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第44話 三つ編み眼鏡のギルド職員①

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 しばらく冒険者ギルドの外で待っていると、やっぱり来た。

「あっ! ステラちゃんも一緒じゃん!」

 そう、レベッカに纏わり付くようにステラが一緒にいた。早くも僕から乗り換えたようだ。通りで家の前で待ち伏せしていなかった訳だ。

「ちょうど都合がいいな。これで四人揃った」

 マリクには知り合いの女性冒険者がギルドに来たら、手当たり次第に誘おうと話し合っていた。該当者は三人しかいなかったけど、これでPK狩りを倒せる準備は整った。あとは二人を説得して仲間に引き入れるだけになる。

 レベッカは僕達に気づいたようだ。こっちに向かって歩いて来ている。ステラはちょっと不満顔をしている。おそらく、マリクがいるからぶりっ子をするのが面倒だと思っているのだろう。

「おはよう。勇気あるわね。狙われるのは男だけなのに仕事するつもり?」

「当たり前じゃないですか! これから俺達で逆PK狩りするんですけど、二人も一緒に行きませんか?」

 女性の前、特にステラの前だからか、マリクは腕を振り上げて、強気な口調でいつも以上に男らしさをアピールしている。無駄な努力だと知らずに可哀想な男だ。

「別にいいわよ。ステラと一緒にクエストするつもりだったんだけど、そっちの方が面白そうだし……それに女二人じゃ狙われないしね」

 レベッカは快くPK狩りに参加してくれた。もちろん、レベッカが参加するなら、ステラも付いて来る。
 男装すればレベッカは狙われそうだと思ったけど、それは言わない方がいい。アリサにもいつも余計な一言を言わないように注意されている。

「確かに二人とも可愛い女の子二人組にしか見えないから、狙われないでしょうね」

「えっ~~! 私、そんなに可愛くないですよぉ~! お姉様は凛々しくて可愛いですけど、私なんて全然です!」

「そんな事ないよ! ステラちゃんは可愛い! 絶対に可愛い! 間違いない!」

 お世辞に謙遜にと、この三人の中で正直者はマリクだけのようだ。

 相変わらずマリクはステラにゾッコンのようだ。でも、今日一緒に行動していれば、ステラがレベッカに乗り換えた事は分かるはずだ。これであの女が誰にでも媚び諂う腐れ尼だとマリクも分かるだろう。

「それじゃあ、ちょっと情報収集しましょうか。こういう時にを使わないと勿体ないから」

 そう言うとレベッカは冒険者ギルドに入って行った。おそらく、コネとは三つ編み眼鏡の冒険者ギルド職員のクロエの事だ。
 レベッカとクロエは昔の冒険者仲間という事で多少の付き合いがある。PK狩りの最近の出現場所や表には出回っていない裏情報を聞き出すつもりなのは間違いない。

「あっ、いたいた。仕事しているみたい」

 当たり前だ。職員じゃない人間が受付に座っていたら大変だ。
 一階の三つある受付カウンターの左端に、三つ編み眼鏡のクロエが座っていた。明らかにレベッカと目が合った瞬間に嫌そうな顔をした。まぁ、仕事中の姿はあまり友達には見られたくないものだ。そう思う事にしよう。

「おはようございます。今日は出頭ですか? それとも男を襲いにダンジョンをご利用ですか?」

 クロエの顔は笑っているのに、内容は笑えない。明らかに喧嘩を売っている。

「だから、私じゃないわよ。今日はそのPK狩りを捕まえに来たのよ。どの辺に出そうか教えてよ」

「ここです!」

 クロエはビシッと左手人差し指を正面に立っているレベッカに向けて言ってきた。冗談とは分かっているけど、僕がやったら人差し指が折られている。

「ねぇ、巫山戯ているなら、その伊達眼鏡割るわよ」

「男は飽きたから女に乗り換えるという事でしょうか? ちょっと待ってくださいね。情報を大至急に変えないと……」

 駄目だ。仲がとても悪い。僕とステラ並みだ。早く止めないと、このままだと伊達眼鏡が破壊されて、僕達まとめて冒険者資格剥奪になるかもしれない。

「クロエさん、すみません。俺達、冗談じゃなくて本気で捕まえようと思っているんです。出来れば、どの辺にいるか教えてくれませんか?」

 レベッカではらちが明かない。僕が聞いた方が普通に答えてくれそうだ。眼鏡だけじゃなく、前歯もへし折りそうな勢いのレベッカをカウンターから引き離すと、後ろにいるマリクとステラに任せた。

「ああっ~、レベッカの今彼か……でも、やめた方がいいわよ。レベル30じゃ無理だから……もう中級も何人かやられたから、このままいつまでも捕まらないと、上級に依頼する事になる予定よ」

「でも、相手が一人なら四人掛かりで戦えば何とかなりますよね?」

 よかった。勝手に今彼にされているけど、僕相手なら普通に話してくれそうだ。
 最近、僕一人でもステラの被害者だった中級冒険者のグラントを倒したぐらいだ。推定レベルが60ならば勝てない相手じゃない。

「ふっふふふ、若いのね♪ でも、やっぱりやめた方がいいわよ。ここだけの話だけど……」

 どうやら、大きな声では言えない裏情報らしい。ちょいちょいとクロエは右手でカウンターにもっと近づくように僕を手招きする。特に気にする必要もないので、言われるままに右耳をカウンターに向けてソッと近づいた。

「……襲われた男の何人かはねぇ。PK狩りに……はむっ♪」

「ひゃあ!」

 突然、耳に柔らかい感触が襲ってきた。思わず声を出して後ろに飛び下がった。周囲の冒険者の視線が痛い。

「くっふふふふ♪ 『パクリンチョ』されているのよ」

「はぁ…はぁ…えっ?」

 笑い声を押し殺すように三つ編み眼鏡が言ってきた。人の耳を勝手に甘噛みするのはセクハラだ。少し可愛いからといって、笑って許される問題じゃない。

「ふっふ。可愛い反応ね。でも、PK狩りは耳を甘噛みする程度じゃ終わらないわよ。それこそ、女性を襲うケダモノ並みに男を襲うわよ。襲われた何人かは精神病院で入院するぐらいにね」

 要するに倒した相手を性的な意味でも襲うという訳か……確かに嫌だ。きっと犯人は欲求不満でブサイクな中級冒険者だ。
 レベッカはそこそこ顔とスタイルは良いから、無理矢理襲わなくても何とかなる。つまりは犯人ではない。

「パクリンチョされるだって……めちゃくちゃ最高のクエストじゃねぇか……」

 何か後ろの方で馬鹿が呟いているけど、美少女はPK狩りで男を襲わない。妄想はそろそろやめて現実を見てほしい。

「ちょっと待ってくださいね。四人で話し合ってみます」

 クロエに待ってくれるように頼むと、クエストを受けるかどうかを四人で話し合う事にした。一人はやる気もやられる気もあるようだけど、全員の意見が聞きたい。

「私はいいわよ。襲われないから」

「私もいいですよ。終わりまで待ってから助けますから」

 まぁ、女性二人は勝てそうにないなら見学に切り替えるようだ。PK狩りに攻撃しなければ身の安全が保証されているから当たり前だけど……。
 さて、残るは一人だけど聞かなくても分かる。おそらく、大賛成だ。

「お待たせしました。全員やりたいみたいです」

「あっ~、そうですか……でも、駄目です。許可出来ません。自宅待機でお願いします」
 
 嫌がらせだとしても、しつこい。冒険者ギルドの許可がなければ転移ゲートは使えない。転移ゲートが使えないとPK狩りがいるダンジョンにもフィールドにも行けない。
 結局最初から被害者を出さないように、初級冒険者にはどんなクエストを持って来ても、許可を出さないように冒険者ギルドで決まっていたようだ。ほとんどの冒険者が受付でガッカリして、建物の外に出て行っている。

 ♢♦︎♢♦︎♢
 

 
 
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