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第2章 サークス村のF級冒険者

第45話 ウィルとマーリンの洞窟

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 コナーと同じレベル13なったから浮かれてしまっていたのかもしれない。たまには龍剣を使わずに自分の実力で戦おうと思ったのだ。クレア、ミランダ、ユンと一緒にシェル・グロット洞窟の魔物を倒しに行ったのだ。

 神眼の指輪と神速ブーツを外して、鋼鉄製ブロードソードだけを装備する。ブロードソードの刀身に魔力を流して、遅い動きの洞窟狼目掛けて叩きつけた。その結果、龍剣を使わずとも溜め斬りが使用出来ることが判明した。龍剣を使わずとも僕は洞窟の魔物を圧倒することが出来たのだ。

 そう僕のステータスは実際のステータスとは全然違う。そのことをエミリアに言おうと思ったら、頭がズキズキと急に痛み出した。言いたいのに言ってはいけない。何となくそう思ってしまった。

「ご苦労様です。さあ、乗ってください」

 倒した魔物を収納袋に入れ終わると、エミリアが微笑みながら言ってきた。僕が感じている違和感をエミリアは感じていないようだ。この程度の魔物は倒せて当然だと思っているのだ。僕の事を信頼しているのか、過剰評価しているのか、それとも、それ以外なのか。

「ごめん、少し手間取ってしまったね」

「そんな事はないですよ。無駄な動きはほとんど無かったです。ただ、一つだけ言わせてもらえば二刀流に挑戦してみませんか? 折角、二振りあるんです。二つ同時に使えるようになれば、もっと強くなれると思いますよ」

 今まで彼女の助言通りにして悪い結果になった事はない。エミリアのお陰で溜め斬りもマスターしたようなものだ。素直に聞いておこう。

「二刀流か、分かった。ちょっとずつ練習してみるよ」
「ああっ、でも不器用な人がやるとかえって弱くなるので無理そうなら早々に諦めてくださいね」
(だから、どっちなの?)

 いや、出来る、出来るないの問題じゃない。出来るようになれば強くなれるのなら、不器用でも頑張って器用になればいいだけだ。とりあえず、どっちの手にどっちの剣を握るか決めないと。

 一日目の宿泊地、マンチェスターに昼少し過ぎに到着すると、エミリアと遅目の昼食を食べてから、夜まではお互い自由行動をする事に決めた。冒険者ギルドや素材屋、服飾屋を探してみたが、アシュリーは見つからなかった。やっぱりロンドンに帰っている可能性がある。

 アシュリーに会うことが出来れば、吸血鬼の血を売った人物を教えてもらえると期待していたが、会ったとしても話してくれるかは正直分からない。アシュリーの性格は悪い。タダでは教えてはくれないし、アシュリーが欲しい物は用意出来ない。今は余計なことはせずに、やれることに集中しよう。

 ♢

 二日目、三日目と順調に旅は続く。流石に三日目の宿屋に泊まった時、「おや」』と思ってしまった。またまた別々の部屋に寝ることになったのだ。

 狭い魔鳥船の中では平気でも、一緒の部屋は平気じゃないというのは、ちょっとおかしい。部屋に置かれている二つのベッドは、座席よりも遠い距離に置かれている。肉体的な距離は平気でも、精神的な距離は縮めたくはないという、確固たる意思表示なのかもしれない。まだ道は長そうだ。

 そして、四日目。目的地であるプリマスの町が見えて来た。軍港という事で港の中に軍船が並んでいると想像していたが、見えたのは八百五十人乗りの大型帆船二隻だけだった。この規模の町なら少なくとも、あと三隻は同じ大きさの軍船が必要なはずだ。何処かに遠征でもしているのだろうか?

「ウィル様、このまま町の近くに着陸して、今日は泊まってから明日の朝にマーリン洞窟に行きますか?」

 考えるまでもない。町に泊まってもイベントが何も起きないことは知っている。もう子供じゃない、四度目の正直は期待しない。

「このまま洞窟を目指そう。警備の人も屍霊が外に出ないように、押し留めているのは大変だろうからね。早く浄化してあげようか」
「そうですね。その方がいいですね。もしも浄化が出来ないのなら諦めるか、別の方法を探さないといけません。まずは偵察です。浄化が上手く行くようなら殲滅に切り替えましょう」

 そうだ。いくら浄化方法が無いからと言っても、この周辺の土地を管理している領主は時間をかけ過ぎている。洞窟を壊すとか、一気に兵士を投入して、エミリアが言っていたように、不死者の身体をバラバラにすればいいはずだ。もう兵士に犠牲を出したくないからといって、決断が鈍っているように見える。

 マーリンの洞窟はプリマスの町から西に三十分程度の距離にある。魔鳥船で三十分の距離なら洞窟から逃げられたとしても、町に着くには一日以上はかかりそうだ。逆に狭い洞窟に閉じ込めるよりも、広い外に誘き出した方が楽に倒せるかもしれない。

「今回は私も一緒に戦わせてもらいます。少なくとも数は三十~七十体ぐらいいるらしいです。ウィル様は聖痕で浄化することを最優先に考えてください」
「そうするよ。ある程度、剣のレベルが上がったら僕も前に出て戦わせてもらうよ」

 そういえば、エミリアが戦っている所は見た事がないな。C級のレベル90程度の不死者なら、おそらく余裕で倒せるとは思う。でも、女の子に守られて僕は本当にいいのだろうか? ここは無理してでも前に行くべきなんじゃないのか?

「でも、絶対に噛まれたりしないでくださいよ。ゾンビになってしまいますから」

 その話は酒場で聞いたことがある。噛まれてからゾンビになるのか、死んでからゾンビになるのか。研究者の間でも、いまだにこの議論には決着は付いていない。そもそも危ないからという理由で研究出来ないので、この議論は永遠に決着は付かない。その結果、世界三大不毛な議論の一つに認定されてしまった。

 だがある日、勇気ある魔法使いの冒険者の一人が、ワザとゾンビに噛まれてから状態異常回復魔法を使ったことで、噛まれても十五分以内なら大丈夫だということが証明されたそうだ。ちなみにその冒険者は、噛まれて二十分経過後に仲間によってゾンビとして処理されたそうだ。

「はっは、それは迷信だよ。噛まれたりしても、状態異常回復の魔法で治るから安心していいよ」
「キチンと勉強しているようで安心しました。さあ、行きましょう」

 エミリアは後ろを歩く僕に振り返って、にこやかに微笑んだ。良かった。今回は正解だったようだ。たまに勉強しているか試そうとするから、緊張するよ。もし間違ったら、しばらく塩対応になるから注意しないと。

 ジャリジャリとした砂地を歩いて目的地を目指す。マーリンの洞窟に行く為には、軍人が警備している海岸線を歩く必要がある。黒塗りの鎧を武装しているとはいえ、人数が三十人は少なく過ぎる。それにレベルは70~80前後とD級冒険者程度だ。C級の屍霊が洞窟の外に逃げたら、一人では倒すのに苦労しそうだ。

「中は暗いと思いますが、私もウィル様もその程度は問題ありません。ですが、指輪は絶対に取られないようにしてください。それが無いとウィル様は目隠しされた状態で戦うようなものですか」
「十分に注意するよ。エミリアも気をつけて進んでね」
「相手はC級です。私のことは心配しなくても大丈夫ですよ。ウィル様はご自分のことだけを考えてください」

 洞窟の前で最後のチェックをする。外は明るい昼間なのに、縦長の口を広げているマーリンの洞窟は真っ暗闇だ。夏場の肝試しには最高かもしれないけど、今は恐いだけじゃない、危険も付いて来る。

 さて、出来れば、浄化が上手く行かない事がないように願いたい。邪龍剣の開放レベルはここまで来るまでに80/90まで上げてきた。中で屍霊を倒せば、さらに上がるはずだ。さっさとお化け洞窟をクリアして町の宿屋に泊まろう。

 エミリアを先頭にぴちゃぴちゃと天井の水滴が落ちる暗い洞窟を進んで行く。時折り、身体に水滴が落ちて、ビクッとなってしまう。けれども、前を歩くエミリアは全く反応しない。

 分かっていたとはいえ、エミリアが可愛い悲鳴を上げて抱き付いて来る事はない。それは絶対になさそうだ。彼女は目の前に現れた屍霊のスケルトンとゾンビを見ても、無反応だ。それにしても、聞いていた話とは全然違うようだ。

【名前・スケルトン 種族・骸骨屍霊 魔物ランク・C級 体格・中量級 レベル114 HP7013 MP230 攻撃力667 物理耐性678 魔力305 魔法耐性418 敏捷418】

【名前・ゾンビ 種族・腐敗屍霊 魔物ランク・C級 体格・中量級 レベル112 HP5816 MP219 攻撃力766 物理耐性570 魔力662 魔法耐性519 敏捷249】

 うん、騙された。C級はC級でも、レベル120以上のB級に限りなく近いC級だ。しばらくは僕の出番は無い。ここはエミリア先生に任せるしかないようだ。
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