し止めました。
そして、上昇をやめたドラゴンが、今後は下降を始めました。
地上に向かって、落下速度をグングンと上げて行きます。
このままだと、二人もドラゴンと一緒に墜落してしまいます。
「ミファリス、ハンマーを捨てて、僕にしっかりと掴まっていて! ドラゴンから離れるから! ……よし、離れるからね! 一二の三!」
「ひゃあ!」
ウォルターはドラゴンの頭に突き刺さっている剣を引き抜くと、ミファリスを抱き締めた状態で、空中に飛び出しました。ドラゴンは地上に向かって落ちて行きます。
ウォルターはそれを立ち泳ぎでゆっくりと降下しながら、ミファリスと一緒に見続けました。
しばらくすると、ドォスンと巨大なドラゴンの小さな墜落音が聞こえてきました。
「ウォルターさん、私達、勝ったんですよね?」
「……うん、勝ったよ。僕達三人でドラゴンを倒したよ」
ミファリスの質問にウォルターは静かに答えました。
ドラゴンを倒しても、誰かに感謝される訳ではありません。完全な王様への接待です。
あとは王様に剣を貸して、死んだドラゴンの頭に突き刺してもらえば、接待終了です。
「さあ、帰ろうか」
「はい」
ウォルターはそう言うと、ミファリスを抱き抱えたまま、ディアナ達の元に泳いで行きました。
♦︎
第五章・完
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