【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?

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第2章 サークス村のF級冒険者

第36話 ウィルと魔法が使えない魔法使い

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 冒険者ギルドにエミリアを残して、ある人物を探して村の中を探し回る。彼女はこの村で一人だけの魔法使いである。まだ、レベル1だが、一ヶ月も鍛えれば、コナーのように軽々と追い抜いてくれるはずだ。

「やあ、ユンちゃん。こんな所で何しているの?」

 村の中を流れる用水路に座って、両足だけを水に浸けている緑色のショートヘアの少女を見つけた。多分、休憩中なのだろう。彼女はよく農作業をサボっている。

【名前・ユン 職業・農家 レベル1 HP100 MP100 攻撃力20 物理耐性22 魔力85 魔法耐性85 敏捷100 習得魔法・無し 年齢・15歳 身長150cm 体重43kg バスト78(B) ウエスト54 ヒップ80 弱点・体力、努力】

 青い瞳の少女が気怠そうに声がした方を振り返って、その人物を見つめた。

「やあ、村の錬金術師様。君が来ることは精霊達から聞いて分かっていたよ。何のようだい?」

 来ること以外は精霊達には聞いていなかったんだね。神眼の指輪で周囲を見回すが精霊は見えなかった。やっぱり彼女にしか見えないようだ。

「本当は精霊に聞いて分かっているんじゃないのかい?」
「ふっふ、私の口から言わせたいようだけど、私はそんなに暇じゃないよ。言いたいことがあるなら自分の口で言わないとね」

 両足でちゃぷちゃぷと水を蹴っている姿はどう見ても暇そうだが、ユンをパーティーメンバーにスカウト出来れば、確実に戦力アップが期待できる。

「前に話したように君には魔法使いの素質がある。頑張って鍛えれば、C級冒険者ぐらいにはなれると思うだ。まずは弱い魔物を一緒に倒しに」
「しぃ~~~! 時間切れだよ、お兄ちゃん。精霊達が私を呼んでいるから行かないと」

(早過ぎだよ! まだ何も言ってないのと一緒だよ)

 ユンは唇に右手人差し指をくっ付けて、僕の話を中断させた。前回でユンのマイペースさはある程度は把握していたものの、やはり何を考えているのか分からない。濡れた両足をタオルで拭いて、立ち去ろうとしている。

「待って、ユンちゃん! 冒険者になれば農作業をしなくていいよ」

 魔法使いは魔力が高い代わりに体力が低い。彼女にとって農作業は過酷なはずだ。その農作業をやらなくていいのなら、冒険者になるかもしれない。

「ごめんね、錬金術師様。私は魔法が使えない魔法使いなんだ。今はまだその封印を解く時ではないような気がする。悪いけど私のことは諦めて欲しい」

 ユンに悲しい過去もそんな封印が無い事も知っている。そして、封印を解くのは今しかない。

 魔法を習得する方法は二つしかない。レベルアップで自力で覚えるか、魔法書を読んで覚えるか、彼女の場合はどう見ても魔法書を読んで覚えられるタイプじゃない。魔物を倒して自力で習得する道しかないのだ。

「一回だけでいい。見ているだけでもいいから、魔物を倒しに付いて来て欲しい」
「おーい、ユン! いつまで休んでんだ! 早く来い!」
「ごめん、精霊が呼んでいるから行かないと」

 今、君を呼んでいる精霊は君のお父さんだよ。声を聞いたことで、ユンは急いで足を拭き、長靴を履こうとしている。もう、お父さんを説得した方が早いかもしれない。

「ユンちゃん。ちょっと待ってて! 精霊様と話して来るから」
「やめた方がいいよ。精霊様がお怒りになったら、おやつ抜きになるよ」
「大丈夫、話すだけだから」

 とりあえず庶民的な罰を与える精霊様を説得しないといけない。ユンの農家としての収入は作業能力から考えると低いはずだ。月に金貨五枚が妥当な報酬ではある。だが、ここは金貨十枚を支払って即決してもらった方がいい。

「おや、ウィル様? ユンに何かご用事でしたか?」

 日焼けした逞しい身体に白のタンクトップと麦わら帽子を被った、ユンのお父さんがこっちを見る。鍛え上げられたいい身体をしている。

「お父さん、単刀直入にお願いします。ユンちゃんを月々金貨十枚で僕に貸してください」
「いや、ちょっと待ってくださいよ…?」

 いきなりこんな事を言われて戸惑ってしまう、お父さんの気持ちは分かる。でも、農家として働かせるには彼女の才能はあまりにも勿体ないはずだ。

「待てません。僕が説得しても駄目だったんです。ここはお父さんの口からお願いします」
「まあ、ウィル様が、どうしてもと言うなら、ウチは構いませんよ。元々、ユンには農業は向いていないと思っていたので、それにあんな性格でしょう? ウチの女房もウィル様になら安心して任せられます。どうぞ、娘をよろしくお願いします」

 麦わら帽子を取って、ユンのお父さんが深々と頭を下げている。お願いしているのは、こっちのはずなのに、あれ? 今度はちょっとこっちが待って欲しい。この流れはどう考えても、自分がユンに結婚を申し込んでいるように見える。

「あのぉ~お父さん? 何か勘違いしていませんよね?」
「いやぁ、ウィル様にお義父さんと呼ばれる日が来るなんて夢にも思いませんでしたよ! ユンは性格があれなんで、嫁の貰い手に正直困っていたんですよ。でも、ウィル様の嫁になるんだ。もう一安心です! ありがとうございます」
「えっ、と」

 駄目だ、言えない。こんなに喜んでるいるお父さんに言える訳がない。とりあえず、ユンを利用するだけ利用して、性格の不一致で別れたことにしよう。それが一番いいはずだ。レベルが上がれば体力も自然と上がる。お父さんの所に戻る頃には、農家として立派に働けるようになっているはずだ。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 収納袋から金貨十枚を取り出して、お父さんに渡す。これで一ヶ月間はユンをパーティーメンバーとして使うことが出来るはずだ。

「ねぇ、精霊様と何を話していたの?」

 ユンの所に戻ると、彼女が聞いてきた。お父さんとの会話は聞こえていなかったようだ。

「精霊様は娘をよろしくお願いしますって。とりあえずこの辺で一番弱い魔物を倒しに行こうか?」
「そう、分かった。でも、遠くまで歩けないから、村の柵まででね」
「ちょっと近過ぎるかな。村の中のお婆さんでも倒すのかな? でも、安心して。歩かなくていいから、僕に任せておいて」

 予想以上に体力は無いようだ。魔鳥船は二人乗りだし、操縦出来るのはエミリアだけだ。エミリアにユンを任せてもいいけど、彼女は忙しい。もう一つの手段を使うしかない。

「ユンちゃん、この袋の中に入れば歩かなくていいから、目を瞑って袋に入りたいと思い続けて」
「それだけでいいの? 分かった」

 素直に目を瞑ってくれたので、ユンの頭から収納袋を被せていく。とりあえず、ロウワーズ山に行って、透明マントと軽めの武器を渡せば、マンキーぐらいは倒してくれるだろう。残る問題は山に行く方法だけだけど、宿屋にいるクレア達がここまで来るのに馬車を使ったはずだ。その馬を借りるしかないだろうな。

 
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