上 下
83 / 175
最終章 決意のF級冒険者

第73話 ウィルと三つの試練

しおりを挟む
『名前・ウィル 開放レベル・221/240 種族・半神半人 職業・上級剣士 魔物ランク・A級 冒険者ランク・F級 HP7083 MP579 貯蓄MP1500/1500 攻撃力321 物理耐性303 魔力1358 魔法耐性696 敏捷369 新規習得魔法・《双龍の咆哮》 新規発動能力・《最大魔力1000増加》 習得能力強化・《行使力・中》』

 このままでは僕はエミリアを助けられずに新たな世界に旅立つ事になる。残り時間をただ葬式のように悲しんで過ごすなんて、真っ平御免まっぴらごめんだ!

 冒険者ランクは七つの階級に分けられている。レベル1~29までのF級、レベル30~59までのE級、レベル60~89までのD級、レベル90~119までのC級、レベル120~199までのB級、レベル200~499のA級…そして、レベル500以上のS級だ。

 白神はエミリアを救えるのは神の力だけだと言った。人間のままで救えないのなら、人間を辞めるしかない。もう安全性を考えたレベルアップでは時間が足りない。祖龍の意思を制御している聖龍剣と、祖龍の肉体を制御している邪龍剣を今、一つにする時なんだ。

『クゥッ…?』

「大丈夫だよ。僕ならやれる」

 心配そうにグリが僕を見て鳴いている。僕はいつものようにグリフィンの首筋を撫でた。そうする事で自分の心を落ち着かせたいのだ。二振りの龍剣を一つにしても、その制御に失敗すれば、剣の形をした祖龍を復活させる事になる。

 例え、剣に僕が殺されなくても、剣を失った僕にエミリアを助ける手段はもう残されていない。アシュリーとまだ見ぬ四人の心石の契約者と新世界で生きる事になる。

 そう、わざわざ危険な賭けに挑まずとも、胸ポケットに入っている再契約可能の心石で、クレア、ミランダ、ユンの誰かと一緒に暮らす事を選んでもいい。残り時間が7日もあるのなら、世界で一番美しい女性を見つける事も出来るはずだ。この石さえあれば、死にたくない女性は喜んで僕の妻になってくれるんだから。

 でも、それでもかえの利かない人はいる。僕にとって、それはエミリアだ。病で余命一年の僕を彼女は助けてくれた。ギルド長との戦いでも、身をていして僕を烈空砲から庇ってくれた。二度も命を救ってくれた恩人を見捨てるようならば、僕に生きる資格はない。

「また戻って来てしまった…」

 眼下にはウェールズ王国の暗い砂岩地帯が広がっている。残された時間は少ない。各地に生息しているレベルの高い魔物を探して倒し回っていては時間切れになってしまう。僕が知っている中で一番魔物の数とそのレベルが高いのは、この滅びた古代魔法王国だけだった。

 ここまで来るのに一日もかかってしまった。残された時間は六日間だ。その時間内に僕は人間の限界を超えるしかない。それはS級冒険者を超えた先にあるはずだ。

「グリ、ありがとう。君はアシュリーの所に戻っていいよ。村に行けば必ず会えるから」

『クゥッ!』

 僕はグリフィンの背中の上に立ち上がると、暗い地表目掛けて飛び下りた。不思議と何も怖くはない。本当に怖いのはエミリアを助けられなかった時だ。地表の近くまで落ちて行くと、聖龍剣の重力マイナスを発動させて、ゆっくりと地面に着地した。

「エミリア…もう一度、僕に力を貸して欲しい」

 無限収納袋から賢者の壺と魔剣グラムを取り出す。魔剣グラムには祖龍の血と呪いがかけられている。賢者の壺に聖龍剣・死喰、邪龍剣・命喰、魔剣グラムの三振りの剣を入れた。もう後戻りは出来ない。僕は自分の中の魔力、MP、行使力の全てを壺の中の怪物に注ぎ込んだ。

【神龍剣・死命の鎖】 必要魔力・不要。必要MP・不要。神の使いとして世界の善悪の量を見定めていた者。人間との戦いに敗れ。今は剣の一振りとして姿を変える。

 賢者の壺の中で生まれるものが見えた。僕の魔力もMPも必要ないようだ。勝手に一つになって、自分の意思で壺の外に出て来るのだろう。僕に出来る事はその時を待つしかない。ソッと後ろに下がると、収納袋から予備の剣を取り出して、正面の壺に向かって構えた。

 最初に見えたのは、白と赤が交差した柄だった。鎖のように柄から剣先に白と赤が規則正しい絡み合っていた。

「お前が祖龍なのか?」

 剣が喋るとは普通は思わない。でも、空中に浮いている剣ならば喋るかもしれない。予想通りに本当に剣が喋り始めた。

『この日が来るとはな。お前の望みは理解している。仮初かりそめの主人よ、我の力を得たいのなら、三つの試練を受けよ。全ての試練を乗り越えた時、お前を我の主人と認めよう』

 三つの試練? いや、今は考えるのは後だ。どんな試練だろうと受けるのは決まっている。

「お前の力が欲しい。試練を受けるよ」

『分かった。では、最初の試練を与えよう』

 僕の答えを聞くと、神龍剣の刀身から無数の赤と白の小さな鎖が飛び出して、四方八方に飛び散って行った。

「お前は何をしているんだ?」

 意味の分からない行動だった。小さな鎖を遠くの方に飛ばしても、何も起こらないはずだ。

『最初の試練だ。この地に棲まう悪しき者をここに呼び寄せた。全ての悪しき者を倒せば最初の試練は合格だ。さあ、我を上手く使って、試練を乗り越えよ』

 神龍剣が僕に向かって飛んで来ると、右手にピッタリと引っ付いた。言いたい事は分かった。さっさと手に取って、我を使えと言いたいのだろう。右手にしっかりと握ると、向かって来る魔物の群れを見た。この光景はアシュリーで経験済みだ。

 前回とは僕のレベルが違う。多少、襲って来る魔物の数が増えても問題ない。それに魔物の数が多い方が一気に倒し易い。貯蓄MPを全て消費して使える双龍の咆哮で魔物の群れを一掃しよう。

「今は剣が一振りしかないから、神龍の咆哮に名前が変わっている。まあ、同じ魔法みたいだから問題ないか」

【神龍剣・死命の鎖】 攻撃力1800。魔力1200。使用可能術技・《HP回復・MP強奪》《状態異常回復・状態異常付加》《ステータス上昇・ステータス低下》《聖痕・聖喰》《神龍牙》《神龍翼》《神龍の咆哮》《束縛の鎖》。

 準備完了だ。赤と白の剣先を土煙を上げてこっちに向かって来る、ロックゴレームと機械兵士の大群に向けた。この魔法が当たればギルド長でも倒せたかもしれない。でも、消費MPと魔法の溜め時間を考えると、明らかに後衛魔法使いが使う狙撃用の魔法だった。接近戦ではまず使えない。
 
 ゆっくりと剣の柄から手を離すと、剣が時計回りにグルグルと高速回転を始める。吸収したMPを限界まで圧縮、凝縮して前方に大砲のように撃ち出すのだ。当たれば、街の三階建ての建物も数件は吹き飛ばしながら突き進んでくれる。

『ハァッ‼︎』

『ギィガ‼︎』『シャア‼︎』『ボォン‼︎』

 十分まで魔物群れが近づいた瞬間に、神龍の咆哮を発射した。赤と白の螺旋状の魔法弾が前方の広範囲に拡散して、魔物と一緒に大爆発した。砂の大地が大量の土煙を上げているが、魔物達は怯む事なく向かって来てくれている。

「レベル251か…これならイケるかもしれない」

 今の一撃でレベルが一気に上昇した。今の僕なら聖龍剣と邪龍剣によって縛られていた成長速度の制限が消えている。魔物を倒せば倒すだけ、普通にレベルが上がっていく。あとは消費した貯蓄MPを魔物から奪って回収するだけだ。
 

 

 


 


 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

アラフォー女、二重生活始めます

桜井吏南
ファンタジー
主人公古都音は、未だオタク末期で恋愛未経験のアラフォー。 ある日高校の同級生でシングルファザー直樹と娘のうさぎ・古都音がファンの声優庵を含めた四人は異世界に召喚されてしまい住民権を与えられ、最初の一週間は冒険者になるため養成所は通うことになる。 そして始まる昼間は冴えないオタクOL、夜は冒険者候補生の二重生活。 古都音の日常は急変する。 なろうにも掲載

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...