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第2部 最終章 絶対絶命のF級冒険者

第57話 ウィルと偽神様

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 炭坑跡地のような通路を透明マントを被って進んでいく。通路の壁には所々に電気の灯りがついている。MPを消費した発電機があるのかもしれない。

(奥の方が騒がしい)

 ガヤガヤガヤと通路の先から複数の声が聞こえてくる。大勢が集まれる広いスペースがあるようだ。それにしても騒がしい。風呂に何度も入れて綺麗な身体にしたドロシーを見て、魔物が化けていると勘違いしているのかもしれない。確かにパッと見、別人にしか見えないからな。

「ドロシー! そんな得体の知れない男をこの近くまで連れて来て、どういうつもりなの! 私達皆んな殺されるわよ!」
「ノラ、あの人は大丈夫だと思う。変態でドスケベで、いきなりベッドに押し倒す人だけど、人殺しの目はしていなかった。エッチな目はしていたけど」
(ドロシー、僕のことをそんな風に思っていたんだね。庇ってくれてありがとうね)

 庇ってくれているドロシーとは、あとでバイコーンの焼き肉を一緒に食べるとして、あれがこの隠れ家のリーダーかな。

【名前・ノラ 職業・狩人 種族・ドワーフ 魔物ランク・A級 レベル242 年齢34 身長145cm 体重78kg】

 ドロシーの前に立っている怒っている女の子がリーダーのようだ。ルビーのような赤髪に茶色い布をバンダナのようにして巻いている。磨けば光るタイプだな。

「とにかく駄目よ。私は会わないし、あなたも、しばらく外に出ないようにしなさい。そうすれば安全よ」
「でも、ノラ。あの人、神様だよ。私達を助けてくれるかもしれないんだよ!」
「ドロシー、現実を見なさい。自分から神様を名乗る奴は大抵偽者よ。それとも、そのド変態の神様が気に入ったのかしら? 残念だけど、あなた一人をここから出すことも出来ないわよ。またペラペラとここのことを喋られたら困るのよ」
「それは、ごめんなさい」

 流石はリーダーだ。僕が神様じゃないと直ぐに見破った。厳しく、賢く、まさにリーダーの器に相応しい。でも、残念だけど僕はもう君達の隠れ家に入っている。まずは全部の逃げ道を塞がせてもらうよ。

 神剣地動を鞘から抜くと地面に突き刺す。塞ぐ通路は僕の後ろの一つと、前の三つだけだ。逃げる時間は一切与えない。魔力を瞬間的に神剣地動に流して、一秒以下の早業で四つの通路をドォーンと完全に塞いだ。

「「「きゃああぁぁ~っ‼︎ ノラ、通路が塞がったよ‼︎ 駄目だ、全然壊れねぇ‼︎」」」
「ドロシー、まさか、あんた⁉︎」
「違う! 私は外に待っているように言ったから!」

 轟音を立てて、四つ壁の通路が塞がったことで集会所は軽いパニック状態だ。オロオロとどうしたらいいか分からない者、通路を塞いでいる黒岩の壁を叩いて壊そうとする者、ドロシーが僕を中まで連れて来たと疑う者、緊急事態にこそ、その者の素顔が見えるというものだ。どうやら袋のネズミならぬ、袋のドワーフのようだ。生かすも殺すも僕の気持ち次第だ。

 勢いよく透明マントを脱ぐと、僕は混乱するドワーフ達の前に姿を現した。

「残念だけど、ドロシーの所為じゃない。この場所が分かったのは僕が神様だからだよ」
「「「きゃああぁぁ~~‼︎ 大男よ‼︎」」」

 透明マントを脱いで格好良く現れたつもりだったのに、数人の女ドワーフが悲鳴を上げた。平均身長140センチメートルのドワーフの世界では、確かに171センチメートルの僕はノッポな大男だ。でも、それを言ったら体重60キロの僕の方が、平均体重70キロ以上のドワーフ族よりスマートなことになる。つまりは僕が大男なら、君達も大女になる。

「「「てやっ! てやっ! てやっ!」」」
「やめて、やめて! 石は投げないで! まずは話し合いをしよう!」

 十一人のドワーフが落ちている石ころを拾って投げて来た。投石は原始的な攻撃方法だけど当たると地味に痛い。あとドロシー、君まで何故投げる?

「皆んなそこまでよ! いくら投げても意味がないわ。そうでしょう?」

 ノラが左手を上げて、石を投げるのをやめさせた。三十発近くは当たったけど、ダメージを受けたのは心だけだから問題ないよ。

「賢い判断だ。流石はリーダーだ。でも、もう少し早く止めることも出来たはずだよ」
「早く止めてしまったら、仲間達があなたを倒せない相手だと分からないでしょう。あなた、神様じゃなくて不死者でしょう? 他とは姿と気配がまったく違うけど」
「正解。単刀直入に話をしようか? 君達全員を保護したい。悪い話じゃないはずだよ」
「保護? 飼うの間違いでしょう。ドロシーから聞いたわ。美味しい食べ物で釣って、私達でお人形さん遊びがしたいなら、お断りよ。何処か他所を探してちょうだい」
「「「そうだ、そうだ! さっさと消えろ! てやっ!」」」

 どうやら話し合いは無駄だったらしい。あと、左から三番目の後ろに隠れて石を投げた奴は許さない。自分が女ドワーフに生まれなかったことをタップリと後悔させてやる。

「分かりました。食糧だけ置いていきます。それならいいでしょう?」
「駄目です。食べ物に何が入っているか分かりませんからね。実際にドロシーが別人のようになって帰って来ましたからね。何もせずに通路の岩を退けてから帰ってください」

 聞く耳を持たない者と交渉しようとしても無駄なだけか。親切の押し売りもかえって迷惑、じゃあ帰るしかないだろう。

「急に押し掛けて申し訳ありませんでした。二度とここには来ませんので、ここで今まで通りに暮らしてください。それじゃあ、ドロシー、元気でね」
「ああっ、神様」
「これでいいです。皆さん、話し合いは終わりです。各自の仕事に戻ってください」

 ドロシーに別れを告げると、四つの通路を塞いでいた黒岩の壁をバラバラに崩壊させて、僕は来た道を戻っていく。後ろからドロシーの声が聞こえたけど、振り返ったら駄目だ。

(そうこれでいいんだ)


 
 



 

 

 
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