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第三章

第3話『新天地の冒険者ギルド』

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「うぅっ、船酔いした……」

 ウォルターは希望通りに商船にスカンドス王国に到着しました。
 普段は泳いでばかりなので、船に揺られて、ちょっと体調を崩していますが、目的地には無事に到着しました。
 赤錆色の硬い岩盤に作られた港町に降りたウォルターは予定通りに、まずは冒険者ギルドに行く事にしました。

「すみません、冒険者ギルドはどこにありますか?」
「あっちにある」
「ありがとうございます」

 ネコ顔の女性の注意を守って、出来るだけ親切そうな人達に聞きながら、ウォルターは冒険者ギルドに向かって行きます。そして、黒い屋根瓦に白い壁の二階建ての建物に到着しました。

「やっぱり国が違うと建物も違うんだ」

 ウォルターは建物の開いて扉を通って中に入りました。
 内装は住んでいた町の冒険者ギルドと違って、酒場はないようです。
 完全に依頼だけを受け付けているみたいです。

「すみません、護衛を雇いたいんですけど……」

 ウォルターは五つあるカウンターの中で、二つある依頼人用の列に並んでいました。
 やっと順番が回って来ました。

 対面式のカウンターの椅子には、黒に近い焦げ茶髪の女性が座っています。
 こっちの冒険者ギルドは私服は駄目らしく、白と紺色の制服をしっかりと着ています。
 椅子に座っている若い女性の表情も硬いです。

「護衛依頼ですね。どうようなタイプの護衛を希望ですか? 年齢や性別、報酬額である程度は絞る事も出来ますけど」
「そうですね……」

 事務的な距離感を感じさせる声で、冷めた表情の女性は聞いています。

 ウォルターは少し考えていますが、強いだけでは駄目、人柄が良いだけでも駄目です。
 性別は男性の方がいいとは思いますが、年齢が高過ぎるのはちょっと嫌です。
 出来れば、少し年上でいかにも護衛という雰囲気を感じさせない、気さくなお兄さん風がいいです。

「——こんな感じの人はいますか?」

 ウォルターは遠慮しながらも、結構な要求をしてきました。
 要求通りの人物を探すなら、強くて人柄が良い、楽しくお喋り出来て、見た目も良い若い男です。
 そんな男がいるなら逆に紹介して欲しいと、冷めた表情の女性は思っています。

「ちなみに報酬はどの程度ご用意できますか?」
「えっーと……一日一人金貨五枚ぐらいでいいですか?」
「相場は一日一人銀貨一枚です。金貨五枚あれば、500日雇えます。失礼ですが、本当に護衛のご依頼に来たんですか?」
 
 明らかに冷めた表情の女性の呆れています。
 たまに子供が悪戯でやって来て、話すだけ話して帰って行きます。
 でも、次の瞬間にはその考えが間違っていた事に気づきました。

 ウォルターは持っていた袋に右腕を入れると、ジャラジャラと中身を鳴らして、金貨五枚をカウンターの上に並べました。

「なっ⁉︎」
「この通り、お金はあります。それと、この国にいる元海賊船の船長をやっていた人を探しているんですけど、知りませんか?」

 子供が持ち歩く金額ではないので、冷めた表情の女性は見開いて驚いています。
 よく見れば端正な顔立ちは、どこかの貴族のお坊ちゃんが、お忍びで旅行しているようにも見えます。
 失礼な態度を取れば、「あの町のあの女、ムカつくから左遷して」と本当に左遷されてしまいます。

「ちょっと、ちょっとだけお待ちください! 上の者を連れて来ますから」
「あっ、はい、分かりました」

 冷めた表情の女性は慌てて椅子から立ち上がると、上司のところに相談に行きました。
 ウォルターは言われた通りに待っていましたが、別のカウンターで揉めている人が目に入ってしまいました。

「だから、雇ってくださいよ!」
「申し訳ありませんが、冒険者登録する為の必要条件に達していないので、登録は出来ません。諦めてください」
「冒険者なら年齢、性別は関係ないんですよね! 私、スキルも持っているんですよ!」

 若い女性が冒険者登録して欲しいと、カウンターの女性に頼み込んでいます。
 肩下まで届く黒髪に細い身体、年齢は十六歳、身長は百五十センチ弱ぐらいです。
 とても冒険者に向いている体格ではないですが、スキルを持っているなら、カバー出来るかもしれません。
 でも、戦闘向きのスキルでもなさそうです。
 
「はぁ……スキル『混ぜる』で、しかも、元お菓子職人って……しかも、生クリームをかき混ぜる専門? 残念ながら、冒険者には向いていません。別のお仕事をお探しする事をオススメします。次の方どうぞ」
「ああっ~~、そこを何とかお願いします!」

 カウンターの女性は、元お菓子職人の女性の履歴書を見ながら半笑いで追い返すと、後ろに並んでいる体格の良い男冒険者を呼びました。当然といえば当然の対応です。
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