【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?

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第2部 最終章 絶対絶命のF級冒険者

第53話 ウィルと影鬼

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 嫌な気配がする。寝ている時に現れるゴキブリのような嫌な気配が…。

「くっ…⁉︎」

 暗闇の中の殺気に気づいて、後方に大きく飛び退く。僕が立っていた場所をヒュッと何かが通り過ぎたようだ。

(何だあれは?)

 宙に浮かぶ黄色い二つの大きな目と目が合った。意思疎通が出来るか分からないが、馬鹿みたいに襲い掛かって来るタイプではないようだ。僕が攻撃を回避したので、警戒して様子を見ているように見える。だとしたら、少しは知能があるという事になる。

【名前・影鬼 種族・不死者(悪霊) 魔物ランク・S級 体格・中量級 レベル523 HP20723 MP6217 攻撃力3289 物理耐性2140 魔力2819 魔法耐性2140 敏捷887 体長165cm 体重0kg】

「待て、僕は敵じゃない! 味方だ!」
(………)

 両手を頭の高さまで上げて、暗闇の黄色い目に向かって敵意がない事を伝えた。けれども、黄色い目は無言のままに消えてしまった。目蓋を閉じたのか、黄色い目が消えると神眼の指輪でも見えなくなってしまった。攻撃の瞬間だけ見えるのか、目が開いている時だけ見えるのか、情報が少な過ぎて何をどうすればいいのか分からない。

(さて、敵か、味方か?)

 でも、相手は不死者で悪霊だ。倒しても何の問題もない。この洞窟はハズレだったと思う事にして、さっさと別の場所を探す事にした方がよさそうだ。

(殺るか)

 僕は暗闇の中、ゆっくりと目を閉じた。神眼の指輪で見えないのならば、目を開けている意味はない。左腰から神剣天動を抜くと右手に持って正面に構える。左手は親指と中指をくっ付けて、意識と魔力を指先に集中させていく。あとは静かに黄色い目の気配が近づくその瞬間を待つだけだ。

(来た。【ホーリー・バースト聖なる爆発】)

 気配を感じた瞬間に、親指と中指をパチンと弾くと聖なる閃光が指先で爆発する。

「「「ギィシャアア‼︎」」」

 黄色い目の悪霊達は、暗闇という衣を引き剥がされ、目を押さえて苦しんでいる。どうやら、暗闇限定で透明マントを被った時と同じ状態になれるようだ。目を押さえて苦しんでいる影鬼一体に一気に詰め寄ると、聖なる光を纏わせた刀身を振り下ろして倒した。

 一体、二体と倒して行くが、流石はS級の不死者達だ。聖なる閃光からもう回復して、敵意も殺意も隠さずに僕の方を見ている。ザッと数えて四十六匹ぐらいかな? 暗闇のマントを強制的に引き剥がされた影鬼達は、完全に僕の事を敵と認識してくれているようだ。

(でも、先に攻撃したのは、そっちだよ)

 パッと見た影鬼の印象は、濃い影が意思を持って動いているという感じだ。ひたいからは二本の短い黒い角が伸び、口には鋭い牙が四本ある。二本の腕は前腕だけが太く、指は三本しか付いていない。どう見ても、仲良くなれるタイプの人間ではなさそうだ。

 これで見かけによらず優しい性格で、料理、家事、育児が得意だとしても、僕は中身よりも外見重視だ。外見を磨いても簡単には変わらないが、中身は意外と良くも悪くも変わりやすい。僕はアシュリーによる過酷なイジメを体験して、そんな曖昧で変化し易いもので人を判断するよりは、もう見た目だけで決めると決めたんだ。

「おっと! 危ない危ない」

 ヒュンという音を立てて、影鬼の腕が鞭のように伸びて来た。軽やかに右方向にステップして回避する。ちょっと油断していた。相手は実体の無い影の不死者だ。骨や筋肉というものがない。見た感じの腕の長さが七十センチメートルしかなくても、腕を鞭や槍のように変えて伸ばせば、倍の長さまで攻撃が届くのだ。

 ヒョイ、ヒョイと影鬼四体の攻撃を躱しながら、周囲にも気を配る。洞窟が徐々に暗くなって来ている。そろそろ二回目のホーリーバストを使わないといけない。

 突き出された影鬼の右腕を左手で掴んで、その喉元に右手に持つ神剣を下から上に突き刺す。ここが攻撃のチャンスだと思ったのか、六体の影鬼が一斉に僕に飛び掛かって来た。素早く影鬼の腕から左手を離すと、親指と中指をくっ付けてパチンと弾いた。二回目の聖なる閃光が周囲に炸裂する。

「「「ギィシャアア‼︎」」」

 襲い掛かって来た影鬼六体が叫び声を上げながら地面の上で踠いている。目を閉じていれば痛い思いをしなくて済んだのかもしれないが、目を閉じていれば攻撃は当たらないし、僕の攻撃を避ける事も出来なかっただろう。今の状態は開けているけど見えない状態かな?

 剣を右に左に力強く薙ぎ払って、目を押さえて苦しんでいる影鬼六体の首を素早く刎ね飛ばして倒して行く。能力を封印され、闇と同化する事が出来ない影鬼達は、本来の実力の半分も出せていなかっただろう。弱い獲物が来る日もあれば、今日のように強い獲物が来る日もあるのだ。

 まあ、本来の実力が出せていたとしても、僕の胸元、いや、腰元にも及ばなかっただろうけどね。

 ♢

 影鬼の洞窟を探索した結果、洞窟の奥には侵入した魔物の死骸が積まれているだけだった。目当ての魔法具などのお宝は一つも落ちてはいなかった。腐りかけの魔物の肉は流石に要らないけど、牙や骨は加工すれば武器や防具に使う事が出来る。まったくの骨折り損にはならなかった。

「本当に川が無いな」

 間獄世界のイングランド王国は海に囲まれ、大陸内部には多くの川が流れていた。地獄世界は赤い荒野地帯が広がり、黒い森があちらこちらに点在しているだけだった。

 別世界とは言え、魔物も水が無ければ生きてはいけない。僕の考えが正しいなら、このまま馬の魔物を追いかけて行けば、水飲み場を見つける事が出来るはずだ。

「もしかすると、僕の常識が間違っているのか?」
 
 上空から馬の魔物の追跡を続けるが、一向いっこうに水飲み場に向かう素振そぶりが見えない。血が流れるのなら、水を飲んでいる。その考えが間違っているのなら、この世界に水は存在しない。

 もしもこの世界の生物が、植物のように二酸化炭素を取り込んで酸素を吐き出すような特殊な機能があるのならば、水を飲まなくても喉が渇かずに生きていける可能性がある。

「これ以上の追跡は時間の無駄だな。さっさと精力剤に変えよう」

 左右の手に神剣を持つと黒馬の魔物バイコーンに急降下する。神剣地動で魔物の進行方向に岩壁を作って進路を塞ぐと、あとは魔物を岩壁で囲って逃げられないようにした。

「ヒヒーン‼︎」と突然の襲撃にバイコーン達はパニック状態のようだったが、神剣を数回振ると直ぐに大人しくなってくれた。

「安心しろ。お前には聞きたい事とやりたい事があるから殺すのはその後だ」

「ヒィーン‼︎ ヒィーン‼︎」

 最後の一頭は情報収集と実験の為に生け捕りにして、身体を黒岩で拘束して動けなくした。あとは灰色の犬耳カチューシャを頭に被って準備完了だ。

「お前は今までに雨を見た事があるか? 雨とは空から降って来る沢山の水の事だ。一度ぐらいはあるだろう?」

 バイコーンは興奮しているようなので、背中を優しく撫でながら、丁寧に質問する。これで少しは落ち着いて答えてくれるだろう。でも、殺すって言っちゃったから駄目かもしれないな。

「そんなの見た事ねぇー! 助けてくれ。何でもするから助けてくれぇー!」
(………)

 情報収集は直ぐに終わってしまった。この世界に雨は降らないらしい。でも、雨が降らないからといって、水が無いとは言い切れない。地下水が湧き出ている場所があるかもしれない。やっぱり、人間を探すならば洞窟を探した方がいいかもしれない。

 さて、次は個人的な実験だ。僕の聖属性の魔法を死なないようにバイコーンに注げば、聖なる魔物ユニコーンに変えられるかもしれない。では、実験開始だ。

(ゆっく~り、ゆっく~り~)

 両手をバイコーンの胴体に触れると、慎重に魔力を注いで行く。最初は苦しいかもしれないけど、身体の中の瘴気が消えてしまえば楽になるはずだ。

「やめて、苦しいっ! 助けて、助けぇ…て…」

 バイコーンは激しく暴れて抵抗するが、首と脚をしっかりと黒岩で拘束している。実験から逃げる事は出来ない。

「おーい、生きてるか?」
(………)

 気を失ったのかバイコーンはとても大人しくなった。でも、まだまだ黒馬のままなので、構わずに聖魔法を注ぎ続けた。あと三分ぐらいは続けよう。ユニコーンの角は惚れ薬になるらしいので絶対に欲しい。

 一分経過、変化なし。二分経過、変化なし。三分経過、特に変化なし。四分経過、バイコーンは死んでいるようだ。

「うん。そろそろ、出発しないとな」

 僕はポキンとバイコーンの額の角をへし折った。実験はこの辺で終了しないといけない。やっぱりバイコーンとユニコーンは違う魔物のようだ。まだまだ惚れ薬は作れそうにない。収納袋にバイコーンを押し込むと、次の目的地を目指す事にした。

 
 

 



 

 
 

 

 
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