上 下
30 / 112
第四章

第5話『勇者育成計画』

しおりを挟む
「リランは私と弟のスキルを使って、自分を捨てた国に復讐するつもりなの。弟のスキル『勇気』を鍛えてね」
「えっ? 『勇気』がスキルなの? 確かに何事にも勇気は必要だけど……」

 助けて欲しい事情を聞き始めましたが、早速、どうでもいいスキルが出てきました。
 勇気があれば、何でも出来るという訳ではないですが、民衆に勇気を与えて、革命運動を起こさせるなら、話は別です。剣聖と賢者を残して、国民全員が国から出て行けば、もう国ではありません。

 けれども、とても現実的な復讐方法とは思えません。

「言いたい事は分かっている。弟だけなら無害なスキルだけど、母様のスキルと組み合わせたら、強力なスキルに覚醒してしまう。そうなったら、剣聖と賢者とも互角以上の勝負が出来るようになる」

 ディアナは弟のスキルが覚醒する前提で話しています。
 そして、覚醒したらどうなるのか分かっているようです。
 ウォルターの記憶を見たように、未来も見えているのかもしれません。

「母さんもスキル持ちだったんだ……聞いた事はないけど、どんなスキルなの?」
「母様のスキルは『育てる』。触る事で発動するから、お腹にいる時から、スキルはずっと発動させられている状態なの。普通は産まれて来る子供全員が、スキルを持って産まれる事は珍しい。母様のスキルのお陰なのは間違いないと思う」
「そうなんだ。僕のスキルは母さんのお陰なんだ……母さんが、いつも僕を守ってくれてたんだね。気づけなくて、ごめんね。母さん」

 ウォルターはそう思うと、離れている間もずっと近くで守っていてくれた、スキル『泳ぐ』に静かに感謝しました。

「……話を続けていい?」
「ああっ、ごめん。いいけど、母さんのスキルは『育てる』、何だよね? つまりは母さんのスキルを使って、コンラッドの『勇気』を育てているって事でいいんだよね?」

 ディアナが話を再開しようとしていましたが、ウォルターには話の続きが大体分かってしまいました。
 自分が予想した事を話すと、ディアナに聞いてみました。

「正解。リランの計画通り進めば、コンラッドが十二歳の時に『勇気』は『勇者』に覚醒する。そうなれば、剣と魔法を使える英雄が誕生する。そして、母様とコンラッドを連れて、横暴の限りを尽くす剣聖と賢者を倒させる。コンラッドはそのまま二人の王子がいなくなった、ロムルス王国の王様になるという流れだよ」

 気が遠くなるような復讐計画です。コンラッドが勇者に覚醒するまで約十五年。
 その後、満足に戦えるようになるまで約五年ぐらいだとすると、二十年をかけた復讐になります。
 しつこい奴だと思うべきか、そこまでしないと勝てないような相手なのか……多分、後者です。
 それだけ、剣聖と賢者は強力な相手なのでしょう。

「でも、そういう計画なら協力しなければいいんじゃない? スキルが覚醒しなければ、勇気のままなんだから。計画は破綻するよ」

 ウォルターはリランの計画の穴を見つけて言いました。
 でも、リランの計画に穴はなかったようです。

「それは難しいの。リランが屋敷に強い用心棒をたくさん集めている理由は、私達が逃げ出さないように監視する為だから。コンラッドが勇者に覚醒したら、母様を人質にして、言う事を聞かせる予定なの。それに父様も悪い王子二人に支配された王国を救うんだって、リランに協力しているの。父様は良い人だから……」
 
 つまりは城の外と中から常に監視されている状態です。
 リランと小太り王様の復讐と正義という異なる目的を達成するまでは、王妃も王女も王子も自由がないという事です。だから、ディアナは城から逃げ出すのに、ウォルターに協力して欲しいと頼んだようです。

「ごめん。ディアナの事情は分かったけど、僕にはどうする事も出来ないよ。王様を説得した方がいいと思うよ」

 あの人柄が良い王様ならば、可愛い娘の頼みならば断りません。
 でも、それも駄目なようです。だとしたら、もう打つ手はありません。

「それは無理。父様は説得できるけど、そうすると父様が殺されてしまう。だって、母様はロムルス王国の元王妃だから、父様が連れ去った事にされたら、結局は剣聖と賢者と戦う事になる。リランはそういう事を平気でする人間だから……」

 話を聞く限り小太り王様もほとんど人質のようなものです。
 つまりはどう足掻いても、リランの復讐劇に付き合わないといけないみたいです。
 ウォルターは悩んで悩んで悩みましたが、まったく名案が出て来ません。

「はぁ……王様も駄目なのか。リランを何とかするしかないとは思うけど、手下の一人にも勝てないし……」
「兄様、聞いて。私が兄様に協力して欲しい事は、リランとロデリックの二人を倒す事だよ。この二人がいなくなれば、問題は無くなるんだから」

 悩んでいるウォルターにディアナが助け船を出して来ました。
 ディアナが強力なスキルを持っているなら、倒すのに協力者は不要です。
 泥舟に乗せられて、一緒に倒されるのは嫌です。ウォルターは乗船を拒否しました。

「いやいや、それが出来れば苦労はしないけど、僕の力だと、門番一人も倒せないから無理だよ」
「大丈夫。私には兄様が勝てる姿が見えているから」
「いやいや、本当に無理だって! 海の中なら勝てるけど、陸の上だと絶対に無理だって!」

 ウォルターは必死に勝てないと否定します。実力差は戦ったので知っています。
 雇った凄腕冒険者達もロデリック一人に敗れました。ウォルターの実力では絶対に勝てません。
 それだけは自信を持って言えます。

「確かに今の兄様だと百回戦って、百回負ける。そんなのは分かっている。でも、私のスキルと母様のスキルを使えば、可能性が見えてくる。兄様は私と母様を信じて、協力してくれるだけでいいから」
「信じるか。本当に信じるだけで助けられるなら……やってみようかな」
「兄様なら、そう言ってくれると信じていた。多分、勝てるから信じて頑張って」

 多分という言葉は不吉ですが、絶対に勝てると言われるよりは信用できます。
 ウォルターは妹の言葉と母親を信じる事に決めました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

処理中です...