【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?

文字の大きさ
上 下
154 / 175
第2部 最終章 絶対絶命のF級冒険者

第60話 ウィルと暗黒世界

しおりを挟む
(暗闇にする魔法? いや、幻覚かもしれない。とりあえず急いで対処しないとヤバいな)

 神眼の指輪でも暗闇しか見えない。自分のステータスさえも見えなかった。明かりを付けようと炎、雷、聖属性魔法全てを使ってみたものの、蝋燭の炎のように一瞬で消えてしまう。

「無駄だ。いかに神剣の力が強大でもここは我の世界だ。外の世界と遮断され、天候を操れぬ神剣など魔力を持たぬただの剣。瘴気に満ち、瘴気を支配する我の力の前に貴様は今日死ぬのだ」
(まだ勝利宣言には早過ぎる)

 それにしても僕は何の抵抗も出来ずに、フェンリルが作った神創空間に閉じ込められたのか。前に白神の神創空間に行った時は真っ白だったけど、自分の姿も白神の姿も他の人間の姿も見えていた。ここはその時の強化版、いや違うな。あの時、白神は僕が魔法を使えるように手を抜いていたんだ。だったらこれが本来の力だ。

(よし、見えないけど地面はある。自分の身体は触れる。でも魔法は直ぐに消えてしまうか)

 逃げられないのに飛び続ける意味はない。そう思って真っ暗闇の地面に向かって下りて行くと硬い何かに両足が触れた。見えないけど、おそらく地面だ。流石に地面の中から攻撃はして来ない。警戒するのは周囲三百六十度の上半分で済む。足の裏に伝わる地面の振動で、フェンリルの位置と攻撃の瞬間が分かれば上出来だろうな。

(これで攻撃は回避出来ると思う。残る問題は脱出方法だけだ)

 エミリアの忘却魔法で作られた記憶世界の壁は、強力な攻撃を当てると破壊出来た。これも強力な攻撃を当てることで壊すことは可能だと思う。でも、魔神斬り程度で壊せるとは思えないし、その前に物理攻撃は空を斬るだけで全然当たらない。魔法攻撃は発動する前に吸収されている感じがする。まだ当てることさえ出来ていない。

(もしかすると神龍のMP強奪能力⁉︎ だとしたら魔法攻撃は全てフェンリルに吸収されていることになる。吸収される以上の魔法攻撃じゃないと当てられないんだ)

 フェンリルのMP量は七十八万。僕のMP量は貯蓄MPも合わせて四十四万だ。収納袋にMP蓄積装置が五個ぐらいはあるけど、それも合わせて五十四万。神狼フェンリルといえども、最大MPの半分以上のMP量は吸収出来ない。これだけのMPを一撃の魔法に使えば、この神創世界を破壊出来る可能性はある。でも、一時凌いちじしのぎにしかならない。脱出しても、また神創世界に閉じ込められるだけだ。

(来た!)

 僅かな地面の振動、空気の揺らぎ、血生臭い獣臭。右方向から何かがやって来るのが分かった瞬間、神剣天動に攻撃力が三倍になる剣技【魔神斬り】を発動させて、一気に右方向に水平に振り抜いた。

「ハァッ‼︎」

 刀身が何もない空を斬った。完全に空振りした。

「どこを狙っている。後ろだ」
「ヤァッ‼︎」

 背後からフェンリルの声がしたので、素早く反転して魔神斬りで斬った。また空振りだ。

「クックククク、こっちだ」
(駄目だ。完全に遊ばれている)

 フェンリルの声が聞こえてから反応しても遅過ぎる。闇の中に溶け込む特殊能力ならば影鬼と一緒だけど、それだけじゃないようだ。身体が冷たい。この中の気温が氷魔法で急激に下がっているとしか思えない。早くここから脱出しないと動けなくなってやられてしまう。

「死ぬのが怖いか?」

 暗闇の中からフェンリルの声が聞こえてきた。身体の震えが止まらない。恐怖なのか、寒さなのか、それとも両方なのか。僕はまだ死にたくない。

「そんなの当たり前だろう。ここから出してくれ! 僕の目的は終わったから自分の世界に帰る。それでいいだろう!」
「駄目だ。貴様の死は確定した。もう逃げられぬ運命だ。さあ、死ぬ最後の瞬間まで足掻いて我を楽しませよ」

 話し合いでの解決はやっぱり無理だ。フェンリルは僕を殺したくてウズウズしているようだ。こんなことになるのなら、地獄世界の冒険なんてしなければよかった。でも、これが本当の冒険なんだろうな。安全な弱い魔物ばかり倒してレベルアップ、そんなのは冒険じゃない。冒険ごっこだ。

(まだやりたいことが沢山ある。まだエミリアのおっぱいしか揉んでいないのに死ねない。まだ死にたくないんだよ、僕は!)

「【解き放たれよ聖なる力の奔流。が言葉によって真なる力を呼び覚ませ】」
「クックククク、われが作ったこの世界を壊すつもりか? 待ってやる。壊してみろ」

 やっぱり遊ばれている。この感覚は白神と戦った時と同じだ。前回と違うのは、今回は失敗した瞬間になぶり殺されることが決定される。全てのMPと行使力を合わせた最大の一撃で、この暗闇世界を破壊する。それが出来なければウィル・パーソンという愚かで弱い冒険者の人生は終わるのだ。

「【火よ燃えよ、水よ流れろ、風よ吹け、地よ叫べ。四つの力よ四方に別れ、聖なる十字を天と地に刻め】」

 聖属性の魔法に更に四つの魔法属性を加えて最大限まで高めると、天動と地動の二振りの神剣を黒く染まった大地に突き刺した。僕の持っている魔力とMPを二振りの神剣に全て注ぎ込んだ最大の一撃だ。

「ブチ壊れろ! 【グランドクロス破滅の大十字】」

 魔法が発動した瞬間、二振り神剣が僕のMPを根こそぎ吸い尽くし、黒く染まった大地に巨大な光の十字が現れた。ドドドと光の大地は激しく揺れ動き、火山の噴火のように周囲と上空に向かってドカーンと大爆発を起こした。暗黒世界は光の十字柱によってバラバラに破壊されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 





 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...