【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?

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第1章 解雇されたF級冒険者

第13話 ウィルと帰郷

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「ウィル、起きろ! 到着したぞ」

 ジョナサンが身体を叩いて起こしてきた。目を覚ますと髭面の四十代の男と目が合ってしまった。多分、父さんと同じ年齢だが、起きて最初に見たいものではない。

 ゆっくりと起き上がると、荷台の前方に移動して御者席の後ろの幌を捲って外を見た。確かに間違いなくサークス村に到着したようだ。

 サークス村は主に鶏肉と卵、野菜の販売で生計を立てている者が多い。村の南には優秀な学生が多いリーズの町があり、北には工業が発展した町アポンタインと港町のミドルズブラがあり、昔は南北の流通の要として発展すると言われていた。

 けれども、村の整備は一向に進まなかった。一時はサークス村からサークス町にと、やる気を出していた村人達も、先祖代々受け継がれてきた畑を埋め立ててまで、積極的に宿屋や商店を建てようとは思わなかったらしい。

 それに、村にやって来た見ず知らずのお客様や観光客に、ペコペコと頭を下げて、ご機嫌を取るような接客業は、今まで自由気ままに田畑を耕していたサークス村の村人には、かなりの精神的ストレスになったそうだ。

 今では村の中央にたった一軒だけ、その当時に作られた宿屋が残っている。もちろん、無人の宿屋である。定期的に村にやって来る御者や冒険者が泊まる前と泊まった後に、自分達で綺麗に掃除して帰って行く。

「変わってないな」

 たった一年で変わる訳はないが、魔物や盗賊に絶対に襲撃されない保証はない。サークス村は相変わらず、子供の体当たりで壊れそうな薄い木の板で村の周囲を囲んでいた。町のように、ちょっとは頑丈なレンガの壁で、村の周囲を囲った方がいいはずだ。

「ふぅ、ここでお前とはお別れか」

 溜め息を吐きながらジョナサンが言ってきた。

「ええっ、色々とお世話になりました。今度、村に寄る時があれば声をかけてください。少しぐらいなら作った野菜を差し上げられると思いますよ」
「はっは、それは楽しみだ! まあ、次に村に来るのは多分一ヶ月後ぐらいだろうから、間に合わないとは思うけどな。早いのでも二ヶ月ぐらいはかかるもんなんだろう?」
「そうですね。一ヶ月ぐらいで収穫出来る野菜もあったと思いますけど、育てるのが難しいと言っていたような気がします。一ヶ月では無理そうですね」
「だろうな」

 自分でまともに野菜を育てられた記憶はない。ほとんどが他所の畑を含めた収穫の手伝いばかりだった。そのお陰か、村で収穫出来る野菜のだいたいの収穫時期と種類は覚えてしまった。

 御者四人と獅子の盾四人を見送ると、自分の家に帰る事にした。夕暮れ時の村の道を歩いていると、次々に顔馴染みの人達に呼び止められてしまった。「村を飛び出した若造が、都会に負けて戻って来たぞ!」と笑いながらに出迎えてくれる。

 サークス村には町にはなかった、土の匂いと川の水が流れる音がある。そして、温かく迎えてくれる良き隣人達がいる。素直に戻って来て良かったと思えた。そして、やっと灰色の屋根と白い壁の家の前まで辿り着く事が出来た。家の中から夕食の匂いがしてきた。きっと卵とホウレン草のスープの匂いだ。

 スゥ~ハァ~と、一度扉の前で深呼吸すると、コンコンと知らない人の家の扉を叩くようにノックした。直ぐに女性の声が聞こえてきた。

「あっ! はい、どちら様ですか? ウチのような、ど田舎の家に何のご用でしょうか?」

 母さんは帰って来た息子の顔を見て、一瞬驚いたものの、直ぐにまったく知らない人と話すような態度になった。変な敬語まで使って、母さんは他人のフリをしたいようだ。

「俺だよ、母さん。帰って来たんだよ」
「俺って、誰の事ですか? ウチには俺って息子はいません。さっさと町に帰ってください」

 強引に両手で突き飛ばされると、扉を閉めようとする。絶対に知らない人には出来ない乱暴な行為だ。

「母さん、もういいだろう。ウィル、中に入りなさい。疲れているんだろう?」

 父さんがやって来た。テーブルに座って、鶏肉と卵のホウレン草スープを食べながら、母親と息子の親子喧嘩を見守っていたが、これ以上は見ていられなくなったようだ。

「あなた! よくありませんよ! 一年も連絡一つ寄越さずに遊び歩いて帰って来たんですよ! 畑の中で正座させて、しっかりと反省させるべきです! そうしないと、ご近所さんの子供達も同じような馬鹿な真似をするでしょう!」

 母さんの言っている事は一つも間違っていない。小さな村だ。俺が家を出て行った事は二、三日もしないうちに、村人全員に知れ渡ったはずだ。その事で周りから色々と嫌な事も言われたはずだ。ここで甘やかしたら周囲に示しが付かないのは分かっている。

「母さん、親は子供がやりたい事を応援するもんだ。それが間違った事じゃないのならな。さあ、皆んな中に入ろう。母さんの美味しいスープが冷めてしまう」
「まったく、あなたがいつもそうやって甘やかすから、ウィルが村を出て行ったんですよ! 子供はウィルしかいなのに、どうやってお爺さんから受け継いだ家と畑を守るつもりなんですか! まったく!」
「はいはい、分かっているから中で話そう。ウィルも早く入りなさい」

 母さんの怒りの矛先が父さんに向いているうちに家に入った。とりあえず、母さんの機嫌も、冒険者の仕事で稼いだ金貨と銀貨を渡せば少しは直ると期待したい。

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