【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?

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第2章 サークス村のF級冒険者

第49話 ウィルと白の胸当て

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 土煙の向こう側に向かって、邪龍剣を真横に振り抜いた。赤の斬撃を回避するには右か左に飛び出して来るはずだ。

(右か)

 追撃の聖龍剣を真横に振り抜く。こっちは暗闇の中の魔物さえ正確に見る事が出来る。だが、神眼の指輪を使っている以上は、相手にも魔力の流れが見えている。白の斬撃に続く自分が分かっているはずだ。

「その技は一度見た。離れた場所から叩けば済む話だ。ハァッ‼︎」

 クロードの前の空中に十二本の雷の矢が一瞬にして出現した。時計の一~十二の数字ように規則正しく並んで、こちらに向かって一斉に飛び出して来た。数を頼りに白の斬撃と共に向かって来る敵を撃ち破るつもりのようだ。

 でもそんな事はさせない。右手に持つ邪龍剣のMP強奪を使用して、向かって来る雷の矢を斬ってはMPを吸収して、威力を弱めて前に突き進む。多少の怪我は吸収したMPを使い、左手に持つ聖龍剣のHP回復で瞬時に回復していく。

『ハァッ‼︎』

 二振りの龍剣を交互に使い、振り下ろし、振り払い、振り上げ、右肩に突き刺した。MP強奪とHP回復を込めた、赤と白の斬撃で交互にクロードのMPを奪いながら、殺さないように出来た傷も回復させていく。殺すつもりだが、出来ればしたくはない。屍霊は殺せても、生きてる人間は出来れは殺したくはないのだ。甘いかもしれないけど。

「ぐっ…ガァッ‼︎」
「ハァハァ、終わった」

 クロードを気絶させると、杖や装備は収納袋に入れさせてもらった。次に素早く賢者の壺を袋から取り出すと、急いで頑丈な合金の手錠と足枷を作り、倒れている彼の両手両足に嵌めて拘束する事に成功した。でも安心は出来ない。エミリアの方を振り返った。

「くっ…!」

 遅かった。あれだと生きてはいない。エミリアは僕と違って容赦なく殺れるようだ。これだけの軍人を殺したんだ。元々、伯爵に捕まれば拷問を受けて殺されるだけだ。それなら楽に殺された方がマシかもしれない。

「ウィル様、生捕りにしたんですね?」

 エミリアがこっちに向かって来た。多分、僕よりも早く倒していたはずだ。あえて、手を貸さずに様子を見ていたのは、倒せると思ったからだろう。まあ、その通りだったけど。限りなくA級に近いB級はもう任せたら駄目だよ。

「うん、伯爵に渡した方がいいとは思うけど、人間を使って屍霊を作るような人には、個人的には渡したくはないかな」

 少なくとも十七人の人間が、コイツらを誘き寄せる為に犠牲になっている。この場所に転がっている三十人近くの軍人も加えたら五十人近くになる。結果だけ見れば、やっている事はほとんど同じに見えてしまう。

「洞窟の中の人間は気にしなくてもいいかもしれません。おそらくは死刑囚などの罪人だと思います。伯爵様も領民を犠牲にしようとは思わないはずです。問題はこれをどうにかしないといけません」

 冷たい目で地面に転がっているクロードをエミリアは見る。話を聞くにしても、おそらくは伯爵の兵が既に罠にかかった白聴会の三人を捕らえる為に、ティンタジェル城とプリマスの町から向かって来ているはずだ。沖合に見えていた軍船もこっちに向かって来ている。

 マリーンの洞窟は大陸の南西部の位置にある。考えてみたら、ここから西には陸地はない。獲物が掛かったら海にも陸にも逃げられない場所だ。そこまで考えて準備したのだろう。だとしたら、伯爵はたまたま領地の責任者として、協力させられた可能性がある。伯爵より上のくらいは侯爵と公爵の二つしかない。

「まさか…?」

 侯爵家のアシュリーは白聴会を探していた。そして、あの時、素材屋で会った時に吸血鬼の血を手に入れたはずだ。それを使えば屍霊ぐらいは作れるんじゃないのか?

 そんなことはないと思いたいのに、心の何処かでは、アシュリーならやるかもしれないと思ってしまう。いくら何でもそこまでやる人だとは思いたくない。素材屋で話した時の彼女の印象は確かにキツい感じがしたけど、白聴会に狙われないように指輪やブーツは街では隠すように教えてくれた。良い人じゃなければ教えてくれないはずだ。

「ウィル様、このままではマズい事になります。だから、申し訳ありません」

「何が…!」と振り返ってエミリアに聞こうとするが、その前にエミリアの右手が首に向かって突き出されるのが見えてしまった。慌てて右横に飛び退いて躱してしまう。

「ハァハァ⁉︎ エミリア?」

 エミリアは不思議そうに自分の右手を見えている。一体、今のは何だったんだ?

「凄いですね。前は反応も出来なかったのに躱してしまうなんて」
「エミリア、何を言っているか分かんないけど、今は遊んでいる暇はないと思うよ。伯爵様に事情をキチンと話さないといけないから」

 今度は不意打ちを避ける抜き打ちテストか何かかな? 合格したなら、次は一週間後ぐらいにして欲しいんだけど。

「ええ、だからですよ。ウィル様には少し眠ってもらわないといけないんです。直ぐに終わるので抵抗しないでくださいね」

 そう言い終わると、エミリアの姿が視界から消えてしまった。耳、鼻、全身で気配を探した。果物の匂いがするエミリアの髪の匂いがした。

(後ろ‼︎)

「違います」

 慌てて背後を振り返るがエミリアはいなかった。もう前の方に移動していた。

『うぐっ…‼︎』

 両手で首を締められ地面から持ち上げられる。足が地面に付かない。左腰に差している龍剣を抜こうとするが、素早く動いて来た彼女の右手に、僕の左手は簡単に掴まれてしまった。

「駄目ですよ。抵抗しないでください。直ぐに終わりますから。余計な記憶を消して、そこに転がっている余計な者を早く排除しないといけないんですから」
「エミリ…」

 意識が消えそうになる。エミリアの細腕を退かすことは出来そうにない。何とか自由に動く右手をエミリアに向かって動かしていく。限界ギリギリまで右手を下に向かって伸ばして行く。エミリアの顔を通り過ぎ、首を通り過ぎ、鎖骨を通り過ぎ、心臓のところまで腕を伸ばすことに成功した。

 白い胸当てに守られたエミリアの心臓を撫で回すように触る。硬い感触の中に確かな柔らかさが存在した。

「んっ? ウィル様は最後にこんなことをしたいんですか? はぁ~、困った人ですね。すぐにこの記憶も消して差し上げますからね」

 呆れた顔をしたエミリアが見える。やっぱりこんなことをしたら怒るに決まっている。

 でもエミリアが何の為に僕にこんなことをするのか分からない。記憶を消す? 何を言っているのか分からない。これではまるで白聴会と一緒じゃないか。

 




 
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