【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?

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第1章 解雇されたF級冒険者

第7話 ウィルとロウワーズ山

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 御者の一人に嫌な顔をされながらも、荷台の後ろに飛び乗った。金は払ってあるし、目的地は最初からサークス村と伝えている。何も問題はない。

 リーズの町からサークス村までは一本道である。道に迷う事はないが途中のロウワーズ山の山道がちょっとした難所である。魔物が出るのだ。

 出現する魔物はレベル8~10と、冒険者にとっては大した魔物ではないが、一般の通行人や登山客にとっては脅威である。山登りで疲れている所に、魔物が襲って来るのだ。しかも、一本道なので隠れる場所がない。倒さなければ、どこまでも、どこまでも、しつこく追い回される事になる。

 馬車の荷台の中で揺られながら、バッグから携帯食の缶詰めを取り出していく。少し遅めの朝食を食べる。缶詰めに入ったパン、干し肉、フルーツを次々に胃に詰め込んでいく。

 今日中にロウワーズ山を越える予定である。山を越えた先の平原で、一泊野宿して、朝に出発すれば、サークス村には夕方には到着する事になる。今のうちに余計な荷物は少しは処理しないといけない。

 快適な荷物の中で休んでいると、馬車の揺れ方が微妙に変化した。後方の幌を捲って、外の様子を見ると、道が薄茶色の土から灰色の岩に変わっていた。もうロウワーズ山の山道に入ったようだ。

「さて、どうなる事か」

 魔物が出現しなければ、もうこの剣の出番はないかもしれない。これからは剣をクワやカマに持ち替える事になる。

【鋼鉄製・ブロードソード】 攻撃力57。購入価格は金貨五枚と銀貨九十枚。鋼鉄製の市販のブロードソード。両刃の軽量化された武器で、冒険者初心者でも片手で軽々と操る事が出来る。

 手に持った剣との冒険の日々を思い出していると、馬車が急に止まってしまった。前方の御者席の幌が勢いよく開かれると、御者の険しい顔が見えた。

「すまねぇ! 荷台に避難させてくれ!」

 返事をする暇もなく、御者の二人が慌てて荷台に入って来た。わざわざ、「どうした?」と聞く必要もないだろう。魔物がやって来たのだ。

 この荷台を覆う幌は、魔法の防水布で出来ているので、中は快適な温度と湿度に保たれている。もちろん、多少の攻撃で壊れたりはしないが、魔物は別である。いつまでも壊れない保証はない。

「前の馬車に冒険者は乗っているんですよね?」
「乗ってるよ。乗ってるけど距離が開いていたから、多分、襲われている事に気付いてない。信号弾で知らせたいが、今使っても魔物を誘き寄せるだけで効果的じゃない」

 帽子の方の御者は、一応は冷静に受け答えが出来ているので、パニックになっておかしな行動は取らないはずだ。でも、幌が壊される前に、外にいる四頭の馬が犠牲になってしまう。

 一番最悪のパターンは、魔物に攻撃された馬達がパニックになり、デタラメに走行する場合だ。山道から外れれば、急な斜面を荷台の人間ごと一緒に転げ落ちて死ぬ事になる。

「二人は中に居てください。ちょっと外の様子を見てきます」
「やめた方がいい。魔物はマンキーだ。武器を持っているから危ないぞ」

 剣を持って、後方から外に出ようとすると、帽子の御者に呼び止められてしまった。冒険者を辞めて、村に帰る事を昨日の冒険者四人から聞いたのだろう。彼が心配してくれているのは分かる。けれども、不安要素のある荷台に閉じ籠るよりは、外に出て魔物と戦う方を選択したい。

【名前・マンキー 種族・山猿 魔物ランク・F級 体格・軽量級 レベル8 HP346 MP58 攻撃力45 物理耐性46 魔力25 魔法耐性33 敏捷29】

 外に飛び出すと、馬車の前後十メートルの道を六匹のマンキーが既に封鎖していた。

 マンキーは凶暴な山猿で、目が合うとそれだけで襲って来る。両手には木の枝を折っただけの棍棒を装備しているが、その動きは遅く、個々の力は弱い。けれども、集団で獲物を襲う程度の知恵は持っている。

 前の三匹を倒せば、とりあえず前には進める。でも、先頭の馬車がマンキーを見逃した所をみると、おそらくは斜面の山肌に隠れていた事になる。だとしたら、強行突破は得策じゃない。まだ、山肌に数匹隠れている可能性も考えないといけない。

 マンキー達が、「キィ! キィ!」と甲高い声で鳴き叫び始めた。獲物を集団で威嚇して、ビビらせたいのだ。恐怖に竦んだ者は頭も身体の動きも鈍らせる。本来ならば倒せる相手にも敗れてしまう。ソッと剣を鞘と固定する為の留め具を外す。

(後退はしない、前進あるのみ。緊張も興奮もしない)

 ゆっくりと剣を右手で引き抜くと、そのまま剣先を地面に向けて、身体の右側に構えた。まずは前方約十メートル先のマンキー達を排除する。硬い岩盤の地面を蹴って、魔物に向かって走り出す。ロウワーズ山の空気は澄んでいる。だが、数秒後か、数十秒後には人間か、魔物の血と臓物の臭いに変わてしまう。それは確かだ。

 剣が届く間合いまで近づくと、一匹のマンキーが両手を高々と空に上げて、二本の木の棒を振り下ろそうとする。わざわざ振り下ろされるのを待つ程、僕の気は長くはない。両手で剣の柄を握ると、マンキーの両腕を狙って、左から右に剣を鋭く振り抜いた。

 

 

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