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第五章

第5話『しっかり者の王様』

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「ウォルター君、出たよ! 凄いの出たよ! ほら、土偶が出たよ!」

 気絶した白狼三匹を倒して村に帰って来たウォルターとディアナは、泥だらけの王様が土人形を持って、はしゃいでいる姿を見せられました。
 地面には発掘された土偶達が並べられています。

「それは良かったですね。それで、王様。魔物を倒して来たんですが、問題があるんです……」
「問題じゃと? それは大きいのか、小さいのか?」

 ウォルターの深刻そうな表情を見て、王様もはしゃぐのをやめて、深刻な顔になりました。

「実は魔物は白狼という狼の魔物でして、北の草原にいたのが縄張り争いに負けて、散り散りに逃げていたようなんです。僕達が倒したのは氷山の一角みたいなものかもしれないです」
「つまりは各地に飛び火するという訳か……国として、急いで対策を取る必要があるの。うむ。ウォルター君、お疲れ様。あとはワシの方で何とかやってみるよ」
「そう言ってもらえると助かります。一人で探して倒すのは、正直言って難しいと思っていたので」

 じゃあ、あとはやっておいて、と頼まれると思っていたのに、意外と普通の王様でした。
 きっと国の各地に兵士を派遣して、魔物の被害が見つかれば、討伐隊を派遣するようです。

「では、問題解決じゃな。それで、ウォルター君。まだ、地面の下に土偶は埋まっているのかの?」
「えっーと……いえ、もうこれ以上は無いみたいです。ミファリス、もう掘らなくていいよ」

 王様はウォルターに聞きました。ミファリスはスコップを持って、まだ地面を掘削中です。
 ウォルターは探査を使って反応が無い事を確認すると、頑張って掘っているミファリスに作業中止を呼びかけました。

「はぁはぁ、疲れた……」
「お疲れ様。六体も壊れてない土偶を発掘するなんて凄いと思うよ」

 ウォルターは穴の底から梯子を使って上がって来たミファリスに、ねぎらいの言葉をかけました。

「そうなんですか? いくらぐらいするんでしょうか? 一体金貨十枚ぐらいですか?」
「それは……」

 ウォルターは少し考えています。分からない訳ではないです。
 地面ではないですが、以前、海底から土偶を見つけて売った事がありました。
 その時の値段は確か……。

「ちょっと分からないかな。気になるなら、王様に旅の記念に、買い取ってもらってみたらどうかな? 王様なら、お金も持っているだろうから」
「なるほど! 確かに相場よりも高く買ってくれそうです! 早速交渉してみます!」
「頑張ってね」

 ミファリスはスコップを地面に突き刺すと、王様の元に走って行きました。
 熱心に王様に土偶を売りつけていますが、結果は六体で銀貨六枚でした。それが相場の価格です。
 はしゃいでいましたが、王様は意外と目利きのようです。

「それじゃあ、そろそろ城に帰るとするかの。ワシらに出来る事は他にはない。帰り道を発掘しながら帰るとしよう」
「そうですね。父様は早くお風呂に入った方がいいですよ。汗臭いです」
「ふっふふふ。労働の汗じゃ。臭いが汚くはないぞ」

 ディアナの初仕事が終わり、土偶を発掘したので、王様は満足したようです。
 馬車の中に布で包んだ土偶を乗せて、帰り支度を始めました。
 確かに村に行くまでに埋まっている、貴重品を見つけるだけの予定です。
 このまま帰ってもいいです。一人を除いては……。

「ちょっと、ちょっと! 何、帰ろうとしているんですか! 銀貨六枚だよ! 土偶だよ! 悔しくないの? もっと凄い物を見つけたいと思わないの!」

 ミファリス一人が発掘続行を訴えています。
 本来ならば、既に戦闘要員兼荷物持ちとして雇っているので我儘は許されません。
 でも、今のところはどちらも必要ありません。村に置いて行く事に決めました。

「気持ちは分かるけど、王様もディアナも忙しいんだよ。発掘場所には僕が印をつけておくから、ミファリスは村を拠点に発掘を続けなよ。満足したら城に戻って来ていいから」
「あっ! また、そうやって私を置き去りにするつもりですね! もう、海岸のトンネル工事みたいな目には遭いませんからね!」

 海岸での13日間の一人トンネル工事の所為で、すっかり人間不信になっているようです。
 ウォルターの腕を掴んで引き止めました。

(うっ、うっ、嘘⁉︎ えっ、何で動かないの?)

 ウォルターはミファリスを引き摺ってでも、馬車に乗ろうとしますが、前に進めません。
 掴まれている腕と身体を前に向かって、グイ、グイと力を入れて振ってみましたが、それでも駄目です。
 土木女にスキル『運搬』を使われている所為です。
 
「ふぅ……じゃあ、村の人達と一緒に頑張りなよ。一人銀貨一枚で一日雇えるから、それでいいでしょう?」

 ウォルターは力尽くでは逃げられないと悟ると、村人達に犠牲になってもらう事にしました。
 羊達が狼に殺されてしまったし、発掘作業と発掘品でお金が稼げるなら、喜んで引き受けてくれるはずです。
 ミファリスにとっても、村人にとっても悪い話じゃありません。

「えっ~~、私はウォルターさんと一緒に居たいんです。ウォルターさんは私と一緒に居たくないんですか?」

 いつからそんな恋人みたいな関係になったのかと、ウォルターは考えていますが……間違いない。
 そんな関係には一度もなった事がないと結論を出しました。

「ちょっと、僕も用事があって忙しいんだよ。ごめんね」
「ちょっとちょっと⁉︎ 普通、可愛い女の子に、ここまで頼まれたら断らないよ! お義父様からもウォルターさんを説得してくださいよ!」

 ミファリスは馬車の御者席に座っている王様に助けを求めました。
 王様は二人のイチャイチャを鋭い眼光で見ていました。
 ディアナの方もジッーと見ています。

「ウォルター君……ワシは二股は許さんぞ。その娘とディアナ、どちらを選ぶのか聞かせてくれないか?」
「二股? 何を言っているのか分かりませんけど、僕は誰とも付き合っていませんよ」
「えっ? そうなの?」

 ウォルターの答えに、王様は慌てて馬車の中に座っているディアナに確認しました。

「付き合っていません。父様が勝手に勘違いしているだけです」
「えっ、付き合ってないの……でも、ウォルター君となら、お似合いだから付き合いなさい。国王命令だから拒否できないよ」
「嫌です。どうせ、ロムルス王国との政略結婚でしょう? 私と兄様を結婚させれば、母様と一緒に国の特使として、ロムルス王国と上手く外交させる事が出来ますからね。流石は父様です」
「そ、そんな事、一度も考えた事ないぞ! ウォルター君、娘の嘘を信じたら駄目だぞ!」

 取り乱した王様を見れば、信じる方は決まっています。
 倒すのが無理なら、外交で良い関係を結ぼうと考えたようです。
 良い人そうな小太り王様ですが、色々としっかりと考えているようです。
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