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第1章 解雇されたF級冒険者

第11話 ウィルと獅子の盾

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 野宿をする前に誰が見張りをするか決めないといけない。普通は御者の役目だが、さっきの喧嘩の腕を見て、安心して任せたいと思う乗客はいない。魔物以外にも、野盗の奇襲も考えられる。最悪の場合、悲鳴を上げる暇もなく、野盗の矢で射殺される可能性もある。

「構わねぇから、あんた達は寝ていな。俺達は移動中は荷台の中でほとんど寝ていたから、もう睡眠は十分だ」
「そうそう、これ以上の睡眠は拷問だから、遠慮せずにさっさと休め。キチンと休んで、明日、頑張ってくれよ」

 冒険者四人が自分達が見張りをするから、御者達に早く寝るようにと勧める。一日中、馬車の操縦と魔物や野盗の警戒をして、更に朝まで見張りをしていたら、身が持たないのは誰だって分かる。若いといっても限界はある。

「そういう事だ。お前達は寝ていろ。こっちの見張りは俺一人で十分だ」
「すみません、ネロさん。ありがとうございます」

 若い三人の御者は喜んで荷台の中に寝に入って行く。一番年長のネロという帽子の御者は寝ないで見張るようだ。だが、見張る相手は魔物ではなく、乗客達だ。そこまで部外者の乗客を信用する事は出来ない。

「おいおい、別に寝込みを襲ったりしねぇよ」
「奇遇だな。俺もそんな期待は少しもしていない」
「はっは、まあいいさ。あんたも飲むか?」

 口髭の男が差し出した酒瓶をネロは首を振って辞退した。仕事中は酒を飲まないと決めているのか、信頼できない相手の前では酔いたくないのか、おそらくは両方だと思う。

「さてと、ウィル、お前はどうするんだ? 冒険者を辞めて、実家の農家を継ぐのか? 俺達は港町ミドルズブラに向かうんだけど、冒険者を続けるつもりなら、一緒に来ないか?」

 ミドルズブラはサークス村から北東に馬車で一日進めば到着する事が出来る港町である。途中にシェル・グロット洞窟があり、そこを抜けなければ町には辿り着けない。出現する水生魔物がレベル14~16と結構強く、自分一人では無事には抜けられないかもしれない。

 サークス村から先の町には行った事がなかった。正直、村の北側にある二つの町には一度は行ってみたいと思っていた。でも、行くにはサクース村を通らなければならない。乗り合い馬車を利用しなければ、村を通らなくて済むのだが、北側に出現する魔物はハッキリ言って強い。とてもじゃないが一人では死にに行くようなものである。

「とりあえず冒険者は休業します。村に帰ったら久し振りに農家の仕事をやってみたいんです。前とは違う気持ちでやれるかもしれないので」
「まあ、そうだな。それがいい。そういえばまだ名乗ってなかったよな? 俺達はD級冒険者パーティー【獅子の盾】だ。困った事があったら、ギルドで指名してくれ。通常の一割引で引き受けるからよ」
「ええっ、その時は是非よろしくお願いします」

 笑い合いながら、軽く握手をかわす。彼の手の平の感触は分厚い革手袋のようだった。

 この後、まだ済ませていなかったお互いの自己紹介をする事になった。この黒い口髭の男がパーティーリーダーのジョナサン。レベルは68で、数年前にやっとパーティー全員が冒険者ランク・D級に昇格したそうだ。

「このノッポが槍使いのゼノス。あの筋肉だけしか特徴が無いのが木こりのダン。そして、このヒョロイのは弓矢から盗みまで何でも器用にこなすベルガーだ」
「おいおい、やめろよ。信じたらどうするんだ!」

 少し酒に酔っているのか、ジョナサンの仲間の紹介は雑です。けれども、鍛え上げられた仲間の肉体を見れば、全員が凄腕の戦士系である事は一目瞭然です。おそらく、前衛特化型の冒険者パーティーの中でも上位の方に位置しているはずです。

「まったく、前衛ばかり集めやがって、この前衛馬鹿は! 魔法使いを一人加入させていればC級ぐらいまでは行けたのによぉ!」
「いやいや、魔法使いなんて入れても役には立たねぇよ。確かに戦闘では頼りになるかもしれないが、それ以外は全然使えないらしい。強い魔物を倒す時の臨時メンバーとして雇うのが一番費用が少なくて済むらしい」
「そういえば前に聞いた事がある。一度だけ魔法使いを雇ったらしいんだが、使う魔法の種類や威力で値段設定があるらしい。この魔法は銀貨三枚、この魔法は金貨一枚と、魔法を使って欲しい時は、その金額の金を払わなければならなかったらしい」

 酔っ払っているジョナサンは無視して、ダン、ベルガー、ゼノスと定番の魔法使い冒険者の愚痴を始めます。

 C級以上の冒険者パーティーには必ずと言っていいほど、魔法使いが居ます。ゴリゴリの戦士系冒険者が汗だく傷だらけで戦う中、涼しい顔で後方から攻撃魔法や回復魔法を使うだけです。戦士系冒険者から見たら、魔法使いは冒険者ではなく、ただの動いて喋るアイテムです。

 
 

 






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