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第2部 最終章 絶対絶命のF級冒険者
第55話 ウィルとお風呂
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三十匹程度の中規模の魔物の群れを、神剣二振り使って楽々掃討した。あとは神剣地動で作った岩壁に閉じ込めたドワーフに話を聞くだけだ。助けてあげた僕に襲い掛かって来るような恩知らずならば、ちょっとだけ手荒なことをするかもしれない。本当にちょっとだけ。
ガラガラと音を立てて岩壁が小さな石ころになって崩れていく。中から現れたのは美しい少女ではなく、汚らしい黒狼の毛皮を被ったドワーフだ。
「あっ、あのぉ、あなたは誰ですか?」
緊張しているのか、怯えているのか、声が震えている。質問したいのはこっちの方だが、女性のような澄んだ声だ。まだ手荒なことをするのは早過ぎる。初対面の女性には優しくするのが男のエチケットだ。
「えっ~と、神様だよ」
もちろん大嘘だ。出来ることより、出来ないことの方が多い。でも、戦闘能力だけはギリ神様レベルだ。
「神様」
「そう神様だよ。神様だから君の名前も知っている。ドロシーだね?」
その顔は信じていないようなので、まずは基本の名前当てだ。あと分かるのは、身長、体重、スリーサイズ、年齢だけだ。他は聞かないように。
「凄い! どうして分かったんですか?」
黒狼の被り物を被っているので顔は見えないが、ドロシーは凄く驚いているようだ。とりあえず、「神様だからだよ」と答えておくことにした。彼女には聞きたいことが山ほどある。
「ドロシー、君は一人なのか? 他に仲間はいないのか?」
「ああっ、神様! 本当に神様がいたなんて! ああっ、なんて日なんでしょう!」
「コホン、コホン」と軽く咳払いして興奮しているドロシーを落ち着かせる。もう遅いけど、神様じゃなくて、仙人程度にしておくべきだった。
「ああっ、ごめんなさい! 森にある洞窟の中に十一人で暮らしています。神様! 私達を助けてください! ああっ、神様!」
またまた、「コホン、コホン」と軽く咳払いをして、興奮しているドロシーを注意する。
「ドロシー、君は興奮し過ぎだ。そんな状態だと落ち着いて話しも出来ない。近くに私の家があるから、そこで話しをしようか」
「はい」とドロシーが返事をしたので、背後から細くて硬い身体を抱き締める。あとは山の中腹にある仮設住居に運ぶだけだ。
ヒューンとひとっ飛びして、あっという間に仮設住居に到着した。飛行中、ドロシーは「凄い! 凄い!」とまた興奮していた。どうやら僕はテンションが高過ぎる女性と一緒にいるとイライラするようだ。途中で手を離して、地面に落としたくなってしまった。
「ここが神様のお家ですか? 何も無いんですね。これは何ですか?」
「それは焼いた馬肉と野菜だよ。お腹が空いているなら食べてもいいけど、肉の味保証は出来ないかな。食べるなら野菜の方がいいかもね」
ドロシーが金網に乗っている肉や野菜(タマネギ、ニンジン、キャベツ)を興味津々に見ている間に、収納袋から食卓と二人分の椅子を取り出して置く。あと必要なのは皿にフォーク、それと綺麗な服だろう。ドロシーはちょっと臭う。
「うぐっ、がふっ、これ、凄く美味しいです! こんな美味しい食べ物があったなんて」
「そう、よかった」
ドロシーは無我夢中であの硬くて不味い肉を食べている。金網の上の肉と野菜がどんどん無くなっていくので、お世辞ではないようだ。普段からどんなものを食べているのか聞かないといけないな。
「ふぅひぃ~♬」
お腹が一杯になったのか、ドロシーは幸せそうに食卓にうつ伏せになっている。そろそろ落ち着いて話しも出来るだろう。でも、その前に、黒狼の毛皮を取ってもらい、風呂に入って、綺麗な服に着替えてもらわないと困る。獣臭が気になって、こっちが落ち着かない。
神剣地動を使って部屋を少し広くして、端の方に四角い黒岩の浴槽を作る。あとは収納袋から大量の水を浴槽に注いで炎魔法で温めれば完了だ。さて、黒狼の毛皮を取ったドロシーは美少女かな?
振り返って、ドロシーを見る。言われた通りに服を全部脱いでいるか、キチンと確認しないといけないからだ。
「神様、この中に入ればいいんですか?」
酷く汚れた少女、それがドロシーの裸を見た印象だった。髪はエメラルドグリーン、肌は汚れていて茶色なのか、肌色なのか分からない。体型はスマートで胸も腹も尻もペタンコ。身長は140センチメートルなのに、体重は72キログラム。やっぱり僕が知っている人間とは別の人間と思った方がよさそうだ。
「そうだよ。まずは身体を綺麗にしないと駄目だ。神様は綺麗好きなんだ。だから、嫌でも綺麗になってもらうよ」
「神様がそう言うのなら怖いですけど、やってみます」
恐る恐るドロシーは浴槽の中に入っていく。この世界には水が無いので、ドロシーにとっては未知との遭遇になるのだろう。でも、未知の肉と野菜をたらふく食べたんだから、きっと出来るはずだ。
「はぁ~♬ とっても気持ちいいです」
「ドロシー、キチンと顔も髪も綺麗にしないと駄目だよ。僕が手伝ってあげるから大人しくするんだよ」
ドロシーが入ったことで浴槽のお湯は一気に汚れてしまった。あと二回か、三回は風呂に入ってもらわないと綺麗にはならないだろう。
「あっ、んんっ、神様、擽ったいです」
「我慢して」
「はい」
浴槽の中に手を突っ込んで、ドロシーの身体を手の平で擦って泥や老廃物を落としていく。肩や首筋にお湯をかけて手の平で擦っていくと肌色の肌が見えてきた。
(それにしても硬い肌だ。肌というよりも骨に近い)
手、足、お腹、お尻と触っていくが柔らかい部分がまったくない。脂肪と水分が無いと、ここまで人間の身体が変化するようだ。唯一柔らかいと言えるのはエメラルドグリーンの髪ぐらいだ。
「はい、一度お湯から出てタオルで身体を拭いて。直ぐに新しいお湯を用意するからね」
「ううっ、分かりました」
どうも反応がよくない。食べるのは好きなようだが、風呂は嫌いなようだ。いや、もしかすると僕が手伝ったことで嫌いになったのだろうか? まあ、そんな細かいことは気にしなくていい。ドロシーがタオルで身体を拭いて、タオルに汚れを移している間にパパッと済ませてしまおう。
重力魔法を使って浴槽のお湯を浮かべると、合成の壺の中に移動させる。風呂に入るたびに新品の水を使うのは勿体無い。壺で汚れだけを取り出して、また浴槽に戻して何回も再利用する。今度は石鹸をお湯に混ぜて、もっと身体から汚れを落とそう。
ガラガラと音を立てて岩壁が小さな石ころになって崩れていく。中から現れたのは美しい少女ではなく、汚らしい黒狼の毛皮を被ったドワーフだ。
「あっ、あのぉ、あなたは誰ですか?」
緊張しているのか、怯えているのか、声が震えている。質問したいのはこっちの方だが、女性のような澄んだ声だ。まだ手荒なことをするのは早過ぎる。初対面の女性には優しくするのが男のエチケットだ。
「えっ~と、神様だよ」
もちろん大嘘だ。出来ることより、出来ないことの方が多い。でも、戦闘能力だけはギリ神様レベルだ。
「神様」
「そう神様だよ。神様だから君の名前も知っている。ドロシーだね?」
その顔は信じていないようなので、まずは基本の名前当てだ。あと分かるのは、身長、体重、スリーサイズ、年齢だけだ。他は聞かないように。
「凄い! どうして分かったんですか?」
黒狼の被り物を被っているので顔は見えないが、ドロシーは凄く驚いているようだ。とりあえず、「神様だからだよ」と答えておくことにした。彼女には聞きたいことが山ほどある。
「ドロシー、君は一人なのか? 他に仲間はいないのか?」
「ああっ、神様! 本当に神様がいたなんて! ああっ、なんて日なんでしょう!」
「コホン、コホン」と軽く咳払いして興奮しているドロシーを落ち着かせる。もう遅いけど、神様じゃなくて、仙人程度にしておくべきだった。
「ああっ、ごめんなさい! 森にある洞窟の中に十一人で暮らしています。神様! 私達を助けてください! ああっ、神様!」
またまた、「コホン、コホン」と軽く咳払いをして、興奮しているドロシーを注意する。
「ドロシー、君は興奮し過ぎだ。そんな状態だと落ち着いて話しも出来ない。近くに私の家があるから、そこで話しをしようか」
「はい」とドロシーが返事をしたので、背後から細くて硬い身体を抱き締める。あとは山の中腹にある仮設住居に運ぶだけだ。
ヒューンとひとっ飛びして、あっという間に仮設住居に到着した。飛行中、ドロシーは「凄い! 凄い!」とまた興奮していた。どうやら僕はテンションが高過ぎる女性と一緒にいるとイライラするようだ。途中で手を離して、地面に落としたくなってしまった。
「ここが神様のお家ですか? 何も無いんですね。これは何ですか?」
「それは焼いた馬肉と野菜だよ。お腹が空いているなら食べてもいいけど、肉の味保証は出来ないかな。食べるなら野菜の方がいいかもね」
ドロシーが金網に乗っている肉や野菜(タマネギ、ニンジン、キャベツ)を興味津々に見ている間に、収納袋から食卓と二人分の椅子を取り出して置く。あと必要なのは皿にフォーク、それと綺麗な服だろう。ドロシーはちょっと臭う。
「うぐっ、がふっ、これ、凄く美味しいです! こんな美味しい食べ物があったなんて」
「そう、よかった」
ドロシーは無我夢中であの硬くて不味い肉を食べている。金網の上の肉と野菜がどんどん無くなっていくので、お世辞ではないようだ。普段からどんなものを食べているのか聞かないといけないな。
「ふぅひぃ~♬」
お腹が一杯になったのか、ドロシーは幸せそうに食卓にうつ伏せになっている。そろそろ落ち着いて話しも出来るだろう。でも、その前に、黒狼の毛皮を取ってもらい、風呂に入って、綺麗な服に着替えてもらわないと困る。獣臭が気になって、こっちが落ち着かない。
神剣地動を使って部屋を少し広くして、端の方に四角い黒岩の浴槽を作る。あとは収納袋から大量の水を浴槽に注いで炎魔法で温めれば完了だ。さて、黒狼の毛皮を取ったドロシーは美少女かな?
振り返って、ドロシーを見る。言われた通りに服を全部脱いでいるか、キチンと確認しないといけないからだ。
「神様、この中に入ればいいんですか?」
酷く汚れた少女、それがドロシーの裸を見た印象だった。髪はエメラルドグリーン、肌は汚れていて茶色なのか、肌色なのか分からない。体型はスマートで胸も腹も尻もペタンコ。身長は140センチメートルなのに、体重は72キログラム。やっぱり僕が知っている人間とは別の人間と思った方がよさそうだ。
「そうだよ。まずは身体を綺麗にしないと駄目だ。神様は綺麗好きなんだ。だから、嫌でも綺麗になってもらうよ」
「神様がそう言うのなら怖いですけど、やってみます」
恐る恐るドロシーは浴槽の中に入っていく。この世界には水が無いので、ドロシーにとっては未知との遭遇になるのだろう。でも、未知の肉と野菜をたらふく食べたんだから、きっと出来るはずだ。
「はぁ~♬ とっても気持ちいいです」
「ドロシー、キチンと顔も髪も綺麗にしないと駄目だよ。僕が手伝ってあげるから大人しくするんだよ」
ドロシーが入ったことで浴槽のお湯は一気に汚れてしまった。あと二回か、三回は風呂に入ってもらわないと綺麗にはならないだろう。
「あっ、んんっ、神様、擽ったいです」
「我慢して」
「はい」
浴槽の中に手を突っ込んで、ドロシーの身体を手の平で擦って泥や老廃物を落としていく。肩や首筋にお湯をかけて手の平で擦っていくと肌色の肌が見えてきた。
(それにしても硬い肌だ。肌というよりも骨に近い)
手、足、お腹、お尻と触っていくが柔らかい部分がまったくない。脂肪と水分が無いと、ここまで人間の身体が変化するようだ。唯一柔らかいと言えるのはエメラルドグリーンの髪ぐらいだ。
「はい、一度お湯から出てタオルで身体を拭いて。直ぐに新しいお湯を用意するからね」
「ううっ、分かりました」
どうも反応がよくない。食べるのは好きなようだが、風呂は嫌いなようだ。いや、もしかすると僕が手伝ったことで嫌いになったのだろうか? まあ、そんな細かいことは気にしなくていい。ドロシーがタオルで身体を拭いて、タオルに汚れを移している間にパパッと済ませてしまおう。
重力魔法を使って浴槽のお湯を浮かべると、合成の壺の中に移動させる。風呂に入るたびに新品の水を使うのは勿体無い。壺で汚れだけを取り出して、また浴槽に戻して何回も再利用する。今度は石鹸をお湯に混ぜて、もっと身体から汚れを落とそう。
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