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第2部 最終章 絶対絶命のF級冒険者

第49話 ウィルと天地創造剣・天動

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 右手に持っていた魔剣を離して、破壊した氷の壁から現れた白銀の神剣を急いで掴んだ。これで氷の壁の修復は止まるはずだ。

『はぁ、はぁ、はぁ…助かったのか?』

 左手には対になる神剣地動を持っている。神眼の指輪で見た情報通りなら、右手の神剣天動を制御出来るはずだ。ほら、その証拠に壁の修復が止まったようだ。間違いない。

『ガァタン‼︎』

「何だ⁉︎ もしかして、落ちているのか?」

 氷山が揺れたと思ったら、身体が持ち上がって天井に張り付いてしまった。身体に感じる浮遊感と周囲の流れるような景色はどう考えても、氷山が地上に向かって落下しているという事だ。

『ぐぐっ、駄目だ。止まらない!』

 天地創造剣・天動が天候を操る力ならば、この氷山はちょっと大き過ぎるひょうだ。その気になれば地動で作った石つぶてのように、自由に操れるはずだ。ただ今回は馬鹿デカいから僕の力では宙に浮かべる事が出来ないというだけだ。だから地上に落ちている。

 あそこまで昇るのに七時間も掛かったんだ。地上に落ちるにもそれなりの時間が掛かる。その間に氷山の中心部からマジシャンのように華麗に外に脱出すればいい。簡単な話だ。

『セェイ‼︎ ヤァッ‼︎ ハァッッ‼︎』

 魔剣を素早く拾って収納袋に入れると、ひたすらに二振りの神剣を真横の氷の壁に突き刺しまくる。自分に出来る方法で一番確実な方法は、天動の攻撃力と無限の魔力を借りて、力技で外に出る方法だけだ。

 神剣を失った氷山は明らかに柔らかくなった。さっきまでは鉄の煉瓦を割っている感じだったが、今は普通の煉瓦程度だ。これなら落下する前に外に出る事は可能だ。でも、外に出るなら地上に落ちるギリギリまで待ってからの方がいい。今、外に出ても数分で冷凍人間だ。マン島が見えたら一気に横壁を壊して、脱出しよう。

「くっ、早過ぎるな。こっちも急がないと…」

 落ち始めてから、まだ五分ぐらいしか経っていない。それなのに、もう地上の島が見えて来た。ゆっくりしていたら、外に出る時間もなかっただろう。

『ハァッ‼︎』

 右手の神剣天動で氷の壁に最後の一突きを加えると、ガシャーンという盛大な破壊音と共に氷の壁に穴が空いた。氷山の穴の中に生暖かい風と新鮮な空気が入り込んで来た。もう外に出ても大丈夫そうだ。二振りの神剣をしっかりと握ると、氷山が地上に打つかる前に空に向かって飛び出した。

「生きてて良かったぁ~♬」

 とりあえず誰かに感謝したい。これで秘密基地で僕の帰りを待っているタイロン爺さんに仕返しが出来る。あんな初歩的なミスで死にかけたのだ。許されざる事をやっても許されるはずだ。

 そうだ! この際、爺さんではなく、孫娘の方に責任を取ってもらうべきだ。死にかけの爺さんに酷い仕打ちをするべきではない。若くて元気な孫娘にしてもらおう。よし、そうと決まれば、急いで基地に戻ろう。

「ふぅ~。よくよく考えたら爺さんを殺すのは駄目だったな」

 少し冷静になって考えてると、まだ、地獄に行く方法が見つかっていない。力尽くで行けるのならば、地面に向かって瘴気砲の二千倍の威力を持つ魔法攻撃を撃てばいい。でも、そんな事しても地面に深い深い穴が空くだけだ。やっぱり転移の魔法陣が地獄に行く鍵になるようだ。

 ❇︎

「おおっ! 無事に帰って来たか!」

「………」

『パチン、パチン!』

 秘密基地に到着したので、出迎えにやって来た爺さんの右頬と左頬を素早く無言でダブルビンタした。これで許してやるなんて、僕も甘くなったものだ。でも、爺さんの方は僕と一戦交えるつもりのようだ。そっちがそのつもりなら、こっちも我慢しないぞ。

「ほふっ…⁉︎ 何をする!」

『こっちの台詞だ‼︎ 何でMPを遮断する魔法陣を描いてんだよ。滅茶苦茶寒かったぞ‼︎』

「………フン、そういう事もある。運が悪かったな」

 ジジイが開き直りやがって。運じゃない、確実にお前が悪いんだよ。本当はボケも進んでいるんじゃないのか? でも、こいつはまだ必要だ。仕返しするなら孫娘にタップリだ。

「もう一度だけチャンスをやるから、今度は失敗するなよ」

「分かっておる。冷気遮断の魔法陣を描けばいいだけだ。失敗する訳がなかろう。さあ、新しい樽を寄越せ」

「その必要はない。必要なのは地獄に行く為の魔法陣だ。この通り、天地創造剣・天動は手に入れて来たぞ」

 収納袋から白銀の神剣を取り出すと、爺さんに見せた。その驚いているような顔は、無いと思っていた物を僕が持って来たからなのか、それとも、あったとしても僕程度じゃ持って来れないと思っていたのか。さあ、どっちかな?

「まさか⁉︎ 本当にあったのか⁉︎」

 そっちか。

「空中氷山の中にあったから持って来た。次、失敗したらビンタじゃ済まないからな。僕のように命懸けで作業するだ。いいな!」

「分かっておる! ほれ、さっさと渡せ!」

「持ち逃げしようと殺すからな」

「そんな事はせん! 早く貸さんか!」

 少年のような瞳をした爺さんに神剣天動を嫌々ながらも渡した。一応は釘をささないと、何をするか分かったもんじゃない。転移魔法陣の仕組みを理解しているのなら、ここから逃げる事は簡単に出来る。爺さんを24時間監視するなんてやりたくもない。

「ふんふんふん~♬」

 何やってんだ? 気持ち悪いな。風呂に入っている時は鼻歌は絶対に禁止だからな。

 タイロンの爺さんは白銀の神剣に合う鞘を収納袋から見つけると、いくつもの小さな魔法陣を鞘に描き始めた。魔法陣の仕組みは正直分からないが、子供が地面に同じ魔法陣を描いても効果が出ない事は分かる。描いた魔法陣に魔力を流す事でやっと効果が出るらしい。

「よしよし。全てのサブ魔法陣がメイン魔法陣に繋がっているのなら、失敗しても被害を最小限に抑えられるぞ。まずは洞窟で一回目の実験をしないとの…」

 爺さんの独り言が聞きたくもないのに聞こえてきた。まったく最初から失敗する前提で動いたら駄目だろう。

「なぁ、一回で成功させる事は出来ないのか? それでも研究者かよ」

「何を言っている? 初めて見た魔法陣の仕組みがそう簡単に分かる訳がないだろう。魔物を倒すのと違って、こういうのは地道な検証作業の積み重ねが結果に繋がるんじゃ。儂を信用出来ないなら自分でやれ。自分で」

 くぅぅ~、ムカつく。自分で出来ないから連れて来たんだよ。やっぱり爺さん以外も連れて来るべきだった。特におっぱいの大きい若い女学者を連れて来るべきだった。

 どうする。残り時間は一ヶ月以上あるから、追加の研究者を秘密基地に連れて来る事は出来る。けれども、研究者というだけで秘密基地に連れて来るのは考えものだ。未知の技術を見せるなら、多少のリスクは覚悟しないといけない。特に悪用されたら、世界を救う意味がない。

「爺さん、最初の実験はいつ頃になるんだ?」

「二日もあれば、準備は出来る。お主はその間に神剣天動を自由に使えるようになっておれ。緻密な作業の邪魔だ。外に出て行け」

 爺さんの言い方はムカつくけど、ちょうど外に息抜きに出掛けたいと思っていた。二日もあれば十分に楽しめそうだ。ロンドンの高級売春宿にクレアが無事に戻っているか、確認ついでに行ってみよう。

 

 

 

 

 
 



 

 

 

 
 


 
 

 

 

 

 

 
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