【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?

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第2章 サークス村のF級冒険者

第38話 ウィルとマウンテン

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 ユンを一度収納袋から取り出して、収納袋をエミリアに渡す。ユン、クレア、ミランダをエミリアが入れると魔鳥船に乗り込んだ。収納袋にエミリアが女の子を入れているのを見ていると、何だか、連続少女誘拐犯の共犯者になった気分だが、彼女達の合意は取っている。法律的には問題ない。心の問題である。

「ウィル様、そろそろ山頂です。透明マントと収納袋はお預かりしますね。山頂に出るマンキーは大型で強いので気をつけてくださいね」

(だったら一緒に居てくれてもいいのに)

 山頂に一人降ろされると、エミリアは山の下に向かって降下して行く。ロウワーズ山の標高は千二百メートルを超える。そこまで高い山ではないが、魔物の出るこの辺を一人で登山する人はいない。透明マントを持っていないので、周囲を神眼の指輪を使って警戒していると、第一魔物を見つけてしまった。

【名前・マウンテン 種族・大山猿 魔物ランク・E級 体格・中量級 レベル30 HP2262 MP175 攻撃力239 物理耐性215 魔力130 魔法耐性161 敏捷58】

 マンキーの最上級強化種マウンテンだ。身長は百八十センチメートルを越え、筋骨隆々のその身体は武闘派にしか見えない。マンキーは木の枝で攻撃するが、マウンテンは丸太で攻撃してくる。ミランダのウエスト程の太い丸太で殴られたら、レベル1の人間なんかは一撃で殺されてしまう。

「流石に強そうだ。あれで素早さが僕より上だったら、絶対に勝てそうになかった」

 聖龍剣の攻撃力は56、邪龍剣の攻撃力は44、僕の攻撃力は37だ。マウンテンの物理耐性の方が高く、普通に剣で攻撃しても、あの硬い筋肉に弾かれてしまう。でも、自分の攻撃力と邪龍剣の攻撃力を合わせて、更に剣技の溜め斬りで攻撃力を三倍にすれば、勝てない相手ではない。

 左腰に横に並べて差している二振りの龍剣から、右の邪龍剣だけを引き抜く。剣を二振り持っても攻撃力は137にはならない。攻撃した剣の攻撃力のダメージしか与えられないのだ。

 山頂付近は緑の草が生い茂っている。緑の山肌の中に薄茶色のマウンテンは目立った存在だ。その存在に向かって走る。まずは邪龍剣の剣技・状態異常付加で斬って弱らせる。

「ハァッ‼︎」と振り返ったマウンテンの隙だらけの胴体を、剣を右から左に振って薙ぎ払いだ。

 予想通りに硬い身体の表面を剣が滑って行く。それでも、僅かに切れてはいるはずだ。効果は毒、衰弱、麻痺、封印、石化の五つがある。一番良いのは石化だが確率は低い。

「ヴッ‼︎ ヴッ‼︎ ヴッ‼︎」と怒ったマウンテンが右脇に丸太を挟んで縦横無尽に振り回して来た。状態異常は一回斬っただけではかからないようだ。

「くっ!」

 丸太のリーチが槍並みに長いので、迂闊には間合いに入ることが出来ない。透明マントを持っていたとしても、デタラメに振り回される範囲攻撃には対処出来なかっただろう。今はマウンテンが疲れる瞬間を待つしかない。その瞬間に溜め斬りであの左手を切断してやる。

 剣先を空に向けて、魔力とMPを流していく。あの丸太攻撃を攻略しなければ、この魔物は倒すことは出来ない。「ヴッ…ヴッ…ヴッ…」と疲れが見えてきたマウンテンは丸太の先端を地面に付けて、こっちを見ている。まだ最大速度は見せていない。この間合いなら三歩もあれば攻撃は届く。

(すぅ~はぁ~、行くよ!)

 軽く息を吸って吐くと、勢いよく右足を前に踏み出した。右足、左足、と地面に素早く付いていく、四メートル程の距離が一気に縮まり、反応したマウンテンが丸太を持ち上げる前に、剣と右足を地面に向かって振り下ろした。

「ハァッ‼︎」
「ヴッゔゔ…‼︎ ヴッゔぅゔっ…‼︎」

 やっぱり硬い。マウンテンの左手首は半分程切れているが、まだ、くっ付いている。丸太を掴むことは出来なくなったが、腕を振り回す事は出来る。油断せずにすぐに丸太の間合いの外に飛び退いた。

 マウンテンの左手の機能は落ちた。つまりは左側から攻めやすくなったことを意味する。冷静に、慎重に、狡猾に、大胆に、そして、容赦なく攻めなければならない。今度は剣を右側水平に構えて、魔力とMPを流していく。溜め斬りは上段に構えないと使えない訳ではない。ただ振り下ろして斬るのが一番ダメージが高いだけである。

 もう警戒しているマウンテンに不意打ち攻撃は期待出来ない。反応の遅くなった左手側から素早い動きで接近して、斬ってすぐ離れるしかない。チマチマとした攻撃で自分でも嫌になるけど、こっちは物理耐性が低い過ぎる。一撃も喰らいたくはない。

「ヴッゔゔ…‼︎」

 まず左足を斬って逃げられないようにした。次に右足を斬って動けないようにした。もう右手首を斬る必要はない。両膝をついて動こうとしないマウンテンの首を溜め斬りで横に薙ぎ払った。

「はぁ…! はぁ…!」

 草の生い茂った山頂の緑色の地面の所々が、マウンテンの血で円形に真っ黒に染まっていく。殺す度に自分が少しずつ強くなっていくのが、しっかりと分かった。

 A級冒険者になるには数え切れない数の魔物を殺さないとなれないらしい。殺して、殺して、殺して、殺して、もう視界に入った魔物を殺すのが当たり前になるまで殺して、やっとなれるらしい。S級はそれ以上だ。今頃、エミリアは僕と同じようなことをやっているのだろうか?

【聖龍剣・死喰】 開放レベル20/30 MP215 攻撃力56 魔力151 習得魔法・《HP回復》《状態異常回復》《ステータス上昇》 契約者・ウィル

【邪龍剣・命喰】 開放レベル30/30 MP233 攻撃力77 魔力173 習得剣技・《MP強奪》《状態異常付加》《ステータス低下》 契約者・ウィル

「それにしても、おかしい…?」

 途中からマウンテンが弱くなっていくのに気づいた。剣の攻撃が上がったとしても僅かな差でしかない。剣の攻撃力だけじゃない。確かに自分の攻撃力や素早さが上がっているような気がした。でも、やっぱりレベル7のままだ。まさか、開放レベルが上がれば、契約者の僕も強くなれるのか?
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