【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?

文字の大きさ
上 下
67 / 175
第3章 侯爵家のF級冒険者

第58話 ウィルと乱暴者の侯爵

しおりを挟む
「お爺さんは旅の人だよね? こんな村に何の用で来たの? この村には野菜しか売ってないよ」

「何、ちょっとした大冒険の後の骨休みに立ち寄っただけだよ。儂は冒険者をやっていてな。君の家業の農家のように、毎日のように色々な国を旅するのが仕事なんだよ」

 あれ? 見た感じ、偶然立ち寄ったサークス村の住民とただの世間話をしているようにしか見えないぞ。これだと記憶を消す必要がないじゃないか。

 もしかすると、祖龍を倒した後に各地の病気の子供を治して回っているとか、そんな美談を隠したいだけなのか? いやいや、人体実験はしているからそれだけじゃないはすだ。

「大変そうだね。僕なら村でのんびりと暮らしたいよ。冒険者の仕事って楽しいの?」

「そうだな? 楽しい時もあったが、辛い時もあった。そして、これから先は最も辛い時かもしれないな。私にとっても、人にとっても…」

 深刻そうな顔で侯爵は辛い時の訪れを想像しているようだ。やはり、白神と呼ばれる神が現れると思っているようだ。でも、神様が現れるのに何で喜ばないんだ? 普通は喜ぶはずなんだろうけど?

「えっ~、そんなに辛い仕事なら辞めればいいんじゃないの。村のお爺さんやお婆さんも仕事がキツくなったら辞めてるよ。お爺さん、何歳なの? 働き過ぎなんじゃないの? 若い人に任せなよ」

「はっは、そのつもりだよ。医者の話だと儂はもう長くは生きられんそうだ。君のような若い子供達に後は任せたいと思っている。今はその為に国中を回って、君のような子供を探している最中なんだよ」

「へぇ~、お爺さん、もうすぐ死ぬんだ。大変なんだね。でも、元気出しなよ。まだ、生きてるんだから笑って楽しまないと」

 他人事みたいに言ってるけど、僕の方が先に死ぬからな。まったく、本当にここから助かるのかよ。

「はっは、娘にも同じような事をよく言われるよ」

 はぁ…僕が選ばれた理由は病気で残りの余命が少なかったからなのか。元々、死ぬ人間を人体実験に使えば、少しは罪悪感が消えるんだろうな。実際に侯爵様は余命三年なのに、それよりも早く亡くなっているし、あくまでも余命は最大値として考えた方がいいのか。

「ねぇ? そういえば、さっき子供を探しているって言ってたけど、冒険者のスカウトか何かなの? 残念だけど、僕には冒険者は無理だよ。魔物と戦ったり、森の中で草とか探して来ないといけないんでしょう? 村の宿屋に泊まっていた人達が疲れた顔で話していたよ」

 それにしても、会話を聞く限り、ここから冒険者になりたいとは思わないだろう。行使力を使って、無理矢理に冒険者になりたいと思わせたんじゃないのか? それにエミリアが全然来ないぞ。畦道に座っている爺さんと若い僕のどうでもいい話なんか聞きたくないんだよ。19歳のぴちぴちエミリアは何処だよぉ~?

 周囲を見回して、エミリアを探すものの影も形も無かった。まさかとは思うけど、侯爵とだけしか会っていないんじゃないのか。だとしたら、会話3倍速で進んで欲しいのに。

「どんな仕事も苦労は必ずするもんだ。そして、どんな仕事も必ず誰かに喜ばれるもんだと儂は信じている。君もそう思って、野菜を作っているんだろう?」

「うううん~? そんな事、考えた事もなかったよ。小さい頃から周りの人達が野菜を作るのが当たり前だったから、僕も自然に野菜作りを手伝っていただけだし、誰かの為とかいうよりも、野菜の声を聞いて美味しく育てている感じかな?」

「野菜の声を聞くか…冒険者が武器の声を聞くようなものか。なるほど、冒険者にはなりたくはないか? では、神様になりたいと思った事はないか? もしも、神様になれるとしたらどうする? なってみたいと思わないか?」

 最初は冒険者になりたいかと聞いて、断られたら、次は神様か…多分、だけど、どちらかになりたいと答えた子供に人体改造をしているのかもしれない。でも、冒険者にも神様にもなりたく無いと言った子供はどうしているんだろう? 病気を治さずに見殺しにしているとは思いたくはないけど。

「冒険者の次は神様? うううん…? とりあえず、村の同年代の可愛い女の子と付き合いとか、一瞬で美味しい野菜が作れるようになりたいとかしかないかな?」

「はっは、それは神様に叶えて欲しい君の願いじゃないか。神様とは冒険者と同じで、誰かの願いを叶える存在だと儂は思う。神様とはその特別な力を私利私欲の為に使わずに、困っている人や助けを求める人の為に、当然のように使う人の事を言うんじゃ。そんな神様の方がいいと思わないか?」

「えっー、それだと神様って、スーパー冒険者みたいなものじゃん。全然楽しそうじゃないよ。やっぱり、特別な力があったら自分の為に使いたいよ」

「そうか? 儂は誰かの為に力を使うのは楽しい事だと思うぞ。君だって畑の野菜達の為に力を使っている。君が畑仕事をやりたくないと本気で思っているのなら、絶対にしないはずだ」

「まあ、畑仕事は嫌じゃないけど、母さんがサボるとすぐに怒るんだよ。あれが嫌なんだよなぁ~」

「何、1%でもその仕事に特別な感情が無ければ続ける事は出来ないはずだ。誰かの為に何かをしたいと思う気持ちが1%でもあれば、誰でもスーパー冒険者、つまりはS級冒険者になれると思う。君にも他の人の心の中にもその特別な1%がきっとある! と儂は思いたい」

 今まで会話を聞いて、ずっと違和感を感じていたけど、僕が想像している神様と侯爵が想像して神様は違うようだ。侯爵が想像する神様は明らかに人間なんかどうでもいい、自己中心的な私利私欲の為に力を使う悪い神様のように聞こえる。

 んっ? 誰かこっちに走って来る。

「侯爵様! こんな所でサボっていたんですか。もう、村の人達は全員調べましたよ。ここの村には居ません。次はスカーブラ村を探しますよ」

 エミリアだ! 今よりも髪が少しだけ短くて男っぽいけど、胸はほとんど同じ大きさだ。いやぁ~、それにしても白の軍服姿も新鮮でいい。下が長ズボンなのはちょっと微妙だけど、やり手の美人女性将校みたいだ。中身は黒か。黒の上に白、悪くはない。

 いつものように神眼の指輪でエミリアの服装チェックをした。もしもスカート姿で登場してくれたのなら、地面に寝そべって肉眼チェックが出来たのに凄く残念だ。

「エミリアか、まだ次の村には行かなくて済みそうだ。ここにいる少年が該当者だ。だが、冒険者にも神様にもなるつもりはないらしい。悪いが治療だけ済ませてくれないか」

 やっぱり、冒険者になるのを断った子供は、治療だけをして済ませるのか。

「はぁ…まったく。子供一人、満足に勧誘出来ないんですか? よくそれでS級冒険者になれましたね」

「ねぇ、お爺さん? この綺麗な人は誰なの? お爺さんの知り合い?」

 若い僕がエミリアの顔や胸をジロジロと見ながら聞いてきた。このマセガキめ。エロい視線がバレバレなんだよ。ちょっとは自重じちょうしろ!

「ああっ、この子はエミリアだ。儂と同じS級冒険者で自慢の娘だ」

 侯爵は言い忘れているようだが、正確には自慢の愛人の娘だ。そこは忘れてはいけない。都合の悪い事実だからといって、言い忘れたりしたらいけないよ。

「えっ? 娘? お爺さんの年齢なら娘はおばさんだろ。えっ、全然おばさんじゃないよ!」

 馬鹿! エミリアにおばさんは禁句なのを知らないのか? ほらほら、やっぱり怒って向かって来たぞ。悪い事言わねぇ、早く謝らないとお前半殺しにされちまうぞ!

「私は伯母さんじゃないよ、僕ぅ~? お姉さんでしょうぅ~?」

「ごめんなさい‼︎」

 流石は若い僕だ。土下座までのスピードが段違いに速い。エミリアの殺気に気づかなければ、胸ぐらを掴まれて、畑のど真ん中に投げ飛ばされていた。

「はぁ…まあいいわ。私はエミリア、君の名前は何?」

「ウィルです。あのぉ~、冒険者にはお姉さんみたいな美人の人が多いんですか?」

「んっ…? 女性冒険者は全体の三割ぐらいだと思うけど、美人かどうかは君の評価次第だから分からないけど、私が美人ならそれなりに多いと思うわよ。それがどうかしたの?」

「いえいえ、何でもありません」

 何でもないような感じは全くしない。顔がニヤけている。まさかとは思うけど、不純な動機で若い僕は冒険者になろうとしてないよね? 困っている人の笑顔の為だよね?

「そう? じゃあ、君の治療を始めるから、この袋の中に入ってもらいたいの。これは魔法の袋で、この中に入れば時間が停止された世界に行けるから、私がその中で素早く君の治療をするわ。現実では一秒も時間が経過していないから。明日には元気になって、畑仕事も出来るはずよ」

 あれは無限収納袋か。でも、僕の時間が停止するように、エミリアも中に入ったら時間が停止するんじゃないのか? 何か袋の中で動ける対策があるんだろうな。

「あのぉ~、その話なんですけど、お義父さん。僕、冒険者になってもいいかもしれません。いえ、是非ならしてください。お義父さん!」

 こらこら、学習する事が出来ないのか若い僕! 今度は侯爵様が凄く怒ってやって来てぞ。悪い事は言わねぇ、早く、お義父さんからお爺さんに訂正するんだ。まだ、死にたくはないだろう?

「はいぃ…?」

「ごめん…へぶぅ…‼︎」

「オラ! 誰がお義父さんだ! この田舎のクソ餓鬼がぁ! 儂の可愛い娘に肥し臭い手で手を出すつもりか! オラ、もう一度、言ってみろ! オラ、オラ!」

 ああっ、土下座する前に殴られた。このままだと左足で蹴り続けられて全殺しになっちゃうよ。慌ててエミリアが止めようとしているけど、もう手遅れかもしれない。

「侯爵様、やめてください! 死んでしまいます!」

「どうせ、一年後には死ぬんだ。儂の手で楽に殺してやるのがせめてもの情けだろう。オラ!」

『ごふっ…‼︎』

 実際には手ではなく、足で楽にしようとしている。ああっ、若い僕が畦道に血反吐を吐いて痙攣しているよ。そういえば最近、似たような事を孫娘にされたような気がする。血は争えないという訳か。

『オラ、死に腐れ!』

『ごふっ…ごふっ…』

 くっ…これ以上は僕が蹴られている姿は正直見たくはないけれど、真実を知るには見るしかない。見るしかないんだ。

 待つ事数分後、侯爵の怒りがやっと収まったのか、半死半生の僕がエミリアの手によって収納袋に放り込まれた。どうせ、人体改造されるんだ。ちょっとぐらいは怪我しても平気だよね。そうだよね?

 それにしても、袋を見つける為に服を泥だらけにして、傷だらけになって探していたと思っていたけど、実際は畦道で侯爵に蹴り転がされていただけだったんだ。そりゃー、記憶を書き換えますよ。

 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...