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第2章 サークス村のF級冒険者

第48話 ウィルと邪龍牙

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「それならもう倒した。全部で十七体だ。証拠が欲しいなら灰を持って来たから受け取ればいい。ほら!」

 収納袋に腕を突っ込むと灰を掴んで空中にばら撒いた。拾える物なら拾ってみろ。

「そんなものはどうでもいい。そっちの女は侯爵家のエミリアだろう? 裏切り者の父親の娘が、こんな所で何をしている?」

 赤茶髪の魔法剣士ポートマンはまったく灰には興味はないようだ。灰にも僕にも。エミリアの方ばかりを見ている。それに裏切り者の父親?

「まさかとは思うが不死者狩りをすることで、今更、白聴会に戻りたいという訳じゃないだろうな?」

 コイツらが白聴会のメンバー。だとしたら洞窟の屍霊は、不死者狩りを行う白聴会を誘き寄せる為の餌? リチャード伯爵の狙いはコイツらだったのか。それにしても、タイミングが悪過ぎる。

 いや違う。伯爵にとっては不死者狩りをする者は全員が白聴会の容疑者なんだ。つまりは伯爵から見れば、ここに来た時点で僕達は黒なんだ。コイツらが現れなかったら、僕達が軍人達に捕まっていただろう。

「エミリア、どういうこと? 侯爵様とエミリアは白聴会のメンバーだったの?」

 エミリアは赤髪のポートマンに何も答えない。信じられない。エミリアと侯爵様が白聴会のメンバーなら、何で祖龍を倒したりしたんだ。祖龍は白聴会の神龍だろう。

「そんなの嘘です。侯爵様があなた達のようなテロ組織と関わりがあるはずがありません。亡くなった侯爵様を侮辱する行為は絶対に許しません!」
「やはり違うか。裏切り者の父親からは何も聞いてはいないようだ。神より特別な力を貸し与えられし、我ら白聴会の一族の名を穢す汚物が。その命を持って偉大なる神に懺悔せよ!」

 ポートマンが剣を抜くと、同じように赤髪の男エドワードも剣を抜いた。一人だけ杖を持っている青髪の男クロードは二人の背後に隠れていく。やっぱりイカれている。話し合いは通用しない。

 それにやっぱりエミリアと侯爵様は白聴会とは関係ないようだ。今度はくだらないデマを流すつもりなんだ。本当にくだらない。

 神眼の指輪を使い、三人の武器と習得している剣技と魔法を素早く調べる。その結果、武器と習得している剣技と魔法から、多分、前衛2後衛1のパーティーだ。後衛で攻撃魔法と妨害魔法を使うはずのクロードを倒せれば、こっちがかなり有利になる。そして、相手もそれが分かっているから、やらせはしないだろう。
 
「エミリア。A級二人、B級一人、青髪の奴が一番弱いから一気に決める。殺すつもりで行くから、牙を使う」
「すみません、ウィル様。出来れば一人ぐらいは生捕りにして伯爵様に引き渡したいところなんですが、ちょっと難しそうです。私が二人の相手をするので、B級をよろしくお願いします」
「一分で終わらせるから待ってて」

 右手に邪龍剣、左手に聖龍剣を持って、剣先に向かって刀身全体に魔力を流していく。使うのは剣技・邪龍牙と聖龍牙だ。この技は赤と白の長さ二メートルを超える斬撃の塊を前に飛ばす事が出来る。でもそれだけじゃない。

『ハァッ‼︎』

 邪龍剣を左上から右下に斜めに振り下ろす。続いて、聖龍剣を左から右に真横に振り抜いた。赤い斬撃と白い斬撃が、ポートマンとエドワードの二人の後ろに隠れるクロードに向かって行く。

「俺がやる」
「任せる」

 予想通りだ。片方が絶対に止めてくれると思っていたよ。

「くだらん技だ。ハァッ‼︎」

 赤髪のエドワードが赤の斬撃の前に立ちはだかって、剣を勢いよく振り下ろして破壊しようとした。言い忘れていたけど、気をつけた方がいい。その斬撃は触れれば噛み付くから。

『ぐっ…⁉︎ ギャア‼︎』

 エドワードの剣が赤の斬撃の中心に触れた瞬間、赤の斬撃は砕けずに、触れた場所を中心にして、くの字に形を変える。赤の斬撃は形を変えて鋭い牙を生やし、彼の左肩と右脇腹に鋭い牙を激しく突き立てた。でも、まだ、終わりじゃない。白の斬撃が彼の胴体を食い千切ろうと、もう向かっている。

「エド‼︎ くっ!」

 仲間を助けようとポートマンが動こうとするが、遅かった。白の斬撃を追うようにして、エミリアが走っていたからだ。右手に魔剣グラムを持って、エミリアはエドワードに飛び掛かるように跳躍した。そして、片手で持った剣を渾身の力を込めて振り下ろした。

「溜め斬り」

 エミリアの魔力の篭った凶悪な一撃が、エドワードの身体を頭から真っ二つに両断する。両断すると、岩の地面を粉砕してやっと止まった。

「次はあなたの番です」

 黒い刀身の剣先をスッとポートマンに向けてエミリアが言った。あの時、腰に手を回さなくて本当に良かった。

「くっくく、裏切り者でも神に選ばれし力は持っているか。そっちの小僧の剣は祖龍のものか? まったく神が戻られる記念すべき時に、お前らのような叛逆者はんぎゃくしゃが現れるとは」

 二人の会話が気になるが、今はこの男をどうにかしないといけない。もしも、生捕りにするならこの一番弱い青髪のクロードがいい。剣技で状態異常付加を狙うよりは、聖喰せいしょくを使った方がいいかもしれない。人間には使った事はないけど、魔物に使えば凶暴化させて錯乱状態にする事が出来た。多分、死にはしないはずだ。

「くっ! 何故当たらない⁉︎」

 神眼の指輪は戦闘向きではない。相手が撃って来た魔法を見てから動いては遅過ぎて間に合わないからだ。習得している魔法を調べて、身体や杖に魔力を流した瞬間のその属性を見てから、魔法が完成するまでに通る過程を見て、使うだろう魔法を予想しないといけない。魔法の早解き問題のようなものだ。

【属性・雷、形状・槍、数・単発】。多分、【ライトニングスピアー】か【ライトニングアロー】の速射魔法。つまりは今直ぐに撃って来る。

 答えが分かると素早く横に回避した。雷の矢がさっきまで居た場所を通り過ぎて行く。やっぱり生捕りは難しい。殺すつもりでやらないと、こっちが殺られてしまう。

 いや待てよ? 魔法を避け続けるか、MP強奪でコイツのMPを空にすれば、生捕りは出来る。エミリアが一対一であの男に負けるとは思えない。ここは生捕りにして、エミリアに褒めらてもいいと思う。でも、万が一にも、コイツがエミリアの方に行くと迷惑をかけてしまう。欲をかくべきではないという事か。

「その剣に指輪、ブーツ、神の使いたる神龍を汚らしい足で踏み付けるとは、この罰当たりめ!」

 怒れるクロードの頭上に十個の爆発する雷の球体が出現した。分かっているので、上から落ちて来る前に後方に大きく飛び退いて回避した。地面に着弾して大きく爆発すると、モクモクと土煙が上がっていく。土煙の向こう側を見ながら、次の動きを警戒する。

 それにしても、強い。エミリアやアシュリーには劣るけど、貴族はこんなに強い人が多いのだろうか?

「そんなに強いのに、白聴会なんていうテロ組織に協力するなんて勿体ない事をする。今からでも改宗すればいいのに」
「何も知らない小僧が。テロ組織とは教会の事を言うのだ。偽りの神の言葉を語り、何も知らぬ民衆に、常日頃から神に唾を吐きかける行為を続けさせる。神を侮辱し、罵り、時折り、助けて欲しいと懇願する。だが、喜べ。いくら長い年月を生き穢れた神龍でも、神のめいが無ければ人は襲わぬ。帰って来るのだよ。我らの神がこの星に」

 やっぱり、改宗は無理そうだ。生捕りにしても、まともな事は聞き出せないかもしれない。それにしても神が帰って来るか。いや、そんなものはいない。イカれた連中の言葉をまともに聞く必要はない。コイツをさっさと倒して、エミリアのところに行こう。

 





 

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