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第二章
第二章最終話『海賊船沈没』
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「お前! あの時のガキか⁉︎ まさか本当に陸まで辿り着きやがったのか⁉︎ へっへへへ、凄えじゃねぇか! あっはははは!」
顔色の悪い男は剣を振り上げているウォルターを見て笑っています。
死んだと思っていた子供が、母親の仇打ちにこんな所までやって来たのが、おかしくてたまりません。
「そんなにおかしいか? これからお前の腕を一本ずつ切り落としていく。それでも笑えるか試してやる」
「おいおい、待て待て待て‼︎ 良い事を教えてやるよ!」
顔色の悪い男は今にも振り下ろされそうな剣を、両手を振って慌てて止めました。
ウォルターが剣を振り下ろすのを止めたので、男はホッと一安心した後に、顔に再び笑みを浮かべて話し始めました。
「へっへへへ、確かにお前の美人の母ちゃんは俺が連れ去った。けど、殺してねぇ。奴隷として売り払っただけだ。まだ生きているし、嘘だと思うなら、スカンドス王国にいる元船長に聞けば居場所は分かる。なあ? 助けてくれよ?」
「……」
ウォルターは自分の中の煮えたぎる怒りに、身体が燃えているような錯覚に襲われました。
目の前の男は、自分が助かる為に死んだ母親を使いました。もう我慢できませんでした。
剣の柄を逆手で持つと、男の左足太腿に突き刺して、剣先を反対側まで貫通させました。
「ぎゃああああ‼︎ な、何しやがる‼︎ お前の母ちゃんは生きてんだよ! ああっ、があっあっぐっ……」
「嘘を吐くなら、もう少しマシな嘘を吐け! 母さんは海で死んだんだ! 僕がこの船から連れ出して、助けられなくて死んだんだ! もう死んだんだよ!」
ウォルターは男の太腿に突き刺した剣を乱暴に引っ掻き回して、男の肉を抉り取って、地獄の痛みを与え続けています。でも、顔色の悪い男は気絶しそうになりながらも、必死に嘘じゃないと訴え続けました。
「あがぁっ、ああっ! ああっ~~~、やめてくれ‼︎ 嘘じゃねぇ! 嘘じゃねぇよ! 海を漂流しているところを助けたんだ! ヤバかったけど、死んでねぇ! 生きてんだよ!」
「はぁはぁ! はぁはぁ! 嘘だ……母さんは死んだんだ。生きてない、死んだんだ……」
ウォルターは男の太腿を引っ掻き回す手を止めると、男の言葉を信じようとする自分を必死に否定します。
あの状況で母親が助かるはずはないと、必死に否定し続けます。
「ぅぐっ、嘘じゃねぇって……記憶を失ってたけど、船長が金になるって……連れて……そんで……本当に大金持って……来た……嘘じゃ……信じて……くれ……よ……」
顔色の悪い男は掠れるような小さな声で、最後まで嘘じゃないと否定し続けました。
そして、力尽きると水中に倒れ込んでしまいました。
「おい、しっかりしろ! 母さんは本当に生きているんだな? おい、答えろ!」
「……」
ウォルターは慌てて海中から助け起こしましたが、男は何も答えません。
両足首や太腿から流れる血が海中に溶けて、船底に空いた穴から外に流れて行きます。
気を失ったというよりも、もう手遅れです。顔色の悪い男は死んでいます。
「くっ! どういう事なんだ? 母さんが生きている? はっははは、母さんが生きている……ハッ! 今はそんな事よりも助けるのが先だ!」
ウォルターはこれ以上は何も聞き出せないと諦めると、男の身体から両手を離しました。
そして、僅かな希望に乾いた笑い声を上げていましたが、直ぐにこの船を探していた目的を思い出しました。
床下から床上に上がると、檻の隅で怯えている三人の娘達を見つけました。
「えっーと、カーペンタの町からの依頼で、三人の救助に来た冒険者です。怪我は無いですか?」
明らかに三人は床下から現れたウォルターを警戒していますが、ウォルターは出来るだけ丁寧で柔らかい感じに聞こえるように、三人に自分の素性と目的を話しました。
「本当ですか?」
「ええ、もう大丈夫です。町に戻れます」
「本当に、本当に帰れるんですね? 私達、帰れるんですね!」
「ええ、もう大丈夫です。皆んなで家に帰りましょう」
ウォルターの素性が分からずに怯えていた三人でしたが、町に帰れると聞いて、パァッと表情が明るくなりました。でも、脱出するには必要な物があります。
流石のウォルターも、二日間も三人の娘達を担いで泳いで、町に戻る事は出来ません。ウォルターは大丈夫でも、娘達の体力が持ちません。小船が必要です。
「ちょっと待っていてくださいね。小船を用意します。多分、船のどこかにあるはずです」
「あっ、小舟なら甲板に固定されていました」
「そうですか……」
娘の一人が親切に小舟の場所を教えてくれましたが、甲板に出るには見つかるリスクがあります。
ウォルターは少し考えた後に甲板に出る事をやめました。
逃げるには、三人には少しだけ冷たいのを我慢してもらう必要があるみたいです。
「これから船を沈没させます。皆さんには少しだけ我慢してもらわないといけません。申し訳ありません」
ウォルターは三人に謝ると、船底に潜って、船底を剣で大きく切って、穴を開けていきます。
「船が沈んでいるぞ!」
「急げ、急げ! 金と食糧を持てるだけ、船に積み込め!」
「沈没するぞ! 寝てんじゃねぇ! 起きろ、起きろ!」
甲板の上では、カンカンカンと鐘の音が鳴り響き、海賊達が大声で喚き散らしています。
一応は檻には鍵をかけて、三人には床下に隠れてもらっています。
それに船が沈没間近なのに、金よりも足手纏いの娘達を助けようとする善良な海賊もいません。
小舟にせっせと食糧と金を積み込んでいます。
(そろそろ、中の三人を外に避難させないと……)
ウォルターが船に戻ると、三人は浸水していく床下から逃げるように、床上に避難していました。
「脱出します。壁を切るので離れてください! ハァッ‼︎」
鞘から剣を抜くと、柄を両手で握って、船の壁を力一杯切り付けていきます。
ウォルターは出来るだけ薄い壁を素早く切り取ると、壁に体当たりして、海に向かって壁を押し倒しました。
「はぁはぁ、急いで乗ってください!」
『はい!』と三人の娘達は返事をすると、海面にプカプカと浮かんでいる壁に飛び乗って行きます。
全員が飛び乗ったのを確認すると、ウォルターは海に飛び込んで海中に潜りました。まだやる事があります。
「何で、船が沈むんだよ。クジラにでも当たったのか?」
「ああっ、くそ! 冷てぇー!」
海面には小舟に乗れなかった海賊達がプカプカと浮いていました。
そんな海賊達の胴体や両足をウォルターは剣で次々に切断して行きます。
「ぎゃあああっ~~~‼︎」
「助けてくれ! 海の中に何かいる! ぎゃあああっ~~~‼︎」
「一体何が起こってんだよ⁉︎ 俺達は海の怪物でも怒らせちまったのかよ! うわぁ‼︎」
海賊達の絶叫が暗い海に響きます。次々に大量の血を海面に撒き散らして、仲間の海賊達が死んでいくのに、二隻の小舟に乗っている10人程の海賊達は恐怖しています。でも、次の瞬間——小船が激しく揺れました。
小船に乗っていた海賊達の順番が回って来ました。海中からウォルターが小船に体当たりして転覆させようとしています。
(このまま見逃すと、またどこかで悪さをする。やっぱり全員殺さないと駄目なんだ)
ウォルターはそう答えを出すと、小船から海に落ちた海賊達を次々に殺していきます。
母親が生きているとしても、死んでいるとしても、この海賊達がいなければ、幸せな日々がずっーと続いていたはずだと……そう信じたいのです。
♦︎
「さあ、帰りましょうか……」
数十分後、食糧が積まれた小舟を引いて、ウォルターが三人の娘の所に戻って来ました。
もう、海の上にも海の底にも生きている海賊は一人も残っていません。
海賊達の臓物や血の匂いに周辺の危険な生物が集まって来ていました。
三人の娘が小船に乗り込むと、ウォルターは町の方角に向かって、小船を押して泳いで行きます。
今度は無事に助ける事が出来そうです。
♦︎
第二章・完
顔色の悪い男は剣を振り上げているウォルターを見て笑っています。
死んだと思っていた子供が、母親の仇打ちにこんな所までやって来たのが、おかしくてたまりません。
「そんなにおかしいか? これからお前の腕を一本ずつ切り落としていく。それでも笑えるか試してやる」
「おいおい、待て待て待て‼︎ 良い事を教えてやるよ!」
顔色の悪い男は今にも振り下ろされそうな剣を、両手を振って慌てて止めました。
ウォルターが剣を振り下ろすのを止めたので、男はホッと一安心した後に、顔に再び笑みを浮かべて話し始めました。
「へっへへへ、確かにお前の美人の母ちゃんは俺が連れ去った。けど、殺してねぇ。奴隷として売り払っただけだ。まだ生きているし、嘘だと思うなら、スカンドス王国にいる元船長に聞けば居場所は分かる。なあ? 助けてくれよ?」
「……」
ウォルターは自分の中の煮えたぎる怒りに、身体が燃えているような錯覚に襲われました。
目の前の男は、自分が助かる為に死んだ母親を使いました。もう我慢できませんでした。
剣の柄を逆手で持つと、男の左足太腿に突き刺して、剣先を反対側まで貫通させました。
「ぎゃああああ‼︎ な、何しやがる‼︎ お前の母ちゃんは生きてんだよ! ああっ、があっあっぐっ……」
「嘘を吐くなら、もう少しマシな嘘を吐け! 母さんは海で死んだんだ! 僕がこの船から連れ出して、助けられなくて死んだんだ! もう死んだんだよ!」
ウォルターは男の太腿に突き刺した剣を乱暴に引っ掻き回して、男の肉を抉り取って、地獄の痛みを与え続けています。でも、顔色の悪い男は気絶しそうになりながらも、必死に嘘じゃないと訴え続けました。
「あがぁっ、ああっ! ああっ~~~、やめてくれ‼︎ 嘘じゃねぇ! 嘘じゃねぇよ! 海を漂流しているところを助けたんだ! ヤバかったけど、死んでねぇ! 生きてんだよ!」
「はぁはぁ! はぁはぁ! 嘘だ……母さんは死んだんだ。生きてない、死んだんだ……」
ウォルターは男の太腿を引っ掻き回す手を止めると、男の言葉を信じようとする自分を必死に否定します。
あの状況で母親が助かるはずはないと、必死に否定し続けます。
「ぅぐっ、嘘じゃねぇって……記憶を失ってたけど、船長が金になるって……連れて……そんで……本当に大金持って……来た……嘘じゃ……信じて……くれ……よ……」
顔色の悪い男は掠れるような小さな声で、最後まで嘘じゃないと否定し続けました。
そして、力尽きると水中に倒れ込んでしまいました。
「おい、しっかりしろ! 母さんは本当に生きているんだな? おい、答えろ!」
「……」
ウォルターは慌てて海中から助け起こしましたが、男は何も答えません。
両足首や太腿から流れる血が海中に溶けて、船底に空いた穴から外に流れて行きます。
気を失ったというよりも、もう手遅れです。顔色の悪い男は死んでいます。
「くっ! どういう事なんだ? 母さんが生きている? はっははは、母さんが生きている……ハッ! 今はそんな事よりも助けるのが先だ!」
ウォルターはこれ以上は何も聞き出せないと諦めると、男の身体から両手を離しました。
そして、僅かな希望に乾いた笑い声を上げていましたが、直ぐにこの船を探していた目的を思い出しました。
床下から床上に上がると、檻の隅で怯えている三人の娘達を見つけました。
「えっーと、カーペンタの町からの依頼で、三人の救助に来た冒険者です。怪我は無いですか?」
明らかに三人は床下から現れたウォルターを警戒していますが、ウォルターは出来るだけ丁寧で柔らかい感じに聞こえるように、三人に自分の素性と目的を話しました。
「本当ですか?」
「ええ、もう大丈夫です。町に戻れます」
「本当に、本当に帰れるんですね? 私達、帰れるんですね!」
「ええ、もう大丈夫です。皆んなで家に帰りましょう」
ウォルターの素性が分からずに怯えていた三人でしたが、町に帰れると聞いて、パァッと表情が明るくなりました。でも、脱出するには必要な物があります。
流石のウォルターも、二日間も三人の娘達を担いで泳いで、町に戻る事は出来ません。ウォルターは大丈夫でも、娘達の体力が持ちません。小船が必要です。
「ちょっと待っていてくださいね。小船を用意します。多分、船のどこかにあるはずです」
「あっ、小舟なら甲板に固定されていました」
「そうですか……」
娘の一人が親切に小舟の場所を教えてくれましたが、甲板に出るには見つかるリスクがあります。
ウォルターは少し考えた後に甲板に出る事をやめました。
逃げるには、三人には少しだけ冷たいのを我慢してもらう必要があるみたいです。
「これから船を沈没させます。皆さんには少しだけ我慢してもらわないといけません。申し訳ありません」
ウォルターは三人に謝ると、船底に潜って、船底を剣で大きく切って、穴を開けていきます。
「船が沈んでいるぞ!」
「急げ、急げ! 金と食糧を持てるだけ、船に積み込め!」
「沈没するぞ! 寝てんじゃねぇ! 起きろ、起きろ!」
甲板の上では、カンカンカンと鐘の音が鳴り響き、海賊達が大声で喚き散らしています。
一応は檻には鍵をかけて、三人には床下に隠れてもらっています。
それに船が沈没間近なのに、金よりも足手纏いの娘達を助けようとする善良な海賊もいません。
小舟にせっせと食糧と金を積み込んでいます。
(そろそろ、中の三人を外に避難させないと……)
ウォルターが船に戻ると、三人は浸水していく床下から逃げるように、床上に避難していました。
「脱出します。壁を切るので離れてください! ハァッ‼︎」
鞘から剣を抜くと、柄を両手で握って、船の壁を力一杯切り付けていきます。
ウォルターは出来るだけ薄い壁を素早く切り取ると、壁に体当たりして、海に向かって壁を押し倒しました。
「はぁはぁ、急いで乗ってください!」
『はい!』と三人の娘達は返事をすると、海面にプカプカと浮かんでいる壁に飛び乗って行きます。
全員が飛び乗ったのを確認すると、ウォルターは海に飛び込んで海中に潜りました。まだやる事があります。
「何で、船が沈むんだよ。クジラにでも当たったのか?」
「ああっ、くそ! 冷てぇー!」
海面には小舟に乗れなかった海賊達がプカプカと浮いていました。
そんな海賊達の胴体や両足をウォルターは剣で次々に切断して行きます。
「ぎゃあああっ~~~‼︎」
「助けてくれ! 海の中に何かいる! ぎゃあああっ~~~‼︎」
「一体何が起こってんだよ⁉︎ 俺達は海の怪物でも怒らせちまったのかよ! うわぁ‼︎」
海賊達の絶叫が暗い海に響きます。次々に大量の血を海面に撒き散らして、仲間の海賊達が死んでいくのに、二隻の小舟に乗っている10人程の海賊達は恐怖しています。でも、次の瞬間——小船が激しく揺れました。
小船に乗っていた海賊達の順番が回って来ました。海中からウォルターが小船に体当たりして転覆させようとしています。
(このまま見逃すと、またどこかで悪さをする。やっぱり全員殺さないと駄目なんだ)
ウォルターはそう答えを出すと、小船から海に落ちた海賊達を次々に殺していきます。
母親が生きているとしても、死んでいるとしても、この海賊達がいなければ、幸せな日々がずっーと続いていたはずだと……そう信じたいのです。
♦︎
「さあ、帰りましょうか……」
数十分後、食糧が積まれた小舟を引いて、ウォルターが三人の娘の所に戻って来ました。
もう、海の上にも海の底にも生きている海賊は一人も残っていません。
海賊達の臓物や血の匂いに周辺の危険な生物が集まって来ていました。
三人の娘が小船に乗り込むと、ウォルターは町の方角に向かって、小船を押して泳いで行きます。
今度は無事に助ける事が出来そうです。
♦︎
第二章・完
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