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第1章
第2話②インサイティング・イベント
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広々とした空間で高い天井は岩で覆われ、硬い岩盤の地面には障害物一つない。
動きやすく戦いやすいが、隠れられる場所が見当たらない。
まさに逃げ場無し。天然の闘技場と言った雰囲気が身体に冷たく染み込んでくる。
「さーて、どいつが現れるか楽しみね」
部屋の中心に魔法陣が出現した。ダンジョンボスが現れる合図だ。
妹が剣を構えて出現を待ち侘びている。
現れるダンジョンボスはランダム、つまりは不規則だ。
未踏破ダンジョンならば何が現れるか戦々恐々だが、このダンジョンは何度も踏破されている。
現れるダンジョンボスは【キングオーク】【ヘビーリザード】【アルぺニアゴーレム】の三体だ。
情報料を払って入手した情報だから間違いない。
重力級で攻撃力高めの三体だが、三体とも動きはそこまで速くない。
攻撃役の攻撃力と防御力が高く、攻撃役がダメージを受けた際、回復役がしっかり回復すれば、二人だけでも倒せない相手ではない。
『リッチャアアアア!』
「はぁ? 何コイツ? 知らない奴、出てきたんですけど」
「す、すみません!」
ヤバイ。明らかに不機嫌そうな妹の敵意が前じゃなくて、後ろの俺に飛んできた。
ダンジョンの情報収集は俺の仕事だった。
でも、四体目がいるなんて、俺も聞いてない。
魔法陣から現れたのは黒の魔法使いのローブ、錆び付いた王冠、ダイヤの宝珠が嵌め込まれた杖。
身の丈は3メートル近くあり、唯一見える身体は顔だけで、その顔はミイラのように干涸びている。
未発見の【レアボス】で間違いない。この場合、発見者に命名権がある。
もちろん俺ではなく、妹が名付けるのは決定事項だ。
だけど、念の為に【オールドロード】と名付けておこう。
未発見ボスで命名権があるなんて、妹がどっちも知らない可能性がある。
「はぁぁ、役立たずが……まあいいわ。やる事変わんないし」
ため息を吐いて罵ると、妹の敵意が後ろから前に移動した。
自分でも調べてから文句言えよ……と言いたいが、確かにその通りだ。
やる事は最初から変わらない。オールドロード、コイツを倒さないと生きて帰れない。
杖を妹に向けると、ロードの動きに集中した。
事前情報無しの初見の相手だ。
まずは攻撃方法、移動速度、とにかく情報が欲しい。
『”####〟』
来た。ロードの杖に嵌め込まれている透明なダイヤが水色に光った。
すると、妹に向かって水色の光線が飛んでいった。
「くっ……!」
流石は期待を裏切らない脳筋妹だ。見事に避け切れずに命中した。
それなのに吹き飛ばされずに、その場に何事もなく突っ立っている。
つまり攻撃系の魔法じゃない。考えられるのは【状態異常】【弱体化】の二つだ。
「な、に、これ……? ね、む、い……」
「そっちか! ”アンチスリープ〟‼︎」
今にも倒れそうにふらつく妹を見て、状態異常【睡眠】を解除する魔法を唱えた。
すると、妹の身体が水色の光に包まれ、すぐに光が透明になって消えていった。
「うわあああ! あ、危ない! 眠るところだった!」
ふぅー、ギリギリセーフだ。倒れる前に起こす事に成功した。
寝落ち寸前みたいな動作で妹が踏み止まった。
『”####〟』
——って。安心している場合じゃなかった。
今度は紫色にダイヤが光ると、紫の光線が妹に直撃した。
まったく期待を裏切らない妹だよ。
「くっ……! な、に、これ……ものすごく気分が……」
「”アンチポイズン〟‼︎」
眠気じゃないなら、今度は状態異常【毒】だ。
妹の口を押さえて吐きそうな仕草を見て、素早く解毒の魔法を唱えた。
さっきと同じように紫色の光に包まれ、すぐに光が透明になって消えていった。
間違いない。コイツは……
「フィリア様! そいつ、【状態異常魔法】の使い手です! 気を付けてください!」
集めた情報を妹に安全圏から大声でお知らせした。
これで少しは避けてくれると思いたいが……
「いちいち言われなくても、そんなの分かってんのよ! あんた、分かってんなら、次からは異常感じる前に治しなさいよ! 分かったわね!」
そのつもりはないらしい。
状態異常を喰らう前提で突撃するから、あとよろしくと強めに脅してきた。
ジャストヒールと同じで、痛みを感じる前に回復しないと失敗だ。
使うタイミングが早すぎると痛い。遅すぎると痛いだ。
ちょうどのタイミングでダメージを相殺するように回復する高難度な技……
それがジャストヒールだ。
ちなみにジャストヒールという魔法は存在しない。
ただのヒールを妹の無茶な要求に応えて、神技レベルまで昇華された俺のオリジナルだ。
普通はダメージ受けた後に回復する。ダメージ受ける前に回復したら、ただの無意味な回復になってしまう。
動きやすく戦いやすいが、隠れられる場所が見当たらない。
まさに逃げ場無し。天然の闘技場と言った雰囲気が身体に冷たく染み込んでくる。
「さーて、どいつが現れるか楽しみね」
部屋の中心に魔法陣が出現した。ダンジョンボスが現れる合図だ。
妹が剣を構えて出現を待ち侘びている。
現れるダンジョンボスはランダム、つまりは不規則だ。
未踏破ダンジョンならば何が現れるか戦々恐々だが、このダンジョンは何度も踏破されている。
現れるダンジョンボスは【キングオーク】【ヘビーリザード】【アルぺニアゴーレム】の三体だ。
情報料を払って入手した情報だから間違いない。
重力級で攻撃力高めの三体だが、三体とも動きはそこまで速くない。
攻撃役の攻撃力と防御力が高く、攻撃役がダメージを受けた際、回復役がしっかり回復すれば、二人だけでも倒せない相手ではない。
『リッチャアアアア!』
「はぁ? 何コイツ? 知らない奴、出てきたんですけど」
「す、すみません!」
ヤバイ。明らかに不機嫌そうな妹の敵意が前じゃなくて、後ろの俺に飛んできた。
ダンジョンの情報収集は俺の仕事だった。
でも、四体目がいるなんて、俺も聞いてない。
魔法陣から現れたのは黒の魔法使いのローブ、錆び付いた王冠、ダイヤの宝珠が嵌め込まれた杖。
身の丈は3メートル近くあり、唯一見える身体は顔だけで、その顔はミイラのように干涸びている。
未発見の【レアボス】で間違いない。この場合、発見者に命名権がある。
もちろん俺ではなく、妹が名付けるのは決定事項だ。
だけど、念の為に【オールドロード】と名付けておこう。
未発見ボスで命名権があるなんて、妹がどっちも知らない可能性がある。
「はぁぁ、役立たずが……まあいいわ。やる事変わんないし」
ため息を吐いて罵ると、妹の敵意が後ろから前に移動した。
自分でも調べてから文句言えよ……と言いたいが、確かにその通りだ。
やる事は最初から変わらない。オールドロード、コイツを倒さないと生きて帰れない。
杖を妹に向けると、ロードの動きに集中した。
事前情報無しの初見の相手だ。
まずは攻撃方法、移動速度、とにかく情報が欲しい。
『”####〟』
来た。ロードの杖に嵌め込まれている透明なダイヤが水色に光った。
すると、妹に向かって水色の光線が飛んでいった。
「くっ……!」
流石は期待を裏切らない脳筋妹だ。見事に避け切れずに命中した。
それなのに吹き飛ばされずに、その場に何事もなく突っ立っている。
つまり攻撃系の魔法じゃない。考えられるのは【状態異常】【弱体化】の二つだ。
「な、に、これ……? ね、む、い……」
「そっちか! ”アンチスリープ〟‼︎」
今にも倒れそうにふらつく妹を見て、状態異常【睡眠】を解除する魔法を唱えた。
すると、妹の身体が水色の光に包まれ、すぐに光が透明になって消えていった。
「うわあああ! あ、危ない! 眠るところだった!」
ふぅー、ギリギリセーフだ。倒れる前に起こす事に成功した。
寝落ち寸前みたいな動作で妹が踏み止まった。
『”####〟』
——って。安心している場合じゃなかった。
今度は紫色にダイヤが光ると、紫の光線が妹に直撃した。
まったく期待を裏切らない妹だよ。
「くっ……! な、に、これ……ものすごく気分が……」
「”アンチポイズン〟‼︎」
眠気じゃないなら、今度は状態異常【毒】だ。
妹の口を押さえて吐きそうな仕草を見て、素早く解毒の魔法を唱えた。
さっきと同じように紫色の光に包まれ、すぐに光が透明になって消えていった。
間違いない。コイツは……
「フィリア様! そいつ、【状態異常魔法】の使い手です! 気を付けてください!」
集めた情報を妹に安全圏から大声でお知らせした。
これで少しは避けてくれると思いたいが……
「いちいち言われなくても、そんなの分かってんのよ! あんた、分かってんなら、次からは異常感じる前に治しなさいよ! 分かったわね!」
そのつもりはないらしい。
状態異常を喰らう前提で突撃するから、あとよろしくと強めに脅してきた。
ジャストヒールと同じで、痛みを感じる前に回復しないと失敗だ。
使うタイミングが早すぎると痛い。遅すぎると痛いだ。
ちょうどのタイミングでダメージを相殺するように回復する高難度な技……
それがジャストヒールだ。
ちなみにジャストヒールという魔法は存在しない。
ただのヒールを妹の無茶な要求に応えて、神技レベルまで昇華された俺のオリジナルだ。
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