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第2章

第49話⑦ピンチポイント②

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「うおおおおお!」

 巨大な敵に小細工は不用だ。ただ必要なのは勇気と死なない決意だ。
 
『ギギギィ……』

 来る。ウェポンキメラが超大剣を一本ずつ持つ両手を上げた。
 振り下ろされる刃を受け止めるのは不可能。拳で粉砕するのも不可能。
 迷う必要もないほどの回避一択だ。

「”ジャスト〟——」

 振り下ろされる瞬間に合わせて地面から跳び上がって、回復魔法を発動させた。

「ぐおおおお……‼︎」
 
 二つの刃が身体の左右を通り過ぎて、地面を爆斬させた。
 粉々に砕け散った岩盤が身体に容赦なく突き当たる。
 これだけで五回は死ねる自信がある。

「ぐうううう! ”ヒール〟‼︎」

 それでも歯を食い縛り耐え切ると、地面に着地した瞬間に回復魔法を再び発動させた。
 回復しながら前脚に向かって走り続ける。立ち止まる時間はない。

 だけど、敵も簡単に倒されるつもりはない。
 それは分かっている。分かっているつもりだった。

『ギギギィ……』
「くっ!」

 目の前でウェポンキメラの前脚が高く浮かび上がった。
 後脚だけで立ち上がると、すぐさま前脚が地面に向かって落ちてきた。

「ぐああっ……!」
「###‼︎」

 地面を激しく踏み付けただけなのに、その風圧で軽く吹き飛ばされた。
 リラが俺の名前を叫んでいる。
 情け無い姿を見せるつもりはなかったのに、これじゃ心配されて当然だ。
 素早く立ち上がると、何事もなかったように拳を構えた。

「簡単には近づかせてくれないか」

 巨大な相手を倒す方法ならいくつかある。足を壊すのもその一つだ。
 動きが速い相手なら、身体にしがみ付いて倒すという方法もある。

 でも、ウェポンキメラの身体は複数の武器が組み重なって出来ている。
 しがみ付いたら刃で指が切断されてしまう。この方法は使えない。
 使えるのは足を壊す方法しかない。その足が拳が届かない距離に上がるというのにだ。

「ははっ……本当に強敵だな!」

 それでも倒すしかない。再び前脚が浮かび上がった。
 そっちが踏み潰すつもりなら、こっちは殴り壊すだけだ。
 拳が当たるギリギリの距離で避けて、地面に前脚が着地した瞬間に拳を叩き込む。

 早すぎると前脚の隙間に腕が入り込んで切断される。遅すぎると風圧に吹き飛ばされる。
 求められるのはジャストヒールじゃなくて、ジャストアタック完璧な攻撃だ。

「リラ、俺を守ってくれ。”アンチポイズンヒール〟‼︎ うおおおおお‼︎」

 左拳は捨てた。右拳だけに全ての魔力を込めていく。
 右前脚と一緒に左前脚が落ちてきた。まずはリラを蹴り飛ばした左からだ。
 落下地点を見極め走って跳ぶと、急停止して反転した。
 そのまま目の前に落ちてくる左前脚に向かって、全力の一撃を振り抜いた。

「喰らえ‼︎」
『ギガア……!』

 右拳の直撃にウェポンキメラの左前脚が着地の瞬間に大きく滑った。
 倒れそうになる身体を左手に持つ超大剣を地面に突き刺して急いで止めている。

「行ける!」

 薄々気付いていたけど、リラよりも俺の方が強くなっている。
 レベル測定はしてないけど、少なくても30は超えているはずだ。
 コイツを倒して、守られるのは卒業だ。今度は俺がリラを守ってやる。

「うおおおおお‼︎」
『ギガア……‼︎』

 左前脚を追いかけて、追加の一撃を叩き込んだ。左前脚から砕けた黒い武器片が飛び散っていく。
 俺の拳が効いている。そのまま追いかけるように跳び上がって、追加の三撃目を直撃させた。

「うおおおおお‼︎」
『ガアアアッ……‼︎』

 ウェポンキメラの軋むような叫び声が聞こえた気がする。
 地面から3メートルほど浮いていた左前脚の先が殴られた瞬間にへし折れた。

「よし! 次は右だ!」

 着地と同時に走り出した。右もへし折る。
 後脚もへし折れば、立ち上がる事も出来なくなる。
 あとは持久戦で何とかなる。

 俺の攻撃を察知したのか、右前脚が地面を滑るように俺に向かってきた。
 今の気分なら正面から攻撃をぶつけ合っても勝てそうな気がする。
 だけど、馬鹿な事は考えない。それは間違いなく気の所為だ。
 かかとに向かって走ると、ギリギリで交わして、かかとを追いかけるように右拳を振り抜いた。

「喰らえ‼︎」
『ギガア……!』

 右拳がかかとに直撃すると、武器片を飛ばして、ウェポンキメラが俺に向かって倒れてきた。

「くっ、しまった‼︎」

 身体を支えきれずに後脚が膝を曲げて、地面に崩れ落ちた。
 このままだと超重量の巨体に潰されて終わりだ。
 逃げようにももう遅い。俺を潰そうと下ではなく、前に向かって倒れていく。
 
「まだ死ねないんだよ‼︎ うおおおおお‼︎」

 拳ではなく、全身に紫のアンチポイズンヒールを纏わせた。
 拳を守るリラの祝福だ。きっと耐え切れるはずだ。
 両拳を構えて、落ちてくる下半身の胸部に向けた。
 潰される前に貫く。貫いて体内に侵入する。助かりたいならこれしかない。

「うああああああ‼︎」
『ツガアァ……‼︎』

 両拳を上に向かって振り抜いた。胸部と両拳が激突する。
 拳が貫く衝撃、その後に続く全身を襲う斬撃の雨。
 瞬時に灼熱に身体が染まっていく。
 拳を突き上げた状態で無限に近い時間が流れていく。
 それでも意識はあった。

「”ヒール〟‼︎ まだだ‼︎」

 ただ馬鹿みたいに使い続けた呪文を唱えた。
 全身を緑色の光が包んで、少しずつ癒やしていく。
 負わされた傷は重傷だけど、致命傷ではない。
 ならばやる事は一つだ。

「フンッ‼︎」
『ガガガガアアッ……‼︎』

 左手で上にあった刃の一つを思い切り掴むと、身体を上に向かって押し上げ、右拳を振り抜いた。
 右拳が体内の武器を粉砕して、俺の身体を刃で切り裂きながら50センチほど上に移動させた。

「はぁはぁ! はぁはぁ! このまま脳天まで登頂してやる‼︎」

 これが今の俺が出来る最も危険だが、最も安全な倒し方だ。
 俺の心が折れるか、全身から血が抜けるのが先か……
 少なくとも心は絶対に折れたりしない。
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