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第2章 サークス村のF級冒険者

第31話 ウィルと邪龍剣レベル1/10

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「お昼まで時間があるので、どうしましょうか?」

 昼までは四時間もある。村の中でブラブラ過ごすのは勿体ないが、エミリアと一緒ならば楽しいとは思う。けれども、ここは強くなることを優先したい。

「そうですね、魔物を倒しに行きませんか? 龍剣が強くなれば、出来ることも増えるはずです」

 収納袋から龍剣二振りを取り出して、ステータスを確認する。聖龍剣が強くなる条件は契約者が良い行ないをすることだ。でも、全然上がっていない。これはおかしい。

【聖龍剣・死喰】 開放レベル1/10 MP110 攻撃力28 魔力90 習得魔法・《HP回復》 契約者・ウィル

【邪龍剣・命喰】 開放レベル1/10 MP105 攻撃力30 魔力85 習得剣技・《MP強奪》 契約者・ウィル

 とりあえず魔物を倒せば邪龍剣は強くなる。エミリアの魔鳥船を使えば、シェル・グロット洞窟まで三十分もあれば到着するばすだ。蟹の魔物を倒して、村人には蟹鍋を食べさせれば喜んで手伝うだろう。

「シェル・グロット洞窟ならば洞窟狼、キラークラブ、アンモナイトですね。確かに洞窟狼の毛皮があれば服が作れますし、キラークラブとアンモナイトは食糧になります。この辺の魔物の中では一番実入り収入の良い魔物ですね」

 エミリアも賛成のようだ。早速、村の外に出て魔鳥船に乗り込む事にした。

「ウィル様、この船はMPが大量に必要なので、出来れば今後は村の人にMPを分けて貰う必要があります。A級冒険者の私でも、最大MPはレベル1の冒険者の六人分ぐらいしかありませんから」

 魔鳥船で洞窟に向かっていると、エミリアがMPの事で相談してきた。正直、気になるのはMPよりもエミリアの服装だ。こんな薄い布では物理耐性は期待出来ない。彼女は戦うつもりはないのかもしれない。

「そうだね。エミリアがこの船のことを秘密にしなくていいのなら、いいと思うよ」
「では、そうさせてもらいますね」

 エミリアが一人で魔鳥船のMPを満タンにするには八日かかるらしいが、村人が五十人集まれば直ぐに満タンに出来るらしい。村人が協力してくれるなら、洞窟の魔物狩りも毎日出来るようになるし、蟹鍋も食べ放題になる。協力してくれる村人も多いはずだ。

 さて、村人の協力を得る為にも頑張らないといけない。シェル・グロット洞窟の西出入り口前に魔鳥船を着陸させると、急いで洞窟の中に入った。

「エミリア、出来るだけ急いで魔物を倒して行こう。途中で荷馬車を一台追い越したから、時間をかけて進んでいたら追い付かれてしまう」

 上空を飛行中、昨日の夜、村の無人の宿屋に泊まっていた五人が、この洞窟に荷馬車で向かっているのが見えた。彼らの安全の為にも、魔物を根こそぎ倒すつもりで行かないといけない。

「分かりました。ですが、私はサポートにてっしさせてもらいます。そうしないと剣は成長しませんからね」
「うん、でも、僕がF級冒険者だっていうことは忘れないでね。助けてくれないと死ぬから」
「出来るだけ善処します」

(うん、ここは善処したら駄目なところだよ)

 多分、エミリア風の冗談だとは思う。本当に危なくなったら助けてくれるはずだ。それに前と違って、神速ブーツを履いているので、素早さだけならこの洞窟の魔物を圧倒することが可能だ。おそらく危険な目には遭わない。

 洞窟を進んで行くと早速、洞窟狼二匹が床に落ちている何かを食べているのを見つけた。見つからないうちに透明マントを被って、不意打ちしよう。

 邪龍剣を両手でしっかりと握ると、「ヤァッ‼︎」と気合を込めて狼の首筋に思いっきり刀身を振り下ろした。「ギャゥ‼︎」と狼の悲鳴が洞窟内に響く。物理耐性が僕の攻撃力よりも高いので、一撃で倒せないのは分かっていた。振り下ろした直後に素早く剣を上に振り上げて、狼にトドメを刺した。

「ガルグウゥ⁇」ともう一匹がクンクンと鼻を鳴らして臭いを嗅いでいるが、透明マントを被っている僕の位置が分からないようだ。

(まだ見つかっていない?)

 直ぐ後ろで俺が剣を振り上げているのが分からないようだ。真っ直ぐに剣を振り下ろし、横に振り払う。それでも倒れない狼に向かって、容赦なく剣を何度も突き刺して倒した。

「本当に圧倒的だな。この装備があれば負ける気がしない」

 元々、赤い邪龍剣が洞窟狼の血で更に紅く輝いている。持ち主を不幸にすると言われる呪われた剣が、ちょうどこんな感じの不気味な血の色をしていたが、今は気にしない方がいい。無限収納袋に洞窟狼二匹を放り込むと、次の魔物を探して前進する。

 魔物を見つけては倒し、見つけては倒しを繰り返していると、五匹目の魔物を倒した時に邪龍剣はレベル2/10になり、攻撃力は31、魔力は88になった。先は長そうだ。

「そろそろ帰りましょうか。今日はここまでのようです」

 結局、シェル・グロット洞窟の東側出入り口まで来てしまった。もうここまで来たら、ついでに港町に行って、遅くなってしまった昼ご飯を食べて、獅子の盾のメンバーを探してもいいぐらい。

「そうだね。一日では最大までは上がらないみたいだ。明日、また頑張ろうかな」

 邪龍剣はレベル4/10までしか上がらなかった。そんなに期待通りにホイホイとは成長しないようだ。魔鳥船に乗り込むと西にあるサークス村に向かって離陸する。昼ご飯はとっくに過ぎたけど、怒った母さんも蟹さえ渡せば黙るはずだ。

「先程の戦いを見ていましたが、ウィル様は剣技はあまり使わないんですね?」
「ああっ、使えることは使えるけど、回転斬りだけしか使えないんだよ」

 そういえば、一度も剣技は使わなかった。全部が不意打ちからの連続攻撃で勝てたからだ。まだ、剣の攻撃力が低いから、溜め斬りをキチンと習得した方が、これからの魔物狩りが有利になる。でも、それは出来ればの話である。

「ウィル様は魔力のコントロールが苦手のようですが、その龍剣ならば契約者の力を上手くコントロールしてくれると思います。明日は剣技だけで魔物を倒してみませんか?」

 邪龍剣の剣技・MP強奪を使えば、HPにはダメージを与える事は出来ないが、MPを奪う事は出来る。溜め斬りの練習で消費したMPも、簡単に回収する事は可能ではある。だとしたら、練習あるのみだ。

「それがいいかもしれないね。透明マントで魔物には見えないから、安心していくらでも練習が出来るし、もっと強い魔物を倒すには剣技の習得は必要不可欠だ。明日はやってみるよ」

 エミリアは昨日とは違い、サークス村の中の広い場所に魔鳥船を着陸させた。最初は大型の魔物の襲撃だと騒いでいた村人も、降りて来たエミリアを見て持っていたクワを地面に下ろしていった。

「エミリアさん、それは一体何ですじゃ⁉︎」

 村の爺さんが驚くのも無理はない。おそらく世界でこの乗り物を見たのは爺さんが四人目である。そして、後ろに並ぶ人達が五、六、七人目だ。

「これは空を飛ぶ船です。ウィル様が作った物です」
「これを、ウィルが!」
「違っ」

 今すぐに集まった村人にエミリアの嘘だと言いたいが、ここはあえて凄腕の錬金術師として、村の皆んなの信頼と協力を得る方が得策かもしれない。だが、一度吐いてしまった嘘は絶対にバレてはいけない。絶対にバレてはいけないのだ。

「そうです、私が作りました」
「「「おおっ、ウィル様‼︎」」」

 もう後戻りは出来ない。村の無知な爺さん、婆さんを騙して信頼と期待を得た事で、村人の半数以上からウィル様と呼ばれるようになってしまった。もう村人のウィルにも、F級冒険者のウィルにも戻れない。今からは錬金術師のウィル様として生きていかなければならなくなったのだ。

 




 





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