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第2章 サークス村のF級冒険者

間話 エミリアとガルガルとマンキー

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 ウィル様をロウワーズ山の山頂に降すと、新米冒険者達を鍛える為に今度は山道に向かいます。可愛い女の子三人が魔物を倒せるのか心配ですが、まあ、弱い魔物を倒すだけなら問題ありません。

「さあ、三人であの魔物を倒してみましょうか?」

 収納袋から三人の女の子を出してあげると、強化された木剣を渡します。軽くて攻撃力20もあります。これなら持ち上げことも振り回すことも出来ます。

【名前・クレア 職業・宿屋 レベル1 HP140 MP105 攻撃力32 物理耐性32 魔力40 魔法耐性60 敏捷125 年齢17歳 身長156cm 体重46kg】

【名前・ミランダ 職業・乾物屋 レベル1 HP140 MP105 攻撃力32 物理耐性32 魔力40 魔法耐性60 敏捷125 年齢17歳 身長161cm 体重51kg】

【名前・ユン 職業・農家 レベル1 HP100 MP100 攻撃力20 物理耐性22 魔力85 魔法耐性85 敏捷100 習得魔法・無し 年齢15歳 身長150cm 体重43kg】

 武器を持った三人の女の子の中心にいるのは一体のマンキーです。あらかじめ、両腕と両足の骨をへし折っているので、安心して倒せますよ。頑張ってくださいね。

「キィ、キィ」とマンキーが痛々しい声で鳴いています。けれども、そのマンキーは元気な時は私に襲い掛かって来ました。遠慮も手加減も無用です。

【名前・マンキー 種族・山猿 魔物ランク・F級 体格・軽量級 レベル8 HP346 MP58 攻撃力45 物理耐性46 魔力25 魔法耐性33 敏捷29 体長116cm 体重21Kg】

「あのぉ~、エミリアさん? 本当に殺さないと駄目なんですか? 何だか凄い可哀想なんですけど」

 そんなことを言うなんて、まったく。クレアは精神面でも鍛えないと駄目ですね。

「駄目です。弱っているから可哀想に見えるだけです。そのマンキーは山道を通る人を集団で暴行する凶悪な魔物ですよ。ミランダ。クレアにお手本を見せてあげなさい」
「えっ! 私がやるんですか⁉︎ そのぉ~、小さくて弱そうな魔物はちょっと、私も可哀想というか、殺りにくいというか」

 小さくて可哀想? だったらウィル様の所に連れて行って、体長二メートルの巨大魔物と戦わせますよ。もちろん、両手足はへし折った状態にするので、安全性は大丈夫なんですけどね。

「あなたもですか? まったく、ユンは出来ますよね?」

 これだから町のお嬢様は駄目なんです。きっと生きた鳥も魚も捌いたこともないんですね。まあ、村で暮しているユンならば、鶏を捌いた経験ぐらいはあるはずです。まったく、年下に最初にやらせるなんて、だらしない。

「嫌、嫌、今日は精霊さんが誰も殺したら駄目な日だって言ってる。もう帰ろう?」
「………」

 ユンは首を左右に振って嫌がっています。なるほど、分かりました。こういうのは誰か一人がやらないと他の二人が動かないんです。私がやるしかありませんね。

「三人の気持ちは分かりました。では、そのマンキーを倒したら村に帰りましょう。誰か倒してください。両手足の骨をへし折っているので、放って置くと死ぬだけです。可哀想と思うなら早く楽にして差し上げましょう」

 これで誰か一人が一体倒せば、他の人も倒さないといけない空気になります。さあ、一番責任感のある人は誰でしょうね。

「クレアがやって。一番年上でしょう」
「えっ、嫌だよ。それにたったの二ヶ月しか違わないじゃない。ミランダがやるべきだよ! 乾物屋なら肉も扱うべきだよ。ほら、倒して村に持って行けば、干し肉が作れるよ?」
「嫌だよ! こんなの食べたくないよ! じゃあ、干し肉を私が作るから、クレアが倒してよ。クレアが倒したら、そいつで干し肉作るから」
「うん、私もクレアがやるべきだと思う。クレア、ファイト!」
「えっ、ユンちゃんまで」

 なるほど、ああやって一人の人間が選ばれるんですね。まあ、クレアには悪いですけど、ほぼ決まりです。さっさと殺らせましょう。
 
「では、クレアで決定ですね。私が手伝ってあげますね」
「えっ、ちょっと待ってください! 私、やるって! やめて、エミリアさん⁉︎」

 意思とかそんなものはどうでもいいです。クレアの両手を背後から掴むと、マンキーの方に体を押して進ませます。いいですか? こうやって、腕を振り上げて、思いっきり振り下ろすんです。

「グシャ‼︎」

 マンキーの頭に私に支えられたクレアの木剣が直撃しました。

「ひぁっ…‼︎」

 クレアの履いている靴にマンキーの血が飛び跳ねたようです。靴と服に付いた血にビックリしているようでは駄目です。そのうち臓器とか脳味噌とかもくっ付きますよ。

「まだ生きてますね。もう一度です」
「嫌、嫌です」

 やっぱり攻撃力が低いと一撃で倒せませんね。しっかりと剣を握って振り下ろさないから、こうなるんです。

「やらないなら、両腕をへし折りますよ?」
「ひぁゃ…‼︎」
「グシャ‼︎」

 今度はしっかりと振り下ろしてくれました。やっぱり厳しく指導しないと駄目ですね。言うことを聞かないなら、今度からは二、三発殴ることにしましょう。幸い、私は回復魔法も使えるので安心です。

「頑張ったね、クレア! さあ、村に帰ろう」
「ぐすっ、ぐすっ」

 泣いているクレアを、ミランダが優しく介抱しています。でも、あなたのやる事はそっちじゃありません。

「何を言ってるんですか? 次はミランダの番ですよ」
「へぇ?」

 集団で襲って来たマンキーと私は言いました。ほら、この洞穴に手足をへし折ったマンキーが七体もまだ残っていますよ。良かったですね。一人二体は倒せますよ。

「嫌、嫌です」
「大丈夫ですよ。私が支えてあげますから」

 ミランダの両腕を背後から掴むと、洞穴から出したマンキーに向かって身体を押して行きます。もう面倒だから、ミランダに三体連続で倒させましょう。そっちの方が効率的ですね。

「グシャ‼︎ グシャ‼︎ グシャ‼︎」

 ミランダの腕を振り上げ、振り下ろさせます。やっぱり、一撃では倒せません。脅すだけでは本気になれないようですね。

「クレア、倒したマンキーをこの袋に入れてください。ミランダが村で干し肉にしてくれるんですよね?」
「はい! 直ぐに入れます!」

 クレアが遊んでいるようなので仕事を与えないといけません。冒険者の仕事に座って泣くという仕事はありません。

「エミリアさん、あれは冗談」
「嘘吐きは両腕をへし折りますよ?」

 ミランダの細腕にちょっとだけ力を入れて説得します。本当にちょっとだけです。

「や、やります」
「そうですよ。何事も経験ですからね。私もお手伝いするから安心してくださいね」

 絶対に逃しません。覚悟してくださいね。

 
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