【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?

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第2部 最終章 絶対絶命のF級冒険者

第59話 ウィルと世界停電

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 前に神龍から聞いた情報が正しいのなら、瘴気を長年吸収した神の遣いは弱くなるらしい。新世界の神の遣いガブリエルが神並の力を持っていたのは瘴気を全然吸収していなかったからだ。

 つまり、この地獄世界の神の遣いは三世界の中で一番弱い神の遣いだ。レベルを出来る限り上げて、神剣二振りを使いこなせば倒せない相手じゃない。レベル700程度の侯爵が倒せたんだ。僕も倒せる。人間が絶対に倒せない相手じゃない。

「問題は瘴気を消す方法だけど、それは後回しにするしかない。まずは出来ることから始めよう」

 身体を浮かせると目指すは海の跡地だ。魚系の魔物がウジャウジャと生息している。見慣れた蟹やアンモナイトから、タコやイカ、大亀、手足を持つ歩く魚、空飛ぶ鯨までいる。レベルは大体500~600の間なので今の僕なら多少手こずる程度の魔物達だ。

(普通に稲妻を落とすよりは、濡らした方がいいだろう)

 神剣二振りを抜いて左右の手に握る。右手に持つ神剣天動の剣先を空に向けると雨雲を呼び寄せる。この世界に久し振りの雨が降る。

 灰色の雲からポタポタと乾いた大地に静かに雨が降り始めた。最初は優しく降っていた雨も、次第に強風を纏って強く激しく降っていく。魔物達も大地もびしょ濡れになっている。そろそろ頃合いだ。神剣天動の剣先を空に向けたままでグルグルと雨雲をかき混ぜて魔力を一点に集めた。

(【天雷てんらい】)

「ゴロゴロゴロ…ゴォシャン‼︎」
「「「ヒィギァアアア‼︎」」」

 雨雲を突き破り一本の巨大な稲妻が濡れた大地に突き刺さった。濡れた大地と数千体の魔物の群れが稲妻の熱によって一瞬で蒸発して消え去っていく。

「はぁ、倒すのは一瞬なんだけど、回収するのが面倒なんだよな」

 回収するといっても、ほとんど生き残っている魔物も原型を留めている魔物もいない。パッと見、黒ゴケの岩の塊なのか、魔物の残骸なのかも分からない。時間がないから放置した方がいいだろう。それにこれだけ強大な魔力を放出すれば神の遣いが駆け付けて来る。今戦うのはまだ早い。準備不足だ。

 レベル700ぐらいでいいかもしれないけど、失敗は許されない。もうちょっとだけ頑張らないと駄目だ。この世界の魔物を全滅させる勢いで行くぞ。

 ♢

【名前・フェンリル 職業・破壊者 種族・神狼 HP2623980 MP787194 攻撃力17978 物理耐性9494 魔力10100 魔法耐性7878 敏捷3212 年齢*** 体長20m 体重1400Kg】

(帰ろうかな)

 神の遣いに、「勝てるか、勝てないか」と聞かれたら、僕なら「帰ろうかな」と答える。それだけの強敵だ。この世界の神の遣いは巨大な狼の姿をしている。鋼のように硬いそうな真っ黒な体毛、口には上下六十本以上の鋭い牙が並び、その上には二つの大きな赤い瞳が見える。

(よし、見つかる前に逃げよう)

 今回は神の遣いの捜索と、その実力の調査だ。戦う必要はない。あの馬鹿高いHP量やMP量から瞬殺はまず無理だ。長期戦で少しずつ減らすのが定石だと思う。その為には治療薬が大量に必要になってくる。もしくは僕自身が回復魔法を習得するしかない。聖属性の攻撃魔法が使えるのならば、習得できる可能性は結構ある。ここは戦力的撤退をして、レベルを上げるべきなのだ。

【名前・ウィル 職業・盗賊 種族・神人 魔物ランク・SS級 冒険者ランク・F級 レベル1192 HP111120 MP8968 貯蓄MP328624/330000 攻撃力5002 物理耐性4645 魔力11434 魔法耐性12148 敏捷5717】

 そうだ。レベル2000を超えないと安心して戦えない。今の僕はギリギリの戦いを好む戦闘狂じゃない。昔の僕は失うものがなかったから命懸けで戦えたんだ。さあ、気づかれないうちにドワーフの隠れ家に戻ろう。そして、行使力で動物のように全員を洗脳すればいいんだ。そうと決まれば隠れ家に向かって、レッツゴーさあ行こう

「そこの貴様、この世界の人間ではないな? どの世界からやって来た?」
(ひぃぃ‼︎)

 背後から低い声とポタポタと何かの液体が落ちる音が聞こえる。涎を垂らしたデカ狼じゃありませんように! 涎を垂らしたデカ狼じゃありませんように!

「どうした何故答えぬ? それで見えていないつもりなのか」
(どうする⁉︎ どうする‼︎)

 背後を振り向くつもりは一ミリも無い。神狼にはこの透明マントは全く通用しないようだ。左腰から神剣を抜こうものなら、鋭い牙で何度も噛み砕かれる。でも、フェンリルが空を飛べないのなら逃げられる可能性はある。僕の決心は決まった。全力で逃げる。スッ~と親指と中指をくっ付けた両手を、背後の怪物に見えるようにゆっくりと上げる。そして、一気にパチンと弾いた。

「グッ! ヌンッ‼︎」
 
 二つの聖なる閃光がフェンリルの両眼を強襲した。けれども、僅かに怯んだだけだった。直ぐに五本の白銀の狼爪が振り下ろされた。僕が紙一重で回避したと同時に、立っていた赤い地面が右前脚の狼爪によって、ザックリと抉り取られてしまった。

「はぁ、はぁ、危ないなぁ~」
「貴様からは複数の神の匂いがする。それにその二つの神剣は人如きが扱える力ではない。貴様の存在全てが罪だ。神々の代行者たる我が、その肉の一片、血の一滴まで噛み砕き、この世から消し去ってやろう」
「あっ、それは遠慮させてもらいます。僕、直ぐに自分の世界に帰るので気にしないでください。それでは」

 丁寧にお辞儀をすると、左腰から神剣二振りを抜いた。素早さは僕の方が上だ。上空まで飛べば追っては来れない。全力で逃げると決めたのなら絶対に逃げてやる。まずはあの巨体を壁に閉じ込める。

 神剣天動は右手、神剣地道は左手だ。フェンリルを囲むように四方に高い壁を迫り上げる。当然、こんな厚さ一メートルの薄い壁は体当たりの一発で粉々に出来る。フェンリルの意識が上ではなく、前に向いてくれればいいだけだ。

(溜め時間が短いから威力は低いだろうな)

「ゴロゴロゴロ…ピィシャン‼︎」
「グッ、やはりこの程度の力か」

 神剣天動を振り下ろすと同時に、フェンリルが閉じ込められている岩壁の天井の四角い穴に、空から三本の稲妻が落ちていった。

「やっぱりか。直撃したのに大してダメージを受けていない。逃げた方が賢明だな」

 上空から神眼の指輪でダメージを確認した。今の実力では倒せないことは十分に分かった。頑張って稲妻を数千発当てるよりは、ここは逃げるが勝ちだ。ノラやドロシーには悪いけど、僕はこういう男だ。異世界に逃げさせてもらうよ。

「希望の光も見えぬ暗闇の中、何処に逃げられるというのか。【ブラックアウト世界停電】」

 気温が急激に下がったかと思ったら、フェンリルを中心に天と地が黒一色の影に塗り潰されていく。たったの数十秒で視界に映る全てのものが黒一色に変わってしまった。



 
 



 




 

 
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