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第2部 最終章 絶対絶命のF級冒険者
第60話 ウィルと暗黒世界
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(暗闇にする魔法? いや、幻覚かもしれない。とりあえず急いで対処しないとヤバいな)
神眼の指輪でも暗闇しか見えない。自分のステータスさえも見えなかった。明かりを付けようと炎、雷、聖属性魔法全てを使ってみたものの、蝋燭の炎のように一瞬で消えてしまう。
「無駄だ。いかに神剣の力が強大でもここは我の世界だ。外の世界と遮断され、天候を操れぬ神剣など魔力を持たぬただの剣。瘴気に満ち、瘴気を支配する我の力の前に貴様は今日死ぬのだ」
(まだ勝利宣言には早過ぎる)
それにしても僕は何の抵抗も出来ずに、フェンリルが作った神創空間に閉じ込められたのか。前に白神の神創空間に行った時は真っ白だったけど、自分の姿も白神の姿も他の人間の姿も見えていた。ここはその時の強化版、いや違うな。あの時、白神は僕が魔法を使えるように手を抜いていたんだ。だったらこれが本来の力だ。
(よし、見えないけど地面はある。自分の身体は触れる。でも魔法は直ぐに消えてしまうか)
逃げられないのに飛び続ける意味はない。そう思って真っ暗闇の地面に向かって下りて行くと硬い何かに両足が触れた。見えないけど、おそらく地面だ。流石に地面の中から攻撃はして来ない。警戒するのは周囲三百六十度の上半分で済む。足の裏に伝わる地面の振動で、フェンリルの位置と攻撃の瞬間が分かれば上出来だろうな。
(これで攻撃は回避出来ると思う。残る問題は脱出方法だけだ)
エミリアの忘却魔法で作られた記憶世界の壁は、強力な攻撃を当てると破壊出来た。これも強力な攻撃を当てることで壊すことは可能だと思う。でも、魔神斬り程度で壊せるとは思えないし、その前に物理攻撃は空を斬るだけで全然当たらない。魔法攻撃は発動する前に吸収されている感じがする。まだ当てることさえ出来ていない。
(もしかすると神龍のMP強奪能力⁉︎ だとしたら魔法攻撃は全てフェンリルに吸収されていることになる。吸収される以上の魔法攻撃じゃないと当てられないんだ)
フェンリルのMP量は七十八万。僕のMP量は貯蓄MPも合わせて四十四万だ。収納袋にMP蓄積装置が五個ぐらいはあるけど、それも合わせて五十四万。神狼フェンリルといえども、最大MPの半分以上のMP量は吸収出来ない。これだけのMPを一撃の魔法に使えば、この神創世界を破壊出来る可能性はある。でも、一時凌ぎにしかならない。脱出しても、また神創世界に閉じ込められるだけだ。
(来た!)
僅かな地面の振動、空気の揺らぎ、血生臭い獣臭。右方向から何かがやって来るのが分かった瞬間、神剣天動に攻撃力が三倍になる剣技【魔神斬り】を発動させて、一気に右方向に水平に振り抜いた。
「ハァッ‼︎」
刀身が何もない空を斬った。完全に空振りした。
「どこを狙っている。後ろだ」
「ヤァッ‼︎」
背後からフェンリルの声がしたので、素早く反転して魔神斬りで斬った。また空振りだ。
「クックククク、こっちだ」
(駄目だ。完全に遊ばれている)
フェンリルの声が聞こえてから反応しても遅過ぎる。闇の中に溶け込む特殊能力ならば影鬼と一緒だけど、それだけじゃないようだ。身体が冷たい。この中の気温が氷魔法で急激に下がっているとしか思えない。早くここから脱出しないと動けなくなってやられてしまう。
「死ぬのが怖いか?」
暗闇の中からフェンリルの声が聞こえてきた。身体の震えが止まらない。恐怖なのか、寒さなのか、それとも両方なのか。僕はまだ死にたくない。
「そんなの当たり前だろう。ここから出してくれ! 僕の目的は終わったから自分の世界に帰る。それでいいだろう!」
「駄目だ。貴様の死は確定した。もう逃げられぬ運命だ。さあ、死ぬ最後の瞬間まで足掻いて我を楽しませよ」
話し合いでの解決はやっぱり無理だ。フェンリルは僕を殺したくてウズウズしているようだ。こんなことになるのなら、地獄世界の冒険なんてしなければよかった。でも、これが本当の冒険なんだろうな。安全な弱い魔物ばかり倒してレベルアップ、そんなのは冒険じゃない。冒険ごっこだ。
(まだやりたいことが沢山ある。まだエミリアのおっぱいしか揉んでいないのに死ねない。まだ死にたくないんだよ、僕は!)
「【解き放たれよ聖なる力の奔流。我が言葉によって真なる力を呼び覚ませ】」
「クックククク、我が作ったこの世界を壊すつもりか? 待ってやる。壊してみろ」
やっぱり遊ばれている。この感覚は白神と戦った時と同じだ。前回と違うのは、今回は失敗した瞬間になぶり殺されることが決定される。全てのMPと行使力を合わせた最大の一撃で、この暗闇世界を破壊する。それが出来なければウィル・パーソンという愚かで弱い冒険者の人生は終わるのだ。
「【火よ燃えよ、水よ流れろ、風よ吹け、地よ叫べ。四つの力よ四方に別れ、聖なる十字を天と地に刻め】」
聖属性の魔法に更に四つの魔法属性を加えて最大限まで高めると、天動と地動の二振りの神剣を黒く染まった大地に突き刺した。僕の持っている魔力とMPを二振りの神剣に全て注ぎ込んだ最大の一撃だ。
「ブチ壊れろ! 【グランドクロス】」
魔法が発動した瞬間、二振り神剣が僕のMPを根こそぎ吸い尽くし、黒く染まった大地に巨大な光の十字が現れた。ドドドと光の大地は激しく揺れ動き、火山の噴火のように周囲と上空に向かってドカーンと大爆発を起こした。暗黒世界は光の十字柱によってバラバラに破壊されてしまった。
神眼の指輪でも暗闇しか見えない。自分のステータスさえも見えなかった。明かりを付けようと炎、雷、聖属性魔法全てを使ってみたものの、蝋燭の炎のように一瞬で消えてしまう。
「無駄だ。いかに神剣の力が強大でもここは我の世界だ。外の世界と遮断され、天候を操れぬ神剣など魔力を持たぬただの剣。瘴気に満ち、瘴気を支配する我の力の前に貴様は今日死ぬのだ」
(まだ勝利宣言には早過ぎる)
それにしても僕は何の抵抗も出来ずに、フェンリルが作った神創空間に閉じ込められたのか。前に白神の神創空間に行った時は真っ白だったけど、自分の姿も白神の姿も他の人間の姿も見えていた。ここはその時の強化版、いや違うな。あの時、白神は僕が魔法を使えるように手を抜いていたんだ。だったらこれが本来の力だ。
(よし、見えないけど地面はある。自分の身体は触れる。でも魔法は直ぐに消えてしまうか)
逃げられないのに飛び続ける意味はない。そう思って真っ暗闇の地面に向かって下りて行くと硬い何かに両足が触れた。見えないけど、おそらく地面だ。流石に地面の中から攻撃はして来ない。警戒するのは周囲三百六十度の上半分で済む。足の裏に伝わる地面の振動で、フェンリルの位置と攻撃の瞬間が分かれば上出来だろうな。
(これで攻撃は回避出来ると思う。残る問題は脱出方法だけだ)
エミリアの忘却魔法で作られた記憶世界の壁は、強力な攻撃を当てると破壊出来た。これも強力な攻撃を当てることで壊すことは可能だと思う。でも、魔神斬り程度で壊せるとは思えないし、その前に物理攻撃は空を斬るだけで全然当たらない。魔法攻撃は発動する前に吸収されている感じがする。まだ当てることさえ出来ていない。
(もしかすると神龍のMP強奪能力⁉︎ だとしたら魔法攻撃は全てフェンリルに吸収されていることになる。吸収される以上の魔法攻撃じゃないと当てられないんだ)
フェンリルのMP量は七十八万。僕のMP量は貯蓄MPも合わせて四十四万だ。収納袋にMP蓄積装置が五個ぐらいはあるけど、それも合わせて五十四万。神狼フェンリルといえども、最大MPの半分以上のMP量は吸収出来ない。これだけのMPを一撃の魔法に使えば、この神創世界を破壊出来る可能性はある。でも、一時凌ぎにしかならない。脱出しても、また神創世界に閉じ込められるだけだ。
(来た!)
僅かな地面の振動、空気の揺らぎ、血生臭い獣臭。右方向から何かがやって来るのが分かった瞬間、神剣天動に攻撃力が三倍になる剣技【魔神斬り】を発動させて、一気に右方向に水平に振り抜いた。
「ハァッ‼︎」
刀身が何もない空を斬った。完全に空振りした。
「どこを狙っている。後ろだ」
「ヤァッ‼︎」
背後からフェンリルの声がしたので、素早く反転して魔神斬りで斬った。また空振りだ。
「クックククク、こっちだ」
(駄目だ。完全に遊ばれている)
フェンリルの声が聞こえてから反応しても遅過ぎる。闇の中に溶け込む特殊能力ならば影鬼と一緒だけど、それだけじゃないようだ。身体が冷たい。この中の気温が氷魔法で急激に下がっているとしか思えない。早くここから脱出しないと動けなくなってやられてしまう。
「死ぬのが怖いか?」
暗闇の中からフェンリルの声が聞こえてきた。身体の震えが止まらない。恐怖なのか、寒さなのか、それとも両方なのか。僕はまだ死にたくない。
「そんなの当たり前だろう。ここから出してくれ! 僕の目的は終わったから自分の世界に帰る。それでいいだろう!」
「駄目だ。貴様の死は確定した。もう逃げられぬ運命だ。さあ、死ぬ最後の瞬間まで足掻いて我を楽しませよ」
話し合いでの解決はやっぱり無理だ。フェンリルは僕を殺したくてウズウズしているようだ。こんなことになるのなら、地獄世界の冒険なんてしなければよかった。でも、これが本当の冒険なんだろうな。安全な弱い魔物ばかり倒してレベルアップ、そんなのは冒険じゃない。冒険ごっこだ。
(まだやりたいことが沢山ある。まだエミリアのおっぱいしか揉んでいないのに死ねない。まだ死にたくないんだよ、僕は!)
「【解き放たれよ聖なる力の奔流。我が言葉によって真なる力を呼び覚ませ】」
「クックククク、我が作ったこの世界を壊すつもりか? 待ってやる。壊してみろ」
やっぱり遊ばれている。この感覚は白神と戦った時と同じだ。前回と違うのは、今回は失敗した瞬間になぶり殺されることが決定される。全てのMPと行使力を合わせた最大の一撃で、この暗闇世界を破壊する。それが出来なければウィル・パーソンという愚かで弱い冒険者の人生は終わるのだ。
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聖属性の魔法に更に四つの魔法属性を加えて最大限まで高めると、天動と地動の二振りの神剣を黒く染まった大地に突き刺した。僕の持っている魔力とMPを二振りの神剣に全て注ぎ込んだ最大の一撃だ。
「ブチ壊れろ! 【グランドクロス】」
魔法が発動した瞬間、二振り神剣が僕のMPを根こそぎ吸い尽くし、黒く染まった大地に巨大な光の十字が現れた。ドドドと光の大地は激しく揺れ動き、火山の噴火のように周囲と上空に向かってドカーンと大爆発を起こした。暗黒世界は光の十字柱によってバラバラに破壊されてしまった。
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