【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?

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第2章 サークス村のF級冒険者

侯爵クエスト ウィルと黒の魔女⑤(依頼達成)

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「ぐっ」

 致命傷にならないように飛んで来る氷の飛礫を左右の龍剣で弾き飛ばす。僕を拷問するつもりならば死ぬような場所には撃っては来ない。それでも絶え間なく手足を狙って飛んで来る氷の飛礫は脅威だ。

「確かにレベル70ぐらいはありそうね。高価な装備品を身に付けているから、レベル120オーバーかと思って警戒し過ぎたわ。でも全然大したことはない。ただの蜘蛛の餌ね」

 僕が期待以下なら、差し詰めプリシラは妖怪【女郎蜘蛛じょろうぐも】か? どうせ美女に化けるなら、せめてB級以上の見た目だったら良かったのに。まあそれでも綺麗なのは確かだ。出来るだけ顔は殴らないように退治しないとな。

 プリシラは油断しているのか僕の剣の間合いに近づいて来ている。それとも常に自分の身体の前に展開している、対物理攻撃用の見えない障壁に余程の自信があるのだろうか?

 プリシラとの距離がゆっくりと確実に近づいていく。僕を逃がさないという相当な自信があるようだ。プリシラの身体に攻撃するには、透明な物理障壁を破壊する必要がある。溜め斬りで攻撃力を三倍にしても、おそらくは防がれてします。魔法使いの弱点である物理耐性の低さを完全に補っている。

 それにもう一つの魔法が気になる。氷結爆発魔法【アイシクルバースト】。おそらくは万が一、物理障壁を突破された際の攻撃魔法だろう。

 普通の冒険者ならば、この洞窟の狭い通路に追い込まれた時点で、反撃の一つも出来ずに試合終了になるだろう。今までこの方法で、少なくとも五人の人間を殺したのかもしれない。でも物理障壁のMPを強奪すれば障壁を弱くすることは出来る。僕に勝機があるとしたら、そこだけだ。

「んっ? 何ですか、その顔は? もっと怖がって私を興奮させてくださいよ。さあ必死に命乞いしてください。上手く出来たら気持ちいいことをしてから殺して上げますから」

 プリシラは僕の命乞いをしている姿を想像しているのか、不機嫌な表情から恍惚とした表情に変化した。

「出来れば、気持ちいいことだけして見逃して欲しいね」
「それは出来ません。たまには新鮮な人間の肉を食べさせないと、私の蜘蛛が栄養不足になりますからね」
(イカれた変態女め)

 でもそんな女も僕は嫌いではない。だけど、この女は駄目だ。捕まったら確実に殺されてしまう。この女を命を代償にして抱きたいとは思わない。邪龍剣をしっかりと握ると、目の前の物理障壁に思いっ切り突き刺した。

「ハァッ‼︎」と気合を込めた剣先が、見えない何かにドカッと激しく打つかって止まってしまった。分厚い岩壁に剣を突き立てているような嫌な感触が右腕に伝わって来た。一撃で壊すのは難しいようだ。

(くっ…‼︎)

 僕の悔しそうな表情を見て、蜘蛛女は笑っている。残念ながら悔しいのは一撃で壊せなかったからだ。まだ僕を絶望させるのは早過ぎる。剣先を物理障壁に突き刺したままでMP強奪を使用し続ける。

「くっふ♬ 残念。見えないでしょうが、ここには魔法の壁があるんですよ。あなたの攻撃は私には絶対に届きませんよ」

 プリシラは展開中の物理障壁を左拳でドン、ドンと二回強く叩いた。わざと武器の間合いに近づいて、相手に攻撃させているとしたら、性悪クソ女だ。でもそんな悪女に滅茶苦茶に振り回されたいという密かな願望も僕にはある。けれどもそれは性悪女が僕の真実の愛で改心する場合だけだ。この女の場合は改心させることは事実上不可能だ。

 物理障壁を破壊する準備は完了した。MPを吸収した箇所の障壁に向けて、左手に握った聖龍剣に溜め斬りを込めると、一気に突き刺してガシャンと物理障壁を破壊した。

「くぅっ…!」

 破壊した物理障壁の後ろにはもう一枚の物理障壁があった。聖龍剣の剣先はプリシラの白のフリルシャツを突き破ることなく、それ以上は前に動かなくなってしまった。

「ふっふふ♬ またまた残念。もう一枚あるのよ。お馬鹿さん」

 プリシラの勝利宣言と共に、右手に握る短剣に魔力が集まって行く。氷結魔法を使うのならここしか考えられない。魔法が炸裂する前に、素早く収納袋に邪龍剣を入れると、邪龍剣全体を透明マントで包んだ、あとは右腕を袋に入れた状態で氷塊が爆発まで待機する。

「生きてたらまた楽しみましょう。【氷点爆発。アイシクルバースト】」
「がはっ…‼︎」

 目の前で氷の塊がドォーンと爆発した。とっさに左腕で目を庇い、同時に状態異常回復をかける。ダメージはもう受け入れる覚悟はしている。右腕が動くことさえ出来れば、こっちはそれでいい。僕は氷の粉が舞う通路の中で、力なくプリシラに向かって倒れることにした。

「私の障壁を突破して、奥の手のこの魔法まで使わせたのはあなたが初めてよ。ふっふ、殺すのは本当に楽しんだ後で良かったかもしれないわね」

 頭上から嬉しそうなプリシラの声が降り注ふりそそいで来た。

「だったら、まだ生きているのでどうでしょうか?」と起き上がっては聞かない。今は死んだフリ中なので、回復魔法を使うと魔力の流れで生きているのに気付かれてしまう。氷結魔法のダメージは痛くても治療は出来ない。我慢だ。今は色々と我慢するしかない。

 今出来るのは死んだフリを続けながら、透明マントで見えなくした邪龍剣を、物理障壁にソッと当て続けて、MPを奪い続けることだけだ。本来は魔力が不安定な場所では使えない透明マントでも、この程度なら高い魔力と消費するMPを増やせば何とか透明化を維持させることは出来る。二枚目の物理障壁を突破した時が僕の勝利だ。

「ぐふっ…‼︎」

 背中に鋭い痛みが走った。このクソ女は死んでいる人間に氷の飛礫を容赦なく発射した。思わず、声が出てしまったかもしれない。

「やっぱり生きてた。痺れ薬も飲まなかったし、もしかしてと思ったけど。ふっふ、本当に死んだフリしてた」

 気付かれたら仕方ない。それにもう痛いのは我慢出来ない。左手の聖龍剣に溜め斬りを乗せて、一気にプリシラの左足に向かって突き出した。

「ハァッ‼︎」
「あっぐ…‼︎」

 聖龍剣の剣先は易々と物理障壁を破壊すると、そのままプリシラの履いている革のブーツを貫通して、その柔らかな肉に突き刺さった。けれどもレベル156のプリシラに、この程度で勝てるとは思っていない。反撃される前に決着を付けるしかない。

「この死に損ないが!」

 怒ったプリシラが短剣を握って右手を振り上げると、空中に五つの氷の飛礫が出現した。短剣が振り下ろされる前に立ち上がって、攻撃を阻止するしかない。出来るか、出来ないか。考える暇があるのなら、さっさとプリシラの右手を掴んでしまえ。

「うおおおおぉ~‼︎」と雄叫びを上げて一気に立ち上がると、プリシラの細い腰に全力でタックルを打ちかました。そのままプリシラを持ち上げると、通路の岩壁に激しく打つける。

「あぐっ…‼︎」

 プリシラは後頭部を押さえて苦痛の声を上げた。でもこの程度じゃ倒せない。地面に押し倒すと両拳に力を込めて、綺麗な顔を一発、二発、三発、四発と殴り続ける。

「んっ‼︎ はぐっ‼︎ ごほっ‼︎ やめっ‼︎」

 父さん、母さん、僕は今、冒険者の仕事をしています。先輩冒険者が言うには、「好きな仕事は、嫌いな仕事をやり続けないと来ない」らしいです。正直このクソ女を殴っているのは楽しいです。後でしっかりと治療するので気を失うまでは殴らせてください。

「ハァ…! ハァ…!」

 とりあえず何発殴ったかは、「記憶に御座いません」の一点張りで誤魔化しておこう。聖龍剣で治療すれば何も問題はない。地面に落ちている聖龍剣と邪龍剣を拾うと、まずは自分の怪我の治療を優先する。次に気を失っているプリシラのMPを根こそぎ奪い尽くした。

「さてどうするか?」

 あとはプリシラを冒険者ギルドに連れて行けば引き取ってくれる。それで依頼は達成になる。でもそれでいいのか? 目の前には気を失った美女がいる。殴った顔の治療も済んで、元の綺麗な顔に戻っている。ちょっとぐらいは何かしてもいいんじゃないのか?

(ゴクリ)

 白いフリルシャツを乱暴に引き千切ると、プリシラのたわわなおっぱいを両手でムニュムニュとたっぷりと堪能する。冷たい檻の中では、こんな楽しいことはもう出来ないのだ。キツい取り調べの前に少しでもプリシラに楽しんでもらおう。これが僕なりの優しさなのだ。ついでにキスもしてあげよう。チュチュチュ。

「ウィル様? 何をしているんですか?」
(エミリア‼︎)

 背後から冷たい声が聞こえて来た。振り返って見なくても分かる。エミリアがこの岩に隠された洞窟を発見してやって来たのだ。おそらくはあの氷結爆発魔法の音に気づいてしまったのだろう。

「や、やあ、エミリア。この女が廃村に出る幽霊の正体だよ。僕が捕まえたんだよ」

 僕はプリシラの二つの胸から両手を離すと、ゆっくりと背後を振り返って答えた。僕は何も悪いことはしていない。それは事実だ。今も心臓が停止したプリシラに心臓マッサージと人工呼吸を繰り返していただけだ。

「そうだったんですね。では、私は彼女を町に連れて行くので、ウィル様は明日の朝まで廃村で待機していてくださいね」
「うん、分かった」

 まるでケダモノを見るような目でエミリアに見られていた気がしたけど、プリシラに変な薬を飲まされたことにするしかない。二人が魔鳥船に乗って、リーズの町に飛んで行くのを見送ると、僕は誰もいなくなった廃村で静かな夜を過ごした。こんなことになるのなら、矢印なんか残すべきではなかったな。

 

 





 

 




 
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