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第2部 最終章 絶対絶命のF級冒険者

第42話 ウィルと転移魔法陣

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 光の魔法陣の上に立つと一瞬で別の場所に移動させられた。世界の何処か別の場所に瞬間移動させられたのか、はたまた、夢や幻といった特殊な空間に引き摺り込まれたのか、さて、どちらだろうか?

【大賢者の秘密基地】 大賢者マーリンが作りし魔法空間。世界数カ所に存在する出入り口から出入りする事が可能。

「なるほどね。ちょっと探索させてもらいますか」

 広い部屋の中は蜘蛛女の洞窟実験室に似ている。ベッド、トイレ、キッチン、研究室、資料室と部屋数も結構ある。一人暮らしだったとは思うけど、これなら愛人との秘密基地にも十分に使えそうだ。部屋の壁にかかっている地図の小さな赤い丸印が、秘密基地への出入り口がある場所だと思う。マーリンの洞窟にもしっかりと赤丸が書かれていた。

「ギルド長はこんな場所を見つけても何もしなかったのか?」

 資料室にある本や手書きの資料はどう見ても、今の地獄世界に人が生きていた時の貴重な資料だ。それも大賢者と呼ばれる人の資料ならば歴史的な大発見になる。公表する事で世界中に混乱と衝撃が走るだろうけど、それを差し引いても公表するだけの価値は十分にある。

「内容はさっぱり分からないけど、この辺は瘴気と魔物化の研究資料で、こっちは魔物の知性化と人間の魔物化の実験データだな」

 蜘蛛女が似たような実験をしていたので、この辺りの資料は何となく分かる。こっちの資料には瘴気砲を使った星の外への瘴気の放出実験と書かれている。ガドガン侯爵はただの瘴気の排気口を兵器に改良したようだ。だとしたら、この秘密基地にも来たか、もしくは資料の一部をギルド長に渡されたのだろう。

「賢者の壺を見つけた場所を個人的に聞き出していたのかもしれないな」

 途中から発明品が日用品から兵器に変わったのはこういう事か。天才的な発明家だと思っていた侯爵が、ただの他人の研究データ丸パクリ野朗だという事は分かった。

 もう、それはこの際どうでもいい。おそらくは赤丸印の出入り口を使って、強制的に地獄の瘴気を間獄世界を飛び越えて、新世界に送っているのだろう。丸印が書かれている場所の魔法陣を破壊すれば、僕の任務は完了という訳だ。

 まずは資料室から魔法陣を破壊するか、停止する方法が載っている本か資料を見つけなければならない。馬鹿みたいに手当たり次第に機械や装置を叩いて壊せば問題解決するなんて思ったら駄目だ。神眼の指輪で機械や装置もしっかりと確認しないといけない。止めたら止めたらで何かしらの悪い事が起きる場合もある。

「それもしても凄いな。地獄世界から動いている装置なら何億年単位で動き続けているんじゃないのか?」

 誰が作ったかは知っているけど、大賢者マーリンという名前だけだ。これで不死者でもの凄い美少女だったらどうするんだよ。まだ探していない部屋で、『君が来るのをずっと待っていたよ』とかスケスケの寝巻き姿で言われたら、思わず小躍りしちゃうよ。

 コホン。まあ、それはない。秘密基地の中からは魔力も誰かの気配もしない。僕をここまで誘き寄せた誰かが待ち受けてはいなかった。それに瘴気砲を避ける為に空けた地面の穴も埋めたから、僕が死んでいると思ってくれているはずだ。この場所に入るにも台座は破壊されている。行使力を使えなければ追っ手も来られない。

 一先ず安全地帯と言ってもいい。あとは別の場所にある出入り口を封鎖すれば、より完璧になるんだけどね。

「この辺の装置は空調や水道関係か。この秘密基地を維持させる為の装置ばかりだな。何処か別の部屋に内部ではなく、外部にリンクした装置があるのかもしれない」

 キッチンにある白い金属の箱の扉を開くと、中に入っている食糧品を調べてみる。案外、こういう所に秘密のボタンが隠されている場合がある。まあ、残念ながらハズレだったけど、中に入っていた得体の知れない野菜を手に入れた。あとでサークス村で作ってみようかな。絶滅種の野菜だから貴重品だぞ。お土産にもピッタリだ。

 金持ちのように大事なものを隠すとなると、絵の裏とか、床下か。秘密基地の中に更に秘密の部屋を作ったのなら、かなり警戒心が強いけど、艶々の茶色いフローリングの床、白い壁、窓は一つも無い。建物の構造を外から見れたとしても隠せるような空間はない。つまり、これが答えだ。

「制御する装置を最初から作っていないのなら、転移装置は全てが機械兵士と同じように単体で稼働している事になる。要するに止めるには壊すしかないという事だ」

 ちっ。密会場所が手に入ったと思ったのに。何とかこの世界の転移装置を破壊するだけで済めばいいけど、新世界の密会場所は手放すつもりはないぞ。

 とりあえず丸印のある場所を記録してと。あとは一つずつ破壊して回る事になるけど、そんな面倒な事はしたくはない。この秘密基地を壊すだけで問題が解決すればいいけど、この秘密基地には瘴気がまったく無い。つまりはここを経由している訳じゃない。

「瘴気の排気口か…」

 賢者の壺から出ている瘴気は地獄の瘴気だ。つまりは地獄から賢者の壺を通って新世界に流れている事になる。だとしたら、この間獄世界と新世界の転移装置を破壊する事に意味はない。壊すのならば地獄にある転移装置26個だけでいい。

 地獄の転移装置の移動先が賢者の壺なのは分かった。でも、それが一方通行だから、その装置を止めるには地獄に行かないといけない。問題は、じゃあ、どうやって地獄に行くかだ。

 神龍の言う通りなら、魔法陣を調べれば地獄に行けるらしいけど、この基地に魔法陣は見当たらない。魔法陣が見えたのは外で行使力を使った時だけだ。

「んっ⁇ ああっ、使えばいいのか」

 また同じ失敗をする所だった。見えない魔法陣ならば見えるようにすればいいのだ。でも、神眼の指輪でも見る事が出来ない魔法陣なんて、神様対策なのか? もしかすると、この秘密基地に隠れていれば、消されずに生き残れると思ったんじゃないのかな。まあ、見た感じ無理だったようだけどね。

『秘密基地にある全ての魔法陣と姿を見せよ!』

 マーリンの洞窟の転移装置、いや、資料を見る限り正式な名前は転移魔法陣か。それを行使力で動かせる事は出来た。だったら、この基地にも魔法陣があるのならば反応するはずだ。さて、結果はどうかな?

「よし、ビンゴ♬」

 フローリングの床に番号が書かれた金色に光る魔法陣が浮かび上がった。番号は『3』と書かれていたので、この番号がおそらく転移する場所になるはずだ。なるほど、なるほど。世界中に設置されている26個転移魔法陣にここから自由に行けるという事か。

【メイン転移魔法陣】 対応する1~26のサブ転移魔法陣に移動する事が出来る。

 神眼の指輪でこの魔法陣の機能は大体分かった。このメイン魔法陣を破壊すれば、サブ魔法陣も機能しなくなる。わざわざ地獄にあるサブを全部壊さなくても、メイン魔法陣を一つ破壊すればいいという訳だ。それならかなり楽になる。

「あとはここから地獄に行く方法を見つけるだけだけど、大賢者と同じやり方をすればいいだけだ。必要なのは大量の瘴気と魔力とMPだ。ふっふ、ちょうどタイミングがいい事に、外に瘴気とMPを蓄積させる装置があるじゃないか!」

 千人ぐらいの兵士達をボコボコすれば、瘴気とMPを集める協力をしてくれるはずだ。ついでに女兵士達にもこの基地で資料を探す手伝いをしてもらえばいい。ああ、でも、ついでに手伝ってもらうなら、リチャード伯爵のお気に入りの爆乳メイドにも参加してもらおう。うんうん、それが一番いい。

 

 

 
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