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第四章
第2話『人柄の良い王様』
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王城に入ったウォルターは、謁見の間ではなく、国王の私室に連れて行かれました。
国王とリランがそれだけ親しい関係なのか、元海賊と会うには秘密裏な方がいいのか分かりません。
けれども、国王と会おうと思えば、会える関係なのは間違いありません。
「——なるほどのぉ。確かに城の外の世界に目を向けさせた方がいいのぉ」
窓の外に広がる森を眺めながら、小太りの王様が、ツヤツヤした口髭を指で伸ばしながら、リランの話に納得しています。
「はい。王子も王女も城の中の世界だけではなく、城の外の世界を学ぶべきだと思います」
「なるほどのぉ。それで教育係を連れて来た訳か。そち? 名前は何というのかのぉ?」
振り返った黒髪の小太り王様が、リランと一緒に跪いているウォルターに聞きました。
「ウォルターと言います。海を専門としたトレジャーハンターをやっています」
「おおぅ! トレジャーハンターというと、冒険家か! ワシも若い頃はドラゴンと戦って、お宝を手に入れるという物語を夢見ていたものじゃ! じゃあが歳を取ると、この通りタプタプになってしもうた……もう無理じゃな」
王様は自分のプヨプヨ腹を触って、項垂れています。
ウォルターの母親を金で買った男ですが、人柄だけは良さそうです。
「王様、それでこの者はどうしますか? 不要というのならば、このまま連れて帰りますが……」
リランがタプタプのお腹を触っている王様に聞きました。このままでは話が進みません。
「んっ? おおぅ! そうじゃったな。んんんっ~~~? 子供達に決めさせよう! 気に入られれば城に残って、そのまま子供達に外の話を聞かせて欲しい」
小太り王様は少しだけ頭を使った後に、子供達に判断を任せました。
動かず、考えず、お菓子を食べるだけの生活に満足しているようです。子供のまま大人になったような人です。
その為、未だに国が、人間を奴隷として売り買いしている事に、疑問も持たずに続けています。
「かしこまりました。では、早速王妃様の部屋に向かうとします」
「うむ。ああっ~~、それとウォルター……」
「はい、何でしょうか?」
王様はリランと一緒に、部屋から出て行こうとするウォルターを呼び止めました。
一番肝心な事を伝え忘れているからです。
「ワシの王妃と娘に手を出したら殺すぞ」
「えっ、いえ、そのような事は……」
王様は目だけをキリッと男前にすると、美青年のウォルターに向かって言いました。
ウォルターは何と答えようかと困ってしまっています。
王妃の方には手を出してしまう可能性があるからです。
「……ぷっふふふふ。なんちゃって! 冗談じゃあ! 娘はまだ九歳じゃあ。そちが変な気を起こさなければ問題ない。そちが誠実な男だと、ワシは信じておるからなのぉ」
「はっはは……」
王様なりの冗談だったみたいですけど、笑っているのは王様だけです。
ぎこちない笑みを浮かべながら、ウォルターは部屋から出て行きました。
♦︎
「驚いたか? ここの王様は人柄だけは良い。奴隷を売り買いしているのに不思議だろう?」
「いえ、まあ……そうですね」
部屋を出た後、王妃の部屋へと続く廊下を歩きながら、リランが聞いてきました。
ウォルターの方は王様の人柄が良いので、母親が酷い目に遭っていないだろうと安心しているところでした。
その為、ぎこちない反応になってしまいました。
「別に不思議ではない。奴隷は元々、放っておいたら死ぬような人間を売り買いしていた。まあ、昔の話だ。今では連れ去った若い娘を売り買いする、違法な場所になってしまっているがな」
「王様はそれを知っているんですか?」
ウォルターの質問が余程おかしかったようです。リランは笑い出しました。
「クッフフフフ! 本気で聞いているのか? その奴隷を王妃として買った男だぞ。小僧、教えといてやる。良い人間が良い事だけすると思うな。思い込みで信用し過ぎると痛い目に遭うぞ」
どんな目に遭えば、そのような事が言えるようになるのか分かりませんが、ウォルターは自分が良い人間とは思っていません。母親を殺してしまった罪悪感を少しでも忘れる為に、人助けをしていました。
町では良い人間だと言われ、思われていましたが、本当の自分はそんな人間じゃない事を知っています。
海賊とはいえ、人殺しまでやってしまいました。
そんな汚れてしまった自分を、母親に見せるのは本当は怖いです。
「この先が王妃の部屋だ。第一王女ディアナは九歳。第一王子コンラッドは七歳だ。気に入られるように頑張るんだな」
「この先に母さんが……」
でも、恐怖よりも生きている母親を見たいという好奇心が勝っているのか、それとも、母親を殺してしまった罪悪感を消したいのか、ウォルターの足は止まりませんでした。
「一応警告してやる。この部屋にいるのは、お前の母さんじゃない。セレナ王妃様だ。馬鹿な真似をすれば、城から追い出されるだけじゃ済まないからな」
王妃の部屋の前でリランが注意します。
ウォルターが変な事を言って、王妃の記憶が戻ると非常に厄介な事になります。
「そんな事しませんよ」
「口では何とでも言える。では、入るぞ……」
そう言うと、リランはコンコンと王妃の部屋の扉を軽くノックしました。
中から直ぐに返事が返って来ました。
「はい。どうぞ、お入りください」
「失礼します……」
部屋の中から聞こえた、優しい女性の声にウォルターは聞き覚えがありました。忘れられるはずのない声です。
目頭が熱くなって、今にも涙が溢れ出しそうですが、ウォルターは我慢して部屋の中に入りました。
そこには幸せそうな顔の女性が、二人の子供達と遊んでいました。
国王とリランがそれだけ親しい関係なのか、元海賊と会うには秘密裏な方がいいのか分かりません。
けれども、国王と会おうと思えば、会える関係なのは間違いありません。
「——なるほどのぉ。確かに城の外の世界に目を向けさせた方がいいのぉ」
窓の外に広がる森を眺めながら、小太りの王様が、ツヤツヤした口髭を指で伸ばしながら、リランの話に納得しています。
「はい。王子も王女も城の中の世界だけではなく、城の外の世界を学ぶべきだと思います」
「なるほどのぉ。それで教育係を連れて来た訳か。そち? 名前は何というのかのぉ?」
振り返った黒髪の小太り王様が、リランと一緒に跪いているウォルターに聞きました。
「ウォルターと言います。海を専門としたトレジャーハンターをやっています」
「おおぅ! トレジャーハンターというと、冒険家か! ワシも若い頃はドラゴンと戦って、お宝を手に入れるという物語を夢見ていたものじゃ! じゃあが歳を取ると、この通りタプタプになってしもうた……もう無理じゃな」
王様は自分のプヨプヨ腹を触って、項垂れています。
ウォルターの母親を金で買った男ですが、人柄だけは良さそうです。
「王様、それでこの者はどうしますか? 不要というのならば、このまま連れて帰りますが……」
リランがタプタプのお腹を触っている王様に聞きました。このままでは話が進みません。
「んっ? おおぅ! そうじゃったな。んんんっ~~~? 子供達に決めさせよう! 気に入られれば城に残って、そのまま子供達に外の話を聞かせて欲しい」
小太り王様は少しだけ頭を使った後に、子供達に判断を任せました。
動かず、考えず、お菓子を食べるだけの生活に満足しているようです。子供のまま大人になったような人です。
その為、未だに国が、人間を奴隷として売り買いしている事に、疑問も持たずに続けています。
「かしこまりました。では、早速王妃様の部屋に向かうとします」
「うむ。ああっ~~、それとウォルター……」
「はい、何でしょうか?」
王様はリランと一緒に、部屋から出て行こうとするウォルターを呼び止めました。
一番肝心な事を伝え忘れているからです。
「ワシの王妃と娘に手を出したら殺すぞ」
「えっ、いえ、そのような事は……」
王様は目だけをキリッと男前にすると、美青年のウォルターに向かって言いました。
ウォルターは何と答えようかと困ってしまっています。
王妃の方には手を出してしまう可能性があるからです。
「……ぷっふふふふ。なんちゃって! 冗談じゃあ! 娘はまだ九歳じゃあ。そちが変な気を起こさなければ問題ない。そちが誠実な男だと、ワシは信じておるからなのぉ」
「はっはは……」
王様なりの冗談だったみたいですけど、笑っているのは王様だけです。
ぎこちない笑みを浮かべながら、ウォルターは部屋から出て行きました。
♦︎
「驚いたか? ここの王様は人柄だけは良い。奴隷を売り買いしているのに不思議だろう?」
「いえ、まあ……そうですね」
部屋を出た後、王妃の部屋へと続く廊下を歩きながら、リランが聞いてきました。
ウォルターの方は王様の人柄が良いので、母親が酷い目に遭っていないだろうと安心しているところでした。
その為、ぎこちない反応になってしまいました。
「別に不思議ではない。奴隷は元々、放っておいたら死ぬような人間を売り買いしていた。まあ、昔の話だ。今では連れ去った若い娘を売り買いする、違法な場所になってしまっているがな」
「王様はそれを知っているんですか?」
ウォルターの質問が余程おかしかったようです。リランは笑い出しました。
「クッフフフフ! 本気で聞いているのか? その奴隷を王妃として買った男だぞ。小僧、教えといてやる。良い人間が良い事だけすると思うな。思い込みで信用し過ぎると痛い目に遭うぞ」
どんな目に遭えば、そのような事が言えるようになるのか分かりませんが、ウォルターは自分が良い人間とは思っていません。母親を殺してしまった罪悪感を少しでも忘れる為に、人助けをしていました。
町では良い人間だと言われ、思われていましたが、本当の自分はそんな人間じゃない事を知っています。
海賊とはいえ、人殺しまでやってしまいました。
そんな汚れてしまった自分を、母親に見せるのは本当は怖いです。
「この先が王妃の部屋だ。第一王女ディアナは九歳。第一王子コンラッドは七歳だ。気に入られるように頑張るんだな」
「この先に母さんが……」
でも、恐怖よりも生きている母親を見たいという好奇心が勝っているのか、それとも、母親を殺してしまった罪悪感を消したいのか、ウォルターの足は止まりませんでした。
「一応警告してやる。この部屋にいるのは、お前の母さんじゃない。セレナ王妃様だ。馬鹿な真似をすれば、城から追い出されるだけじゃ済まないからな」
王妃の部屋の前でリランが注意します。
ウォルターが変な事を言って、王妃の記憶が戻ると非常に厄介な事になります。
「そんな事しませんよ」
「口では何とでも言える。では、入るぞ……」
そう言うと、リランはコンコンと王妃の部屋の扉を軽くノックしました。
中から直ぐに返事が返って来ました。
「はい。どうぞ、お入りください」
「失礼します……」
部屋の中から聞こえた、優しい女性の声にウォルターは聞き覚えがありました。忘れられるはずのない声です。
目頭が熱くなって、今にも涙が溢れ出しそうですが、ウォルターは我慢して部屋の中に入りました。
そこには幸せそうな顔の女性が、二人の子供達と遊んでいました。
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