【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?

文字の大きさ
上 下
151 / 175
第2部 最終章 絶対絶命のF級冒険者

第57話 ウィルと偽神様

しおりを挟む
 炭坑跡地のような通路を透明マントを被って進んでいく。通路の壁には所々に電気の灯りがついている。MPを消費した発電機があるのかもしれない。

(奥の方が騒がしい)

 ガヤガヤガヤと通路の先から複数の声が聞こえてくる。大勢が集まれる広いスペースがあるようだ。それにしても騒がしい。風呂に何度も入れて綺麗な身体にしたドロシーを見て、魔物が化けていると勘違いしているのかもしれない。確かにパッと見、別人にしか見えないからな。

「ドロシー! そんな得体の知れない男をこの近くまで連れて来て、どういうつもりなの! 私達皆んな殺されるわよ!」
「ノラ、あの人は大丈夫だと思う。変態でドスケベで、いきなりベッドに押し倒す人だけど、人殺しの目はしていなかった。エッチな目はしていたけど」
(ドロシー、僕のことをそんな風に思っていたんだね。庇ってくれてありがとうね)

 庇ってくれているドロシーとは、あとでバイコーンの焼き肉を一緒に食べるとして、あれがこの隠れ家のリーダーかな。

【名前・ノラ 職業・狩人 種族・ドワーフ 魔物ランク・A級 レベル242 年齢34 身長145cm 体重78kg】

 ドロシーの前に立っている怒っている女の子がリーダーのようだ。ルビーのような赤髪に茶色い布をバンダナのようにして巻いている。磨けば光るタイプだな。

「とにかく駄目よ。私は会わないし、あなたも、しばらく外に出ないようにしなさい。そうすれば安全よ」
「でも、ノラ。あの人、神様だよ。私達を助けてくれるかもしれないんだよ!」
「ドロシー、現実を見なさい。自分から神様を名乗る奴は大抵偽者よ。それとも、そのド変態の神様が気に入ったのかしら? 残念だけど、あなた一人をここから出すことも出来ないわよ。またペラペラとここのことを喋られたら困るのよ」
「それは、ごめんなさい」

 流石はリーダーだ。僕が神様じゃないと直ぐに見破った。厳しく、賢く、まさにリーダーの器に相応しい。でも、残念だけど僕はもう君達の隠れ家に入っている。まずは全部の逃げ道を塞がせてもらうよ。

 神剣地動を鞘から抜くと地面に突き刺す。塞ぐ通路は僕の後ろの一つと、前の三つだけだ。逃げる時間は一切与えない。魔力を瞬間的に神剣地動に流して、一秒以下の早業で四つの通路をドォーンと完全に塞いだ。

「「「きゃああぁぁ~っ‼︎ ノラ、通路が塞がったよ‼︎ 駄目だ、全然壊れねぇ‼︎」」」
「ドロシー、まさか、あんた⁉︎」
「違う! 私は外に待っているように言ったから!」

 轟音を立てて、四つ壁の通路が塞がったことで集会所は軽いパニック状態だ。オロオロとどうしたらいいか分からない者、通路を塞いでいる黒岩の壁を叩いて壊そうとする者、ドロシーが僕を中まで連れて来たと疑う者、緊急事態にこそ、その者の素顔が見えるというものだ。どうやら袋のネズミならぬ、袋のドワーフのようだ。生かすも殺すも僕の気持ち次第だ。

 勢いよく透明マントを脱ぐと、僕は混乱するドワーフ達の前に姿を現した。

「残念だけど、ドロシーの所為じゃない。この場所が分かったのは僕が神様だからだよ」
「「「きゃああぁぁ~~‼︎ 大男よ‼︎」」」

 透明マントを脱いで格好良く現れたつもりだったのに、数人の女ドワーフが悲鳴を上げた。平均身長140センチメートルのドワーフの世界では、確かに171センチメートルの僕はノッポな大男だ。でも、それを言ったら体重60キロの僕の方が、平均体重70キロ以上のドワーフ族よりスマートなことになる。つまりは僕が大男なら、君達も大女になる。

「「「てやっ! てやっ! てやっ!」」」
「やめて、やめて! 石は投げないで! まずは話し合いをしよう!」

 十一人のドワーフが落ちている石ころを拾って投げて来た。投石は原始的な攻撃方法だけど当たると地味に痛い。あとドロシー、君まで何故投げる?

「皆んなそこまでよ! いくら投げても意味がないわ。そうでしょう?」

 ノラが左手を上げて、石を投げるのをやめさせた。三十発近くは当たったけど、ダメージを受けたのは心だけだから問題ないよ。

「賢い判断だ。流石はリーダーだ。でも、もう少し早く止めることも出来たはずだよ」
「早く止めてしまったら、仲間達があなたを倒せない相手だと分からないでしょう。あなた、神様じゃなくて不死者でしょう? 他とは姿と気配がまったく違うけど」
「正解。単刀直入に話をしようか? 君達全員を保護したい。悪い話じゃないはずだよ」
「保護? 飼うの間違いでしょう。ドロシーから聞いたわ。美味しい食べ物で釣って、私達でお人形さん遊びがしたいなら、お断りよ。何処か他所を探してちょうだい」
「「「そうだ、そうだ! さっさと消えろ! てやっ!」」」

 どうやら話し合いは無駄だったらしい。あと、左から三番目の後ろに隠れて石を投げた奴は許さない。自分が女ドワーフに生まれなかったことをタップリと後悔させてやる。

「分かりました。食糧だけ置いていきます。それならいいでしょう?」
「駄目です。食べ物に何が入っているか分かりませんからね。実際にドロシーが別人のようになって帰って来ましたからね。何もせずに通路の岩を退けてから帰ってください」

 聞く耳を持たない者と交渉しようとしても無駄なだけか。親切の押し売りもかえって迷惑、じゃあ帰るしかないだろう。

「急に押し掛けて申し訳ありませんでした。二度とここには来ませんので、ここで今まで通りに暮らしてください。それじゃあ、ドロシー、元気でね」
「ああっ、神様」
「これでいいです。皆さん、話し合いは終わりです。各自の仕事に戻ってください」

 ドロシーに別れを告げると、四つの通路を塞いでいた黒岩の壁をバラバラに崩壊させて、僕は来た道を戻っていく。後ろからドロシーの声が聞こえたけど、振り返ったら駄目だ。

(そうこれでいいんだ)


 
 



 

 

 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...