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第1章 解雇されたF級冒険者
第5話 ウィルと宿屋と干し椎茸
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しばらく待っていると、馬車が再び動き出した。出番がなかった事にホッとしつつも、ミランダとクレアに魔物を倒すカッコイイ姿を見せられなかった事は、少し残念ではあった。
「あっ~あ、一度いいから魔物見たかったなぁ~」
「死体でいいなら見れるかもしませんよ。バラバラになっているか、押し潰されたのでよかったらですけど」
魔物に興味があるのかミランダがそう言った。ならばと後方の幌を少し開いて魔物の死体を見せる事にした。
「うっ…! やっぱりいいです」
けれども、魔物の死体を想像したミランダは、口を押さえて幌を閉めるようにお願いする。この辺の魔物は小型なので、死体もそこまでグロテスクなものでない。初心者でも吐く事にはならないと思う。
「魔物でも見た目が可愛いのはいますよ。まあ、襲って来るので、見つけても近づかない方がいいんですけどね」
「可愛い魔物ですか? ちょっと見てみたい気がしますね。可愛い魔物だけの魔物動物園とかあったら絶対に行くと思うんですけど」
素直に女の子らしい面白い発想だと思った。けれども、実現するのは色々と難しいだろう。
「動物園ですか? ちょっと無理そうですね。可愛いといっても魔物ですし、それに可愛い魔物は数種類しか知りません。魔物図鑑か、ヌイグルミで我慢するしかないでしょうね」
「そうですか、残念です。町に着いたらヌイグルミを売っているお店を探してみます」
「魔物のヌイグルミですか」
ヌイグルミを売っているお店に入った事はないが、魔物のヌイグルミを持っている人に今まで一度も会った事はない。多分、売っていない可能性がある。
「ねぇ、クレア。そろそろ町に到達するよ」
前方の幌を捲って、ミランダが暗くなった空を見上げながら言ってきた。リーズの町はシェフィールドの町から馬車で一日の距離しかない。早朝に町を出発すれば、夜には到着する事が出来る。
「本当ね。あっ、そうだ! ウィルさんは今日の宿はどうすんですか? 良かったらウチに泊まりませんか?」
何を思ったのか、クレアが突然そんな事を言い出した。きっと一人暮らしではないのは分かっているが、けれども、今日知り合ったばかりの女の子の家に行くのは、男としてちょっと度胸がいる。ここは残念ながら断るしかない。
「えっ~と、いきなり家に知らない男を連れて行くのはどうかと思うよ。ご両親も心配すると思うし、こんな時間だとご迷惑になるから」
「ウィルさん、何か勘違いしているようですけど、ウチは宿屋ですよ。この木箱のお酒や食材の一部はウチの物です」
てっきり、隣町に遊びに来ただけの女の子だと思っていたけど、クレアは宿屋の食材の買い出し、ミランダは友達の付き添いで来ていたのだろう。彼女に対して変な想像と期待をしてしまい、途端に恥ずかしくなった。もう遅いかもしれないが、少しは弁明しよう。
「あっ~あ、ごめん! ちょっと勘違いしただけたから、ごめんね」
「もしかして、ウィルさん? クレアに惚れられたと勘違いしたんですか? やだぁ、可愛い!」
「そうだったですか、ウィルさん?」
「いや、これは違うんだよ!」
誰だって、「ウチに泊まりませんか?」と可愛い女の子に聞かれたら、勘違いしてしまうものだ。ウチが宿屋なら、泊まりませんかと聞く前に言うべき事である。この勘違いの責任は彼女にある。
「私はウィルさんなら、アリだと思います」
「えっ…?」
予想外の言葉がクレアの口から発せられた。有り無しの、あの有りという事だろうか?
「ウィルさんの年齢は十九歳で、私は十七歳です。結婚も出来ますし、ウィルさんは元冒険者で色々と経験しているし、買い出しの途中に出る魔物も倒せるんですよね? だったら優良物件じゃないですか。ウィルさんさえ良ければ、両親にまずは従業員として雇ってくれるように紹介しましょうか?」
これは正直、嬉しい誘いである。それにクレアの言う通り、自分でも優良物件だと思う。このまま宿屋の従業員になって、行く行くはクレアと結婚して、宿屋を継ぐという選択肢も悪くないかもしれない。
「えっーと、ちょっと考えさせてもらっていいでしょうか?」
簡単には決断は出せない。乗り合い馬車は早朝出発するので、それまでに答えを出さなければならない。
「クレア、やめなよ。ウィルさん、本気にしてるみたいだよ」
「えっ…?」
(どういう事だろうか? まさか、冗談?)
「すみません、ウィルさん! まさか、本気にするなんて思ってなくて」
「そうだよ、ウィルさん! いきなり結婚前提で従業員になってくださいって言わないよ! ウィルさん、女の子なら誰でもいいんですか! だったら、ウチに来てくださいよ!」
「えっ~と、そのぉ~」
ミランダとクレア、どっちも可愛い女の子だと思う。でも、この歳まで女性と本気で付き合った事はない。先輩冒険者に誘われて、大きな街の売春宿で、そういう身体だけの関係を女性と持った事はある。けれども、それぐらいの女性経験しかない。
「さあ、ウィルさん! 私とクレアのどっちのウチに行きたいんですか! 正直に答えてください!」
クレアのウチが宿屋なのは分かったけど、ミランダのウチが何をやっているのかは分からない。答えるにしても、情報が少な過ぎる。
「ちなみになんだけど、ミランダのウチは何をやっているの?」
「ウチですか? ウチは乾物職人ですよ。主に干し椎茸とか作っていますよ」
「干し椎茸」
宿屋と干し椎茸、答えは出たかもしれない。今日は宿屋に泊まる事にして、明日の朝までに村に帰るか、この町で暮すか決める事にしよう。
「あっ~あ、一度いいから魔物見たかったなぁ~」
「死体でいいなら見れるかもしませんよ。バラバラになっているか、押し潰されたのでよかったらですけど」
魔物に興味があるのかミランダがそう言った。ならばと後方の幌を少し開いて魔物の死体を見せる事にした。
「うっ…! やっぱりいいです」
けれども、魔物の死体を想像したミランダは、口を押さえて幌を閉めるようにお願いする。この辺の魔物は小型なので、死体もそこまでグロテスクなものでない。初心者でも吐く事にはならないと思う。
「魔物でも見た目が可愛いのはいますよ。まあ、襲って来るので、見つけても近づかない方がいいんですけどね」
「可愛い魔物ですか? ちょっと見てみたい気がしますね。可愛い魔物だけの魔物動物園とかあったら絶対に行くと思うんですけど」
素直に女の子らしい面白い発想だと思った。けれども、実現するのは色々と難しいだろう。
「動物園ですか? ちょっと無理そうですね。可愛いといっても魔物ですし、それに可愛い魔物は数種類しか知りません。魔物図鑑か、ヌイグルミで我慢するしかないでしょうね」
「そうですか、残念です。町に着いたらヌイグルミを売っているお店を探してみます」
「魔物のヌイグルミですか」
ヌイグルミを売っているお店に入った事はないが、魔物のヌイグルミを持っている人に今まで一度も会った事はない。多分、売っていない可能性がある。
「ねぇ、クレア。そろそろ町に到達するよ」
前方の幌を捲って、ミランダが暗くなった空を見上げながら言ってきた。リーズの町はシェフィールドの町から馬車で一日の距離しかない。早朝に町を出発すれば、夜には到着する事が出来る。
「本当ね。あっ、そうだ! ウィルさんは今日の宿はどうすんですか? 良かったらウチに泊まりませんか?」
何を思ったのか、クレアが突然そんな事を言い出した。きっと一人暮らしではないのは分かっているが、けれども、今日知り合ったばかりの女の子の家に行くのは、男としてちょっと度胸がいる。ここは残念ながら断るしかない。
「えっ~と、いきなり家に知らない男を連れて行くのはどうかと思うよ。ご両親も心配すると思うし、こんな時間だとご迷惑になるから」
「ウィルさん、何か勘違いしているようですけど、ウチは宿屋ですよ。この木箱のお酒や食材の一部はウチの物です」
てっきり、隣町に遊びに来ただけの女の子だと思っていたけど、クレアは宿屋の食材の買い出し、ミランダは友達の付き添いで来ていたのだろう。彼女に対して変な想像と期待をしてしまい、途端に恥ずかしくなった。もう遅いかもしれないが、少しは弁明しよう。
「あっ~あ、ごめん! ちょっと勘違いしただけたから、ごめんね」
「もしかして、ウィルさん? クレアに惚れられたと勘違いしたんですか? やだぁ、可愛い!」
「そうだったですか、ウィルさん?」
「いや、これは違うんだよ!」
誰だって、「ウチに泊まりませんか?」と可愛い女の子に聞かれたら、勘違いしてしまうものだ。ウチが宿屋なら、泊まりませんかと聞く前に言うべき事である。この勘違いの責任は彼女にある。
「私はウィルさんなら、アリだと思います」
「えっ…?」
予想外の言葉がクレアの口から発せられた。有り無しの、あの有りという事だろうか?
「ウィルさんの年齢は十九歳で、私は十七歳です。結婚も出来ますし、ウィルさんは元冒険者で色々と経験しているし、買い出しの途中に出る魔物も倒せるんですよね? だったら優良物件じゃないですか。ウィルさんさえ良ければ、両親にまずは従業員として雇ってくれるように紹介しましょうか?」
これは正直、嬉しい誘いである。それにクレアの言う通り、自分でも優良物件だと思う。このまま宿屋の従業員になって、行く行くはクレアと結婚して、宿屋を継ぐという選択肢も悪くないかもしれない。
「えっーと、ちょっと考えさせてもらっていいでしょうか?」
簡単には決断は出せない。乗り合い馬車は早朝出発するので、それまでに答えを出さなければならない。
「クレア、やめなよ。ウィルさん、本気にしてるみたいだよ」
「えっ…?」
(どういう事だろうか? まさか、冗談?)
「すみません、ウィルさん! まさか、本気にするなんて思ってなくて」
「そうだよ、ウィルさん! いきなり結婚前提で従業員になってくださいって言わないよ! ウィルさん、女の子なら誰でもいいんですか! だったら、ウチに来てくださいよ!」
「えっ~と、そのぉ~」
ミランダとクレア、どっちも可愛い女の子だと思う。でも、この歳まで女性と本気で付き合った事はない。先輩冒険者に誘われて、大きな街の売春宿で、そういう身体だけの関係を女性と持った事はある。けれども、それぐらいの女性経験しかない。
「さあ、ウィルさん! 私とクレアのどっちのウチに行きたいんですか! 正直に答えてください!」
クレアのウチが宿屋なのは分かったけど、ミランダのウチが何をやっているのかは分からない。答えるにしても、情報が少な過ぎる。
「ちなみになんだけど、ミランダのウチは何をやっているの?」
「ウチですか? ウチは乾物職人ですよ。主に干し椎茸とか作っていますよ」
「干し椎茸」
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