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第2部 第2章 帰って来たF級冒険者

第37話 ウィルと最後の売春宿

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「まったく、僕の許可を得ないで、勝手に懸賞金を掛けるなよな。ヨッと…」

 爺さんに言われた通りに窓から出る事にした。五階のトイレに入ると、頭よりも上に設置されて窓によじ登って外に出た。廊下の窓から出たら目立ってしまう。さて、このまま浮遊したまま屋上を目指して、そこからはグリフィンを使おう。ここからは時間との勝負になる。

 今頃、爺さんはナースコールを連打して、優秀な部下を呼び出しているだろう。おそらく、その部下達が僕がロンドンに向かう事を各地の冒険者ギルドに伝書鳩を使って知らせているはずだ。この街の高級売春宿でタップリと遊んでからロンドンに行くと、きっとA級冒険者三百人ぐらいが僕を熱烈に大歓迎してくれるぞ。いやぁ~、嬉しいなぁ~。

「はい、冗談はこの辺にしておいて。やっぱり、行使力の効果は永久ではないらしい」

 僕に関係した新聞記事はクレアやミランダの親御さん達と会った時に読ませてもらったけど、どう見ても、蜘蛛女と僕を取り調べた調査官達の記憶が戻っている。そうじゃないと、僕に不利なあんな情報が載っているはずがない。

 行使力の効果が切れるのだとしたら、ギルド長の死体を見た息子が犯人達の事を詳しく証言する事が可能になる。僕、アシュリー、エミリアの三人が殺人犯として王国で追われるのは当然の結果だ。

 そして、三人の中で懸賞金を掛けて遠慮なく捕まえて、ブッ殺す事が出来るのは、村人の僕しかいない。まあ、それはいい。女性二人が賞金首だという理由で捕まって、大勢の男達にあんな事やこんな事をされるよりは僕の犠牲で済むのなら。

「さあ、出番だぞ。全速力でロンドンまで飛ぶんだ。途中で伝書鳩に追い抜かれたらボコボコだからな」

『クウァッ!』

 もうグリちゃんとはマブダチ親友だから、犬耳カチューシャを使う必要はない。きっと、『喜んで』とか言っているはずだ。グリフィンの背中に飛び乗って跨がると、左腹を左足で蹴って早く飛べと教えてあげる。アシュリーなら五回は蹴るのに、僕は一回だけだ。マブダチなら当たり前だね。

「しまった‼︎ 僕とした事が…」

 街を出発してから30分、とんでもない失敗をしてしまった事に気付いてしまった。マンチェスターからロンドンまではグリフィンで約30時間の距離だ。もちろん休憩時間1秒も無しで30時間だ。その間、暇過ぎる。

 僕が愛読する冒険者恋愛白書の言葉で、『女は男の寂しさを紛らわせる為に存在している』があるけど、その通りだ。ケイティを連れて来るべきだった。おそらくだけど、まだ誰もグリフィンの背中の上での空中プレイはしていないはずだ。歴史的な瞬間になるはずだったのに、くぅぅ~~。

 悔しい思いを必死に抑えて、次なる目的地を目指さなくてはならない。ロンドンまでの途中にある町や村に寄り道する事は出来ないのだ。でも、賢者の壺が置いてあった場所を調べて、魔法陣みたいなものを破壊すれば僕の旅は終わってしまう。新世界に無事に帰れば、エミリアとの新婚生活があるかもしれないけど、それだけだ。

 そもそもだ。結婚しても僕が村でやる事なんてほとんどない。王様や貴族達が忙しいのは国民の数が多いからだ。僕だってサークス村の人口が千人近くいたら、暇なんて言っていられない。毎日大忙しだよ。

 でも、わざわざ忙しくなる為に人口を増やすつもりはないし、それに人口を増やせば増やすほどに瘴気が多く発生するから、村の人口は今のままでも良いんじゃないのか? 

 少なくとも世界の人口なんて百人ぐらいでいいんだよ。沢山いたら喧嘩するし、戦争するし、そうだよ。子作りなんてしなくていいんだよ。人間は家畜じゃないんだから無意味に増やしても意味ないんだよ。よし、サークス村の掟では子供は女性一人に一人までとしよう。

「はぁ…まだ二時間しか経っていない。この調子だと、ロンドンに着く頃には村の新しい掟が10個ぐらい作れちゃうぞ」

 暇なので後方の空を振り返って見る。マンチェスターからの追っ手は誰も来ていないようだ。このまま何事もなくロンドンまでは行けるのだろう。この大空をグリフィンよりも速く飛ぶ魔物や動物には、そうそう遭遇する事はない。安心して背中の上に寝っ転がってもいいし、酒とスルメイカで一杯やるのもいい。

 でも、やる事があるとしたら最悪の事態に備えての準備だ。ロンドンで手掛かりが手に入らなかった場合は、それこそ終わりなのだ。賢者の壺を侯爵が見つけた物じゃない事は分かった。だから、もう侯爵の冒険者手帳を調べても手掛かりはない。唯一の手掛かりは死んだギルド長が持っている。

「調べるとしたら、冒険者ギルド、ギルド長の家族と家と冒険者手帳、あとは高級売春宿でギルド長と一緒にいた、クレアというおっぱいの大きかった子かな?」

 パッと思い付いたのは五個ぐらいだけど、賢者の壺なんて凄い魔法具が発見されたのに、新聞記事には一度も載っていない。だとしたら、隠し財産だったのだろう。でも、その隠していた物を侯爵が何処かで知ったと考えたらどうだろうか?

 侯爵とギルド長の共通点はロンドンに住んでいた事と、どちらも凄腕の冒険者だという事。あとは無類の女好きだという事だ。売春宿経由で情報が侯爵に渡った可能性が一番高いだろうな。

「家族、売春宿の順番で調べてみるか」

 ❇︎

『シャアァァ~~』

 ロンドンに到着したのが夜だから泊まる所を探していたら、ちょうど高級売春宿が目に入ってしまった。とりあえず、ベッドに寝る前に身体の汚れと汗をシャワーで洗い流さないといけない。

「ふぅ~、さっぱりした」

「こちらにどうぞ。ご主人様、お身体を拭いてもよろしいでしょうか?」

「ああ、頼むよ」

 バスローブを脱ぐと、ベッドの上に座っていたクレアに、濡れた身体を拭いてもらう事にした。背中まで届く長い茶色のロングヘアに、身長170cm、バスト90(G)という恵まれた身体で世の男達を虜にしている。

「そういえば、ベルガーギルド長がお得意さんだったらしいね? やっぱり侯爵家のアシュリー様と駆け落ちしたんだろうね」

 まずは軽く探りをいれてみる。話に乗ってくれないようならば、ギルド長の話題には触れられたくないという事になる。つまりはギルド長とは、ただのお客様以上の深い関係だという事になる。

「そういう噂もありますね。でも、私が聞いた話では殺されたそうですよ。ある三人組がギルド長の誕生日に襲撃して、死体まで持ち去ったそうです。そうそう、お客様のような黒髪のウルフカットの男性もいたらしいですよ」

「へぇ~、そうなんですか」

 何の動揺も見せずに、クレアは仁王立ちした僕の身体をタオルで拭き続けている。冗談なのか本気なのか分からないけど、動揺したら負けだ。それに黒髪の若い男なんて沢山いるからバレる訳がない。

「さあ、綺麗になりましたよ。どうしますか? もう少しお話ししますか、それとも、もう寝ますか?」

「いや、寝る時間はないよ。欲しいのは情報だから」

「あの、お客様は何をしに…」

 今日はお客様として寝るつもりで売春宿に来たつもり訳じゃない。クレアと誰にも邪魔されずに二人っきりで話すには、お客様になるのが一番簡単な方法だったからだ。

『質問に全て素直に答えるんだ』

「はい…」

 明日の朝までにはロンドンから出るつもりだ。クレアから賢者の壺の情報が手に入れられなかった場合は、夜中にギルド長の家に忍び込む予定だ。それに睡眠ならば、グリフィンの上で十分に取った。これ以上は不要だ。

「ベルガーギルド長が賢者の壺を見つけたのは知っているね?」

「はい、洞窟を調査している時に秘密の部屋を見つけたそうです」

「そう。その洞窟は何処にあるのかな?」

「海岸近くの洞窟らしいです」

「どの辺の洞窟で、何ていう名前の洞窟かな?」

「分かりません」

 終わった。イングランド王国もスコットランド王国も海に囲まれている。洞窟なんて腐る程にある。洞窟の名前が分からないと探しようがない。それでも捜索範囲は千分の一ぐらいには減ったけど。

「その洞窟の事は家族は知っているんだよね?」

「分かりません。家族の事は話さない人でしたから」

 そんなのどうでもいいんだよ! 知りたいのは洞窟の名前と秘密の部屋への入り方だよ。まったく、やっぱりギルド長の家に忍び込まないと駄目じゃないか!

 



 

 



 

 

 

 


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