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最終章 決意のF級冒険者
第73話 ウィルと三つの試練
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『名前・ウィル 開放レベル・221/240 種族・半神半人 職業・上級剣士 魔物ランク・A級 冒険者ランク・F級 HP7083 MP579 貯蓄MP1500/1500 攻撃力321 物理耐性303 魔力1358 魔法耐性696 敏捷369 新規習得魔法・《双龍の咆哮》 新規発動能力・《最大魔力1000増加》 習得能力強化・《行使力・中》』
このままでは僕はエミリアを助けられずに新たな世界に旅立つ事になる。残り時間をただ葬式のように悲しんで過ごすなんて、真っ平御免だ!
冒険者ランクは七つの階級に分けられている。レベル1~29までのF級、レベル30~59までのE級、レベル60~89までのD級、レベル90~119までのC級、レベル120~199までのB級、レベル200~499のA級…そして、レベル500以上のS級だ。
白神はエミリアを救えるのは神の力だけだと言った。人間のままで救えないのなら、人間を辞めるしかない。もう安全性を考えたレベルアップでは時間が足りない。祖龍の意思を制御している聖龍剣と、祖龍の肉体を制御している邪龍剣を今、一つにする時なんだ。
『クゥッ…?』
「大丈夫だよ。僕ならやれる」
心配そうにグリが僕を見て鳴いている。僕はいつものようにグリフィンの首筋を撫でた。そうする事で自分の心を落ち着かせたいのだ。二振りの龍剣を一つにしても、その制御に失敗すれば、剣の形をした祖龍を復活させる事になる。
例え、剣に僕が殺されなくても、剣を失った僕にエミリアを助ける手段はもう残されていない。アシュリーとまだ見ぬ四人の心石の契約者と新世界で生きる事になる。
そう、わざわざ危険な賭けに挑まずとも、胸ポケットに入っている再契約可能の心石で、クレア、ミランダ、ユンの誰かと一緒に暮らす事を選んでもいい。残り時間が7日もあるのなら、世界で一番美しい女性を見つける事も出来るはずだ。この石さえあれば、死にたくない女性は喜んで僕の妻になってくれるんだから。
でも、それでも替の利かない人はいる。僕にとって、それはエミリアだ。病で余命一年の僕を彼女は助けてくれた。ギルド長との戦いでも、身を挺して僕を烈空砲から庇ってくれた。二度も命を救ってくれた恩人を見捨てるようならば、僕に生きる資格はない。
「また戻って来てしまった…」
眼下にはウェールズ王国の暗い砂岩地帯が広がっている。残された時間は少ない。各地に生息しているレベルの高い魔物を探して倒し回っていては時間切れになってしまう。僕が知っている中で一番魔物の数とそのレベルが高いのは、この滅びた古代魔法王国だけだった。
ここまで来るのに一日もかかってしまった。残された時間は六日間だ。その時間内に僕は人間の限界を超えるしかない。それはS級冒険者を超えた先にあるはずだ。
「グリ、ありがとう。君はアシュリーの所に戻っていいよ。村に行けば必ず会えるから」
『クゥッ!』
僕はグリフィンの背中の上に立ち上がると、暗い地表目掛けて飛び下りた。不思議と何も怖くはない。本当に怖いのはエミリアを助けられなかった時だ。地表の近くまで落ちて行くと、聖龍剣の重力マイナスを発動させて、ゆっくりと地面に着地した。
「エミリア…もう一度、僕に力を貸して欲しい」
無限収納袋から賢者の壺と魔剣グラムを取り出す。魔剣グラムには祖龍の血と呪いがかけられている。賢者の壺に聖龍剣・死喰、邪龍剣・命喰、魔剣グラムの三振りの剣を入れた。もう後戻りは出来ない。僕は自分の中の魔力、MP、行使力の全てを壺の中の怪物に注ぎ込んだ。
【神龍剣・死命の鎖】 必要魔力・不要。必要MP・不要。神の使いとして世界の善悪の量を見定めていた者。人間との戦いに敗れ。今は剣の一振りとして姿を変える。
賢者の壺の中で生まれるものが見えた。僕の魔力もMPも必要ないようだ。勝手に一つになって、自分の意思で壺の外に出て来るのだろう。僕に出来る事はその時を待つしかない。ソッと後ろに下がると、収納袋から予備の剣を取り出して、正面の壺に向かって構えた。
最初に見えたのは、白と赤が交差した柄だった。鎖のように柄から剣先に白と赤が規則正しい絡み合っていた。
「お前が祖龍なのか?」
剣が喋るとは普通は思わない。でも、空中に浮いている剣ならば喋るかもしれない。予想通りに本当に剣が喋り始めた。
『この日が来るとはな。お前の望みは理解している。仮初の主人よ、我の力を得たいのなら、三つの試練を受けよ。全ての試練を乗り越えた時、お前を我の主人と認めよう』
三つの試練? いや、今は考えるのは後だ。どんな試練だろうと受けるのは決まっている。
「お前の力が欲しい。試練を受けるよ」
『分かった。では、最初の試練を与えよう』
僕の答えを聞くと、神龍剣の刀身から無数の赤と白の小さな鎖が飛び出して、四方八方に飛び散って行った。
「お前は何をしているんだ?」
意味の分からない行動だった。小さな鎖を遠くの方に飛ばしても、何も起こらないはずだ。
『最初の試練だ。この地に棲まう悪しき者をここに呼び寄せた。全ての悪しき者を倒せば最初の試練は合格だ。さあ、我を上手く使って、試練を乗り越えよ』
神龍剣が僕に向かって飛んで来ると、右手にピッタリと引っ付いた。言いたい事は分かった。さっさと手に取って、我を使えと言いたいのだろう。右手にしっかりと握ると、向かって来る魔物の群れを見た。この光景はアシュリーで経験済みだ。
前回とは僕のレベルが違う。多少、襲って来る魔物の数が増えても問題ない。それに魔物の数が多い方が一気に倒し易い。貯蓄MPを全て消費して使える双龍の咆哮で魔物の群れを一掃しよう。
「今は剣が一振りしかないから、神龍の咆哮に名前が変わっている。まあ、同じ魔法みたいだから問題ないか」
【神龍剣・死命の鎖】 攻撃力1800。魔力1200。使用可能術技・《HP回復・MP強奪》《状態異常回復・状態異常付加》《ステータス上昇・ステータス低下》《聖痕・聖喰》《神龍牙》《神龍翼》《神龍の咆哮》《束縛の鎖》。
準備完了だ。赤と白の剣先を土煙を上げてこっちに向かって来る、ロックゴレームと機械兵士の大群に向けた。この魔法が当たればギルド長でも倒せたかもしれない。でも、消費MPと魔法の溜め時間を考えると、明らかに後衛魔法使いが使う狙撃用の魔法だった。接近戦ではまず使えない。
ゆっくりと剣の柄から手を離すと、剣が時計回りにグルグルと高速回転を始める。吸収したMPを限界まで圧縮、凝縮して前方に大砲のように撃ち出すのだ。当たれば、街の三階建ての建物も数件は吹き飛ばしながら突き進んでくれる。
『ハァッ‼︎』
『ギィガ‼︎』『シャア‼︎』『ボォン‼︎』
十分まで魔物群れが近づいた瞬間に、神龍の咆哮を発射した。赤と白の螺旋状の魔法弾が前方の広範囲に拡散して、魔物と一緒に大爆発した。砂の大地が大量の土煙を上げているが、魔物達は怯む事なく向かって来てくれている。
「レベル251か…これならイケるかもしれない」
今の一撃でレベルが一気に上昇した。今の僕なら聖龍剣と邪龍剣によって縛られていた成長速度の制限が消えている。魔物を倒せば倒すだけ、普通にレベルが上がっていく。あとは消費した貯蓄MPを魔物から奪って回収するだけだ。
このままでは僕はエミリアを助けられずに新たな世界に旅立つ事になる。残り時間をただ葬式のように悲しんで過ごすなんて、真っ平御免だ!
冒険者ランクは七つの階級に分けられている。レベル1~29までのF級、レベル30~59までのE級、レベル60~89までのD級、レベル90~119までのC級、レベル120~199までのB級、レベル200~499のA級…そして、レベル500以上のS級だ。
白神はエミリアを救えるのは神の力だけだと言った。人間のままで救えないのなら、人間を辞めるしかない。もう安全性を考えたレベルアップでは時間が足りない。祖龍の意思を制御している聖龍剣と、祖龍の肉体を制御している邪龍剣を今、一つにする時なんだ。
『クゥッ…?』
「大丈夫だよ。僕ならやれる」
心配そうにグリが僕を見て鳴いている。僕はいつものようにグリフィンの首筋を撫でた。そうする事で自分の心を落ち着かせたいのだ。二振りの龍剣を一つにしても、その制御に失敗すれば、剣の形をした祖龍を復活させる事になる。
例え、剣に僕が殺されなくても、剣を失った僕にエミリアを助ける手段はもう残されていない。アシュリーとまだ見ぬ四人の心石の契約者と新世界で生きる事になる。
そう、わざわざ危険な賭けに挑まずとも、胸ポケットに入っている再契約可能の心石で、クレア、ミランダ、ユンの誰かと一緒に暮らす事を選んでもいい。残り時間が7日もあるのなら、世界で一番美しい女性を見つける事も出来るはずだ。この石さえあれば、死にたくない女性は喜んで僕の妻になってくれるんだから。
でも、それでも替の利かない人はいる。僕にとって、それはエミリアだ。病で余命一年の僕を彼女は助けてくれた。ギルド長との戦いでも、身を挺して僕を烈空砲から庇ってくれた。二度も命を救ってくれた恩人を見捨てるようならば、僕に生きる資格はない。
「また戻って来てしまった…」
眼下にはウェールズ王国の暗い砂岩地帯が広がっている。残された時間は少ない。各地に生息しているレベルの高い魔物を探して倒し回っていては時間切れになってしまう。僕が知っている中で一番魔物の数とそのレベルが高いのは、この滅びた古代魔法王国だけだった。
ここまで来るのに一日もかかってしまった。残された時間は六日間だ。その時間内に僕は人間の限界を超えるしかない。それはS級冒険者を超えた先にあるはずだ。
「グリ、ありがとう。君はアシュリーの所に戻っていいよ。村に行けば必ず会えるから」
『クゥッ!』
僕はグリフィンの背中の上に立ち上がると、暗い地表目掛けて飛び下りた。不思議と何も怖くはない。本当に怖いのはエミリアを助けられなかった時だ。地表の近くまで落ちて行くと、聖龍剣の重力マイナスを発動させて、ゆっくりと地面に着地した。
「エミリア…もう一度、僕に力を貸して欲しい」
無限収納袋から賢者の壺と魔剣グラムを取り出す。魔剣グラムには祖龍の血と呪いがかけられている。賢者の壺に聖龍剣・死喰、邪龍剣・命喰、魔剣グラムの三振りの剣を入れた。もう後戻りは出来ない。僕は自分の中の魔力、MP、行使力の全てを壺の中の怪物に注ぎ込んだ。
【神龍剣・死命の鎖】 必要魔力・不要。必要MP・不要。神の使いとして世界の善悪の量を見定めていた者。人間との戦いに敗れ。今は剣の一振りとして姿を変える。
賢者の壺の中で生まれるものが見えた。僕の魔力もMPも必要ないようだ。勝手に一つになって、自分の意思で壺の外に出て来るのだろう。僕に出来る事はその時を待つしかない。ソッと後ろに下がると、収納袋から予備の剣を取り出して、正面の壺に向かって構えた。
最初に見えたのは、白と赤が交差した柄だった。鎖のように柄から剣先に白と赤が規則正しい絡み合っていた。
「お前が祖龍なのか?」
剣が喋るとは普通は思わない。でも、空中に浮いている剣ならば喋るかもしれない。予想通りに本当に剣が喋り始めた。
『この日が来るとはな。お前の望みは理解している。仮初の主人よ、我の力を得たいのなら、三つの試練を受けよ。全ての試練を乗り越えた時、お前を我の主人と認めよう』
三つの試練? いや、今は考えるのは後だ。どんな試練だろうと受けるのは決まっている。
「お前の力が欲しい。試練を受けるよ」
『分かった。では、最初の試練を与えよう』
僕の答えを聞くと、神龍剣の刀身から無数の赤と白の小さな鎖が飛び出して、四方八方に飛び散って行った。
「お前は何をしているんだ?」
意味の分からない行動だった。小さな鎖を遠くの方に飛ばしても、何も起こらないはずだ。
『最初の試練だ。この地に棲まう悪しき者をここに呼び寄せた。全ての悪しき者を倒せば最初の試練は合格だ。さあ、我を上手く使って、試練を乗り越えよ』
神龍剣が僕に向かって飛んで来ると、右手にピッタリと引っ付いた。言いたい事は分かった。さっさと手に取って、我を使えと言いたいのだろう。右手にしっかりと握ると、向かって来る魔物の群れを見た。この光景はアシュリーで経験済みだ。
前回とは僕のレベルが違う。多少、襲って来る魔物の数が増えても問題ない。それに魔物の数が多い方が一気に倒し易い。貯蓄MPを全て消費して使える双龍の咆哮で魔物の群れを一掃しよう。
「今は剣が一振りしかないから、神龍の咆哮に名前が変わっている。まあ、同じ魔法みたいだから問題ないか」
【神龍剣・死命の鎖】 攻撃力1800。魔力1200。使用可能術技・《HP回復・MP強奪》《状態異常回復・状態異常付加》《ステータス上昇・ステータス低下》《聖痕・聖喰》《神龍牙》《神龍翼》《神龍の咆哮》《束縛の鎖》。
準備完了だ。赤と白の剣先を土煙を上げてこっちに向かって来る、ロックゴレームと機械兵士の大群に向けた。この魔法が当たればギルド長でも倒せたかもしれない。でも、消費MPと魔法の溜め時間を考えると、明らかに後衛魔法使いが使う狙撃用の魔法だった。接近戦ではまず使えない。
ゆっくりと剣の柄から手を離すと、剣が時計回りにグルグルと高速回転を始める。吸収したMPを限界まで圧縮、凝縮して前方に大砲のように撃ち出すのだ。当たれば、街の三階建ての建物も数件は吹き飛ばしながら突き進んでくれる。
『ハァッ‼︎』
『ギィガ‼︎』『シャア‼︎』『ボォン‼︎』
十分まで魔物群れが近づいた瞬間に、神龍の咆哮を発射した。赤と白の螺旋状の魔法弾が前方の広範囲に拡散して、魔物と一緒に大爆発した。砂の大地が大量の土煙を上げているが、魔物達は怯む事なく向かって来てくれている。
「レベル251か…これならイケるかもしれない」
今の一撃でレベルが一気に上昇した。今の僕なら聖龍剣と邪龍剣によって縛られていた成長速度の制限が消えている。魔物を倒せば倒すだけ、普通にレベルが上がっていく。あとは消費した貯蓄MPを魔物から奪って回収するだけだ。
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