【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?

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第2章 サークス村のF級冒険者

第33話 ウィルと底辺の力

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「どうですか? 出来そうですか?」

 一部始終を見ていたエミリアが、微笑みを浮かべてやって来た。きっと、今の自分のようにこの結果を見た時にガッカリしたはずだ。

「酷いですよ! どうせこうなると知ってたんでしょう?」
「ええ、知っていましたよ。でも、今のウィル様なら出来ると思ったのは本当です。それは嘘じゃありませんよ」

 またこうやって褒めれば、僕がやる気になると思っているようなら、それは大間違いだ。誰だって、可能と不可能の違いぐらいは分かる。

「無理ならものは無理です。魔力もMPも全然足りません。S級冒険者のアシュリーでも無理です。無理、無理、無理です」

 まあ、合成する物の組み合わせ次第で、必要な魔力とMPが100ぐらいに抑えられるのなら、時間をかけてもチャレンジする価値はある。報酬の金貨五千枚はそれだけ魅力的だ。でも無理だ。

「そうですね。誰だって一人じゃ無理だと思います。侯爵様でも、アシュリー様でも無理です。でも、ウィル様には沢山の仲間がいます。このサークス村の人達の力を合わせれば出来ないことは無いと思います」
「エミリアが言っているのは理想論だよ。皆んなで頑張れば何でも出来る訳じゃない。この村でもそうだ。実際に頑張っているのは、エミリアと僕の二人しかいない。エミリアの目には村の人達が頑張っているように見えるかもしれない。でも、実際は今までと同じことをやっているだけだよ」

 村の人は相変わらず畑で野菜を作っている。こっちは魔物を倒して村に海産物などを仕入れたり、他所の町に作った新種の野菜を届けたりしている。最近では配達のついでに若い女性の移住者も探しているぐらいだ。

「それは違うと思います。頑張るというのは汗を流すことだけじゃありません。村の人達の内面的な心の変化をキチンと見てください。今この村はウィル様を中心に変わろうとしています。お爺さんもお婆さんも、小父さんも小母さんも、子供達も変わろうとしています。それはウィル様も同じです」

 確かにエミリアの言う通りだ。村は変わろうとしているよ。今朝来た爺さんも、以前なら協力はしなかったはずだ。さっきの婆さんも手塩に育てた大事な薔薇を渡す訳がない。この冒険者ギルドにある椅子やベッドも、村の男衆が時間がある時に集まって作った物だ。それは認める。

(でも、その後はどうなる?)

 賢者の壺で作った新種の野菜を栽培するようになれば、その結果、サークス村は少しは注目される事になるかもしれない。だが、それでは畑で作る野菜が変わっただけでしかない。町になるには野菜以外の沢山の物を作らないといけない。

 畑を捨ててでも、新しい職にチャレンジしようとする者はまだ一人も現れていない。その結果、エミリアは依頼の来ない冒険者ギルドで待機する結果になってしまっている。

「だったら証明して欲しい。皆んなで頑張れば出来ないことは無いんだろう?」

 自分でも意地悪なことを言っているのは分かっている。彼女にも出来ないことがあるということは分かっているはずだ。

「ウィル様、本当の強さとは上にはありません。本当の強さは下にあります」
「下…?」

 エミリアは天井を右手の人差し指で指差すと、次に床を指差した。今は強さの話は関係ないはずだ。それとも関係あるのだろうか?

「そうです。ピラミッドの頂点には一人しか立てませんが、一番下には沢山の人がいます。それは沢山の人に支えられて、やっと頂点に一人だけが立つ事が出来るということです。下の者が支えるのをやめれば、誰も上には立てなくなります」
「つまり、今の僕はサークス村の人達によって支えられているっことかな?」

 でも、それはエミリアによって無理矢理に頂点に立たされただけである。侯爵様の遺品を相続する為に確かに村の開発は頑張らないといけない。けれども、このまま二人で頑張るには限界がある。村人にももっと頑張ってもらうしかないのだ。

「いえ、違います。ウィル様も私も支えている側の人間です。今この村の頂点に立つのは目標です。そして、ウィル様はその目標が見えなくなってしまったので不安なのです」
「目標」

 今までの目標は新種の野菜を作ることと、二振りの龍剣を強くすることだった。今はそのどちらもが止まっているような状態ではある。

「目標を失って不安なのなら、新しい目標を見つければいい。一人ではその目標を達成する事が難しいのなら誰かを頼ればいい。ウィル様、村の人達は三百人以上はいるんですよね?」
「ああっ、全員で三百四十二人いるよ。エミリアを加えてそれだけいるよ」
「村の人一人の力は平均で魔力40にMP100前後、黄金の生きた薔薇を作るには村人三百四十二人では足りませんか? 皆んなで頑張って支えれば、黄金の薔薇を咲かせることは私は可能だと思いますよ。ヒントはここまでです。あとはウィル様の頑張り次第ですよ」
「エミリア」

 去って行く彼女の後ろ姿を見つめる。

(ヒントとは何のヒントだろうか?)

 そうだ。エミリアはいつも先のことを考えて行動していた。村に到着して直ぐにエミリアが言ったことは、「村人の人数と魔力とMPを調べて欲しい」だった。そして、新種の野菜作りを村の人に協力させようとした。こんなの自分達で野菜を集めれば済む話だ。

(まさか? 村人の数に魔力にMP。そして、黄金の薔薇に必要な魔力とMPの量は)

 やっぱり計算では出来る。聖龍剣の魔力を自分にプラスして使うことが出来るのなら、他の物でも出来るはずだ。それが物ではなくて者でもだ。エミリアはその為だけにわざわざ村の人達に、俺に協力するように仕向けていたのだろうか?

「エミリア、出来るか分からないけど、やってみるよ!」
「ええっ、出来ると良いですね」

 村人を二百五十人集めれば、計算上では魔力もMPも1万以上になる。あとは全員で賢者の壺に魔力とMPを注げば、黄金の薔薇は完成する。

 でも、一つだけ問題がある。二百五十人全員が同じ黄金の生きた薔薇をイメージすることが出来るかだ。それが出来なければ黄金の薔薇は完成しない。

 とにかく、まずは出来るだけ多くの村人を集めなければ始まらない。村の人口の七割以上の協力がないと駄目なんだ。出会った人に手当たり次第に声をかける。声をかけたその人達にも協力してもらい、更に人を集める。集めて、集めて、集めるんだ。

「皆んな、ありがとう」

 集まってくれた村の人達に感謝する。あとは出来るか、出来ないか。出来ない時は皆んなの心が一つになっていないだけである。皆んなの心が一つになれば不可能は可能になる。

 集まった皆んなで大きな輪を作り、隣の人と手を繋いでいく。繋がれた手の終着点で僕が賢者の壺を持って待機する。皆んなの思いと魔力とMPが流れて来るのが分かった。壺の中の黒い霧が消えると、壺の底には金色に輝く黄金の薔薇が確かにあった。

 ♢

「はぁ、疲れた」

 完成した黄金の生きた薔薇は、その日のうちに依頼者の元にエミリアが届けに行った。似たような依頼があれば、また村の人達と協力して作る事が出来そうだ。それに黄金の薔薇を作ったことで聖龍剣は大きくレベルアップした。これでまた、邪龍剣もレベルアップ出来る。

【聖龍剣・死喰】 開放レベル20/20 MP215 攻撃力56 魔力151 習得魔法・《HP回復》《状態異常回復》 契約者・ウィル

【邪龍剣・命喰】 開放レベル10/20 MP179 攻撃力44 魔力112 習得剣技・《MP強奪》《状態異常付加》 契約者・ウィル

 剣にさえもレベルで追い越されてしまった。神眼の指輪で鏡に映る自分を見たが、相変わらずレベルは7のままだった。これはもう諦めた方がいいかもしれない。

 けれども、龍剣は成長しても、素早さは上がらない。物理耐性も魔法耐性もだ。これは強い魔物と戦う時に困ったことになる。なんとか自分のレベル上げる方法を探さないといけない。

「はっは、そういえば背中にホクロがあるらしいけど本当かな?」

 エミリアの話では、侯爵様が僕の背中のこの辺にあるホクロを見て、それを落とし物を拾ってくれた人の目印にしていたそうだ。いつ僕の裸を見たのか結構気になるが、背中にデカホクロがあるのなら、それはちょっと嫌な事実である。

 上着を脱ぐと、鏡を使って背中のデカホクロを探してみた。しばらく探して見たが、やっぱり無さそうだ。探すのを諦めようとした時、薄っすらとおかしなものが見えてきた。

【ウィル】 開放レベル15/20 HP442 MP179 攻撃力44 物理耐性43 魔力112 魔法耐性100 敏捷144 習得魔法・《偽装ステータス》 契約者・エミリア

「何だこれは…?」

 神眼の指輪を通して、今はハッキリと見える。エミリアがあの時に見ていたのはホクロじゃなかった。

 
 

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