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最終章 決意のF級冒険者

第80話 ウィルと神と決着

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 必滅剣を右に振ると、一気に神に向かって疾走する。アーサーと同じように神の喉元に剣を突き出した。

「くっ…!」

 弾いた⁉︎

 突き出した剣の一撃は、神が振るった白剣によって弾かれてしまった。剣を持っていた右手が痺れている。下手をしたら腕の骨が折れるか、肩の関節が外れていたかもしれない。女みたいな小さな身体なのに凄い力だ。

「何で弾いたんですか?」

『言ったはずだ。剣の使い方を教えてやると。動かぬ的になるとは言ってない』

 そうかもしれないけど、今までは好き放題斬らせてくれていた。防いだという事は警戒した証拠だ。例え違うとしても、信じて剣を当てれば分かる。一気に勝負を決める。天地創造剣と神龍剣の能力を使い、巨大な黒い岩柱を二個作り出して神を左右から挟んだ。あとは押し潰すのみ。

「きゃあ‼︎」「ああっ‼︎」

 名も知らない観客達が悲鳴を上げる。建物サイズの二つの黒い岩柱が衝突すると、その衝撃で黒い岩片が辺りに飛び散っていく。これで生きていられるはずがない。もちろん人間や魔物ならばだ。この程度で神は死なない。

 神が立っていた場所に向かって、必滅剣の剣先を向ける。神龍の咆哮で粉々に吹き飛ばして破壊する。剣を放すと空中で必滅剣が高速回転を始めた。

「これで終わりだ」

 宣言と共に凝縮した魔力の螺旋砲撃が一直線に神に向かって撃ち出された。漆黒の魔力が神の身体に直撃すると岩柱と同じように粉々に弾け飛んでいく。

 どっちなんだ? HPが0だからダメージがあるのかどうかも分からない。ただ分かる事は、そこに神がまだ存在しているという事だけだ。

『確かに終わりだ。剣を作ったというのに、魔法で攻撃するとはな。それでも、傷一つ付けられぬか』

 黒い岩石が宙に浮かぶと四方に飛び散った。立っていた場所から神は少しも動いていなかった。いや、動かせなかったのだ。神が動かないと決めたら、何人なんびとたりとも動かせないのだ。おそらくはそれが行使力なのだろう。神が決めた世界のルールの中で、僕は自由に動いているつもりになっていただけなんだ。

 つまりは、神のルールを捻じ曲げるか、破壊するしか、まともに攻撃を当てる事が出来ないんだ。当然のように神の身体を傷つけられないというルールがあるのに、傷が付く訳がない。この勝負は最初から勝てない事がルールで決まっているんだ。

「狡いですね。奇襲に、不意打ち、どのような攻撃でも絶対に身体を傷付ける事が出来ないのなら、こんな勝負には何の意味もない」

『そうだ。傷を付ける事すら出来ないのなら意味はない。爪で引っ掻く程度で出来るのが擦り傷だ。我のその程度の行使力も破る事が出来ないで、奇跡を願おうとするな』

 じゃあ、必滅剣の最初の一撃を弾いたのは斬られるかもしれないと神自身が思ったからだ。神の心が揺らげば行使力の力が落ちるのなら、僕の剣が絶対に神の身体を斬れと思わせるしかない。

「ふっふ、本当は怖いんですね? 僕の剣が当たれば斬られるんだから。魔法ならいくら喰らっても大丈夫でも、この剣で斬られれば傷どころか、死ぬかもしれない。本当は内心では僕を恐れているんでしょう?」

『そう思うなら斬ってみろ』

 これは賭けでしかない。神の心が少しでも揺らげば弱くなる。確証は無いけど、確信はある。絶対に傷付けてやる。

 斬るという確固たる意思を込めて、前方に見える神に向かって剣を高速で振るう。五つの神龍牙が神の身体を噛み砕く為に向かっていく。

『無駄だ』

 神が白剣を軽く右に振るうと、五つの神龍牙が右にコースを大きく変えて地面に墜落した。飛び道具はもう通用しない。いや、使わせないのだ。剣で直接掛かって来いと言っているのだろう。神に向かって大きく跳躍すると、胸目掛けて剣を突き出す。

『ヤァッ‼︎ ハァッ‼︎』

 攻撃を躱されても、追撃の手を休めない。アーサーとの剣の修行でそれなりに剣技には自信があった。剣だけの勝負なら勝てるかもしれない。そう思っていた。

『どうした? 剣を当てなければ斬れないのか? ならば当ててみろ』

『ハァッ‼︎』

 攻撃を当てられる気がしない。こっちが剣を振る前から、どこを狙っているのか知っている気がする。本当に未来が見えているのか? いや、見えてはいない。見えないから、一年も待ったんだ。コイツは見えない。

『そろそろ終わりにしよう。お前ばかりを特別扱いする事は出来ぬからな』

 まだ終わらせない。地面に剣を突き立て、神と自分の周囲を黒い岩柱で囲んでいく。ちょこまかと動けないようにすれば、攻撃は必ず当たる。

『無駄だ』
 
 神は左手で指を鳴らすと、十個の岩柱を粉々に砕いてしまった。僕程度が思いつく策は簡単に突破されてしまうだけだ。それでも、やるしかない。一気に神との間合いを詰めると、剣を振り上げ、振り下ろす。後ろに下がった、神に向かって、神龍の鎖に繋がれた剣を投げつける。弾かれても、鎖を引いて、剣の柄を再び握ると前に突き進む。

「絶対に斬る‼︎」

 斬るという絶対の決意を込めて剣を右から左に水平に薙ぎ払った。その剣撃は躱される事も、剣で弾かれる事もなかった。ただ神の左手によって簡単に受け止められてしまった。

『終わりだと言ったんだ。跪け』

「ぐっ…ゔっ…‼︎」

 見えざる手によって、全身を真っ白な地面に押さえ付けられた。神の言葉一つで僕は動けなくなる。本当に遊ばれていたんだ。最初から希望なんてなかった。神は願いを叶える存在じゃなかったんだ。

『さて、エミリオ、シャノン、アイリスの三人には望み通り、スコットランド王国のエジンバラの街で暮らす事を許そう』

「主よ、ありがとうございます。ふっ…」

 エミリオと呼ばれた男は心石を神から受け取ると、地面に跪く僕を見て笑っている。神に逆らう愚か者を見下しているのだ。

『さて、魔人の覚醒者アーサーよ。貴様はグーリゼへの星送りとする。しっかりと我を殺せるように鍛える事だ』

 地面に跪いていたアーサーの姿が徐々に消えて行く。星送りが何なのか分からないけど、別の惑星に人が住める場所があるという事なのだろうか。でも、アーサーの心配をしている場合ではない。残りは僕とアシュリーしかいない。僕が星送りになると、彼女が一人でサークス村で生きる事になる。あまり想像したくない姿だ。

『さて、神人の覚醒者ウィルとアシュリーよ。二人にはイングランド王国のサークス村で暮らす事を許そう』

「ぐっ…うぐっ…」

 最悪の結末にはならなかったけど、結局は僕とアシュリーしか生き残れなかった。本当に僕は無駄な抵抗をしていただけなんだ。あとはサークス村に送られるのを待つしかない。

「………?」

 でも、その時はなかなかやって来ない。

『………フム、よかろう。立ち上がれ』

「えっ?」

 身体を押さえ付けていた見えざる手が消えた。ゆっくりと立ち上がると目の前に神が左手を向けて立っていた。その左手の手の平をジッと見ると、少しだけ赤い血が流れていた。蚊に刺された程度の僅かな血だ。

『ウィル、約束通りに我が身体に傷を付けた対価により、なんじの願いを叶え、心石を五個与える。汝の心にある想い人を連れてサークス村で暮らすが良い。行け、汝の願いを叶えよう』

「待って…」

 神には聞きたい事が山ほどあった。こんな事をする理由を知りたい。でも、神が右手が素早く十字を切ると、僕の身体と意識が一瞬で遠くに飛ばされてしまった。

 

 
 


 
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