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最終章 決意のF級冒険者
第76話 ウィルと選ばれし者
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無限収納袋の世界に入るとまず最初にやったのが、魔鳥船の修理だ。賢者の壺に黒い岩盤が付いたままの船を入れると、船と魔岩を分離する。あとは魔岩を取り出して、修理に必要な素材を入れるだけだ。
「それは錬金術師の壺か。初歩的な合成の壺は私の国でも普及していたが、この壺はかなり改良されているようだ」
彼は国王であり、一昔前の人だ。僕の知らない情報を知っている可能性があるかもしれない。
「アーサー様はガドガン侯爵様を知っていますか? この壺はその人から貰った物なんですよ」
「ほう、ガドガン家の物か。懐かしい名前だ。七聖人は創世期には全員が一緒に暮らしていたが、徐々に人口が増えていくと、それぞれが自分の家族を連れて別の土地に移住するようになったそうだ。私の祖先は大陸の西側に住んで、今のウェールズ王国を作ったと聞いている」
なるほど。確かに子供が増えると二階建ての家でも部屋が足りないよね。僕が沢山頑張れば頑張るほどに、村に僕の子供が増え過ぎて入り切れなくなるのか。もう一つ村を作らないとな。
『残念だが、その壺の本当の持ち主はガドガン家ではない。その壺は過去の世界の遺物だ。何処かの遺跡にでも隠されていた物を拾っただけだろう』
「ほう、こんな優れた物を作れる世界の人間も滅ぼすとは、神は余程見る目が無いようだ」
『ふっ、この程度の物が優れているとはな。人間は面白いな』
とりあえず僕が話している訳じゃない。右手の剣が勝手に喋っているだけなので、僕に殺気を放たないで欲しい。でも、古代遺跡にこんな凄いのが落ちているんなら、もっと沢山探索していれば良かったよ。生き残ったら侯爵様の依頼書から古代遺跡でも探してみるか。
「あのぉ~、ちょっとだけ魔力を貸して貰ってもよろしいでしょうか?」
いざ、魔鳥船を修理しようとすると本当にちょっとだけ足りなかった。アーサー王の魔力を3000ほど貸して欲しい。
「いいだろう。この場所は退屈過ぎる。食べ物ぐらいしか楽しみがない。娯楽の一つも置いてないとはな。その船の修理が終わったら、ボードゲームでも作らせてもらうぞ」
魔人なのに意外と親切な人だ。頼めばもっと色々と協力してくれるかもしれない。
「あのぉ~、ここに寝ている女性の怪我を一緒に行使力で治してくれませんか?」
わざわざ神人にならなくても、僕、アーサー、神龍剣の行使力を合わせれば、エミリアの治療が出来そうな気がする、というよりも出来るはずだ。
「断る。その女を助ければ、お前が頑張る理由がなくなってしまう。神人になる協力はするが、ならない事に協力するつもりは微塵もない。その女を助けたいのなら、自分の力で助ける事だな」
やっぱり、駄目だったか。おそらくは神龍も協力はしない。アーサーと同じように、神龍も僕が神人になる事には協力しようとしている。もしも神様の目的が、人間の中から魔人や神人を作ろうとしている事なら、その目的は不明だけど神龍が協力するのなら、僕にその可能性があるという事だ。
「冗談だよ。彼女は僕の命の恩人だから、僕の力で助けるよ。さあ、修理を早く終わらせて、外でレベル上げしないとね」
二人が僕の事を利用するように、僕も二人を最大限まで利用しよう。外の魔物を倒せば、MPを回収しながら、レベルも上げられる。あとは袋の中でアーサーに剣や魔法の修行をつけてもらえば、バーミンガムのギルド長も単独で倒せるようになるはずだ。
❇︎
『ハァッ‼︎』
神龍剣をアーサーの持つ魔剣エクスカリバーに叩きつける。更に右、左に剣を振り抜いては連続で斬り掛かる。アーサーが折角作ったボードゲームも、対戦相手が弱い村人では退屈なだけだった。
「悪くない。基本はしっかりとしている。戦闘回数も少なくはない。だが、決め手が足りないようだ」
アーサーは喋りながら、僕の連撃を片手で受け流している。ステータスだけでなく技術も高い。顔も僕と互角と言ってもいい。いや、僅かに負けて可能性もある。そして、最悪な事に男だ。
もしも白聴会の最後の人物がアーサーならば、僕は全ての点で負けている。アシュリーやその他の女性が彼に全て奪われたら、僕は人口一人のサークス村で不死者として孤独な農業を営む事になる。まさに最悪の未来だ。そうならない為に必死に頑張って強くなるしかない。
「はぁ…はぁ…アーサー様が白聴会が選んだアダム役なんですか?」
あえて、聞かないようにしていたが、もう我慢できない。これでもう一人、別の男役が居るとなると、僕の新世界生活は絶望的だ。三人の男で三人の女を奪い取る事になってしまう。
エミリアを助けられなかった後の事を考えるのは嫌だけど、もう残り時間は少ない。女の子の子供が生まれたら、エミリアと名付けて彼女の分まで幸せにして許してもらう、という細やかな願いも叶える事は出来なくなる。
「何の事だ? アダム役とは劇でもしているのか」
知らない? もしかすると白聴会にも本家と分家のようなものがあるのかもしれない。それとも封印されていたから、六日前の神様の言葉を聞いていないのだろうか。
「知らないんですね。今、心石を持っているのは白聴会の三個と、僕と僕の仲間で三個、そしてアーサー様の一個です。新世界に行けるのは石の契約者だけなので、その中から事前に話し合って、男役のアダムと女役のイブを決めるらしいです」
「なるほど、そういう事か。効率的な方法ではないか。だが、男の生殖機能が悪ければ、そのまま子供が産まれずに全滅だろうな。男役三人、女役四人が適切な数だろう。男役一人とは危機意識が足りないようだ」
「僕もそう思います。もう一年交替で妻を入れ替えたらいいんですよ」
もしかすると、気が合う人かもしれない。お互いの妻を共有出来そうだ。いやいや、騙されるな! 一度、アーサーの所に行った妻が自分の所に戻る保証はないんだぞ。やはり近くに別の男がいると危険なんだ。ヒッソリと隠れるように暮らさないと駄目だ。
「そんな事には興味はない。あるのは屈辱を晴らしたいという欲望だけだ。負け知らずの私に初めて土を付けたのが、お前が持つ神の使いだ。その主人とサシで勝負がしたい。それが私が今日まで生き続けている理由だ」
くだらない理由だ。プライドの為に全てを犠牲にして戦って勝利して何が残るんだ。他人の願いは冷静に見る事が出来る。結局は僕も彼と似たような馬鹿馬鹿しい理由だ。女性なんて沢山いるのに、替の利かない特別な女性の為に頑張っている。他人から見れば、金貨10枚を得る為に金貨1万枚を使おうとしているような馬鹿げた努力なんだろうな。
「さて、話しは終わりだ。残り一日を切った。このままだと、ただのS冒険者で終わるだろう。お前は行使力を使って、レベルが上がり易くしていたようだが、それも無駄な努力に終わってしまうな」
「まだ一日あります。僕はまだ諦めていませんよ」
「そうだな。あとは切っ掛けがあれば覚醒するかもしれない。私のような強い切っ掛けがあればな…」
半魔半人から魔人になる強い切っ掛けか? どんなものかは想像出来ないけど、人が人をやめる切っ掛けになるんだ。大切な人を失った程度じゃ、きっとなれないと思う。
「アーサー様の切っ掛けは何だったんですか?」
「私の切っ掛けは簡単なものだ。ある日、神の使いの赤い龍がやって来て、私以外の国民を穢れた息で根絶やしにしただけだ。祖龍よ、お前も覚えているだろう?」
僕の右手にアーサーの意識が集中していく。どう考えても、二人が仲良しとはもう思えない。魔法実験の失敗で国が滅んだというのは嘘の情報だったんだ。
『ああ、お前には魔人になる可能性があったからな。それに我の身体を蝕む穢れを定期的に放出しないといけない。結果だけを見れば、一石二鳥というものだ』
石を投げた方は鳥が二羽も手に入って喜べるけど、鳥の方はたまったもんじゃないよ。
「別にもう恨んではいない。それにペットの不始末は飼い主の責任だ。責任を取ってもらうなら、お前じゃない」
『アーサーよ、神の前で馬鹿な事は考えない事だ。ウィル、お前もそうだ。誰もが神には逆らえない。逆らえば、助かる命が減るだけだと覚悟する事だ』
アーサーが神人になった僕を殺したい理由は、きっと強い相手と戦いたいという単純な理由じゃない。神が欲しがっている者を殺す事で神に少しでも仕返しがしたいんだ。だとしたら、神人になっても彼に殺されないかもしれない。一緒に神と戦うと約束すれば見逃してくれる可能性がある。
でも、アーサーよりも確実に強い神様と戦うなんて馬鹿げている。神龍が警告するように僕以外の生き残っている人も消されるかもしれないんだ。軽はずみな行動は控えないといけないんだ。誰も神には逆らう事は許されないんだ。
「それは錬金術師の壺か。初歩的な合成の壺は私の国でも普及していたが、この壺はかなり改良されているようだ」
彼は国王であり、一昔前の人だ。僕の知らない情報を知っている可能性があるかもしれない。
「アーサー様はガドガン侯爵様を知っていますか? この壺はその人から貰った物なんですよ」
「ほう、ガドガン家の物か。懐かしい名前だ。七聖人は創世期には全員が一緒に暮らしていたが、徐々に人口が増えていくと、それぞれが自分の家族を連れて別の土地に移住するようになったそうだ。私の祖先は大陸の西側に住んで、今のウェールズ王国を作ったと聞いている」
なるほど。確かに子供が増えると二階建ての家でも部屋が足りないよね。僕が沢山頑張れば頑張るほどに、村に僕の子供が増え過ぎて入り切れなくなるのか。もう一つ村を作らないとな。
『残念だが、その壺の本当の持ち主はガドガン家ではない。その壺は過去の世界の遺物だ。何処かの遺跡にでも隠されていた物を拾っただけだろう』
「ほう、こんな優れた物を作れる世界の人間も滅ぼすとは、神は余程見る目が無いようだ」
『ふっ、この程度の物が優れているとはな。人間は面白いな』
とりあえず僕が話している訳じゃない。右手の剣が勝手に喋っているだけなので、僕に殺気を放たないで欲しい。でも、古代遺跡にこんな凄いのが落ちているんなら、もっと沢山探索していれば良かったよ。生き残ったら侯爵様の依頼書から古代遺跡でも探してみるか。
「あのぉ~、ちょっとだけ魔力を貸して貰ってもよろしいでしょうか?」
いざ、魔鳥船を修理しようとすると本当にちょっとだけ足りなかった。アーサー王の魔力を3000ほど貸して欲しい。
「いいだろう。この場所は退屈過ぎる。食べ物ぐらいしか楽しみがない。娯楽の一つも置いてないとはな。その船の修理が終わったら、ボードゲームでも作らせてもらうぞ」
魔人なのに意外と親切な人だ。頼めばもっと色々と協力してくれるかもしれない。
「あのぉ~、ここに寝ている女性の怪我を一緒に行使力で治してくれませんか?」
わざわざ神人にならなくても、僕、アーサー、神龍剣の行使力を合わせれば、エミリアの治療が出来そうな気がする、というよりも出来るはずだ。
「断る。その女を助ければ、お前が頑張る理由がなくなってしまう。神人になる協力はするが、ならない事に協力するつもりは微塵もない。その女を助けたいのなら、自分の力で助ける事だな」
やっぱり、駄目だったか。おそらくは神龍も協力はしない。アーサーと同じように、神龍も僕が神人になる事には協力しようとしている。もしも神様の目的が、人間の中から魔人や神人を作ろうとしている事なら、その目的は不明だけど神龍が協力するのなら、僕にその可能性があるという事だ。
「冗談だよ。彼女は僕の命の恩人だから、僕の力で助けるよ。さあ、修理を早く終わらせて、外でレベル上げしないとね」
二人が僕の事を利用するように、僕も二人を最大限まで利用しよう。外の魔物を倒せば、MPを回収しながら、レベルも上げられる。あとは袋の中でアーサーに剣や魔法の修行をつけてもらえば、バーミンガムのギルド長も単独で倒せるようになるはずだ。
❇︎
『ハァッ‼︎』
神龍剣をアーサーの持つ魔剣エクスカリバーに叩きつける。更に右、左に剣を振り抜いては連続で斬り掛かる。アーサーが折角作ったボードゲームも、対戦相手が弱い村人では退屈なだけだった。
「悪くない。基本はしっかりとしている。戦闘回数も少なくはない。だが、決め手が足りないようだ」
アーサーは喋りながら、僕の連撃を片手で受け流している。ステータスだけでなく技術も高い。顔も僕と互角と言ってもいい。いや、僅かに負けて可能性もある。そして、最悪な事に男だ。
もしも白聴会の最後の人物がアーサーならば、僕は全ての点で負けている。アシュリーやその他の女性が彼に全て奪われたら、僕は人口一人のサークス村で不死者として孤独な農業を営む事になる。まさに最悪の未来だ。そうならない為に必死に頑張って強くなるしかない。
「はぁ…はぁ…アーサー様が白聴会が選んだアダム役なんですか?」
あえて、聞かないようにしていたが、もう我慢できない。これでもう一人、別の男役が居るとなると、僕の新世界生活は絶望的だ。三人の男で三人の女を奪い取る事になってしまう。
エミリアを助けられなかった後の事を考えるのは嫌だけど、もう残り時間は少ない。女の子の子供が生まれたら、エミリアと名付けて彼女の分まで幸せにして許してもらう、という細やかな願いも叶える事は出来なくなる。
「何の事だ? アダム役とは劇でもしているのか」
知らない? もしかすると白聴会にも本家と分家のようなものがあるのかもしれない。それとも封印されていたから、六日前の神様の言葉を聞いていないのだろうか。
「知らないんですね。今、心石を持っているのは白聴会の三個と、僕と僕の仲間で三個、そしてアーサー様の一個です。新世界に行けるのは石の契約者だけなので、その中から事前に話し合って、男役のアダムと女役のイブを決めるらしいです」
「なるほど、そういう事か。効率的な方法ではないか。だが、男の生殖機能が悪ければ、そのまま子供が産まれずに全滅だろうな。男役三人、女役四人が適切な数だろう。男役一人とは危機意識が足りないようだ」
「僕もそう思います。もう一年交替で妻を入れ替えたらいいんですよ」
もしかすると、気が合う人かもしれない。お互いの妻を共有出来そうだ。いやいや、騙されるな! 一度、アーサーの所に行った妻が自分の所に戻る保証はないんだぞ。やはり近くに別の男がいると危険なんだ。ヒッソリと隠れるように暮らさないと駄目だ。
「そんな事には興味はない。あるのは屈辱を晴らしたいという欲望だけだ。負け知らずの私に初めて土を付けたのが、お前が持つ神の使いだ。その主人とサシで勝負がしたい。それが私が今日まで生き続けている理由だ」
くだらない理由だ。プライドの為に全てを犠牲にして戦って勝利して何が残るんだ。他人の願いは冷静に見る事が出来る。結局は僕も彼と似たような馬鹿馬鹿しい理由だ。女性なんて沢山いるのに、替の利かない特別な女性の為に頑張っている。他人から見れば、金貨10枚を得る為に金貨1万枚を使おうとしているような馬鹿げた努力なんだろうな。
「さて、話しは終わりだ。残り一日を切った。このままだと、ただのS冒険者で終わるだろう。お前は行使力を使って、レベルが上がり易くしていたようだが、それも無駄な努力に終わってしまうな」
「まだ一日あります。僕はまだ諦めていませんよ」
「そうだな。あとは切っ掛けがあれば覚醒するかもしれない。私のような強い切っ掛けがあればな…」
半魔半人から魔人になる強い切っ掛けか? どんなものかは想像出来ないけど、人が人をやめる切っ掛けになるんだ。大切な人を失った程度じゃ、きっとなれないと思う。
「アーサー様の切っ掛けは何だったんですか?」
「私の切っ掛けは簡単なものだ。ある日、神の使いの赤い龍がやって来て、私以外の国民を穢れた息で根絶やしにしただけだ。祖龍よ、お前も覚えているだろう?」
僕の右手にアーサーの意識が集中していく。どう考えても、二人が仲良しとはもう思えない。魔法実験の失敗で国が滅んだというのは嘘の情報だったんだ。
『ああ、お前には魔人になる可能性があったからな。それに我の身体を蝕む穢れを定期的に放出しないといけない。結果だけを見れば、一石二鳥というものだ』
石を投げた方は鳥が二羽も手に入って喜べるけど、鳥の方はたまったもんじゃないよ。
「別にもう恨んではいない。それにペットの不始末は飼い主の責任だ。責任を取ってもらうなら、お前じゃない」
『アーサーよ、神の前で馬鹿な事は考えない事だ。ウィル、お前もそうだ。誰もが神には逆らえない。逆らえば、助かる命が減るだけだと覚悟する事だ』
アーサーが神人になった僕を殺したい理由は、きっと強い相手と戦いたいという単純な理由じゃない。神が欲しがっている者を殺す事で神に少しでも仕返しがしたいんだ。だとしたら、神人になっても彼に殺されないかもしれない。一緒に神と戦うと約束すれば見逃してくれる可能性がある。
でも、アーサーよりも確実に強い神様と戦うなんて馬鹿げている。神龍が警告するように僕以外の生き残っている人も消されるかもしれないんだ。軽はずみな行動は控えないといけないんだ。誰も神には逆らう事は許されないんだ。
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