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第2部 第2章 帰って来たF級冒険者

第33話 ウィルと暴力的な正義

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『名前・コナー 職業・初級剣士 冒険者ランク・E級 レベル38 HP1299 MP256 攻撃力78 物理耐性74 魔力93 魔法耐性167 敏捷174 年齢17歳 身長165cm 体重57kg』

 コナーとは半年以上も会っていなかった所為か、髪も身長も少し伸びていた。前は丸坊主だったけれど、今はベリーショートとはいえ、艶々の黒髪がハッキリと見えている。アシュリーがコナーの事を生意気な新米冒険者とか言ってたけど、どう見ても好青年じゃないか。あの時にわざと負けてよかったよ。あっははは、違うか。

「コナー、随分と仲間が増えたんだな。お前の仲間達か?」

 ゾロゾロ、ゾロゾロと槍や弓の鋭い部分が僕の方に多数向いている。まだ容疑者の段階ならば、こんな風に攻撃体勢に入るのは少しやり過ぎだと思う。これだと容疑者ではなくて犯人だ。

「違います。今はソロで活動しています。新聞で先輩の村で集団神隠し事件があったと知って、その容疑者に先輩がされているんです。僕の所為かと思うと、気になって仕事なんて出来ませんよ」

「まさかと思うけど、あの時、僕がコナーに負けたから、自暴自棄になって大事件を起こしたと考えているのなら、それは大間違いだから。そもそも僕がそんな事をする人間じゃないって知っているだろう?」

「ええ、先輩が真面目な人だという事は知っています。けれども、真面目な人ほど一度壊れると脆いという事も知っています。申し訳ありませんが武器を置いてもらえないでしょうか?」

 コナー達がやろうとしている事は大体分かる。僕を一番近くの街に護送するのだろう。そこで本格的な取り調べを受ける事になる。けれども、その間に同じような事を何度も質問する。それは彼らの満足する答えを僕が言うまで繰り返される。

 今回の場合は僕が四人の女性を何処かに監禁して、欲望を満たしていると言わせたいのだろう。そんなくだらない事に付き合うつもりはない。こっちは急いでいるんだ。

「はぁ…それは無理だよ。僕は結構忙しいんだ。君達の勘違いで勝手に犯人にされて、貴重な時間を浪費したくない。これから神隠しにあった人達の親御さんに会うんだ。邪魔するのなら力尽くで退かせてもらうよ」

「ウィル先輩、無駄な抵抗はやめてください。僕達は町娘や村娘とは違うんです。怪我では済みませんよ。お願いします。大人しく武器を置いてください」

 残念だけど、コナーのお願いは聞いてあげる事は出来ない。この十二人で一番強い人でもレベル52のE級だ。ハッキリ言えば侯爵家の庭師見習いよりも弱い相手に怪我させられる事はない。悪いけど、このままユンの家まで歩かせてもらうよ。

「ちっ、邪魔だ! 知り合いだから任せたのにF級冒険者に舐められてんじゃねぇよ。待てよ、変態! 逃げんじゃねぇよ!」

 コナーを押し退けて、一人の気性の荒い冒険者が掴み掛かって来た。どうやら、神隠しの犯人を捕まえてヒーローにでもなりたいらしい。ヒーローになって女子にモテたい気持ちは分かるけど、誤認逮捕なんかしたら、評判ガタ落ちで冒険者資格も剥奪されてしまう。

 だから、そうならないように優しい僕が、彼の鍛え上げられた腹筋に、優しく腹パンチして倒してあげる事にした。

『ごふっ‼︎ ゔゔっっ…』

 何の反応も出来なかった男の腹部にドォスっと左拳が少しめり込んだ。蟻を潰す程度に殴ってやったのに、無性ヒゲの男は地面に両膝を付けると、腹を押さえて苦しんでいる。はい、演技ならやめてくださいね。高額な治療費を請求してもお金ならありませんからね。

『こいつ、殴りやがったぞ‼︎』

「それが何か? いきなり掴み掛かって来たのはこの男ですよ。悪いのがどちらなのか見れば分かるでしょう。それとも僕が犯人だという証拠でもあるんですか? 変な言い掛かりを付けてきて、久し振りに村に帰って来た住民を暴行するのが、最近の警備兵の仕事なんですか?」

『舐めれてんのか‼︎ てめぇが大人しく武器を捨てないからだろうが! さっさと武器を捨てろよ。今なら土下座して泣いて謝れば、半殺しで許してやるよ』

 品の無い冒険者が何人か混ざっているようだ。とりあえず血の気が多い冒険者には、この機会に村から出て行ってもらおう。そんな奴に村に居座られたら、それこそ村娘に何をされるか分かったものじゃない。

「ねぇ、自分で言ってて恥ずかしくないの? そっちが泣いて土下座するんだよ。だって悪いのはそっちだろう?」

「はぁ~、もういい。やっぱり女を監禁する奴はここがイカれている。お前達、構わない。町に連れて行けば回復魔法が使える奴が二、三人はいる。手足の三、四本は折っても問題ないぞ」

 紺色の短い髪を立ち上げた、この軽鎧の男が警備隊のリーダーのようだ。おそらく、リーズの町から派遣されて来たのだろう。自分の住んでいる町の町娘が被害にあっているからといっても、ちょっと対応が過激過ぎる。犯人を早く捕まえて町に帰りたいのかもしれないな。

『『『おい、まだ謝る時間はあるぞ。
   へっへへ、謝っても遅いけどな。
   いいや、駄目だ。五、六発殴れば素直に色々と吐くさ』』』

 さて、剣を鞘から抜いて、槍の穂先を僕に向けているコイツらの言っている事が正しいのなら、僕の頭はイカれているらしい。やれやれ、コイツらの言っている事は滅茶苦茶だ。僕を暴力で倒せれば、僕がイカれている証拠にでもなるのかい?

 そんなのは自分より弱い人間は全員間違っていて、イカれていると言っているようなものだ。強さが絶対の正義じゃないだろう? そんな暴力的な正義はこの平和な村に必要ない。出て行ってもらう。

 

 





 
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