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第2章 サークス村のF級冒険者

第44話 ウィルとプリマスへの旅

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「ウィル様、そろそろ、行きましょうか?」

 エミリアが魔鳥船の中から聞いてきた。出掛ける準備は出来たようだ。

「うん。クレア、ミランダ、あとのことは任せたよ」
「ええっ、ウィルさんも気をつけてくださいね」

 黒と赤の宿屋の制服を着た二人に見送られて出発する。クレアはレベル16、ミランダはレベル13、ユンはレベル18になった。やはりあっという間に追い越されてしまった。今では三人でシェル・グロット洞窟に行って、食材を調達出来るようになってしまった。

「大丈夫だよ。エミリアと一緒だから」
「だからです。間違っても辺な気は起こさないでくださいね」
「大丈夫、分かっているから」

 狭い魔鳥船の中で長時間一緒にいたとしても、背後から抱きついたりはしない。そんなことをすれば地上に真っ逆さまに突き落とされるだけだ。いまだにエミリアとは手も繋げていない。

 聖龍剣のレベルが上がるようになると、今度は邪竜剣が上がらなくなってしまった。村の近くのレベル30の魔物の血ではもう満足してくれないようだ。高レベルの魔物が生息する場所に遠征しなければならない。

【聖龍剣・死喰】 開放レベル80/80 MP359 攻撃力149 魔力347 習得剣技・《聖龍牙》 習得魔法・《HP回復》《状態異常回復》《ステータス上昇》《聖痕》 契約者・ウィル

【邪龍剣・命喰】 開放レベル76/80 MP337 攻撃力153 魔力320 習得剣技・《MP強奪》《状態異常付加》《ステータス低下》《聖喰》《邪竜牙》 契約者・ウィル

 クレア、ミランダ、ユンに見送られて村を出発する。目指すはイングランド王国南西部にあるプリマスの港町だ。港町と言ってもミドルズブラとは違って、軍事関係の町として発展している。その為か他国からの交易の品はほとんど入って来ない。

 魔鳥船でもプリマスまでは片道二十四時間かかる。魔鳥船は蓄積MPが満タンでも連続飛行時間は六時間が限界だ。その為、街に立ち寄りながらの片道四日間の長旅になってしまう。マンチェスター、バーミンガム、ブリストルの二つの街と一つの町を宿泊地点として、依頼を探しながらのゆっくりとした長旅になる予定だ。エミリアに野宿はさせられない。

「剣だけですが、ウィル様もC級冒険者の仲間入りが出来そうですね」
「でもいいのかな? レベル13だよ?」

 強力な武器があるとしても、持ち主はレベル13だ。例えば、エミリアが僕の言う通りに戦う戦闘マシーンだとして、それを操っている僕がA級冒険者だと言えるだろうか?

「いいと思いますよ。実力があれば誰も文句は言いませんよ。でも、剣が無いとウィル様はレベル13だから、やっぱり」
「えっ、どっちなの?」

 ハッキリと駄目なら駄目と言って欲しい。期待させて突き落としされるのは、もう懲り懲りだ。もうこうなったら、思わせ振りな態度のエミリアのことは諦めて、事実上は婚約者のユンと一緒になるのも考えないといけない。

(エミリアは特例でなれるはずだと言うが、本当にC級冒険者になれるのだろうか?)

 三つある街ではレベル90以上のC級以上の冒険者は物理的な高待遇を受けることが出来る。もちろんその街の冒険者ギルドと専属契約しなければならない。定期的に依頼を受けることで、ギルドはその依頼の手数料を得ることが出来るという仕組みだ。

 その為かギルドによって決められた依頼数と手数料をノルマとしてこなさないといけないので、専属契約した冒険者は契約を切られないように頑張るしかなくなるという訳だ。

 つまり実力がある人はちょちょいとノルマを終わらせて、悠々自適に街で生活することが出来るという訳だ。逆に大した実力もないのにC級になってしまった冒険者は、一年間だけの専属契約で終わってしまう。そして、一度契約を切られてしまうと二度とその街では専属契約が出来なくなってしまう。

 もちろんC級からB級に昇級した場合は特例として再契約は出来るらしい。まあ頑張ればB級冒険者の物理的な高待遇が受けられるという訳だ。エミリアは教えてくれないが、A級冒険者の物理的な高待遇は期待大だ。

「優秀な人材はどの街でも欲しいはずです。気にせずに剣のレベルが90になったら、何処でもいいので聞いてみてください。きっと採用されると思いますよ」
「そうは言っても」

 実はもう決めている。でもその街にはアシュリー達、侯爵家の本邸がある。エミリアが賛成してくれるかは微妙な感じだ。だが万が一にも白聴会が襲って来た場合は最も安全な場所だと言える。軍の強者の手勢が配備されている首都で、暴動を起こそうと思うほど連中もイカれてはいないはずだ。

「心配しなくても大丈夫ですよ。この依頼はC級クラスの魔物を倒すことです。C級を倒すんです、C級並の実力があると証明しているようなものです」
「多分だけど、今まで倒したD級、E級の魔物はエミリアが倒していることがなっているよ。ギルドの職員達には僕が荷物持ちか、小判鮫か、ストーカーぐらいにしか見えていないはずだよ」

 それに龍剣の存在は知られたくないので、ギルドにも秘密にしている。祖龍の剣を持っている冒険者がいることが知られれば、たちまち噂になってしまう。まだ白聴会の刺客を誘き寄せる為の餌に僕はなりたくはない。餌になるならもう少し強くなってからだ。

「今はそうかもしれません。でもこの依頼は祝福の魔法【聖痕】を持っているウィル様にしか出来ないものです。そのつまらない疑いは晴れますよ」
「そうだといいけど、実戦で一度も効果が無かった魔法だし、今度も駄目かもしれない」
「その時は普通にバラバラにして動けないようにすればいいんですよ」

 エミリアは簡単に言うから本当に簡単に思えてしまう。受けた依頼は【マーリンの洞窟】と呼ばれる洞窟を占拠しているスケルトンやゾンビなどの屍霊しかばねれいを排除することだ。

 普通に倒しても完全には死なない屍霊は、浄化して初めて完全に殺せるという。浄化するには聖属性の魔法が必要不可欠で、聖龍剣がレベル30/40の時に習得した、今まで全く使えなかった魔法が効果的らしい。

 スケルトンやゾンビは不死者だ。場合によっては白聴会と遭遇してしまう可能性もあるが、マーリンの洞窟は中に人が入らないようにプリマスの軍人達が警備している。軍人を襲撃して、更に中の屍霊を全滅させる戦力はないはずだ。

「ウィル様、本当にマンチェスターに泊まるんですか? MPさえ補給出来れば十二時間ぐらいは連続で飛行出来ますよ」
「無理は良くないよ。僕も街の周辺の魔物を倒しながら、ゆっくり進みたいんだ。マーリンの洞窟に着く頃には邪龍剣の開放レベルも80/90にしたいからね」
「そうですね。では、この辺で一度着陸しましょうか。いつも通りウィル様には、魔物を倒しながらの船のMP補給をお願いしますね」
「すぐに終わらせるから、ちょっとだけ待ってて」

 エミリアは魔鳥船の操縦で、僕はMPの補給係の役割がある。十分間の飛行でMPを100消費するので、蓄積出来る満タンMP4000を補給するには、この辺の魔物なら四十匹は倒す必要がある。

 いつものように十匹程度の魔物の群れを見つけると、その近くに船を着陸させる。襲って来る魔物をMP強奪でMPを奪って素早く倒して行く。今ではE級程度の魔物はマンキーと同じ程度にしか思えなくなってしまった。

(そしてエミリアには言っていないが、龍剣を使わなくてもそれは変わらなかった)
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