上 下
148 / 175
第2部 最終章 絶対絶命のF級冒険者

第54話 ウィルとドワーフ

しおりを挟む
 上空から人間と魔物を探し続けて早くも一週間が過ぎてしまった。木の上の小屋、洞窟の中の服の残骸、人の痕跡は確かにあったが、肝心の人間がいなかった。

 んんっ~、大陸の中央部よりも海岸線の方が人の痕跡が多いな。とりあえず海岸線があった場所をある程度回ったら帰るとしよう。

 この世界には海は無いが、海があった場所は分かる。そこには歩く魚系の魔物がビッシリとひしめき合っていた。あの魔物の中を人間が無事に通って行ける訳がない。万が一、魔物の群れを無事に通り抜けたとしても、次は深い深い谷が待ち受けている。

 念の為に真っ暗な谷底に誰か住んでいないか確認しようとしたが、一時間程下りても谷底には辿り着けなかった。こんな場所に人間は暮らせない。そう結論すると、海があった場所での捜索を諦めて、改めて大陸を中心に捜索する事に決めた。

「遠くが見える千里眼の能力があればなぁ~」

 チマチマと世界を飛んで回るのも時間がかかる。もっと楽に人を捜索する方法があるはずだ。秘密基地にあった魔法具の設計図の中に使えそうなのがあるかもしれない。素材も結構集まっているので、そろそろ何か作れるだろう。

「今日はあの辺で休むとするか」

 少し先の方に標高千メートル級の山が見えた。いつものように中腹辺りの崖にパパッと黒岩の仮設住居を建てて、そこで今日は贅沢な野宿をしよう。

「よし、やるぞ!」

 作ったばかりの長方形の部屋に机と椅子を置いていく。収納袋から簡単そうな魔法具の設計図を一枚取り出して、机の上に広げたら準備完了だ。

 今の僕なら何でも作れそうな気がする。海だった場所にいた大量の魚系魔物を倒して結構レベルアップしたし、神剣二振りに、合成の壺、素材も豊富にある。それに侯爵の冒険者手帳を隅々まで読んだので、知識もそれなりにある。僕一人でも日用品程度の魔法具は作れるはずだ。

 あっ~あ、旅行中なのに、今後の新婚生活と村の発展の為に頑張る僕って、なんて素敵な旦那さんなんだろう。まずはこの【洗濯機】という服を洗ってくれる魔法具を作ってみよう。これがあれば洗濯時間が大幅に短縮出来る。村の女性陣は喜ぶはずだ。

「フムフム、水と服を一緒の容器に入れて、その中に浄化作用を持つ魔法具を放り込めばいいのか?」

 僕の頭脳では設計図は読み解けない。僕なりのアレンジ、改良が必要なのだ。

(鉄、石、木、ガラス、骨?)

 次々に頭の中で使えそうな素材を思い浮かべては消していく。一番良さそうなのは、この世界にある鉄のように硬い木だ。汚れを吸収して外に排出するか、溜め込むように品種改良すればイケそうな気がする。

「洗濯する木だから洗濯機なのか。これなら作れそうだ」

 収納袋から丸太を一本取り出すと、それを神剣で輪切りにする。次に輪切りにした木を合成の壺に入れて、魔力を流しながら蓋の付いた四角い箱をイメージする。完成した赤茶色の四角い箱を壺から取り出せば、第一段階終了だ。

 第二段階はこの赤茶色の四角い箱に魔法陣を描く作業なのだが、これが僕には難しい。魔法陣の種類、大きさ、配置、魔法属性を考えて、決められた場所に配置しないと効果が発揮されないのだ。しかも、描いた後に魔法属性を必要な量だけ定着させる作業がある。料理の調味料のようにグラム単位の調整が必要なので、とにかく魔法陣は面倒なのだ。

「ふぅ~、こんな感じでいいだろう」

 一番大変な魔法陣を描く作業が終わったので、魔法具作りは一旦休憩だ。そろそろ夕食と罠の準備をしよう。

 机、椅子、洗濯機を収納袋に仕舞って部屋を片付けると、袋からバイコーンの胴体を取り出して合成の壺に入れる。壺の中でロース、ヒレ、ラム、バラ、モモ肉などに綺麗に解体して、瘴気や有害な物質も除去する。これで安全に食べる事が出来る。

 あとは山の下側に向かって、焼き馬肉の美味しそうな匂いをばら撒けば、空腹の魔物達がやって来るという訳だ。料理をしながら周辺の魔物も倒せて、寝床の安全も確保出来る。実に効率的な方法だ。

「今日こそは魔物以外もやって来るかもしれないな」

 この方法を始めて、四日目。移動しながら結構な数の魔物を倒している。魔物に脅威に怯えて隠れている人間がいるのなら、そろそろ隠れ家から安心して出て来てもいい頃だ。

【男の焼き馬肉パーティー】 焦げても構わない。生焼けよりはマシだ。そんな意気込みで適当な大きさに切った、肉と野菜を金網に乗せて焼くだけの男の料理。バイコーンの肉には精力増強効果があるので、男一人でのパーティーはあまりオススメ出来ない。味の評価は☆星一つ。

「モグモグ、不味いな」

 硬い肉をひたすらに噛む。魔物の肉は温室育ちの家畜と比べて歯応えと弾力が全然違う。やっぱり温室育ちの家畜の方が比べるまでもなく、柔らかくて美味しい。不味い肉に美味しいタレを漬けて食べても、不味いものは不味いのだ。

「「「ギャア‼︎ ゴォワア‼︎ きゃあ~‼︎」」」

 しばらく待っていると、魔物達が集まって来たようだ。山の下の方が騒がしくなってきた。ちょっと行って、さっさと静かにして来よう。魔物の片付けが終わったら今日は休もう。

「今日も魔物が大量だな」

 下を見ると、暗闇の中に数十匹の魔物の群れが見えた。魔物の種類はイノシシ、鹿、蛇なので近場の森から来たのだろう。一心不乱にこっちらに向かって走っているようだ。素早く焼肉の火を消して、神剣二振りを左腰に差す。魔物が寄って来るうちは人は警戒して寄って来ない。この世界の魔物を全部倒すのと、人を見つけるのと、さて、どっちが先になるのだろうな。

 仮設住居から飛び下りると、魔物の群れに向かって一気に加速する。どんどん魔物との距離が縮まっていく。でも、先頭を走っているのは本当に魔物なのだろうか? 何だか着ぐるみのようにも見える。

「きゃあ~‼︎ 助けてぇ~‼︎」
「なっ、人間⁉︎」

 魔物の群れの中から女性の悲鳴が聞こえた。神眼の指輪で急いで、本当に人間がいるのか確認する。どうやら、怪しいのは一人だけのようだ。

【名前・ドロシー 職業・狩人 種族・ドワーフ 魔物ランク・B級 レベル168】

(魔物でドワーフ?)

 人間なのか、魔物なのか、さっぱり分からないけど、とりあえず言葉を喋る狼の着ぐるみは生け捕りにした方が良さそうだ。右手で神剣天動を鞘から抜くと、刃を水平に構えて魔物七匹の身体をすれ違い様に両断した。

「「「ヒィギァアアア‼︎」」」

 胴体と脚が別れた魔物が、叫び声を上げて地面の上をのたうち回っている。少し低空飛行し過ぎたようだ。もうちょっと上でもよかったかもしれない。次からは急いでいたとしても気をつけよう。

「さて、まずは目的の者の安全確保が最優先だ」

 神剣天動を左手に持ち替えると、すぐに左腰の鞘から神剣地動を抜いて、ドロシーを素早く岩壁の中に閉じ込めた。これで他の魔物には襲われずに済む。あとは残りの魔物を全部片付ければ、落ち着いて話しも出来るだろう。







 

 


 
 
 


 



 

 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

欠片

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

母娘丼W

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:367

男装の公爵令嬢ドレスを着る

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:1,333

ひまわり組の日常

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

虫 ~派遣先に入って来た後輩が怖い~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:205pt お気に入り:49

婚約破棄された伯爵令嬢は、前世で最強の竜だったようです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:50

毎週金曜日、午後9時にホテルで

恋愛 / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:229

処理中です...