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第2部 最終章 絶対絶命のF級冒険者
第47話 ウィルとマン島
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他に手が無いのならやるしかない。だが問題が二つある。一つは山と同じで高ければ高いほどに気温は低くなる。何の対策も用意せずに目的地を目指せば、辿り着く前に冷凍人間が完成してしまう。
次に二つ目だ。当然、剣が本当にあるかどうか分からないという点だ。ただ真っ直ぐに垂直に昇り続ける事は可能でも、一日かかるのか、一週間かかるのか。目的地までの距離が分からないと簡単に諦めて引き返す事も出来ない。
「低温対策は特製の容器に入っていれば大丈夫だろう。一日以上飛び続けて何も見つからなければ無いという事だ。やってみるか?」
「やるに決まっている。さっさと準備するぞ」
「くっく、任せておけ。その為にもMP蓄積装置を一つ使わせてもらうぞ。あれをちょっと改良すれば耐久性は十分だろ。あとは冷気を遮断して空気を取り込む装置がいるんだが、そこはギリギリまで蓋を閉めるのを我慢すれば必要ないか」
別に空気を取り込まなくても酸欠にはならない。酸素なら瓶に詰めて収納袋に入れられる。やっぱり冷気が最大の問題なんだよ。剣が実際にあったとして、行使力で抜けなかった場合は、外に出て腕で引き抜くしかない。そんなの瞬間冷凍庫の中に腕を突っ込むようなものだ。数秒で腕が凍り付く。
「全身鎧も作らないとな」
女兵士の一人とゴロゴロ、ダラダラと過ごしていると、爺さんの作業が終了したようだ。お呼びが掛かってしまった。名残惜しいけど行かないといけない。剣を見つけて世界の危機を救ったら、エミリアと結婚するんだ。さあ、出発だ。
「緊張感のない奴め。死にかけの老人に肉体労働をさせおって。ほれ、さっさと行って来い!」
用意する物はほとんどない。銀色の樽型MP蓄積装置を改良すればいいだけだった。まずは中身の機械部分を全部取り出して、本当にただの金属の樽にする。あとは内側に施された魔法陣を外側にも施すだけだった。タイロンの爺さんの説明では、これで外からの冷気の影響をほとんど受ける事はないらしい。こういう時は嘘でも絶対大丈夫と言うものだ。
多少の不安はあるものの、マン島に一番近いサブ転移魔法陣に出ると、西に向かって四時間飛行する。目指す島は海上に浮かぶ無人島だ。
「あれか。吸血鬼でも住んでいるんじゃないのか?」
海上は晴天だというのに、マン島だけが雷と雨が降り続いている。島の表面が長年の風雨で徐々に削られているようだから、島が無くなるのも時間の問題だ。島が無くなったら、この異常気象も無くなるのだろうか? 多分、天に刺さっている天動を抜かないと駄目そうだな。
第一段階完了かな。妨害なくマン島に上陸する事が出来た。前回のマーリンの洞窟のように待ち伏せしている兵士も兵器もないようだ。
「剣が刺さっていた場所に記念碑があるらしいから、まずはそこを目指すか」
朽ち果て崩壊した建物、地面を覆うツル草、所々に水溜りとは言えない小池がある。魔物はいないけど、動物はいるみたいだな。蛇に蜥蜴に蟹か。この異常気象の中でも植物も動物も逞しく生きている。
「まったく、人間は根性が足りん!」
まあ、それは置いておいて。人が住まなくなってから、まだ数百年。歴史の教科書には島の中央に刺さっていた誰にも抜けない剣を、島にやって来たS級冒険者が抜いたそうだ。その冒険者がガドガン侯爵家の祖先らしいけど、本当かどうかは誰にも分からない。貴族連中は自分達が神に選ばれましたという選民思考を持っているから、そういう嘘伝説とか平気で作るんだよな。
まあ、誰が本当に剣を抜いたかは別にいいんだよ。ここに本当に剣が刺さっていたのかが重要なんだ。本当は別の場所に刺さってあって、この島の異常気象が伝説っぽいからという理由で、記念碑を建てやがったら承知しないからな。今度はグリフィンを盗むだけじゃ済まないからな。
メイドは当然の事ながら、門番は男ならばボコボコ、女ならば僕の門番になってもらう。そして、現当主は素っ裸で街に放置してやろう。ひぃひひひ。
「ああっ、分かった。あれだ」
邪な事を考えていたら、あっという間に島の中心部に到着してしまった。これから当主夫妻をお城の何処に縛り付けるか検討する所だったのに残念。パッと見て剣が刺さっていた場所は直ぐに分かった。剣を抜いた瞬間の男の巨像が建っていたからだ。
「デカいなぁ~、身長5mはあるぞ。これだと巨人じゃないか」
魔法金属で作られた巨像が持っている剣は、実際の天地創造剣・地動よりも明らかに大きい。こういうのは脚色せずに実物大にするべきなんだよ。
「とりあえず仮設テントを作るか」
天地創造剣を取り出すと、黒岩で正方形の簡単な仮設テントを島の中心部に建てた。デコボコの地面は剣が刺さっていた窪みを避けて、他の部分はツルツルの綺麗な床に変えた。少し地面より高くすれば水も入って来ないだろう。ふぅ~、これで落ち着いて休憩と食事が出来そうだ。
ずぶ濡れの服のままでは落ち着かないので、炎魔法で焚き火を作ると、熱々の肉鍋を収納袋から取り出して昼食にする事にしよう。
「さて、現地に来て分かった事がある」
身体も温まり、服も乾いた。準備万端、あとは空に昇るだけだ。だが、問題がある。雷だ。爺さんの言う通り、魔法金属の樽の中に入っていれば上空の冷気を防ぐ事は出来そうだ。じゃあ、雷はどうやって防ぐ?
僕の予想ではあの落雷の数だ。軽く二十発は樽に直撃する。目的地に辿り着く前に外側の魔法陣は確実に破壊されるし、内側の魔法陣も確実に破壊される。そうなると、ほとんど木の樽に入っているのと変わらない。
雨に打たれるのはいいけど、雷には打たれたくない。黒岩で大きい傘を作って、樽を守る盾のようにするのはどうだろうか? 上空のある程度まではそこまで寒くはない。耐え切れる限界まで生身で進んで、そこから樽に乗り込めば、MPも節約出来るから上手くいくんじゃないのか?
「でも、その前に確かめる事があるな…」
チラッと地面の窪みを見る。剣が刺さっていた場所だ。剣を抜いたから異常気象になったのなら、剣を元の場所に突き刺せば、異常気象が収まるかもしれない。百聞は一見に如かずだ。やってみれば答えは直ぐに分かる。
『セィヤァ‼︎』
深々と大地の底に突き刺すように、天地創造剣を地面に突き刺した。
『ビュービュー。ゴロゴロ…ピィシャン‼︎』
強風が吹き荒れ、雷が近くに落ちたようだ。
「………さあ、回収するか」
しばらく待ったが変化はなかった。剣を地面から引っこ抜くと、地面に座り直した。しっかりと休んで、ここまで来るのに消費したMPを回復しないといけない。回復したら出発だな。
四時間飛んだら、二時間休め。そんな感じで回復は完了した。収納袋に女兵士の一人ぐらい隠し持っていてもよかったかもしれない。だが、爺さんとの約束通り、町の近くで全員解放してきた。この作戦が失敗したら、袋から出る事が出来ないので、僕と共に死ぬ事になる。
秘密基地に置いておいても大丈夫ならそうしたかもしれないけど、爺さんが勝手に逃してしまう。爺さんを袋に入れた場合は逃げられる心配はないけど、僕が死んだら、あの秘密基地で餓死する事になる。秘密基地は誰にも見つからない場所にあるから便利だけど、こういう時に困ってしまうな。いや、一人だけ洗脳して食糧調達係にしていれば問題なかったのか。
「くっ、ミスったな。今度からは気をつけよう」
失敗は誰にでもある。間違えたら今度は失敗しないように気をつければいいんだ。さて、人間の限界を確かめに行くとしよう。
次に二つ目だ。当然、剣が本当にあるかどうか分からないという点だ。ただ真っ直ぐに垂直に昇り続ける事は可能でも、一日かかるのか、一週間かかるのか。目的地までの距離が分からないと簡単に諦めて引き返す事も出来ない。
「低温対策は特製の容器に入っていれば大丈夫だろう。一日以上飛び続けて何も見つからなければ無いという事だ。やってみるか?」
「やるに決まっている。さっさと準備するぞ」
「くっく、任せておけ。その為にもMP蓄積装置を一つ使わせてもらうぞ。あれをちょっと改良すれば耐久性は十分だろ。あとは冷気を遮断して空気を取り込む装置がいるんだが、そこはギリギリまで蓋を閉めるのを我慢すれば必要ないか」
別に空気を取り込まなくても酸欠にはならない。酸素なら瓶に詰めて収納袋に入れられる。やっぱり冷気が最大の問題なんだよ。剣が実際にあったとして、行使力で抜けなかった場合は、外に出て腕で引き抜くしかない。そんなの瞬間冷凍庫の中に腕を突っ込むようなものだ。数秒で腕が凍り付く。
「全身鎧も作らないとな」
女兵士の一人とゴロゴロ、ダラダラと過ごしていると、爺さんの作業が終了したようだ。お呼びが掛かってしまった。名残惜しいけど行かないといけない。剣を見つけて世界の危機を救ったら、エミリアと結婚するんだ。さあ、出発だ。
「緊張感のない奴め。死にかけの老人に肉体労働をさせおって。ほれ、さっさと行って来い!」
用意する物はほとんどない。銀色の樽型MP蓄積装置を改良すればいいだけだった。まずは中身の機械部分を全部取り出して、本当にただの金属の樽にする。あとは内側に施された魔法陣を外側にも施すだけだった。タイロンの爺さんの説明では、これで外からの冷気の影響をほとんど受ける事はないらしい。こういう時は嘘でも絶対大丈夫と言うものだ。
多少の不安はあるものの、マン島に一番近いサブ転移魔法陣に出ると、西に向かって四時間飛行する。目指す島は海上に浮かぶ無人島だ。
「あれか。吸血鬼でも住んでいるんじゃないのか?」
海上は晴天だというのに、マン島だけが雷と雨が降り続いている。島の表面が長年の風雨で徐々に削られているようだから、島が無くなるのも時間の問題だ。島が無くなったら、この異常気象も無くなるのだろうか? 多分、天に刺さっている天動を抜かないと駄目そうだな。
第一段階完了かな。妨害なくマン島に上陸する事が出来た。前回のマーリンの洞窟のように待ち伏せしている兵士も兵器もないようだ。
「剣が刺さっていた場所に記念碑があるらしいから、まずはそこを目指すか」
朽ち果て崩壊した建物、地面を覆うツル草、所々に水溜りとは言えない小池がある。魔物はいないけど、動物はいるみたいだな。蛇に蜥蜴に蟹か。この異常気象の中でも植物も動物も逞しく生きている。
「まったく、人間は根性が足りん!」
まあ、それは置いておいて。人が住まなくなってから、まだ数百年。歴史の教科書には島の中央に刺さっていた誰にも抜けない剣を、島にやって来たS級冒険者が抜いたそうだ。その冒険者がガドガン侯爵家の祖先らしいけど、本当かどうかは誰にも分からない。貴族連中は自分達が神に選ばれましたという選民思考を持っているから、そういう嘘伝説とか平気で作るんだよな。
まあ、誰が本当に剣を抜いたかは別にいいんだよ。ここに本当に剣が刺さっていたのかが重要なんだ。本当は別の場所に刺さってあって、この島の異常気象が伝説っぽいからという理由で、記念碑を建てやがったら承知しないからな。今度はグリフィンを盗むだけじゃ済まないからな。
メイドは当然の事ながら、門番は男ならばボコボコ、女ならば僕の門番になってもらう。そして、現当主は素っ裸で街に放置してやろう。ひぃひひひ。
「ああっ、分かった。あれだ」
邪な事を考えていたら、あっという間に島の中心部に到着してしまった。これから当主夫妻をお城の何処に縛り付けるか検討する所だったのに残念。パッと見て剣が刺さっていた場所は直ぐに分かった。剣を抜いた瞬間の男の巨像が建っていたからだ。
「デカいなぁ~、身長5mはあるぞ。これだと巨人じゃないか」
魔法金属で作られた巨像が持っている剣は、実際の天地創造剣・地動よりも明らかに大きい。こういうのは脚色せずに実物大にするべきなんだよ。
「とりあえず仮設テントを作るか」
天地創造剣を取り出すと、黒岩で正方形の簡単な仮設テントを島の中心部に建てた。デコボコの地面は剣が刺さっていた窪みを避けて、他の部分はツルツルの綺麗な床に変えた。少し地面より高くすれば水も入って来ないだろう。ふぅ~、これで落ち着いて休憩と食事が出来そうだ。
ずぶ濡れの服のままでは落ち着かないので、炎魔法で焚き火を作ると、熱々の肉鍋を収納袋から取り出して昼食にする事にしよう。
「さて、現地に来て分かった事がある」
身体も温まり、服も乾いた。準備万端、あとは空に昇るだけだ。だが、問題がある。雷だ。爺さんの言う通り、魔法金属の樽の中に入っていれば上空の冷気を防ぐ事は出来そうだ。じゃあ、雷はどうやって防ぐ?
僕の予想ではあの落雷の数だ。軽く二十発は樽に直撃する。目的地に辿り着く前に外側の魔法陣は確実に破壊されるし、内側の魔法陣も確実に破壊される。そうなると、ほとんど木の樽に入っているのと変わらない。
雨に打たれるのはいいけど、雷には打たれたくない。黒岩で大きい傘を作って、樽を守る盾のようにするのはどうだろうか? 上空のある程度まではそこまで寒くはない。耐え切れる限界まで生身で進んで、そこから樽に乗り込めば、MPも節約出来るから上手くいくんじゃないのか?
「でも、その前に確かめる事があるな…」
チラッと地面の窪みを見る。剣が刺さっていた場所だ。剣を抜いたから異常気象になったのなら、剣を元の場所に突き刺せば、異常気象が収まるかもしれない。百聞は一見に如かずだ。やってみれば答えは直ぐに分かる。
『セィヤァ‼︎』
深々と大地の底に突き刺すように、天地創造剣を地面に突き刺した。
『ビュービュー。ゴロゴロ…ピィシャン‼︎』
強風が吹き荒れ、雷が近くに落ちたようだ。
「………さあ、回収するか」
しばらく待ったが変化はなかった。剣を地面から引っこ抜くと、地面に座り直した。しっかりと休んで、ここまで来るのに消費したMPを回復しないといけない。回復したら出発だな。
四時間飛んだら、二時間休め。そんな感じで回復は完了した。収納袋に女兵士の一人ぐらい隠し持っていてもよかったかもしれない。だが、爺さんとの約束通り、町の近くで全員解放してきた。この作戦が失敗したら、袋から出る事が出来ないので、僕と共に死ぬ事になる。
秘密基地に置いておいても大丈夫ならそうしたかもしれないけど、爺さんが勝手に逃してしまう。爺さんを袋に入れた場合は逃げられる心配はないけど、僕が死んだら、あの秘密基地で餓死する事になる。秘密基地は誰にも見つからない場所にあるから便利だけど、こういう時に困ってしまうな。いや、一人だけ洗脳して食糧調達係にしていれば問題なかったのか。
「くっ、ミスったな。今度からは気をつけよう」
失敗は誰にでもある。間違えたら今度は失敗しないように気をつければいいんだ。さて、人間の限界を確かめに行くとしよう。
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