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魔王誕生編

賢者VS不可能犯罪

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「なるほど、こういう事か。確かに外に出るのは不可能だな」

 町の出入り口に戻されたついでに、町の外に出られるか確かめてみた。
 アーチ型の町門を通ろうとしたら、見えない透明な壁にぶつかってしまった。
 その壁を全力で殴ってみたが、ビクともしなかった。
 他の場所も調べたが、普通の町壁も壊せなかった。
 やはり完全に閉じ込められている。つまり犯人はこの町の中にいるだ。

「まずは宿屋の場所を聞いて、犯人の手掛かりでも探してみるか」

 さあ、謎解きゲームの始まりだ。
 その辺を歩いてた、六十ぐらいの爺さんに聞いてみた。

「そこの爺さん。ちょっと聞きたいんだが、この町で殺人事件が起きたんだろ? どこの宿屋で起きたんだ?」
「フォフォフォ♪ この町は『フール』——嘘吐きの町じゃ。町の住民で真実を語るのは儂だけじゃ。何なりと教えてやろう」

 ハズレか当たりか、変な爺さんには当たったようだ。

「だったら犯人の居場所でも教えてもらおうかな」
「それは無理じゃな」
「フッ♪ だろうな」

 爺さんが知らないと即答した。最初から期待してない。
 だが、爺さんが立て続けに信じられない事を言ってきた。

「この町で殺人事件なんて起こっとらんぞ。居もしない犯人の居場所なんて教えられる訳がなかろうて」
「……なん、だと?」

 どういう事だ? 殺人事件が起こってないだと?
 それが本当だとしたら、この謎解きゲームをクリアするのは不可能だ。
 存在しない犯人を見つける事なんて誰にも出来ない……

(なんちゃって♪)

 遊びは終わりだ。『賢者』に解けない謎はない。
 この爺さんが正直爺さんなら、

『この町で殺人事件は起きてないよな?』

 と質問すればいい。

 正直爺さんなら『ああ、そうじゃな』と答える。
 嘘吐き爺さんなら『いいや、起きとるぞ』と答える。

 だが、それだと最初の答え『この町で殺人事件なんて起こっとらんぞ』と矛盾する。
 つまり爺さんが正直者か嘘吐きか、この謎解きゲームを攻略する最初の鍵はそこだ。
 住民参加のゲームが始まっていたのには驚いたが、賢者の前には簡単過ぎる問題だ。

「爺さん、もう一度聞くぜ。この町で殺人事件は起きてないよな?」
「はぁ~? 今言ったじゃろうが。お前馬鹿なのか? 頭イカれとんのか?」
「テメェ⁉︎」

 俺の質問に爺さんが呆れ顔で俺を見ながら、自分の頭を指差した。
 俺の怒りの沸点が低いのを知らないようだ。かなりイラッと来たが、ここは我慢してやる。
 変態妖精のお陰で我慢耐性がかなり出来ている。

「おい、爺さん。もう一回聞くぞ。今度はキチンと答えろよ。この町で、殺人事件は起きてないよな?」
「だから、今言ったじゃろうが‼︎ お前本物の馬鹿なの——」

 見逃すのは一度だ。二度目があると思うなよ、ジジイ。
 呆れ顔のジジイが頭を指差す前に、そのイカれた禿げ頭に右拳をブチ込んだ。

「オラッ‼︎」
「ほぎゃあ‼︎」

 ゴツンと鈍い音を立てて、禿げジジイが殴り飛ばされた。
 十メートル、二十メートル、まだまだ飛距離は伸びそうだ。
 だが、残念。建物の壁に禿げ頭が激突してめり込んだ。
 記録はたったの三十一メートルだ。

「謎は全て解けた。犯人はお前だ、クソジジイ‼︎」

 ジジイに向かって、右手の人差し指を真っ直ぐ向けた。
 嘘吐きは泥棒の始まり。つまり嘘吐きジジイが犯人だ。

【コンティニュー・残り1回】

 残り60秒・59秒・58秒……

⚫︎《再挑戦》
⚪︎《死ね》

「……フンッ!」

 我が答えに一片の悔い無し。
 ジジイを倒した右腕を天高く突き上げた。

「きゃははは♪ 信じられない大馬鹿ね。残り一回よ。次、失敗すれば死ぬんだから、もう死んでもいいんじゃない?」
「……馬鹿はお前だ」
「へぇ?」

 ここまでは俺の計画通りだ。股にバナナを挟んだ妖精がまた現れた。
 ジジイが犯人じゃないのは最初から分かっていた。
 お前は俺の掌の上で踊らされる哀れな妖精だ。
 時間がないから、五十秒以内に犯人を聞き出してやる。
 言っただろ、訊問してやるってな。

「こういう事だよ!」
「——⁉︎」

 突き上げていた右腕を妖精に向かって、素早く振り抜いた。
 これからお前がどうなるか教えてやる。
 捕まったお前は股をペロペロされて、口に俺のバナナを突っ込まれる。
 そして、最後に涎バナナを股穴に突っ込まれるんだ。

『やめてえ‼︎ そんな事されたら死んじゃう‼︎』

 ああ、その通りだ。股穴から口までバナナが貫通してお前は死ぬ。
 だから、お前が素直に犯人を教えるなら、股ペロだけで許してやる。

(ん? ん? あれ~?)

 おかしい。妖精を掴んでいるはずなのに、何の手応えも感じない。
 まるで空気だ。空気を掴んでいる。二回掴んでみたから間違いない。
 この妖精——『空気』だ。
 
「もしかして、私を捕まえようとしたの? 嘘、信じられない。あんた本物の大馬鹿だったのね」

 爺さん以上のムカツク呆れ顔だ。
 俺は『UMB=未確認馬鹿』じゃないぞ。

「その顔を今すぐやめろ。じゃないとブッ殺す」
「きゃっは♪ あんた超大馬鹿だから超ヒントを上げるわ。『○と○尋の神隠し』よ。豚の中に犯人はいないのよ」
「豚の中に犯人はいない? 豚以外の動物が犯人なのか?」
「全然違うわ。町の人間に犯人はいないって事よ。ついでに殺人も起きてないわ。もう時間がないから答えを教えてあげる。パンティは盗んでも大丈夫よ。あとは犯人を見つければクリアね」
「あっ!」

 目の前が明るくなった。また暗闇から町の出入り口に戻された。
 どうやら町に到着した時間まで、時間が戻る仕組みらしい。
 さっき殺したジジイが普通に動いている。突き刺さった壁も直っている。

「殺人事件は起きてない、犯人はいない、パンティは盗んでも大丈夫……? あの妖精、何が言いたい?」

 これがラストチャンスだ。ジジイは今更どうでもいい。
 この事件は『不可能犯罪』『悪魔の証明』だ。賢者の力を持ってしても超難問だ。
 そもそもそれ以前に、賢者になったのに賢くなった気がしない。

【ジョブ:賢者】=《高速思考》《超記憶力》《魔法開発》《魔法解析》……

「やっぱりだ。賢さはそのままだ」

 謎は全て解けた。『賢者』は学習能力は高いが、学習しないと賢くなれない能力だ。
 つまり俺の頭脳は三流大学『西日本文化大学』出のままだ。
 夜までに猛勉強して、犯人を見つけないと死ぬという事だ。
 一夜漬けもさせないとはこの謎解きゲーム、最初からクリアさせるつもりがないな。

「掌の上で踊らされていたのは俺の方だったか。小癪な真似を」

 悔しいが俺よりも格上の存在がいる。それは神だ。この事実を受け入れるしかない。
 ならば、やる事は一つだ。『○と○尋の神隠し』だ。

 確か、小学六年生の双子の姉妹が、通学中に白いミニバンで誘拐されて、廃神社に監禁される話だ。
 そこで赤い袴の巫女服を着させられて、色々とエッチな事をさせられる映画だ。
 女優に合法ロリを使わずに、高身長のデカパイ女を使った問題作だった。

 でも、おかしいぞ。
 俺の記憶が確かなら、豚も豚野郎も出ていなかった。
『股おみくじ』を交互に引いて、書かれた大人の玩具で相手をイかせるだけだ。

「いや、待てよ……そうだ、思い出した‼︎」

 あの映画のタイトルは『千夏と千冬の神隠し~○学生姉妹巫女のイケナイお賽銭箱~』だ。
 危ねえな、引っ掛け映画か。確か似たタイトルのジドリ映画があったな。
 温泉宿屋の話だから期待して見たのに、最後までエッチシーンがなくて、早送りで見た記憶がある。
 確かに豚とか豚野郎とか豚ババアが出ていた。

 だが、思い出しても状況は変わらない。
 むしろ最悪だ。超ヒントが完全に無意味になった。台詞も内容もほとんど覚えていない。
 残るヒントは『町に犯人はいない』『パンティは盗んでも大丈夫』『犯人を見つければクリア』だ。

 けれども、矛盾するヒントだ。犯人が町にいないなら、犯人を見つける事は出来ない。
 もしかするとパンティにヒントがあるんじゃないのか?

「確か……そうだ、あれを指差していた」

 妖精が教えた洗濯物の中から白い布を見つけた。
 樹木の間にロープを張っただけの物干しロープだ。
 洗濯物に手の届く距離まで近づくと、ジッとパンティを観察した。
 簡素な白い布パンティだが、赤い糸で兎が刺繍されている。

「なるほど。そういう事か」

 兎が犯人で町の外に逃げた後なら、ヒントに矛盾はない。
 そして、パンティは盗んでも大丈夫。これらが意味する答えは一つだ。
『雌兎パンティを餌に使って、町の外にいる下着泥棒常習犯の雄兎を夜までに釣り上げろ』だ。

 何故、夜までにという制限時間があったのかは、この洗濯物を住民が夜に取り込むからだ。
 つまり借りたパンティを夜までに物干しロープに戻せば、罪にならないという事だ。

「ふぅ~、恐ろしい難問だった。嬢ちゃん、借りてくぜ」

 謎は全て解けた。ここまで頭を酷使したのは久し振りだ。物干しロープから赤兎パンティを拝借した。
 これを町の出入り口に置けば、バナナ兎がやって来るという訳だ。
 あとは時間との勝負だな。

 ♦︎
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