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第2部 第1章 新世界のF級冒険者
第21話 ウィルとガーゴイル
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レベル96、113、189か。僕も舐められたもんだ。右足に力を込めると『よーい、ドン』の掛け声と共に一気に前に踏み込み、エミリオの目の前まで移動する。この三人相手に神龍剣は必要ない。素手でも十分にお釣りが来る。それぐらいの雑魚だ。
「ごぉはっ…‼︎」
『ガァシャーン‼︎』
まったく反応出来なかったエミリオの喉元を右手で鷲掴みにすると、そのまま窓を突き破って外に連れて行く。外野の女性二人は無傷で捕らえたいので、広い中庭に叩き落としてからの公開ボコボコを決行する。
『馬鹿者が! 手加減しろと言っただろう!』
宙に浮いて右手の荷物を石畳に落とすか、芝生に落とすか考えていると、左腰の神龍剣が騒ぎ出す。文字通り、そこまで右手には力は入れていない。
「見て分かるだろう。手加減はしているよ。そうじゃなきゃ首と胴体がお別れしているよ。ほら、さっさと落ちろよ」
「ぐっ…この化け物がっ!」
掴んでいた首から右手を離すと、地上12mの高さからエミリオが真下に向かって落ちて行く。まあ、ボコボコにしていいと言ったのは神龍だ。それに魔法使いならばこの程度の高さから落ちても死んだりはしない。もちろん打ち所が悪くなければの話だ。
『風よ集え‼︎ そして、吹き荒れろ‼︎』
エミリオは落下しながらも短剣で空中に円を描くと、自分の足元に突風を集めて、ゆっくりと地面に降下して行き着地した。そして、着地すると素早く短剣を振り上げて、鋭い竜巻の塊を僕に向けて打ち上げた。
「遅過ぎる…」
向かって来た行使力を込めた竜巻の砲弾を軽々と回避する。あんな遅い攻撃が僕に当たる事は絶対にない。
「これだから白シャツに黒ベストを着た奴は嫌なんだよ」
エミリオの服装は白シャツに黒ベストに黒スラックス、これから会社に出勤するんですか? と思わず聞きたくなってしまう。スラッと手足も長く、薄紫の髪もジェルで綺麗にセットされている。僕のような愛嬌のあるご当地アイドル冒険者を少しは見習って欲しい。まずは髪型から丸坊主にしてあげよう。麦わら帽子を被れば少しは愛嬌が出るはずだ。
「ふぅ…何が目的なんだ? 私を殺す事が目的ならば初手で首をへし折る事も出来ただろう。金か、女か、物資か、何を求めてやって来た」
一呼吸するとエミリオは落ち着いて話し始めた。流石は白聴会によって選ばれたアダム役だ。僕なら土下座して涙と鼻水を流しながら助けを求めていたかもしれない。さて、話しがしたいようだから、僕も中庭に下りるとしよう。
「別に個人的な目的はないよ。お前をボコボコにする事である探しものが見つかるかもしれない。だから、半殺しさせてもらうよ」
「おかしな奴だ。私が黙って半殺しになると思っているのか? このエジンバラ城はもう本来の要塞として機能している。半殺しになるのは、さて、どっちらかな?」
はっは、僕にハッタリが通用すると思っているのなら大間違いだ。その証拠に僕に通用しないと見ると、もう蹲み込んで両手を中庭の石畳に付けている。まったく、お前のお父様は土下座の仕方も教えてくれなかったらしい。ほら、早くパンツ一枚になって、地面にオデコを擦り付けるんだ。
「んっ…? これは…?」
グラグラと足元が揺れ始めた。いや、違う。揺れているのは一部分ではなくて、視界に入る古城全体のようだ。これだけの大規模な範囲魔法を一人で使えるとは思えない。随分と前から準備していたのだろう。用意周到、ご苦労様な事だ。
「たった一人の化け物相手に、用意した数万体のガーゴイル兵を使う日が来るとはな。さあ、殺れ!」
エミリオの合図を切っ掛けに石畳や石垣から鳥、狼、虎、人間、ゴーレムといった石像の怪物達が、石の中を通り抜けるように次々と現れた。
「ふっ…たったの数万体か」
石像達の首が一斉にギギギィと動いて、その灰色の目が僕に集中する。『殺す殺す殺す』という明確な冷たい殺意が、僕の肌を僅かに震わせた。面白い、掛かって来いやぁ‼︎
『なるほどな。行使力で単純な命令を与えた非生命体の兵士か。新世界に到着して直ぐに国防に力を注ぐとはな。何を恐れている? この世界に敵はいないぞ』
「神龍ドライグか。愚かな、世界は繰り返される。魔物も敵もいずれは内からも外からも現れる事になる。その時に備えた者は生き残り、何もしなかった者は全てを奪われるのだ。到底、世界の始まりから終わりまでを見て来た神龍の台詞とは思えぬな」
『だからこそだ。敵とは自らの手で作るものだ。お前の恐れがお前の敵を作っている。この石像の怪物達は、さて、お前の味方か、敵か。意思を持たぬ石ころに、攻撃の意思を持たせる事を愚かと言わずに何と言う?』
ハァッ‼︎ ヤァッ‼︎ 二人の難しい話はさっぱり分かんない。僕は両手の拳をしっかりと握り締めて、襲い掛かって来る石像の怪物達を殴って砕く。そろそろルール変更で武器を使わせていただきます。
『ハァッ‼︎』
左腰から神龍剣を引き抜くと、3m越えのゴーレムの胴体を真横に一刀両断してから、右足を軸にした回し蹴りでゴーレムの上半身を後方に蹴り飛ばす。飛んで来たゴーレムの砲弾に後方の数十体の石像が粉々に押し潰されていく。日頃のストレス発散にはちょうどいい相手だ。
「そろそろか…」
エミリオが上空を飛んでいる大量のガーゴイル達を見て何かを呟いている。
『何かを狙っているな。気をつけろ』
確かに地上も上空も石像の怪物達に埋め尽くされて包囲されている。逃げ場を無くして、僕を怪物達で押し潰すのだろう。無駄な事を、僕の収納袋にアレが入っている事を知らないようだ。
「終わりだ。折角、助かった命を無駄にするとはな。愚かな奴だ」
「そうかな?」
ソッと収納袋に左手を入れると天地創造剣の柄を握る。残念ながら、僕は最初から君が勝てる相手じゃない。ふっふ、そろそろ、その勝ち誇った顔を絶望に変えさせてもらうよ。
「直ぐに理解するだろう。理解した時にはもう遅いがな。潰れよ」
上空から鳥の石像達が一斉に急降下を始めた。予想通り、物量で押し潰す単純な作戦のようだ。力に勝る力は無いというけれど、数万体のガーゴイルでは僕の足元にも及ばない。本当の力というものを見せてやろう。さっさと敗北を理解して、寝室に一人で引き籠るんだね。
『ハァッ‼︎』
天地創造剣を力一杯に石畳に突き刺すと、僕を守るように四方八方に巨大な黒石柱を作り出す。僕を押し潰したいのなら、まずは石柱を破壊してもらわないと困る。けれども、石柱の隙間に入って進むのは気をつけた方がいい。動いちゃうから。
僕の忠告が少し間に合わなかったようだ。回転を始めた黒石柱に石像達が押し潰されて粉砕されて行く。さて、このまま前に進もうかな?
「くっ…やはり私では勝てないのか。済まない」
勝てない事を理解したのかエミリオが膝から地面に崩れ落ちた。だから、違うって。早くオデコと両手を地面に付かないと轢いちゃうよ?
『ウィル、もうその辺でいい。奴の兵士もほとんど壊れてしまった。それに奴の心もお前には勝てぬと理解しただろう。戦意を失った相手にトドメを刺す必要はない』
「………」
大丈夫、大丈夫。軽く轢いちゃうだけだから。軽く轢いて、直ぐに回復魔法で治すから大丈夫だって。多分ね。僕は神龍の忠告なんて無視してエミリオに向かって突き進んで行く。痛みを知って、人は強くなれるんです。さあ、粉々になりなさい。
『バキィン…バキィン…バキィン…‼︎』
「何だと⁉︎」
何本もの黒石柱が硬い何かに打つかって次々と粉々になっていく。エミリオに石柱を破壊する力がある訳ない。だとしたら、やっと探し者が現れてくれたという事だ。
『あらあら、人間同士で何をやっているんですか? 困りましたねぇ』
エミリオを抱き抱えるようにして守っている、白いワンピースと白のロングコートを着た白髪の女が見えた。この女の子が神の使いならば、この神龍剣とチェンジでお願いします。
「ごぉはっ…‼︎」
『ガァシャーン‼︎』
まったく反応出来なかったエミリオの喉元を右手で鷲掴みにすると、そのまま窓を突き破って外に連れて行く。外野の女性二人は無傷で捕らえたいので、広い中庭に叩き落としてからの公開ボコボコを決行する。
『馬鹿者が! 手加減しろと言っただろう!』
宙に浮いて右手の荷物を石畳に落とすか、芝生に落とすか考えていると、左腰の神龍剣が騒ぎ出す。文字通り、そこまで右手には力は入れていない。
「見て分かるだろう。手加減はしているよ。そうじゃなきゃ首と胴体がお別れしているよ。ほら、さっさと落ちろよ」
「ぐっ…この化け物がっ!」
掴んでいた首から右手を離すと、地上12mの高さからエミリオが真下に向かって落ちて行く。まあ、ボコボコにしていいと言ったのは神龍だ。それに魔法使いならばこの程度の高さから落ちても死んだりはしない。もちろん打ち所が悪くなければの話だ。
『風よ集え‼︎ そして、吹き荒れろ‼︎』
エミリオは落下しながらも短剣で空中に円を描くと、自分の足元に突風を集めて、ゆっくりと地面に降下して行き着地した。そして、着地すると素早く短剣を振り上げて、鋭い竜巻の塊を僕に向けて打ち上げた。
「遅過ぎる…」
向かって来た行使力を込めた竜巻の砲弾を軽々と回避する。あんな遅い攻撃が僕に当たる事は絶対にない。
「これだから白シャツに黒ベストを着た奴は嫌なんだよ」
エミリオの服装は白シャツに黒ベストに黒スラックス、これから会社に出勤するんですか? と思わず聞きたくなってしまう。スラッと手足も長く、薄紫の髪もジェルで綺麗にセットされている。僕のような愛嬌のあるご当地アイドル冒険者を少しは見習って欲しい。まずは髪型から丸坊主にしてあげよう。麦わら帽子を被れば少しは愛嬌が出るはずだ。
「ふぅ…何が目的なんだ? 私を殺す事が目的ならば初手で首をへし折る事も出来ただろう。金か、女か、物資か、何を求めてやって来た」
一呼吸するとエミリオは落ち着いて話し始めた。流石は白聴会によって選ばれたアダム役だ。僕なら土下座して涙と鼻水を流しながら助けを求めていたかもしれない。さて、話しがしたいようだから、僕も中庭に下りるとしよう。
「別に個人的な目的はないよ。お前をボコボコにする事である探しものが見つかるかもしれない。だから、半殺しさせてもらうよ」
「おかしな奴だ。私が黙って半殺しになると思っているのか? このエジンバラ城はもう本来の要塞として機能している。半殺しになるのは、さて、どっちらかな?」
はっは、僕にハッタリが通用すると思っているのなら大間違いだ。その証拠に僕に通用しないと見ると、もう蹲み込んで両手を中庭の石畳に付けている。まったく、お前のお父様は土下座の仕方も教えてくれなかったらしい。ほら、早くパンツ一枚になって、地面にオデコを擦り付けるんだ。
「んっ…? これは…?」
グラグラと足元が揺れ始めた。いや、違う。揺れているのは一部分ではなくて、視界に入る古城全体のようだ。これだけの大規模な範囲魔法を一人で使えるとは思えない。随分と前から準備していたのだろう。用意周到、ご苦労様な事だ。
「たった一人の化け物相手に、用意した数万体のガーゴイル兵を使う日が来るとはな。さあ、殺れ!」
エミリオの合図を切っ掛けに石畳や石垣から鳥、狼、虎、人間、ゴーレムといった石像の怪物達が、石の中を通り抜けるように次々と現れた。
「ふっ…たったの数万体か」
石像達の首が一斉にギギギィと動いて、その灰色の目が僕に集中する。『殺す殺す殺す』という明確な冷たい殺意が、僕の肌を僅かに震わせた。面白い、掛かって来いやぁ‼︎
『なるほどな。行使力で単純な命令を与えた非生命体の兵士か。新世界に到着して直ぐに国防に力を注ぐとはな。何を恐れている? この世界に敵はいないぞ』
「神龍ドライグか。愚かな、世界は繰り返される。魔物も敵もいずれは内からも外からも現れる事になる。その時に備えた者は生き残り、何もしなかった者は全てを奪われるのだ。到底、世界の始まりから終わりまでを見て来た神龍の台詞とは思えぬな」
『だからこそだ。敵とは自らの手で作るものだ。お前の恐れがお前の敵を作っている。この石像の怪物達は、さて、お前の味方か、敵か。意思を持たぬ石ころに、攻撃の意思を持たせる事を愚かと言わずに何と言う?』
ハァッ‼︎ ヤァッ‼︎ 二人の難しい話はさっぱり分かんない。僕は両手の拳をしっかりと握り締めて、襲い掛かって来る石像の怪物達を殴って砕く。そろそろルール変更で武器を使わせていただきます。
『ハァッ‼︎』
左腰から神龍剣を引き抜くと、3m越えのゴーレムの胴体を真横に一刀両断してから、右足を軸にした回し蹴りでゴーレムの上半身を後方に蹴り飛ばす。飛んで来たゴーレムの砲弾に後方の数十体の石像が粉々に押し潰されていく。日頃のストレス発散にはちょうどいい相手だ。
「そろそろか…」
エミリオが上空を飛んでいる大量のガーゴイル達を見て何かを呟いている。
『何かを狙っているな。気をつけろ』
確かに地上も上空も石像の怪物達に埋め尽くされて包囲されている。逃げ場を無くして、僕を怪物達で押し潰すのだろう。無駄な事を、僕の収納袋にアレが入っている事を知らないようだ。
「終わりだ。折角、助かった命を無駄にするとはな。愚かな奴だ」
「そうかな?」
ソッと収納袋に左手を入れると天地創造剣の柄を握る。残念ながら、僕は最初から君が勝てる相手じゃない。ふっふ、そろそろ、その勝ち誇った顔を絶望に変えさせてもらうよ。
「直ぐに理解するだろう。理解した時にはもう遅いがな。潰れよ」
上空から鳥の石像達が一斉に急降下を始めた。予想通り、物量で押し潰す単純な作戦のようだ。力に勝る力は無いというけれど、数万体のガーゴイルでは僕の足元にも及ばない。本当の力というものを見せてやろう。さっさと敗北を理解して、寝室に一人で引き籠るんだね。
『ハァッ‼︎』
天地創造剣を力一杯に石畳に突き刺すと、僕を守るように四方八方に巨大な黒石柱を作り出す。僕を押し潰したいのなら、まずは石柱を破壊してもらわないと困る。けれども、石柱の隙間に入って進むのは気をつけた方がいい。動いちゃうから。
僕の忠告が少し間に合わなかったようだ。回転を始めた黒石柱に石像達が押し潰されて粉砕されて行く。さて、このまま前に進もうかな?
「くっ…やはり私では勝てないのか。済まない」
勝てない事を理解したのかエミリオが膝から地面に崩れ落ちた。だから、違うって。早くオデコと両手を地面に付かないと轢いちゃうよ?
『ウィル、もうその辺でいい。奴の兵士もほとんど壊れてしまった。それに奴の心もお前には勝てぬと理解しただろう。戦意を失った相手にトドメを刺す必要はない』
「………」
大丈夫、大丈夫。軽く轢いちゃうだけだから。軽く轢いて、直ぐに回復魔法で治すから大丈夫だって。多分ね。僕は神龍の忠告なんて無視してエミリオに向かって突き進んで行く。痛みを知って、人は強くなれるんです。さあ、粉々になりなさい。
『バキィン…バキィン…バキィン…‼︎』
「何だと⁉︎」
何本もの黒石柱が硬い何かに打つかって次々と粉々になっていく。エミリオに石柱を破壊する力がある訳ない。だとしたら、やっと探し者が現れてくれたという事だ。
『あらあら、人間同士で何をやっているんですか? 困りましたねぇ』
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