【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?

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最終章 決意のF級冒険者

第74話 ウィルと魔人

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 始めは十体倒せば、レベルが1は上がっていた。そして、レベルが上がるごとに倒す数は二十体、三十体と増えていく。200万人の国民が暮らしていたこの大地も今や魔物の棲み家となってしまった。

『ハァッ‼︎』

『ボォン‼︎』

 神龍剣の圧倒的な攻撃力で、襲って来たロックゴーレムのコアを、胴体と一緒に真横に斬り裂いた。魔物の数は確かに驚異的だ。でも、試練というには簡単過ぎる気がする。まるで神龍剣がレベルを上げて欲しがっているようだ。

『その調子だ。そのまま休まずに殺し続けろ。願いを叶えたいのなら』

「はぁ…はぁ…」

 HP回復を使用しても、疲労までは回復しない。何処かで休憩しないと身が持たない。10分、20分でいい。剣を握る力が自分でも弱くなっているのが分かる。このままでは殺られるのも時間の問題だ。

『どうした、この程度で疲れたのか? まだ、2000体も倒していないぞ。これでは女は救えないな』

 近くに口煩いアシュリーがいるような気分だ。言っている事が正しいだけに、無駄な口答えも出来そうにない。

 力任せに剣を紫と黒の不死者の化け物に突き刺すと、一気に聖痕で浄化する。五秒もかからずに浄化出来るものの、剣を身体に刺している間は僅かな隙が生まれてしまう。僕は向かって来る魔物達の攻撃を避ける為に、体重200Kg以上の怪物を抱えて、空に高く飛び上がった。

「休憩したい。このままだと、やられてしまうだけだ」

 空中で浄化した不死者の灰を撒き散らしながら、その場に重力操作で留まって休憩する。まだ一日目だ。少しぐらいは休憩してもいいはずだ。自分でも剣に聞くのは違和感を感じてしまう。けれども、この剣がこの試練の試験官だから仕方ない。

『構わない。こちらも死なれては困る。もっと高くまで飛んでから袋の中に入れ。そこならば時間停止の魔法がかかっているから、現実時間を気にせずに休めるはずだ。それにお前の大切な女もいる。顔を見れば少しはやる気も出るだろう』

「それは良い案だけど、時間停止した袋の中に入ったら僕の時間も止まるはずだ。だから、休んでいる事にはならない」

 僕だけが収納袋の中でも時間停止の魔法にかからなければ、その方法も可能だとは思う。けれども、実際はそうはならないはずだ。

『問題ない。お前に束縛の鎖を使い、時間停止の魔法が掛からないようにしよう。その代償にお前のMPを鎖を維持する為に貸して貰うぞ』

 神龍剣が僕を騙している感じはしない。本当に協力したいのだろう。罠じゃないのなら、反対する理由は全くない。

「分かった。君に任せるよ」

『もちろんだ。それと気を付ける事だ。消費MPは1時間で300程度だ。MPが無くなる前に袋から出ないと、自力では出られなくなる。おそらく、次に目覚めた瞬間には、神によって新しい世界が始まっているだろう』
 
「そんなヘマはしないよ」

 神龍剣との話し合いは終わった。剣に掴まって上空に移動すると、収納袋の中に自分で入って行く。入る意思があれば自分だけでも袋の中には入れるようだ。

 まあ、入れるとしても、誰もこんな馬鹿な事はしないはずだ。自分で入った瞬間に時間停止によって意識が消えるので、二度と外に出る事が出来なくなってしまう。袋の外に出るには、入れた人が入れたものを取り出さなくてはいけないからだ。

「夜空のような場所なんだな」

 初めて無限収納袋の中を見た。真っ暗な空間に沢山の物が浮いている。倒した魔物の死体、町で買った食べ物や服、そして、薄紫色の髪のエミリアも居た。剣に掴まって、ゆっくりとエミリアに向かって移動して行く。休憩時間は三時間しかなさそうだけど、彼女の姿を見る為ならば、寝る時間も必要ない。

「硬い…? これはどうなっているんだ?」

 エミリアの腕を触ると、鉄のように硬かった。試しに近くを浮いていた服を触ってみると、やはり硬かった。時間停止しているものは、このように硬くなるのだろう。エミリアの柔らかい髪からは、今は何の匂いもしない。

『我を殺した人間の娘を、我が救うか。おかしな因果もあるものだ。喜べ、仮初の主人よ。この者に掛かっていた我の呪いは消えている。外に出れば元のレベルに戻っているだろう』

 折角の二人っきりの時間なのに、左手に掴んでいる剣が話しかけて来た。エミリアがS級冒険者に戻っても、新世界ではほとんど役には立たない。

「そんな事はどうでもいいよ。生きてくれれば、僕はそれ以上は何も望みはないよ」

『レベルを必死に上げている人物の台詞とは思えないな。さあ、そろそろ休め。その女を助けたいのなら試練を乗り越えるしかないぞ』

「ああっ、分かってるよ。すぐに助けてあげるからね。待ってて、エミリア…」

 彼女の硬くなった髪を撫で終わると、直ぐ隣で眠る事にした。レベルが300になったら、自分へのご褒美として、また来よう。

 ❇︎

『ハァッ‼︎』

 MP強奪で奪ったMPを貯蓄MPに溜めて行く。満タンまで溜まると上空に移動して、真上から神龍の咆哮で魔物達を大地と一緒に木っ端微塵に破壊していく。この爆発音によって、また魔物が集まって来る。神龍の試練が終わりそうな気配がしない。

『喜べ、仮初の主人よ。1%だ。お前の活躍でこの地の魔物の1%が倒されたぞ』

「はぁ…はぁ…」

 もう駄目だ! 試練開始から四日目でたったの1%しか倒せていないのなら、もう間に合わない。残り二日しかないのに、レベルはまだ468だ。数を倒しても、レベル差が300を超えると成長速度は確実に遅くなる。

「別の場所の強い魔物を倒した方がいい。ここではもうレベルは上がらない」

 移動するにも時間はかかるけど、強い魔物を束縛の鎖で一気に引き寄せる事が出来るのなら、移動時間も無駄にはならない。

『そうか? では、次の試練を与えよう』

「次って…? まだ、コイツらを全部倒していないじゃないか?」

 地上には魔物の海が出来ている。1000体以上の魔物が常に地上を埋め尽くしている。倒す数よりも、増える数の方が多くなっている。

『安心しろ。試練と言っても、相手はたったの一人だ。それも心石を持っている。殺して奪えば、行使力も上げられる。女を助けたいのなら、お前に選択肢はないと思うぞ』

 神龍剣はそう言うと、白と赤の二本の鎖を地中深くに向けて発射した。地面の下に強い人間が埋まっている訳はない。だとしたら、普通の人間じゃないという事になる。

『コイツは不死者の中でも特別に強かった者だ。半魔半人の身から魔人と呼ばれる者になった。レベルだけに囚われていては、神への道には永遠に辿り着けないと知れ』

 地中から白と赤の鎖によって巻き上げられるように、一人の男が地上に出て来た。金のミディアムヘアに青の甲冑を着て、赤いマントを羽織っている。まだ、目覚めていないだろうその男を、ジッと神眼の指輪を使って、見る事にした。

「信じられない…人間のステータスじゃない」

 その圧倒的な力はレベルが高いだけじゃない。基本の身体能力が人間よりも魔物に近いから別次元の強さになっているんだ。これが僕が目指すべき未来の姿なのかもしれない。

『名前・アーサー 職業・ウェールズ国王 種族・魔人 レベル816 HP52975 MP4238 攻撃力3568 物理耐性2967 魔力2567 魔法耐性2967 敏捷1956 習得能力・《行使力・強》 年齢238歳 身長180cm 体重72kg』

 






 
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